I.はじめに
これまで述べてきたように、ソーシャルストーリーTMにおいては、行動の結 果を記述する随伴性文の記述が重要で、その随伴性文の中でも、特に社 会的な行動においては、その行動の他者評価を記述する随伴性評価文 の記述が有望であることを述べてきた。しかし、随伴性・評価文についての 実証的な検討は、これまで行われてこなかった。第4章第1節においては、
随伴性評価文、すなわち、行動の評価が記述された文の使用がソーシャ ルストーリーTMの効果にどのような影響を及ぼすのか検討することとした。
岡田・大竹(2005)(1)は、挿絵と行動の評価が記述された文が同時に 使用されたソーシャルストーリーTMの有効性にふれた研究を発表している。
彼らは、対象児童が友だちや教員にプロレスの技を突然かけ始めることに 対して、文字だけのソーシャルストーリーTM(ソーシャルストーリーTMA)と、その ソーシャルストーリーTMに挿絵とプロレス抜を急にかけられた相手が悲しく思 うという内容の随伴性評価文の挿入を行ったソーシャルストーリー(ソーシャ ルストーリーTMB)とを使用し効果を比較した。その結果によると、ソ]シャル ストーリーTMAにおいては、介入による効果が見られないが、ソーシャルス トーリーTMBでは、介入により他害行為が減少し、その後の維持もした。こ の研究においては、2つの指導手続きが混在しているためにどちらがより効 果があったのか明らかになっていない。岡田・大竹 (2005)(1)はこれら2つ の質の異なる手続きにおいて、挿絵の効果については、対象児の認知力 との関連により説明ができるのではないかと考えたが、随伴性評価文につ いては、その効果を明らかにできなかった。本章においては、本人たちの読 み取りの能力について本人の担任教師らと協議した上で挿絵を使用した ソーシャルストーリーTMを使用し、随伴性評価文の効果を検討することを主
たる目的とした。
皿.方法
1.対象
本研究の対象は、A君(事例1)とB君(事例2)であった。どちらも男児で
A県内のB養護学校に在籍していた。
A君は、小学部6年生(研究開始時の暦年齢は12歳)で中度の知的
障害と診断されていた。医療機関での正式な診断は受けていないが、筆 者と担任教師によるCARSの値は30.5で軽・中度自閉症と診断された。休憩時間には、一人でおもちゃのミニカ]を一直線に並べたり、テレビの番 組からと思われるお気に入りのフレーズを口ずさんだりして過ごすことが観察 された。周りにいる教員に対してアイコンタクトし、お気に入りのフレーズを話 しかけることはあったが、その関わりは一方的であった。音声言語でのコミュ ニケ]ションをおこなうことはできるが、内容は要求や拒絶に限られており、
話しかけたことに対する応答を弓1き出すには、具体的な質問を本人のすぐ 近くでする必要があった。文字や文章は、教師と一緒なら読むことができ、
何回か練習をすれば400字程度のひらがなと小学校低学年程度の漢字
混じりの文章が読むことができた。スケジュールは、文字カードの固定型で あったが、当時はあまり利用できているとは言えない状況だった。A君は、他 害行動に関する指導と校外学習の参加に関する指導において、すでに ソーシャルストーリーTMを経験していた。実験期間中、服薬はしていなかった。
B君は、中学部3年生の男子生徒で研究開始時の生活年齢は15歳
であった。居住地が遠隔地のため、A養護学一
Z中学部への入学時(中学
1年生)より学校併設の寄宿舎で生活していた。中学部1年生(13歳)の 時に県内の療育施設の小児科医によって自閉症と診断されていた。就学 時の資料によると中度の知的障害とされており、中学部3年5月のS−M 式社会能力検査によると総合発達年齢は、7歳0ヶ月であった。保護者 からの生育歴の聞き取りで、教師や友だちが冗談として口にしたことや、大・75・
げさに表現したことを真実だと思いこみ、生活に支障をきたすことがあったと 報.害された。また、特にすることが指定されていない時には、手をひらひらさ せたり、肩を叩いたりする常同行動があった。コミュニケーションの主な手段 は、音声言語であった。コミュニケーションを自発する頻度は、それほど多く はないが、親密な関係ができた相手と地域のケーブルテレビや自分が興味 を持っている手話についてなどを話題として会話をすることがあった。B君の
:コミュニケーションの機能を分析すると、要求、拒否、注目喚起、コメント、
情報請求、情報提供が観察されたが、その頻度は高くなかった。文字や 文章の理解については、小学校中学年配当程度の漢字は読むことができ ており、文章の内容もほぼ適切に理解できていた。以前は、文字のリスト型 のスケジュールを使用していたが、実験開始時には使用していなかった。ま た、ソーシャルストーリーMによ・る指導を経験したことはあったが、詳細は不 明であった。実験当時の服薬は、リスペリドンを朝と夜、フルボキサミンを夜 に服用していた。実験中、服薬に関する変更はなかった。
2.標的行動
(1)A君の標的行動
A君の標的行動は、攻撃的な対人的言動であった。この選定にあたっ て、現担任と前担任にインタビューを行い、担任が問題だと考えている行 動のリストを作った。その後、現在の担任からその問題行動についてどの程 度指導の必琴性があるのか聞き取りをし、指導の必要性が考えられる行 動について生起頻度を測定し、生起頻度の高い行動を標的行動とした。
A君の標的行動は、自分が金曜目に目直がしたいというこだわりに起因 する言動であった。例えば、当番表から金曜目に目直になることが決まって いる女児に対して「OOちゃんには、絶対目直をさせない。」と言うこと、あるい は、自分が金曜目に日直ができるように当番表を操作し、その目に目直を している友だちに対して「△△ちゃんは、XX曜日の日直さんだよ。」と言うこと が含まれた。さらに、このような言動がエスカレートしたもの、例えば、名前の
連呼やrO.Oはずっと休め。」などのような攻撃的な言い方や、友だちを叩く
など直接的な他害行為も標的行動とされた。A君の標的行動の定義は
以下の通りである。
①自分が金曜日に目直をすると言い張ったり、文脈から自分が金曜 日の目直をすると推測できる発言をすること。例えば、「金曜日の目直はA
君です。」または、rぼくが(金曜日に)したいしたいしたい..唱。」などというこ
と。
②金曜目に目直をすることになっている女児に対して攻撃的な発言を すること。例えば、「OOちゃんはフー。」、「(金曜目以外の日に)今日の日
直はOOちゃんだよ。」などというこ二と。
③その目に目直をしている児童に対して攻撃的な言動をすること。例
えばrOO君には、目直をさせない.、」、r出て行けOO。」などということ。
④直接の他害行為(叩く、蹴る)。
このような基準を満たす行動が金曜目に目直がしたいということに基づく こだわり発言として定義された。
(2)B君の標的行動
B君の標的行動は、着席行動であった。この標的行動は、保護者からの 申し。出により指導の目標として取り上げられた。担任による行動観察の結果、
保護者からの申し出のあった着席姿勢は、定型発達の中学生と比較すると 著しく逸脱した座り方であった。そこで、保護者と協議の上、指導場面として 朝の登校後の休憩時間を取り上げ指導することとした。
標的とされたB君の着席行動は、休憩時間におけるソファーでの不適 切な座り方であった。B君は、休憩時間にはソファーに座って過ごすことが 多いが、その際にソファーの上に足を上げたり寝転がったりすることが多かっ た。また、時には激しくロッキングすることや、手を奇妙に振るなど常同行動 を続けることも多かった。そのため、B君がソファーで休憩しているときには、
B君以外は座ることができなかった。B君の不適切な座り方は次のように定
義された。
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①肩が、ソファーの一番上の飾りボタンよりも下部である。
②片足または両足が、ソファーの座圃の上にのっている。
③常同行動(手を奇妙に振る、ロッキング)をしている。
④体軸が右または左に著しく傾いている。
これらの基準を1つでも満たすものが不適切な座り方として定義され
た。
3.ソ㎞シャルスドーリ山下相
この研究のために1つの事例に対して2つのソーシャルストーリーTM(ソー シャルストーリー猟A、ソーシャルストーリーTMB)を作成した。それらは、A4の
白色の上質紙に印刷されており、ラミネーターを使用してコーティングされて いた。これらのソーシャルストーリー榊の作成にあたっては、戸OWerPoi樹奄 窟O02 (Micro魯。fも)と…太郎 20腕 (Just Sys奄em)を使用した。また、
ソーシャルストーリー中に使用されたイラストのほとんどは、花子20腕
(J蝸t System)を使用して筆者が描いたものを使用した。キャラクターにつ いては、インターネット上に公開されている画像をPhoもshop6.O(A&obe)
を使用して加工したものを使用した。すべてのソーシャルストーリーTMは、
G期y(200通)(2)の基準を満たしており、ネガティブと感じられるような表現 も使用されていなかった。それぞれのソーシャルストーリーTMは、筆者が担任 からのインタビューを基にして作成し、それぞれの事例における、担任教師 一冬2名とソーシャルスドーリ』伽に詳しい大学教員による内容や表記につい てのチェックを経た上で使用した。ただし、事例2においては、担任教師が 原案の作成をおこなった。