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第2節 随伴性評価文を用いた介入の注意欠陥多
動性障害への適応
I.はじめに
第1節で明らかになったように、随伴性評価文に関しては、少なくとも3 つの要素があることが予想された。それは、①行動とその結果の随伴性が 明らかに記述されていること、②行動に随伴される結果が本人にとって強 化子としての働きがあること、③随伴性評価文の主語は特定された個人で
あることの3要素である。4章第1節では、随伴性評価文の有無が標的
行動の改善に及ぼす影響を検討した。その結果、肯定的な結論は得られ なかったが、前述の3要素が必要であることが推定された。第2節において は第1節を受け、①、②、③の要件を満たす随伴評価文、すなわち随伴性 特定評価文の有無が標的行動に及ぼす影響を検討することとした。皿.方法
1、対象児
対象児はC君(仮名)であった。C君は、A養護学校に在籍しており、
学区内の児童施設に入所していた。研究開始時の生活年齢は、11歳
(小学6年生)であり、知的障害は軽度で、県内の療育施設で注意欠陥 多動性障害(以下ADHD)と診断されていた。小学5年生の時の田中ビネ ー式知能検査によるとIQ68であった。音声言語によるコミュニケーションが 十分可能で、初対面の相手に尋ねられたことに対しても適切に答えること ができた。指示されたり注意されたりすることに対しては、攻撃的な反応を 示すことがあり、指示には、あまり従うことができなかった。文字や文章の理 解については、平仮名が拾い読みできる程度であり、内容の理解までは難
しいと担任から報告された。これまで、ソーシャルストーリーTMを用いた指導 は経験していなかった。実験当時、文字のリスト型のスケジュールを使用し ており、服薬はカルバマゼピンを朝と夜に服用していた。実験期間中、服 薬に関する変更はなかった。
2.標的行動
標的行動はトイレの後の手洗いであった。C君は、前学年まではトイレの 後で手を洗うことがほとんどなかったが、新年度の重点指導目標として設 定され指導が開始されることとなった。実験開始までに担任の教師は、気 がついた時に声をかけ、手を洗うように促していたが、それほどの行動の変 容は観察されていなかった。標的行動は、次のようにカテゴリー分けして記
録された。
一97一
3.自発的に石けんで手を洗う 2.自発的に手を洗う
1.指示されて手を洗う O.洗わない
この、定義における「自発的」とは、声がけや指さしなど教師によるその場 でのプロンプトなしに行動を生起することを意味している。また、「0.洗わな い」の場合は洗うように指示されたにも関わらず、洗わない場合が含まれる。
r1.指示されて手を洗う」場合は、教師がその場で指示するだけでなく、ト イレから出てきた後で手洗いを確認し、指示して洗わせる場合も含まれる。
3.ソーシャルストーリーTM
この研究のために2つのソーシャルストーリーTM(ソーシャルストーリーTMA、
ソーシャルストーリーTMB)を準備した。そのどちらも、A4の白色の上質紙に 印刷されており、ラミネータ』一によって保護されていた。印刷は1ぺ一ジあた り2コマが印刷されるようにし、ぺ一ジの左上に穴を開け、リングでつないだ。
ソーシャルストーリーの作成にあたってはPowerPoint2002(Microsoft)
を使用した。ソ』シャルストーリー中に使用されたほとんどのイラストは、花子 2005(Just System)に添付されている画像を使用して筆者の作成した ものを使用した。キャラクターについては、インターネット上に公開されている 画像にPhotpshop6,0(Adobe)を使用して加工したものを使用した。ソ ーシャルスドーリ]TMは1コマに1〜2文と文の理解を助ける挿絵が挿入さ れており、ソーシャルストーリーTMAは6コマ、ソーシャルスドーリ〕TMBは9コ マから構成されていた。どちらのソーシャノレストーリーTMもGray (2004)(1)
の基準を満たしており、ネガティブと感じられるような表現も使用されていな
かった。
ソーシャルストーリーTMAでは、手洗いの手続きが中心に記述されていた。
ソーシャルストーリーTMBではソーシャルストーリーTMAに加えて、「oo先生は、
トイレの後、石けんで手を洗う人のことを(かしこい、かっこいい、すてきだ)と 思.います」という随伴性特定評価文が追加されていた。ソーシャルストーリ
ーTMBに追加された随伴性特定評価文は、手洗いの手続きに関する内
容ではなく、手を洗った結果に対する社会的な強化子を説明した内容で あった。随伴性特定評価文の作成にあたっては、C君にとって関わる機会 の多い教員3人を具体的に特定して主語とし、その教員が口にするであろ うことが推測できる言葉を選択して使用した。それぞれのソーシャルストーリーTMは、担任からのインタビューを基にして 作成した。その内容や表記について、担任教師2名とソーシャルストーリー TMに詳しい大学教員に確認を依頼し、若干の修正を行ってから使用し
た。
4、データ収集
実験に先立ち、C君が比較的よくトイレに行く場面を記録し、その場面 の観察を重点的に行うことで、言十画的な観察ができるようにした。C君がトイ レに行くことが多い場面は、登校後、給食後であった。記録は、3の自発 的に石けんで手を洗った場合に◎、2の自発的に手を洗った場合に。,1 の指示されて手を洗った場合に△、0の洗わなかった場合をxとして、◎〜x の記号によって記録することを担任教師に依頼した。記録用紙は作成し たが使用されず、毎日メールで担任教師から筆者に報告された。
5、実験計画
実験計画はAA BAICA であった。AとA はともにべ一スラインであるが、
A においては、トイレのよく見える位置に手洗いの手順書が掲示された。B とCは、ともにソーシャルストーリーTMによる介入がおこなわれているが、Bは、
一g9・
随伴性評価文なしのソ]シャルスドーリ』TMA,Cは、随伴性特定評価文 の追加されたソーシャルストーリーTMBが使用された。
6.セッティング
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//一一一
7卜…0止■冊』■
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∵C一
」I着 の
∴■≡
教一
ププ…止…冊』■ 」 トイレ拡大図
凪「∴、幾㌫書
図4.5c君の教室とトイレの位置関係
図4.5にC君の教室とトイレの位置関係と、セッティングを示した。C君 の教室では、C君を含めて4人の児童が生活していた。教室内は、在籍す る児童にあわせた物理的構造化がなされていた。C君の指導は、共有スペ ースの机で行われた。標的行動の観察されるトイレは、図4.5の拡大部分 のようであった。手を洗う水道の前には、手の洗い方に関する手順書が掲
示されていた。
7.指導手続き
べ一スラインはA条件とA 条件である。A条件においては、トイレでの手 洗いをしなかった場合には洗うよう声をかけたが、ソーシャルスドーリ]TMによ る指導は行われなかった。A一条件においては、トイレの手洗い場所の見や すい位置に手の洗い方を図示した手順書を掲示した。しかし、ソーシャルス
トーリーTMを用いた指導は、行われ・ず、A条件同様に手を洗っていない場 合.に声がけをした。B条件1ま、随伴性評価文のないソーシャルストーリー TMAによる介入条件である。B条件において、ソーシャルストーリーTMAは、
朝の自立活動の後に教室内の共有スペースで教師によって提示され、C 君は、それを音読した。第1回目の指導では、読めない」文字があったり意 味が理解できなかったりすることが予想されたため、担任が補助しながら読 むように計画されていた。しかし、C君は、最初から流暢に音読できた。また、
内容についても「わからないことはない」と答えた。そこで、担任はソーシャル ストーリーTMを提示し、読むように促した後は、見守るだけにした。B条件で は、ソーシャルストーリーTMAは、教室内の所定の棚の上に置かれ、C君は、
自由にソーシャルストーリーTMに触れることができた。B条件に続く除去条 件のAI条件では、べ一スライン同様、ソーシャルストーリー丁鮎による指導は 行われず、トイレの後に手を洗っていない場合には、手を洗うように口頭で 声がけを行った。ソーシャルストーリーTMは教師が管理し、C君は、この期間 ソーシャルストーリーTMに触れることができなかった。2回目の介入期のC条 件では、B条件と同様にソーシャルストーリーTMを読ませた。C条件で使用 されたソーシャルストーリーTMは、随伴性評価文の追加されたソーシャルスト ーリーTMBであった。C条件においてもソーシャルストーリーTMBは、所定の 棚の上に置かれ、C君が自由に触れることができた。C条件での介入の効 果を確認後、再びA 条件が導入された。このA,条件においても、ソーシャ ルストーリーTMによる指導は行われず、C君は、ソーシャルストーリーTMに触
れることもできなかった。
一101
皿.結果
2得 点
A .A B A C A,
ド
、
I
!〜1, 一
__↓_
し
⊥ 1
ド
干 す 丁 ↑↑セッション ① ② ③ @⑤
⑪「いつも指示ばかりしてうるさい」と言い,指示しても洗わない。②自分から石け扁 手を洗ったことを馴壬に報告する。③下校中に洗っていないことを担任が指摘し,洗えな かった。④指示されて洗う(登校直後)⑤指示されて洗う(下校直前)
_一_。 _」
図 4.6トイレの後の手洗い
実験の結果を図4.6に図示した。A条件の計測開始直後は、指示され て洗うことが多く、自発的な手洗いは、ほとんど観察されなかった(M二1.1/
目、r舳ge・・O〜2)。A 条件では、手順書の掲示を行った。その結果、すぐ に自発的に手を洗うことが2回連続して観察された。しかし、その後は自発 的に石けんで手を洗ったり、指示されても手を洗わなかったり(M=1.3!
目、r舳ge・・0〜3)と行動のばらつきが大きくなった。A 条件の終末では、声 をかけても手を洗わないことが2回連続して観察された。
B条件では、随伴性特定評価文のないソーシャルストーリーTMによる指 導が行われた。このソーシャルストーリーTMを読ませたところ、すぐに自発的 に石けんで手を洗うことが観察され、それまでの条件に比べ高い得点
(M=1.9ノ目、range=0〜3)が記録された。しかし、その行動は、安定せず、
石けんで自発的に手を洗うことは少なくなった。また、指示されて洗うことや 指示されても洗わないことが引き続き観察され、図4.6の①において、担任 の手を洗うようにという指示に対して、C君は、「いつも手を洗うように指示ば かりしてうるさい」と反抗的な態度を示し洗わなかった。
A 条件(Mコ2.2/目、range=2〜3)で、ソーシャルストーリーTMを除去し たが、効果は持続した。