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第 8 章 一般市街地における自律実験走行の考察 106

8.6 雨天での走行の考察

8.6 雨天での走行の考察

通りの自律走行ができた.その結果としてゴールに到達し,課題コースを完走した.その様 子を図 8.16に示す.雨粒は外界センシングにおいてランダムなノイズとしてみることがで きる.本研究のロボットシステムは特に雨を意識した構築は行っていなかったが,結果とし て雨から大きな影響を受けることはなかった.このことを次のように分析する.

本ロボットにおいて,2次元および3次元測域センサのスキャンデータのマッチングによ る自己位置・姿勢の推定では,雨のようなランダムノイズよりも,建物の外壁などのランド マークを観測したスキャンデータの方がマッチングに対する寄与が大きい.そのため,雨に 対して頑強であるといえる.走行制御においては,経路上の対象に対して一時停止してから 動静を判別する本手法が有効に機能したと考えている.本ロボットは雨粒に対して一時停止 を繰り返したが,他のロボットで見られたような雨粒を回避して経路を逸脱することはな かった.このことは自己位置・姿勢の推定にも良い効果をもたらした.なぜなら,一般的に 回避行動のふらつきは誤マッチングが発生する可能性を高める.したがって,経路からの逸 脱を抑制する本手法は,雨天においても安定した自己位置・姿勢を行うことに有効性が示せ たと考えている.以上より,雨のような突発的なノイズに耐性を持つ自律移動ロボット技術 が構築できた.

8.6 雨天での走行の考察

1. Start 2. 公園遊歩道

3. 前方のロボットに追従走行 4. 一般遊歩道

5. つくばセンター 6. 対象人物を検知してアプローチ

7. 横断歩道前で一時停止 8. 横断歩道を渡る

8.15 雨天で行われたつくばチャレンジ2015の様子

8.7 まとめ

8.16 つくばチャレンジ2015で完走を達成したときの様子

8.7 まとめ

本章では,つくばチャレンジ2013から2015までの実験走行より,本研究で構築した自律 移動ロボット技術の有効性と課題について考察した.走行可能領域の識別においては,リタ イアした事例と完走した事例を比較した.実験走行から,特に縁石や段差などの低所特徴の 識別が重要であることを示した.このため,ロボットが走行できない領域(走行不可能領域) を環境情報地図で指示することによって,センサで識別できない段差に対しても回避が可能 であることを示した.

他のロボットとの関係では,正面から接近するロボットに対する回避動作が,比較的安定 して実行できることを示した.その一方で,側面から接近するロボットに対しては,回避す ることが難しいことがわかった.これには,著者は相手の動きを予測して,動的に走行可能 領域を抽出することが必要であると考えている.

横断歩道手前で,他のロボットにより形成されている待ち行列に加わる動作について,本 研究ではロボットが行列のライン上を走行するように走行経路を正確に設定した.しかし,

それでも前のロボットの識別に失敗し,回避動作を行ったことがあった.また,行列の途中 から割り込んだこともあった.行列動作を確実に実行するには,後ろに並ぶ対象であるロ ボット,または行列のライン上で動きのある物体を識別する必要があると考えている.

自己位置・姿勢の推定については,公園の円形花壇などランドマークの形状によっては地 図とのマッチングが正確にできず,姿勢の推定精度が低下して自己位置・姿勢の推定が破綻 する可能性があった.これに対して本研究では歩道と芝生の境界を抽出し,マッチングに用 いることで姿勢の推定精度を維持できることを示した.

8.7 まとめ

雨天時の走行については,特に問題となる事象は発生しないことが確認できた.雨天で は雨粒が外界センシングにとってランダムなノイズとなり,ロボットの回避行動を誘発し,

走行可能領域の逸脱や,自己位置・姿勢の推定を破綻させる原因となる.このため,つくば チャレンジ2015では多くのロボットがリタイアとなった.これに対して本研究では走行可 能領域から逸脱しない走行制御手法のため,直前で検知した雨粒に対して一時停止を繰り返 したが,回避行動をとることはなく,走行経路からの逸脱はほぼなかった.その結果,ゴー ルに到達し,課題コースを完走した.以上より,突発的なノイズに対して安定した自律走行 が持続できる自律移動ロボット技術を構築することができたと考えている.

本研究における自律移動ロボット技術の構築において,達成できたこと,および課題を以 下に示す.

達成できたこと

1. 一般市街地の走行 2. 公園内遊歩道の走行 3. 歩行者の相互作用的な回避 4. 歩行者・他のロボットの追従走行 課題

1. 検知対象の速度,および移動方向の推定による動的な走行可能領域の識別 検知対象の動静の判別,および走行可能領域の変化を予測すること.

2. 動的な走行可能領域の識別に基づく走行制御

正面,および側方から接近する歩行者や他のロボットに対する回避動作を定義し,

早期に回避すること. 3. 安定した行列動作

著者は,これまでのつくばチャレンジの実験走行の結果により,一般市街地におけるロボッ トの,基本的な自律走行が実現できたと考えている.今後の課題は,正面および側方から接 近するロボットや歩行者に対する早期の回避行動であり,そのために検知対象の動きの予測 による動的な走行可能領域の識別手法の構築が必要と考えている.

9 結 言

9.1 本論文のまとめ

本論文では,一般市街地における自律移動ロボットの走行に関する研究について述べた.

安定した自律移動ロボットを実現するための3要件を提示してそれぞれの要素技術を構築 し,それらを環境情報地図によって統合した.また,一般市街地における実証実験「つくば チャレンジ」に参加し,実験走行で経験した多様な事象に対する考察,および得られた知見 と課題について述べた.以下に本論文の各章の概要を示す.

第1章

本研究の背景として自律移動ロボットと自動運転車を比較し,一般市街地を走行する 自律移動ロボットを実現するための課題を述べた.これらに対して,自律移動ロボッ トに関するこれまで研究について説明し,本研究の動機と目的およびアプローチにつ いて述べた.

第2章

本研究における実環境における自律移動ロボットの開発手法について述べた.自律移 動ロボットの開発は,一般的な工学分野でとられる事象のモデル化による手法と比較 して,対象とする実環境のモデル化が困難である.したがって,本研究において著者 は具体的なタスクを設定して実環境の中で実験を繰り返しながら,そこから抽出され る課題を解決する技術構築を行うタスクオリエンテッドアプローチによって自律移動 ロボットを開発することとした.そして,その評価はタスクの達成度によることを述 べた.このような自律移動ロボットの実験走行の場として,一般市街地における実証 実験「つくばチャレンジ」の概要と意義,参加チームの種別およびロボットに求めら れる条件ついて述べた.つくばチャレンジの課題コースはロボットのために手を加え ない,あるがままの環境としている.2007年から始まったつくばチャレンジで,これ までに環境実環境の縮図とも言えるほど多くの環境,多様な条件で実験が行われてき た.したがって,つくばチャレンジで安定して自律走行できるロボットは,他の市街 地でも高い安定性で自律走行できることを課題コースとの比較によって示した.

本研究における自律移動ロボットの開発にあたって,これまでの研究と著者の研究を 分析し,自律移動ロボットの要件を提示した.本研究における自律移動ロボット技術 は,基本的に,事前に設定された経路をロボットが追従走行するアプローチをとる.ロ

9.1 本論文のまとめ

ボットの走行経路は,設定された時点では走行可能領域である.しかしながら,実環境 では経路上に物体が置かれることや,歩行者や自転車が走行している場合がある.そ れらを回避するには走行可能領域の識別手法と,そこから逸脱しない走行制御手法が 必要となる.本研究において,実環境における実験走行から設定した自律移動ロボッ トの3要件を以下に示す.

1. 外乱に強く,高精度で再現性の高い自己位置・姿勢推定 2. 走行可能領域の識別

3. 走行可能領域から逸脱しない走行制御

本研究では,この3要件に対して要素技術を構築し,環境情報地図によって連携させる ことで,一般市街地環境で安定して自律走行するロボットを実現することを目指した.

第3章

自律移動ロボットの車両構成,およびシステム構成と各機能について述べた.ロボッ トの車体は左右に独立した動輪を有する独立二輪操舵方式とし,段差の踏破性を重視 して動輪を前方に配置した.また車輪は比較的大きな12[inch]のホイールとクッショ ン性と接地性から空気タイヤを用いた.

ロボットの外界センシングには2次元測域センサ2個,および3次元測域センサ1個 を用いる構成とした.2次元測域センサは地図とのマッチング,および進路上の回避 対象の識別に用いることから下方に設置することが有利であるため,走行に支障のな いことを考慮してビーム面が地面からの高さ20[cm]となる位置に1個設置した.もう 1個はつくばチャレンジの人物探索に用いるため,ビーム面の高さが地面から55[cm]

の位置に設置した.3次元測域センサは,路面の段差などの低所特徴の抽出に用いた.

自律移動ロボットのシステムは,各機能を独立した機能プロセスと上位の行動決定プ ロセス,および自己位置・姿勢の推定プロセスより構成した.各プロセスは共有メモ リを介して互いのデータを参照する.このシステム構成は,新たな機能に対応するソ フトウェアの追加が容易であるため,システムの拡張性に利点があることを述べた.

第4章

一般市街地環境における高精度な自己位置・姿勢の推定手法について述べた.最初に,

自律走行の基準となる自己位置・姿勢の推定には,精度と再現性において測域センサ のスキャンデータと占有格子地図とのマッチングによる手法が有効であることを述べ,

これに用いる占有格子地図の作成手法について説明した.占有格子地図の作成手法は

FastSLAMの枠組みを用いた.ロボットのジャイロオドメトリにより取得した走行軌

跡に沿って2次元測域センサのスキャンデータをプロットすることで占有格子地図を 作成した.本研究ではジャイロオドメトリの累積誤差をDGPS測位点によって補正