第 3 章 Himawari : 向日葵をモチーフにした植物型ロボット
3.8 展示による評価と考察
Himawari は、街じゅうアート in 北九州 2008(北九州)、アジアデジタルアー ト大賞展 2008(福岡)、SIGGGRAPH ASIA 2009 Emerging Technologies(横 浜)、ロボスクエア(福岡)、九州大学・芸術工学東京サイト(六本木)で展示を 行い、多くの方から感想を得ることができた。
全体のデザインに対しては、「機械部品や電子部品がむき出しのデザインに美 しさを感じる」との評価を得た。形状記憶合金アクチュエータを利用した触手の 動き、花びらの動きに対しては、「生きているようなリアルな動きに見える」と いう感想を、驚きと高い関心と共に得ることができた。SMD の生み出す触手の 蠢きや花びらの揺らめきが、生物の存在感を生み出していたと言える。
Himawari には、知能と呼べるような高度なプログラムは実装されていない。
手の動きに単純に反応して動くだけのロボットに、このような生命感を感じるの は、触手や花びらの有機的な動きが効果を上げていたと考えられる。
また、SIGGRAPH ASIA 2009 の展示会場では、他にもいくつかのロボットが 展示されていたが、「すべてのロボットの展示の中で Himawari が一番面白い」
との感想を一部の鑑賞者から得た。使われている技術力としては、他の展示物の 方が優れているものが多いと思われる。しかしながら、このような感想が得られ たということは、向日葵というモチーフをデフォルメや演出をしながら作品表 現として帰結させることによって、「機械構造物が動くことの単純な面白さ」を Himawari という作品の中で成立させることができていたと考えられる。
一方、インタラクティブアートの作品表現と技術的な課題につながる問題点と して、触手や花びらの動きが人の動きに対してインタラクティブに反応している ように見えなかったことが挙げられる。これには次の2つの要因が考えられる。
1 つ目の要因として、アクチュエータの動きが遅いために人の動きに対しての 即応性がなく、全体としてランダムに動いているように見えることが考えられる。
この問題を解決するには、単純に電圧を加える時間を短くすればよいわけではな い。電圧を加える時間を短くすれば、アクチュエータの曲がり方が弱くなる。電 圧を高くして急激に加熱した場合、短い時間の加熱であっても自然空冷で常温初 期状態にもどる時間が長くなる。今回利用した曲線記憶形状記憶合金はバイオメ タルファイバー(直径 0.05 〜 0.15mm)と比較しても太い線材(0.3mm)であ り、熱しにくく、冷めにくい性質を持つ。アクチュエータの特性実験により絞り 込んだものが図 3-23 の電圧制御のグラフであり、今回開発したアクチュエータ の曲がり具合を優先させた場合の性能の限界である。これらのことから、駆動速 度の問題を解決するためには、駆動源である形状記憶合金の素材から見直す必要 がある。
2 つ目の要因としては、アクチュエータの数が少ないために、アクチュエータ からアクチュエータへの動きの遷移の表現が、人が認識できるほどの解像度に達 していなかったことが考えられる。よりわかりやすい表現を実現するためには、
より多くのアクチュエータを用いて情報提示性能の高い SMD を制作する必要が ある。
本章では、SMD の応用事例として、向日葵をモチーフにした植物型ロボット Himawari について述べた。
SMD の基盤技術である形状記憶合金アクチュエータ、電圧制御回路、プログ ラムを含む制御システムを開発し、吉川工業株式会社の開発したサーボモータ制 御システムと合わせて、植物型ロボット Himawari を制作した。
展示による鑑賞者の評価から、SMD による Himawari の花部分の触手の蠢き と花びらの揺らめきの動きが、鑑賞者とのインタラクションを通して、生物の存 在感を生み出していた言える。また、本研究の目標である「機械構造物が動くこ との単純な面白さ」を作品の中で成立させることができていたと考えられる。
問題点としては、形状記憶合金アクチュエータの性能と数が挙げられる。形状 記憶合金アクチュエータの駆動速度を上げること、蠢きの遷移が認識できるアク チュエータの数を準備することが、インタラクティブに動作していることを表現 するためには必要な条件である。これらの条件をクリアすれば、よりわかりやす い表現の提示が可能になると考える。
生物をモチーフとした動きのあるロボットや実体ディスプレイを制作する場 合、その生態や形態を忠実に再現するロボット工学的な開発方法や人工知能のよ うな高度なアルゴリズムを利用しなくても、SMD のように触手の蠢きや花びら の揺らめきというインタラクティブな表層の動きによって生物の存在感を表現す ることが可能であると考えられる。
3.9 まとめ
本章では、SMD の応用事例であるインタラクティブアート作品「plant」(映 像参照 URL [V2])について述べる。plant は、169 個の造葉を取り付けた形状 記憶合金アクチュエータを用いて、葉群のざわめきを表現するアート作品である。
この plant の制作、展示を通して、SMD の「葉群のざわめき」の表現の可能性 について考察する。
plant は、草が風に揺れるように、葉を動かして人とコミュニケーションを行 う作品である。人が手をかざすと、そこに風が存在するかのように葉がざわめい ていく。また、手の動きにあわせて変化する音響効果と、スポットライトによる 照明効果によってインスタレーションを演出している。真っ暗な空間にぼんやり と浮かび上がった葉群のかすかな動きと音の変化が、幻想的な空間を創り出し、
鑑賞者は心地よいインタラクションを感じることができる。