第 8 章 BCCWJ に見られる「急に」 「突然」の相違
8.3 調査データ
8.4.1 ジャンルごとに現れる「急に」「突然」の出現傾向
8.4.3.1 除外した項目
ここでは、「急に」「突然」と共起する述語の出現傾向について検討する。両副詞と共起 する高頻度語の順位を確認する前に、除外した用例は以下の通りである。
(7)奈月は、小さな口を突き出し、か細い声で答えた。突然、中堂は眉間にシワを寄せ た。落ち着かない様子。「どうかしたの?」「いや…その…急にトイレに…」「なんだ、
ウンコかあ。調子狂うよな、まったく」奈月は短く笑った。(LBc9_00004『タイホ されたし度胸なし』1988)
(8)椎名 うん。名古屋はどこの店もそうなんですか。小野 そうです。有名な店だと、
「うどん錦」「鯱乃家」「若鯱家」ですね。椎名 俺、カレーうどんって、突然、食 べたくなるなあ。一度、そう思っちゃうと、食べたくて食べたくてたまんなくなる
(笑)。東海林 道を歩いていて突然にね。椎名 ふいにね。東海林 ふいものだね
(笑)。(LBq9_00209『太っ腹対談』2002)
(9)大佐が、車を発進させる。「どうなさったんですか、突然。あいにく、昼食はすま せてしまいましたが」尾形が言うと、提督は沈痛な表情で応じた。(LBr9_00221
『燃える蜃気楼』2003)
上記、(7)のように、「急に。」で終わるものや「急に」と共起する述語が「名詞+助動 詞」であるもの、「体言止め」であるものなど、合計58例を除外した3。
一方、「突然」の場合、(8)のように、文が「突然(に)。」で終わるものや「突然」と共 起する述語が「名詞+助動詞」のもの、「体言止め」のもの、共起する述語が省略されてい るものなど合計35例を除外した4。除外したもののうち、(9)のように、「突然」の位置が 強調などにより倒置されているものは、文が「突然(に)。」で終わる用例に入れ、カウン トした。
以上のように、「急に」「突然」と共起する述語の出現傾向を検討する際、共起する述語 が省略されたものや「急に」「突然」で終わるものなどを除外し、用いる。
3「急に」と共起する述語が省略されたものは53例、「急に。」で終わるものは1例、述語が「名詞+助動 詞」であるものは3例、「体言止め」であるものは1例現れた。
4 文が「突然(に)。」で終わるものは8例、述語が「名詞+助動詞」であるものは1例、「体言止め」であ るものが8例、述語が省略されているものは18例現れた。
8.4.3.2 「急に」「突然」と共起する高頻度語
ここでは、「急に」「突然」と共起する述語について検討する。出現頻度の高い順10位ま でまとめたものが下記の表8-3である。
表8-3 「急に」「突然」と共起する高頻度の動詞
急に 突然
順位 動詞 頻度 比率 順位 動詞 頻度 比率
1 なる 627 30.2% 1 する 232 10.7%
2 する 152 7.3% 2 なる 163 7.5%
3 言う 59 2.8% 3 言う 103 4.8%
4 変わる 42 2.0% 4 現れる 78 3.6%
5 思い出す 30 1.4% 5 思い出す 33 1.5%
6 変える 28 1.4% 6 上げる 32 1.5%
7 感じる 26 1.3% 7 立ち上がる 30 1.4%
8 覚える 20 1.0% 8 聞こえる 25 1.2%
9 立ち上がる 19 0.9% 8 叫ぶ 25 1.2%
10 出る 17 0.8% 8 出る 25 1.2%
表8-3から、出現頻度の高い述語を見ると、「急に」は「なる」(1位)、「する」(2位)
であり、「突然」は「する」(1位)、「なる」(2位)である。「急に」に「なる」の出現 が多いことから、状態の変化を表す事態が多く、「突然」に「する」の出現が多いことか ら、動作を表す動詞が多いと言えそうである。しかし、「急に」は「なる」の次に「する」
が多く、また、「突然」は「する」の次に「なる」が多く出現することから、「急に」は 状態の変化を表す動詞との共起が多く、「突然」は動作を表す動詞との共起が多いと断言 しにくい。両副詞が「する」「なる」と共起しやすいと言えるとしても、その形式と意味は 異なる可能性がある。そのため、「する」「なる」については、形式の面からの検討が必要 であろう。
趙(2012a)は、『毎日』95年から97年をデータとして、ランダムで1000例ずつ抽出し、
両副詞と共起する述語と、述語のうちの「する」「なる」を検討し、形式的な面の相違を明 らかにしている。「する」「なる」において、「する」「なる」に前接する語を検討し、「急 に」と共起する「する」について、「する」に前接する語がある場合、「導入する」などの サ変動詞、「めまいがする」などの感覚を表すもの、「ドキッとする」などの副詞、「荒くす る」などの形容詞が現れるとしている。また、前接する語がない場合は、「急にする」形で 現れるとしている。一方、「突然」と共起する「する」について、「する」に前接する語は サ変動詞、感覚を表す表現、意志表現、「一人にされる」などの名詞が現れると述べている。
また、「なる」について、「なる」に前接する語は「明るくなる」などのような形容詞、「不 安になる」などの形容動詞、「日本人になる」などの名詞、決定を表す表現「~ことになる」、 状態の変化を表す「~ようになる」、命令の表現が見られるとしている。また、「なる」に 前接する語がない場合、「急になる」形で現れるとしている。さらに、「する」「なる」の形 式上注目すべき点は、「急にする」「急になる」であり、「突然」には見られない表現であり、
「急になる」は、空間的な変化を表し、「急にする」は急いでいる動きを表していると述べ ている。
このように、趙(2012a)は、「する」「なる」について形式的な面から検討し、「急にす る」「急になる」以外に両副詞に大きな差がないことを明らかにし、「する」「なる」の意味 上の検討から、「急に」「突然」は、状態の変化を表す事態が共通的に多く現れ、「急に」は 感情的な変化、「突然」は地位・場所・動きの変化など外面的な変化に多く現れる傾向が見 られたことを指摘している。
表8-3に見られるように、「急に」のみ現れる共起する動詞は「変わる」「変える」「感じ る」「覚える」であり、一方、「突然」のみ現れる共起する動詞は「現れる」「上げる」「聞 こえる」「叫ぶ」である。しかし、両副詞それぞれのみに現れる動詞においても、互いに10 位以降に現れることが確認できた。例えば、「変わる」は「急に」に42例(4位)現れ、
「突然」に18例(20位)現れている。また、「現れる」は「突然」に78例(4位)現れ、
「急に」に11例(22位)現れている。
ところで、「急に」「突然」と共起する高頻度の述語のうち5位以内に共通している語 は、「なる」「する」「言う」「思い出す」であり、これらの出現比率を合わせると、「急に」
が41.7%、「突然」が24.5%である。両副詞と共通する共通の述語の出現比率から、「急
に」の方が少ない語彙が高頻度で用いられていることが分かる。
次節からは「急に」「突然」と共起する述語について、中頻度語のうち「独自の語」を用 い、その意味分布から両副詞の違いについて検討していく。
8.5 「独自の語」からの「急に」「突然」の相違
本節では、「急に」「突然」と共起する述語について、それぞれの「(使用)範囲・度数 分布表」から、中頻度語のうち「独自の語」を中心に検討していく。
まず、次の表8-4と表8-5は、「急に」「突然」の「(使用)範囲・度数分布表」を示し たものである。
表8-4 「急に」の「(使用)範囲・度数分布表」
表8-5 「突然」の「(使用)範囲・度数分布表」
表8-4と表8-5から、「高頻度」「中頻度」「低頻度」の見出し語の比率は「急に」が6.7%、
36.3%、57.0%であり、「突然」が10.7%、36.9%、52.4%である。ここで、「中頻度」の 見出し語は両副詞とも約37%の比率で数値的に近い数値である。「中頻度」の見出し語の うち固有動詞である「独自の語」は「急に」が58語、「突然」が75語である。この「独 自の語」について、『分類語彙表』を用いて意味分類をし、まとめたものが次の表8-6であ る。
頻度層 度数 累積比率 共通動詞 固有動詞 共通動詞 固有動詞 合計 比率
627~16 0%~50.7% 12
15~9 ~61.1% 18 1 8~5 ~69.2% 26 1 4~3 ~79.2% 40 19 2 ~87.4% 45 38
低頻度 1 ~100.0% 88 177 88 177 265 57.0%
合計 2074 229 236 229 236 465 100.0%
延べ語数 『文学』範囲(補正前) 『文学』範囲(補正後) 異なり語数
高頻度 30 1 31 6.7%
中頻度 111 58 169 36.3%
頻度層 度数 累積比率 共通動詞 固有動詞 共通動詞 固有動詞 合計 比率
232~12 0%~49.8% 30
11~8 ~59.9% 23 1 7~5 ~70.3% 36 4 4~3 ~80.3% 36 28 2 ~87.8% 38 43
低頻度 1 ~100.0% 66 199 66 199 265 52.6%
合計 2162 229 275 229 275 504 100.0%
延べ語数 『文学』範囲(補正前) 『文学』範囲(補正後) 異なり語数
高頻度 53 1 54 10.7%
中頻度 110 75 185 36.7%
表8-6 「急に」「突然」の「独自の語」の意味分布
意味分布 急に 突然
部門 中項目 頻度 比率 頻度 比率
抽象的関係
2.11×× 類 1 0.5%
2.12×× 存在 9 6.0% 21 10.4%
2.13×× 様相 5 3.3% 7 3.5%
2.15×× 作用 41 27.2% 77 38.1%
2.16×× 時間 2 1.3%
2.17×× 空間 2 1.3% 6 3.0%
小計 59 39.1% 112 55.4%
人間活動―
精神及び行為
2.30×× 心 30 19.9% 15 7.4%
2.31×× 言語 8 5.3% 15 7.4%
2.33×× 生活 3 2.0% 14 6.9%
2.34×× 行為 3 2.0%
2.35×× 交わり 9 4.5%
2.36×× 待遇 2 1.3%
2.37×× 経済 9 4.5%
2.38×× 事業 1 0.7% 3 1.5%
小計 47 31.1% 65 32.2%
自然物及び 自然現象
2.50×× 自然 24 15.9% 13 6.4%
2.51×× 物質 12 7.9% 8 4.0%
2.57×× 生命 9 6.0% 4 2.0%
小計 45 29.8% 25 12.4%
総計 151 100.0% 202 100.0%
表8-6から、両副詞の「独自の語」の出現比率を「抽象的関係」「人間活動」「自然現象」
部門別に比較すると、「急に」の「独自の語」は「自然現象」部門に多く現れ、「突然」
の「独自の語」は「抽象的関係」「人間活動」部門に多く現れる。しかしながら、「人間活 動」部門における出現比率は「急に」が31.1%、「突然」が32.2%であり、数値的に大き な差があると言いにくい。
また、これらの差が有意な差であるかカイ二乗検定を行ったところ(χ2=18.5844 、 p<0.05)、有意性が認められた。
では、各部門における両副詞の「独自の語」はどのような特徴があるのか検討していく。
まず、「抽象的関係」部門において、「急に」「突然」の「独自の語」は、中項目「存在」
「様相」「作用」「空間」に共通して現れ、「急に」は中項目「時間」のみ、「突然」は中項 目「類」のみ現れる。中項目に現れる分類項目については、以下の通りである。
「急に」の「独自の語」は、中項目「存在」には分類項目「出没」「発生・復活」「消滅」
「除去」が現れ、中項目「様相」には分類項目「弛緩・粗密・繁簡」が現れた。また、中 項目「作用」には分類項目「作用・変化」「移動・発着」「走り・飛び・流れなど」「出・出 し」「入り・入れ」「上がり・下がり」「接近・接触・隔離」「成形・変形」「切断」「増減・
補充」「伸縮」「進歩・衰退」が現れた。さらに、中項目「時間」には分類項目「年配」が 現れ、中項目「空間」には「方向・方角」が現れた。
一方、「突然」の「独自の語」は、中項目「類」には分類項目「連絡・所属」が現れ、中 項目「存在」には分類項目「出没」「発生・復活」「消滅」「除去」が現れ、中項目「様相」
には分類項目「調和・混乱」「調節」が現れた。また、中項目「作用」には「作用・変化」
「開始」「終了・中止・停止」「動揺・回転」「移動・発着」「走り・流れなど」「往復」「出・
出し」「包み・覆いなど」「上がり・下がり」「乗り降り・浮き沈み」「分割・分裂・分散」「開 閉・封」「接近・接触・隔離」「突き・押し・引き・すれなど」「防止・妨害・回避」「成形・
変形」が現れた。さらに、中項目「空間」には分類項目「空間・場所」「方向・方角」が現 れた。この分類項目の現れ方から、両副詞の「独自の語」は共通する意味分布が多いこと が窺えるが、以下、実例を用いて、相違点について検討する。
(10)わたしもやっぱり女なんだわ、とシャーロットはつくづく感じた。バネッサの顔 はこわばって怒りの色が広がり、美しさが失われ、急に老けてみえた。(PB29_00321
『たそがれの林檎園』2002)
(11)五回、十回、二十回と呼出音は虚しく響き続けた。何をやっているんだお前は。
自分に言いきかせ、受話器を置こうとした瞬間、電話は突然繋がった。(LBh9_00071
『どこにもない短編集』1993)
(12)最後のトンネルを出るとき、私は伊根子の手が一瞬空中に軽く浮んだのを見たよ うに思った。それは急に、伸ばしている手を引っ込める、そんな恰好の手の動きで あった。(LBh9_00060『椎の木のほとり』1993)
(13)「悪いが、やめてくれないか」業を煮やして守渡は言った。「お気に召しません か」と、井澤。「ああ、葬式みたいだからな。遠い話じゃないけど」「すみません」
オラショが止むと、いやに静かになった。「おっと」井澤が急にハンドルを切った。
ふる、と車体が揺れる。(LBs9_00147『呪文字』2004)
(14)中沢将監は堀千助の言葉を得て安心したのか、堅くしていた顔をにわかにほころ ばせ、林蔵をうながした。二人の話を耳にして、一座の雰囲気が急になごやかにゆ るんだ。(LBp9_00201『火宅の坂』2001)