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第 5 章  Tentacles : 触手が蠢くインタラクティブアート作品

5.7 展示による評価と考察

験する前は、この作品がどのようなものかはわからない様子であったが、手を かざして体験することで、初めてその面白さを感じとれていた。Tentacles は、

Himawari や plant と比べても小型な作品であるため、見た目のインパクトも小 さく、その造形もシンプルなために、一目見ただけではどのようなものか想像し にくい。しかしながら、一度体験すれば、触手の蠢きや光、音のインタラクティ ブな反応がとても心地良いことがわかり、鑑賞者はその体験を通して Tentacles に生物の存在感を感じ取っていた。このことから、造形の見た目からではなく、

体験を通した生物の存在感の提示を実現できていたと考えられる。 

 インタラクティブ性に関しては、「手を横へ振った時だけでなく、上下させた 時に反応はしないのか」という感想があった。Tentacles は赤外線カメラの画像 を解析して動きのみを検出しているため、手を水平方向へ動かすときのみ反応す る。作品のインタラクティブ性を高めるためには、3次元距離を検出できるセン サーを用いた鑑賞者のジェスチャーを認識できるシステムが必要だと感じた。ま た、Tentacles の体験中に触手に触れている鑑賞者が多く見られた。今回のシス テムでは、赤外線カメラでセンシングしているため、触れなくても動作するが、

Tentacles のように鑑賞者が手を使ってコミュニケーションする作品の場合、作 品に触れることは自然な行為であり、体験を重視した作品を目標にするならば、

接触によるセンシングを実現する必要があると感じた。これら 3 次元距離と接触 に関するセンシングの課題は、作品と鑑賞者の間の中距離と近距離におけるイン タラクションの変化を意味する。このような振る舞いは、人間と生物のコミュニ ケーションでは通常行われていることであり、人間と生物における距離とインタ ラクションの関係を探り、それを応用することがインタラクティブアートにおけ る自然な体験を生み出すためには重要であると考える。

 音に関しては、「とてもきれいで不思議な雰囲気を醸し出している」という感 想を得た。一方、音のインタラクティブ性に関しても前述の触手の動きのインタ ラクティブ性と同じく、手を上下方向へ動かす時に何らかの変化が欲しいという 感想が多くあった。さらに、接触のセンシングによる音の発生も検討する必要が あると考える。

 本章では、SMD の応用事例として、触手の蠢きを表現したインタラクティブ アート作品 Tentacles について述べた。

 性能向上のため、Himawari と plant で用いたものとは異なる形状記憶合金線 材のバイオメタルファイバーを用いてアクチュエータを開発し、電圧制御回路、

制御システムと合わせて Tentacles を制作した。Tentacles では、イソギンチャ クの波間に揺れる触手の美しさを表現するために、形状記憶合金アクチュエータ の柔らかく曲がる動き、アクチュエータ先端の光、音を連動させて幻想的な空間 を演出するインタラクティブアート作品を制作した。

 展示による鑑賞者の評価から、作品性および触手の表現には高い評価が得られ た。触手の蠢きの表現がインタラクティブアート作品において驚きと興味をわか せる効果的な手法であることが示された。また、鑑賞者に対して Tentacles とい う作品の体験を通して、そこに生物の存在感を提示することができた。

 さらに、触手の動きと音のインタラクティブ性に関する感想から、インタラク ティブアート作品における重要なポイントが明らかになった。Tentacles のよう に生物をモチーフにしたインタラクティブアート作品の場合、鑑賞者にとって、

より自然な体験を実現するためには、人間と生物のコミュニケーションを参考に する必要がある。特に鑑賞者と作品の距離に応じて、中距離ではジェスチャー認 識、近距離では接触のセンシングを取り入れ、鑑賞者と作品の自然なコミュニケー ションを実現することで、インタラクティブアート作品としての完成度を高める ことができると考える。

5.8 まとめ

 本研究では、従来のインターフェース研究とは異なり、アート作品の制作を繰 り返す過程で、求める表現の追求と同時に技術開発を行ってきた。このような研 究方法は、一般的に芸術作品を制作する作家が行う作品制作の行程であり、作家 の主観的感覚を重視して制作を進めるため、その求める表現が制作過程において 変化し続ける性質を持つ。このため、目的を明確にした研究には適した方法とは 言えない。さらに、方向性を見失えば単なる作品制作に陥る可能性がある。しか しながら、使用する技術の潜在的可能性とそこに生まれる表現を感じ取りながら 表現と技術開発のバランスを模索し、独創性のあるコンセプトを打ち出す研究の 初期段階には有効な方法であると考える。本研究では、このような研究方法に則 り、SMD の技術開発を行いながら 3 つのインタラクティブアート作品を制作し、

生物をモチーフにした表現を実現した。

 本章では、SMD で実現した表現、SMD 技術の核である形状記憶合金アクチュ エータの開発、SMD の可能性について考察する。