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第3節  主語が特定された随伴性評価文を用いた介 入の自閉症への適応

I.はじめに

 第2節で確認したように、随伴性特定評価文が効果を示すためには、特 定性、場面性、好感度の3側面があることが明らかになった。これら、3側面 の中で場面性については、Reynhout and Carter(2006)(1)の研究から 随伴性と表記することにするが、彼らも言うように重要な要素であることは予 想できる。好感度と特定性について、McL舳gh1ina逮aCarr(2005)(2)の 説を援用すると、評価する人物の好感度によって、その効果が左右される可 能性があり、更には、どのような言葉によって評価されるのか、対象者の嗜好 を留意する必要がある。

 第3節においては、第一に随伴性評価文の有無が自閉症のある対象者 にとってどのような影響を及ぼすのか検討することとした。次に、好感度につい てはその随伴性特定評価文の主語を好感度の高い人物から、そうではない 人物に変更することによってその影響を検討することとした。

皿.方法

1.対象者

 対象は、特別支援学校中学部3年生のD君(研究1)とE君(研究1,2 であった二D君とE.君はどちらも精神科医によって広汎性発達障害の診断を 受けていた。D君は、地域の中学校の通常学級に在籍していたが、学校へ の不適応のため転校した生徒であった。筆者によるSM社会能力検査の結 果によると、D君の社会生活指数(SQ)は65.4であった。また、中学校から の引き継ぎによると、D君の中学校での成績は、中の下程度であり、小学校 高学年程度の漢字仮名交じりの文章を、正しく読み取って答えることができ ることが日常の学習の様子から観察されていた。次に、E君は、地域の小学 校の特別支援学級に在籍し、中学校から特別支援学校に入学した生徒で あった。E君のSQは53.8であった。E君は、小学校中学年程度の漢字仮 名交じりの文章を読み正しく理解できることが日常の学習の様子から観察さ れていた。D君と瓦君は、どちらも、これまでにシーシャルストーリーTMを使った 指導を経験していた。

2.標的行動

 研究1における標的行動は、朝の運動に参加して持久走に従事すること であった。朝の運動は、D君とE君の所属する中学部の朝の活動の1つで、

特別な事情がない限り、朝の会の後実施されていた。朝の運動は、ラジオ体 操とその後に続くおよそ8分間の持久走で構成されていた。この持久走への 従事が研究1の標的行動であった。D君とE君のこれまでの持久走の参加 の様子によって標的行動の操作的な定義は若干の変更がなされていた。こ れまでD君は、朝の運動において全く走ったことがなく、研究開始年度当初 には、体の不調を訴えて朝の運動に参加しないこともしばしぱであった。そこ でD君は、走ることにつながる歩行姿勢が標的行動とされた。D君は、これま

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で朝の運動に参加した場合、腕をおろしうつむき加減で歩くことが多かった。

そこで、腕を直衝に曲げて前に進む姿勢を標的行動として設定した。この姿 勢は、朝の運動の中で他の生徒や教師の観察から発見された走ることに準 ずる姿勢であった。走るとは、一般には両足が地面から離れる場面がある移 動方法とされる。しかし、朝の運動で参加者がゆっくり走っている場面を観察 すると、必ずしも両足が地面から離れる場面があるわけではなかった。そこで、

複数の観察者に「朝の運動」の一場面を撮影したビデオを見せ、どの生徒・

教師が走っているか尋ね、「走っている」という状況の鑑別を行った。その結 果、「走っている」姿と「走っていない」姿の分岐点は肘を約90度に曲げて前 に進んでいることであることがわかった。そこで、D君の標的行動は、肘をおよ そ90度に曲げて前に進むことと定義した。

 E君は、突然走り出すことはあったが、それは持続せず持久走としては、ふ さわしい走り方ではなかった。そこで、E君はジョギング程度で走ること(0.4歩

/秒以上の速さで足を動かすこと)が標的行動とされ、その持続時間が問題と

された。

 研究2における標的行動は、E君の着席時の姿勢であった。E君の着座 姿勢は、前年度の担任教師と保護者双方が問題としていた。E君の着座姿 勢は「怠けているように見える」と言われることが多く、その姿勢の問題点とし ては、肘を机についていること、机にうつぶせになることが指摘されていた。不 適切な着席姿勢は、次に示す行動1と行動2によって定義された。行動1

は、片方あるいは両方のひじが机についていることとされ、その状態が3秒以 上継続することと定義された。また、行動2は頭が一定の高さよりも下にあるこ とと定義され、その状態が3秒以上継続することであった。頭の高さは、筆者 と今回の研究の目的を知らされていない第3者と筆者が合意した高さが設 定された。着座姿勢の観察場面は、朝の会と給食の時間の2場面が設定さ

れた。

3.好感度の調査

 随伴性文の好感度に関して、D君とE君の人物の嗜好性と、どのような言 葉によって評価されたいのか調査した。人物の嗜好性は、文字カードを使っ た二者択一法で確認された。確認した人物の範囲は、D君においては、クラ スメイトと中学部の教師、さらに日常観察から好感度の高さが推測されてい た母親であり、E君においては、クラスメイトと学部の教師であった。この評価 手続きは、次のように実施された。

 1.文字カードと実際の人物の対応が理解できているか確認するために、

文字カードを音読させ、「今この先生はどこにいますか、指さしか言葉で教え

てください」と質問した。

 2.文字カードを2枚1組で示し、r遊んだり、お話ししたりしたい人は、どち らですか。」と尋ねた。もしも、無答であった場合には、r好きな人は、どちらで すか。」rほめてもらいたい人は、どちらですか。」と質問を追加した。

 3.選ばれなかったカードは、検査者によって下げられ、次の名前カードが 示され、2の質問を再度実施した。

 4由全部のカードが確認できたら、2回目の調査を実施した。2回目は、逆 順で文字カ山ドを示した。

 5.1回目と2回目の結果が同じであった場合には、その人物を好感度の 最も高い人物とした。不一致であった場合には3回目の調査を実施した。

 この評価手続きにおいて、2回同じ人物が選ばれなかった場合と、記述さ れた名前によってカードの選択が行われていないと推測された場合(例えば、

新しいカードを常に選ぶ、特定の位置に置かれたカードを選択するなど)には、

人物への嗜好性がないと判断した。

 次に、言われたい褒め言葉については、インタビューによる聞き取りによっ て確認された。インタビューでは「がんばったりよくできたりしたときに、好きな人

(o○さん)に言ってもらえるとうれしい言葉がありますか。」と尋ねられた。

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 これらのアセスメントの結果、D君にとってもっとも嗜好性の高い人物は、母 親であり、その母親に「かっこいい」と言われるとうれしいと答えた。また、E君に とっては、クラスメイトのCさんがもっとも嗜好性の高い人物であり、そのCさん に「かっこいい」と言われることがうれしいと答えた。

4.ソーシャルストーリーTM

 ソーシャルストーリーTMは、筆者によって作成された。介入に使用されたソ ーシャルストーリーTMはGray(2004)(3)に準拠して作成された。ネガティブと 感じられたり、対象者の現在の様子を否定したりするような表現は、含まれて いないことが、他の教師によって確認されてから使用された。どちらの参加者 に使用されたソーシャルスドーリ』TMも、実験条件の変更により背景の色を変 更し条件の変更が、視覚的に判断できるようにした。

5.データ収集

 研究1では、デジタルカメラの動画機能によって観察場面が動画撮影され、

10秒の部分インターバル記録法によって数値化された。デジタルカメラは、ビ デオカメラと比較してよりコンパクトで、研究の行われた特別支援学校におい て多くの教師が日常的に持ち歩いていた。そのため、対象者が撮影されてい ることを意識しにくい機器であるこ.とから選択された。各インターバルのうち3 秒以上走っていない場面のあるインターバルを未生起、それ以外のインター バルを生起とし、生起したインターバルを百分率で表した。

 研究2では、対象者の着席場面がビデオカメラによって撮影された。この 研究では、撮影時間が比較的長時間であるためと、カメラの設置場所が対 象者に意識されにくい棚の上であったためこの機器が選択された。この研究 においても、研究1同様に10秒の部分インターバル記録法によって数値化 され、不適切な姿勢が百分率で示された。