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第 5 章 走行可能領域の識別 62

5.5 接触センサによる低所特徴の抽出

(a) 開放区間

スタート地点から100[m]程度の区間は地図とのマッチングに用いることのできるラン ドマークが少ないことから,ロボットの自己位置・姿勢の推定に誤差が生じる可能性 が高い.この走行においても自己位置・姿勢の推定精度が低下した状況であった.そ のため,図5.15 (a)に示す地点ではロボットが低い縁石に接近したが,本手法によっ て段差を抽出できていたことから,障害物回避の機能によって段差との接触を回避し た.ロボットがこの段差を抽出できていない場合,接触した可能性が高い.これ以降 はランドマークが多い領域に到達したため,自己位置推定の精度が向上し,コースに 復帰した.

(b) 下りのスロープ

図5.15 (b)に示す地点は,廊下と歩道が交差する場所である.この場所の画像は図5.13

(4)であり,小さな下りのスロープがある.ここをロボットが通過する際,その姿勢 が一時的に前のめりになったため,ロボットは3次元測域センサのスキャンデータに 対して平面テーブルの正常な適用ができなくなった.その結果,路面を段差として誤 抽出した.ロボットはそれらに対して回避を行ったため,コースを若干逸脱した.ス ロープを過ぎた時点でロボットの姿勢は元に戻り,コースに復帰した.

(c) 交差点におけるふらつき

図5.15 (c)に示す地点は右側に駐輪場があり,自己位置・姿勢の推定精度が低下した.

この状況でロボットが交差点を曲がるときに道路の緩やかな勾配変化で路面をセンシ ングし,回避行動をとった.そのため,ロボットの走行にふらつきが生じた.他の交 差点においても地面を低所特徴として誤抽出した状況が発生している.交差点では環 境の変化が大きいため,地図とのマッチングに誤差が生じる可能性があり,自己位置・

姿勢の推定精度が低下する可能性が,他の場所と比較して高くなる.

5.5 接触センサによる低所特徴の抽出

3次元測域センサによって抽出できない低所特徴は,ロボットの動輪が接触することで抽 出する.この手法では,低所特徴は上段差に限定される.ゆえに,抽出対象を上段差として,

接触センサによる上段差(以下,段差)の抽出手法について述べる.

ロボットの駆動輪が環境中の段差に接触した場合,駆動輪のDCモータに大きな負荷がか かり,それまでの走行時よりも大きな電流が流れる.ロボットはDCモータの電流量を常時 モニタリングし,駆動輪が接触したときの急激な電流値の変化を検知することで段差を抽 出する.電流値のモニタリングは第3章で述べたとおりモータドライバ(Hibot社製, 1Axis

DC Power Module)の負荷電流フィードバック機能を用いる.本研究では,つくばチャレン

5.5 接触センサによる低所特徴の抽出

WayPoint Step1.

接触の検知

Step2.

後退・接触位置の記録

Step3.

ウェイポイントに姿勢を向ける

接触位置

( Step4. 再度接触が発生した場合) 縁石

回避 目標点

5.16 接触からの復帰動作

ジの実験走行から経験的に,ロボットの自律走行時において駆動輪の電流変化量が5[A]以 上のとき,ロボットの駆動輪が低所特徴に接触していると判別することとした.

5.5.1 段差の回避動作

接触センサによる段差の回避は,接触の前後で自己位置・姿勢の精度が維持されることが 必要である.一般的には,ロボットの動輪が段差に接触したときには駆動輪がスリップして 空転するため,動輪のエンコーダで計測しているロボットの移動距離および姿勢と実際の値 の差(以下,誤差)が増大する.これに対して本研究における自己位置・姿勢の推定手法で は,移動距離の誤差が占有格子地図とのマッチングによって補正されるため,実際の位置か らの誤差は比較的小さい.また,姿勢はジャイロの出力値から推定するため,車輪の空転に は影響されない.

ロボットの動輪が接触した時の復帰動作を図5.16に示す.ロボットの回避行動の前提とし て,回避後はロボットは経路に復帰することとする.以下に,ロボットの回避の流れを示す.

Step1 接触を検知して後退する

Step2 ウエイポイントの方向にその場で回転

Step3 段差を仮想的な回避対象として,ウェイポイントへの追従走行を再開

5.5 接触センサによる低所特徴の抽出

mA

m

m Goal 接触地点

コース

5.17 狭いスロープ端部の識別 Step4 再度接触が発生した場合,Step1から繰り返す

本研究では,Step1におけるロボットの後退距離を経験的に1[m]に設定した.ウェイポ イントとロボットの間の段差が広範囲に及ぶ場合,接触を複数回繰り返す可能性があるが,

自己位置推定が破綻しない限り,ロボットは段差から脱出することができる.

5.5.2 実験

ロボットが段差との接触によって走行可能領域を抽出し,自律走行を継続した例について 述べる.つくばチャレンジ2011では,図 5.17の右側の画像に示すとおりゴール手前に緩 いカーブ形状の上り坂(以下,スロープ)がコースとして設定された.周辺に建物の外壁が あり,自己位置・姿勢の推定は可能であり,スロープ自体には左右端に5[cm]以下の縁石が あった.この時点ではロボットに3次元測域センサが搭載されていなかったため,ロボット は非接触センシングによってスロープの形状を識別できない状況であった.ロボットにこの スロープを走行させる手法として,ロボットが正確な自己位置・姿勢の推定によってコース を追従することが考えられるが,わずかな誤差によってコースを逸脱する可能性がある.し たがって著者は,図 5.16に示したとおり,接触によって走行可能領域を識別し,走行を継 続する手法をロボットに適用した.

図5.17の左側はロボットの走行軌跡と駆動輪のDCモータの電流値を表す.スロープは 緩やかなカーブ形状のため,図5.17の右側に示すようにロボットはスロープを走行する過 程で3回以上,縁石に接触した.その際に両方の駆動輪合わせて10[A]程度の大電流が流れ,

駆動輪が接触する以前は3[A]程度であったのに対して急激な電流量の増加があった.その ため,ロボットは接触を検知して回避動作に移行し,ウェイポイントの方向に姿勢を修正し た.このような過程を接触毎に繰り返し,ロボットはスロープを登りきることができた.