第 4 章 plant : 葉群がざわめくインタラクティブアート作品
4.5 実装
plant は、葉群上方にある赤外線カメラをセンサーとして、鑑賞者の手の動き に反応して個々の葉を揺らす。揺れ幅は約 5mm で、葉の茎にあたる形状記憶合 金アクチュエータが一方向に曲がってもどる動作を行う。曲がる方向は葉群の中 心の葉を除いて、中心から外側に向かって曲がる。(図 4-5 上) また、 鑑賞者が 手を動かした状態から手を離す、もしくは手の動きを止めた後の 5 秒間は、揺れ て戻る動作を繰り返す。これは、手の下にある葉の動きが鑑賞者自身から見えに くいため、遅延して葉を動かすことによって鑑賞者自身に葉の動きを見ることが できるようにするためである。動く葉の位置と鑑賞者の手の動く位置を一致させ ているので、鑑賞者は自分の手の動きに反応して葉が動いているような感覚を体 験する。音に関しては、ループ音源ファイルを再生しながら、手の動きの変化量 の増減に合わせて音色が変化する音響効果を加えている。
図 4-7 は、制御システム全体の入力から出力までの概略図である。 赤外線カ メラからの入力画像を Cycling '74 Max/MSP/Jitter (Windows) で開発したプロ グラムにより動作解析(フレーム差分)を行う。その解析データをもとに、形状 記憶合金用の制御アルゴリズムにより制御信号(DMX 信号)へ変換し、電圧制 御回路により形状記憶合金アクチュエータを駆動している。音に関しては、制御 パソコン上で再生したループ音源を KORG KAOSS PAD KP3 へ入力する。赤外 線カメラの入力画像の動作解析結果から動作変化量を算出し、 その動作変化量の 値によって、KORG KAOSS PAD KP3 の音響効果を変化させている。
図 4-8 は、赤外線カメラの入力画像から始まる形状記憶合金アクチュエータの 制御の流れを表したものである。赤外線カメラの入力画像をもとに動作解析、モ ザイク処理を行う。モザイク画素の配置を、形状記憶合金アクチュエータの実際 の場所に再配置している。このモザイク画素のグレースケール濃度の数値がノイ ズ除去のための閾値以上になった場合をトリガーとして、形状記憶合金アクチュ エータの制御信号を発生させている。この方法により、鑑賞者が手をかざした付 近の葉が動作し、手を動かすことで葉のざわめきが遷移していく。
図 4-7 制御システム概略
図 4-8 形状記憶合金アクチュエータの制御の流れ
図 4-9 は、plant のために開発した形状記憶合金アクチュエータの構造図であ る。Himawari ではシリコンチューブを利用していたが、plant ではデザイン上 の理由からシリコンチューブを使わず、形状記憶合金等が剥き出しの状態のアク チュエータを開発した。
駆動源となる形状記憶合金は、Himawari で利用したものと同じ曲線記憶加工 処理させた形状記憶合金線材を利用しているが、長さは Himawari の 35mm に 対して、plant ではデザイン上の理由で 40mm としている。この曲線記憶形状記 憶合金ともどりバネ用の超弾性形状記憶合金を導通用の2つをエナメル線で螺旋 状に巻いている。もどりバネの超弾性形状記憶合金は、Himawari の直径 0.2mm のものに対して、plant では直径 0.4mm の太いものを利用している。この理由は、
第4章5節 4 項の形状記憶合金アクチュエータの動きの制御で述べる。曲線記憶 形状記憶合金とエナメル線は、小型の電子ハトメを利用して接続し、電圧を加え ることで曲線記憶形状記憶合金が加熱されて駆動する。
Himawari のアクチュエータと同様に、機構を単純にすることでシンプルなデ ザインを実現するのと同時に、素材費や加工費を抑えて安価なアクチュエータを 開発している。
図 4-9 形状記憶合金アクチュエータの構造
4.5.2 形状記憶合金アクチュエータ
図 4-11 は、形状記憶合金アクチュエータの電圧を制御するための PWM 電圧 制御回路の等価回路である。電圧制御回路は PIC、フォトカプラ、トランジスタ、
電解効果トランジスタ等で構成されている。1 つの形状記憶合金アクチュエータ の駆動には 3V 最大 0.7A の電流が必要である。plant の全ての形状記憶合金ア クチュエータの制御には、この等価回路が 169ch 分必要になる。この等価回路 は Himawari と同じものであり、作品で使用した電圧制御装置も Himawari と 同じものを用いている。
4.5.3 電圧制御回路
図 4-10 169
個のアクチュエータを取り付けたドーム形状土台図 4-10 は、ドーム状の土台に 169 個の形状記憶合金アクチュエータを配置し た様子である。
図 4-12 の加熱時間を変えて実験を行い、最終的に図 4-13 のように、加熱時 間2秒、冷却時間3秒、揺れ幅が約 5mm の動き方を採用した。Himawari では 加熱時間 3 秒、冷却時間4秒としていたが、plant ではそれぞれ 1 秒ずつ短くなっ ている。揺れ幅も Himawari の約 10mm から plant では約 5mm と小さくなっ ている。この理由は、plant の先端に取り付けている葉の大きさとアクチュエー 図 4-12 は、plant の形状記憶合金アクチュエータの形状変化と電圧変化の関 係を表したものである。plant の形状記憶合金アクチュエータは、Himawari の 形状記憶合金アクチュエータとはデザインや用いられている材料が一部異なる が、駆動源となる形状記憶合金は Himawari と同じ独自加工した曲線記憶形状記 憶合金であり、基本特性は同じものである。plant の形状記憶合金アクチュエー タは、Himawari と同様に徐々に電圧を加熱させて曲がり、電圧をカットアウト することで冷却されて初期状態にもどる。
また、Himawari の形状記憶合金アクチュエータが、常温初期状態で少し曲がっ ていたのに対して、plant ではもどりバネに太い弾性の強いものを用いることで、
初期状態を真っすぐに直立させている。この理由は、Himawari と同じように初 期状態が少し曲がったままだと、アクチュエータの先に取り付けた葉が斜めに沈 み込むような動きになるため、初期状態を直立にすることで、アクチュエータが 曲がった時に可能な限り葉が横に揺れて動くように見せるためである。
4.5.4 形状記憶合金アクチュエータの動きの制御
図 4-12
形状記憶合金アクチュエータの形状変化と電圧変化の関係図 4-13 plant
の形状記憶合金アクチュエータの電圧制御タ同士の距離の関係から、電圧を長い時間加えて曲がりすぎると葉同士が重なっ て外れなくなるためである。plant では葉の動きの大きさよりも、葉の密集した デザインを優先させている。その結果、応答時間は Himawari の7秒から plant では5秒になり、2 秒早くなっている。
plant は、Ars Electronica Festival 2010(オーストリア・リンツ)へ招待され、
Ars Electronica Festival の開催期間中とその後 Ars Electronica Center で5ヶ 月間展示を行うことができた。また、国内において、男女 35 名に体験してもら い感想を得た。
Ars Electronica Festival 2010 では、国際的な展示会場において老若男女の 多くの方に直接説明を行い、感想を聞きながら展示を行うことができた。感想に ついては、「動きがかわいい」「魅力的な作品だ」「ロボットで植物を造るという 考え方が面白い」「スポットライトで浮かび上がっている葉群がとても印象的だ」
といったものがあり、高い関心を持って作品を体験している方が多かった。
また、plant を新しいロボットの形として捉える人も多く、近年発表されてい るヒューマノイドと比較して、「同じロボット技術を利用しても、人間に近づけ すぎるために不気味な表現が生まれる一方で、plant のようにとても愛らしい表 現を生み出すことができることに驚いた」という感想があり、どのようなテクノ ロジーを使うかではなく、どのように魅せる(演出する)かが重要であると感じた。