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第 5 章  Tentacles : 触手が蠢くインタラクティブアート作品

5.6 実装

5.6.1 制御システム

音が鳴る。この理由は、55 個の異なる音を個別の触手に割り当てると手をかざ している場所によって音に偏りが発生し、55 個全て異なる音を使うと音の幅が 広すぎて心地よい音に聞こえないためである。

 図 5-9 は、制御システム全体の入力から出力までの概略図である。まず、赤外 線カメラからの入力画像を Cycling '74 Max/MSP/Jitter で開発したプログラ ムにより動作解析を行う。解析データをもとに個々の触手に相当する 55 個の制 御トリガーを発生させ、形状記憶合金アクチュエータ、LED、音響それぞれのア ルゴリズムに送信しいている。形状記憶合金アクチュエータと LED は、PWM 電圧制御回路により電圧を変化させて駆動する。音源モジュールは YAMAHA MOTIF-RACK ES を使用している。

図 5-8

触手の光の変化

 図 5-10 は、赤外線カメラの入力画像から始まる形状記憶合金アクチュエータ の制御の流れである。赤外線カメラの入力画像をもとに動作解析、モザイク処理 を行う。モザイク画素の配置を、触手である形状記憶合金アクチュエータの実際 の場所に再配置している。このモザイク画素のグレースケール濃度の数値がノイ ズ除去のための閾値以上になった場合をトリガーとして、形状記憶合金アクチュ エータ及び LED と音の制御信号を発生させている。この方法により、鑑賞者が 手をかざした付近の触手が動作し、手を動かすことで触手の蠢きが遷移していく。

図 5-9

制御システム概略

 Himawari と plant では、独自に曲線記憶加工処理を施した形状記憶合金線材 を用いてアクチュエータを開発した。しかしながら、Himawari と plant で用い た形状記憶合金線材では駆動速度が遅く、電圧制御による形状変化が不安定で あった。そこで、Tentacles で用いるアクチュエータには、電圧の PWM 制御によっ て安定した動作が可能なトキ・コーポレーション株式会社のバイオメタルファイ バー BMF150(直径 0.15mm) [48] を選択した。バイオメタルファイバーは通 電による熱によって長さ方向に縮むもの(運動ひずみ約 4%)で、この力を利用 してアクチュエータを駆動する。

 図 5-11 は、開発した形状記憶合金アクチュエータの構造図である。形状記憶 合金アクチュエータは、白色シリコンチューブ(直径 3mm、全長 40mm)、バ イオメタルファイバー BMF150(直径 0.15mm)、光ファイバー(直径 0.5mm)、

小型電子ハトメ(補強用)、3mmLED 用拡散光キャップで構成される。アクチュ エータの胴体に使用したシリコンチューブの断面には図 5-11 右側のように 4 つ の穴があり、周囲3つの穴のうち2つにバイオメタルファイバーを通し、残り1 つの穴は利用していない。中心の穴には、白色 LED を光源とする光ファイバー を通し、LED 用拡散光キャップを通して触手の先端が光る。

図 5-10

形状記憶合金アクチュエータの制御の流れ

5.6.2 形状記憶合金アクチュエータ

 図 5-12 は、アクチュエータが曲がる原理を図解したものである。無通電状態(図 5-12 左側)では、シリコンチューブは直立状態となっている。通電するとバイ オメタルファイバーは長さ方向に縮むが、バイオメタルファイバーは底面で固定 され、シリコンチューブ上面中心からずれた位置に掛けられているために、シリ コンチューブに曲げる力を発生させる。(図 5-12 右側)通電を止めるとバイオメ タルファイバーが自然空冷により冷却されて元の長さにもどり、シリコンチュー ブの弾性により直立状態にもどる。バイオメタルファイバーに加える電圧の強弱 によって曲がり方を制御することができる。

 また、Tentacles の形状記憶合金アクチュエータでは、Himawari や plant の ように、もどりバネは使用しておらず、シリコンチューブの弾性のみでもどる動 きを可能にしている。シリコンチューブの固さの異なる素材を用いて実験し、バ イオメタルファイバーの引っ張る力とシリコンチューブの弾性の力のバランスの 良い硬度のものを選択した。

図 5-11

形状記憶合金アクチュエータの構造

 図 5-13 は、形状記憶合金アクチュエータの拡散光キャップをはずした状態。

図 5-12

アクチュエータが曲がる原理

図 5-13

形状記憶合金アクチュエータ

 図 5-14 は、形状記憶合金アクチュエータと LED の電圧制御のための PWM 電圧制御回路の等価回路である。電圧制御回路は、PIC、フォトカプラ、トラン ジスタ、電解効果トランジスタ等で構成される。形状記憶合金アクチュエータ と LED は同じ電圧制御回路を利用しているが、形状記憶合金アクチュエータと LED は異なるアルゴリズムで電圧変化を与えている。(図 5-17, 図 5-18)1 つの 形状記憶合金アクチュエータの駆動には 3V 最大 0.5A 必要である。すべての形 状記憶合金アクチュエータと LED の制御には、この等価回路 110ch 分が必要に なる。この等価回路は Himawari と plant と同じものだが、Tentacles で製造し た電圧制御装置は、それまでの基板を再設計し、展示における安全性を考慮して、

放熱性を高めたものを用いている。(図 5-15)

 

図 5-14 電圧制御回路の等価回路( 1ch