第 4 章 BCCWJ に見られる「やっと」 「ようやく」の相違…
4.3 調査データ
4.4.1 ジャンルごとに現れる「やっと」「ようやく」の出現傾向
4.4.3.1 除外した項目
ここでは、「やっと」「ようやく」と共起する述語を検討し、高頻度語の出現傾向につい て述べる。次の表4-3を作成する際、(「やっと」1845例、「ようやく」2347例から)除外 したものは、以下の通りである。
(6)ついに万年浪人で終わったキリコはむろん、 やっとの思いで三流大学にはいり、
いまは三流新聞社につとめている克郎だって、(どこかおかしい)首をかしげないわ けにゆかない。(LBd9_00150『東海道36殺人事件』1989)
(7)海千山千の彼らは相手の弱味を敏感に嗅ぎわける鼻をもっているのだ。汗だくにな ってようやくの思いで記者会見場から逃れたリプトンは、報道官なんか辞めてグラ ンド・ラピッズへ帰ろうと決心した。(OB3X_00078『ネゴシエイター』1989)
(8)信子の部屋が出来て、狭く外にはみ出した恰好になった書斎は、洋之介の大きめの 座蒲団をおくのがようやくであった。(OB1X_00294『蕁麻の家』1976)
「やっと」は、上記の(6)のように、「やっとの+名詞で~」が199例、「やっとという」
が13例である。また、「やっと」と共起する述語が「名詞+助動詞」のものが20例、「や っと。」が9例、「やっと+助動詞」が69例、「体言止め」が6例、さらに、「やっと」と共 起する述語が省略されたものが8例、計324例を除き、1521例を対象にする。
一方、「ようやく」は、(7)のように、「ようやくの+名詞で~」が 22 例、「ようやくに して」が10例、(8)のように、「ようやく+助動詞」で終わるものが 2例、「ようやく。」 で終わるものが4例、「ようやくと」が 2例である。また、「ようやく」と共起する述語が
「名詞+助動詞」が11例、述語が省略されたものが7例、「体言止め」が4例、計62を除 いた2285例を対象にする。
ところで、金(2006:p.33)は、構文的に「~するのがやっとだ」のように、「やっと」
は述語になるが、「ようやく」はその用法がないと述べている。江(2009a)も、「『やっと』
の持っている『ぎりぎりなんとかできる』という意味合いは、『ようやく』にもあり、可能 を表す表現と共起するだけでなく、文脈などから察することもできるが、『~ようやく』の ように『ようやく』自体を文末に置くことはできない(p.94)」と指摘している。
しかし、『文学』には、上記の(8)のように、「~(するのが)ようやくだ。」という用 例が抽出され、先行研究での指摘と異なる用例が現れた。「ようやく+助動詞」は検討対象
外であるため、これ以上触れないが、先行研究の結果で「~ようやく+助動詞」が文末に 現われなかったのは、バランスがとれていないコーパスを用いたためではないかと思われ る。
4.4.3.2 「やっと」「ようやく」と共起する高頻度語
ここでは、「やっと」「ようやく」と共起する述語について述べる。両副詞と共起する述 語を出現順位10位までまとめたものが、下記の表4-3である。
表4-3 「やっと」「ようやく」と共起する高頻度の動詞
やっと ようやく
順位 動詞 頻度 比率 順位 動詞 頻度 比率
1 する 155 10.2% 1 する 271 11.9%
2 なる 103 6.8% 2 なる 156 6.8%
3 分かる 80 5.3% 3 できる 95 4.2%
4 できる 66 4.3% 4 開く 69 3.0%
5 出る 51 3.4% 5 分かる 68 3.0%
6 見つける 41 2.7% 6 気づく 63 2.8%
7 気づく 39 2.6% 7 付く 50 2.2%
8 付く 35 2.3% 7 出る 50 2.2%
9 来る 30 2.0% 9 言う 39 1.7%
10 開く 29 1.9% 10 たどりつく 37 1.6%
表 4-3から、出現頻度の高い動詞は「やっと」「ようやく」共に「する」(1位)、「なる」
(2 位)であり、共通している語は「分かる」「できる」「出る」「付く」「開く」「気づく」
の順である。「する」以外、状態の変化を表すものが多く、共起する高頻度の動詞は非常に 似ていることが分かる。
両副詞と共起する共通の述語「する」「なる」「分かる」「できる」を合わせると、「やっ と」は26.6%、「ようやく」が25.9%であり、約2割強で両副詞に現れた。このことから両 副詞と共起する共通の高頻度語に大きな差はないことが分かる。
また、出現頻度の高い順10位に入らないため、表4-3に示されていない動詞でも互いに 共通しているものがある。例えば、「やっと」において 6 位の「見つける」は「ようやく」
では13位であり、「やっと」において9位の「来る」は「ようやく」で18位である。同様 に、「ようやく」において9位の「言う」は「やっと」で12位であり、「ようやく」におい て10位の「たどりつく」は「やっと」で13位である8。
8 「ようやく」において、「見つける」の出現頻度は25例、「来る」は22例現れ、「やっと」において、「言
このように、「やっと」「ようやく」は共起する高頻度の動詞は共通するものが多い。し かしながら、両副詞と共起する共通の動詞はその現れ方も共通であるのか疑問である。
先行研究で両副詞と共起する述語について述べているものには、ルチラ(2005a)と江
(2009a)がある。ルチラ(2005a)は、「やっと」について、「期待されている出来事の実 現を表す用法」は、意志動詞・非意志動詞の観点で共起する述語の使用率を検討している が、「かろうじて実現する用法」は、検討外になっている9。前者において、意志動詞は約4 割、非意志動詞は約6割の使用率で現れたとしているが、「ようやく」については、同様の 観点で検討していないため、「やっと」との相違が分かりにくい。
江(2009a)は、「やっと」「ようやく」の文末の述語について、(内的)情態動詞と共起 すると許容度が下がるが、時間的に限界づけられると、許容度が上がり、動詞自体が「限 界性」を持つ必要があると指摘しているが、語の持つ意味に留まっているため、述語につ ながる補語により、意味が変わることにまでは検討されていない。
そこで、両副詞に共通に現れる高頻度語のうち「出る」を取り上げ、その意味合いを確 認してみる。
(9)わははと、近藤らしい笑いがやっと出た。(PB49_00081『紅の肖像』2004)
(10)二千四年三月は、例年叫ばれていた金融システムの不安を誘発する「三月危機」
への心配は、内外から起こらなかった。その大きな要因は、大企業を中心としてよ うやくリストラ効果が出始め、それが業績面で実際の数値として反映してきたこと と株式市場の活況株高にあった。(LBt9_00098『銀行人事部崩壊』1978)
両副詞と「出る」との共起において、両副詞と共に「(ある場所に人が)出る、(声・言 葉が)出る、(人が)出る、(電話に)出る、(許可が)出る」などが共通して現れ、「やっ う」は24例現れ、「たどりつく」は22例現れた。
9 ルチラ(2005a)は、一人称主体を持つ文の場合、「やっと」に対する述語動詞の種類に共起制限が見ら れるとし、期待されていた出来事の実現を表す用法を述語動詞の種類別にすると以下のようになると述べ ている。
表1 「やっと」と共起する述語のタイプとその使用率
述語の種類 数(割合)
非意志性自動詞 144(50.88%)
可能動詞 33(11.66%)
意志動詞
他動詞 67(23.68%)
自動詞 39(13.78%)
合計 106(37.46%)
(ルチラ(2005a:p.14)表2を引用)
また、ルチラは「やっと」について、期待されている出来事の実現を表す用法とかろうじて実 現する用法に分けているが、「やっと」と共起する述語の検討においては、前者の用法のみを対象 にしているため、「やっと」と共起する述語の全貌が分かりにくく、その述語の検討結果である表 1 の述語の種類の分け方にもやや疑問をあるが、この点については、本論文ではこれ以上触れな い。
と」には(9)のように、「(笑いが)出る」、「ようやく」には(10)のように、「(効果が)
出る」「(反応が)出る」という表現がそれぞれ現れたのみであり、両副詞と共起する「出 る」は意味上大きな違いは見られなかった。
このように、先行研究を含め、本章のBCCWJの『文学』における「やっと」「ようやく」
と共起する高頻度の述語(主に動詞である)の出現傾向から、両副詞の相違はあまり見ら れなかった。
以上、「やっと」「ようやく」と共起する高頻度の述語からはあまり顕著な違いが見られ ないため、より詳細な検討が必要であろう。
そこで、次節からは両副詞と共起する述語のうち中頻度語を中心に検討していく。
4.5 「独自の語」からの「やっと」「ようやく」の相違
本節では、伊藤(2008、2009)の「使用度数の算出法」を用い、中頻度語のうち「やっ と」と「ようやく」それぞれに現れる「固有動詞」から「独自の語」を抽出し、『分類語彙 表』を用いて意味分類をし、その意味分布から類義関係にある「やっと」「ようやく」の違 いを検討する。
「やっと」「ようやく」それぞれの「(使用)範囲・度数分布」をまとめたものが次の表 4-4と表4-5である。
表4-4 「やっと」の「(使用)範囲・度数分布表」
表4-5 「ようやく」の「(使用)範囲・度数分布表」
表4-4と表4-5の読み方は、「共通動詞」は「やっと」「ようやく」共に現れる共通の動詞 であり、「固有動詞」はそれぞれの副詞のみ現れる動詞である。つまり、表4-4の「固有動 詞」は「やっと」のみに現れる動詞のことであり、表4-5の「固有動詞」は「ようやく」の みに現れる動詞のことである(以降、全ての「(使用)範囲・度数分布表」は、同様の方法 でそれぞれの検討対象の副詞に当てはめて読む)。
伊藤(2008)は、「どのような語彙表も『高頻度の見出し語は少なく、低頻度の見出し語 は多い』という規則性をもっている。(中略)頻度1の見出し語は語彙量の50%前後を占め るのが普通である(pp.120-121)」と述べている。表4-4と表4-5に見られるように、「やっ と」は54.6%、「ようやく」は56.1%であり、伊藤(2008)の記述に符合する結果が見られ た。
頻度層 度数 累積比率 共通動詞 固有動詞 共通動詞 固有動詞 合計 比率
154~16 0%~50.0% 16
15~8 ~59.3% 13
7~5 ~68.4% 21 2 4~3 ~78.8% 45 2 2 ~87.2% 57 6
低頻度 1 ~100.0% 82 113 82 113 195 54.6%
合計 1521 234 123 234 123 357 100.0%
中頻度 123 10 133 37.3%
延べ語数 『文学』範囲(補正前) 『文学』範囲(補正後) 異なり語数
高頻度 29 29 8.1%
頻度層 度数 累積比率 共通動詞 固有動詞 共通動詞 固有動詞 合計 比率
270~18 0%~50.4% 20 1
17~9 ~60.1% 17 2 8~6 ~68.0% 26 1 5~3 ~81.7% 61 20 2 ~87.8% 31 39
低頻度 1 ~100.0% 79 200 79 200 279 56.1%
合計 2285 234 263 234 263 497 100.0%
延べ語数 『文学』範囲(補正前) 『文学』範囲(補正後) 異なり語数
中頻度 118 60 178 35.8%
高頻度 37 3 40 8.0%