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本論文のまとめ

ドキュメント内 博士学位論文 (ページ 172-182)

第 9 章 新聞データに見られる「急に」 「突然」の相違と、

10.1 本論文のまとめ

10

章 結章

本章では、第4章から第9章までの研究結果をまとめ、注目したい結果、類義語の研究 への応用、今後の課題について述べる。

くなっている。これは新聞の特質と「ようやく」が改まった文に多く現れる文体の差によ る結果だと思われる。

さらに、『毎日』『文学』における両副詞の出現頻度は「やっと」より「ようやく」の方 が多く現れたものの、有意な差は認められなかった。

次に、両副詞と共起する高頻度語の出現傾向について述べる。『毎日』『文学』において、

高頻度語に「する」「なる」「できる」「分かる」が共通して現れた。これらの述語の出現比 率を合わせると、『毎日』では「やっと」が31.6%、「ようやく」が33.4%であり、『文学』

では「やっと」が26.6%、「ようやく」が22.9%であり、ジャンルにより出現比率の合計は やや異なっているものの、両副詞の出現傾向は似ていることが明らかになった。この結果 により、特定の少ない語彙が高い頻度で用いられているのは『文学』より『毎日』の方で 顕著であることが分かった。

また、両副詞と共起する高頻度語から、「やっと」は事態の成立を強調する最終段階を表 す「結局」「~の末に」という表現と共起しやすいことが明らかになった。

さらに、益岡・田窪(1992)は、「やっと」「ようやく」を「アスペクトの副詞」と称し た。これらはアスペクト形式との共起が多いと予想されたが、「独自の語」の現れる文から、

「やっと」と(有標の)アスペクト形式との共起は見られず、「ようやく」だけが「~し始 める」という(有標の)アスペクト形式との共起が確認できた。したがって、「やっと」よ り「ようやく」の方が事態の成立において、時間的局面のうち開始を表す表現と共起する 傾向があると言える。

なお、両副詞の「独自の語」のそれぞれについて、『語彙分類表』を用いて意味分布を調 べたところ、副詞ごとによく現れる部門があることが明らかになった。「やっと」は「人間 活動」部門により多く現れ、「ようやく」は「抽象的関係」「自然現象」部門に多く現れた。

この傾向はジャンルによる違いは見られず、『毎日』『文学』の両ジャンルに同様な傾向が 見られた。「独自の語」の意味分布について、以下でジャンルごとに述べる。

「抽象的関係」部門において、「やっと」の「独自の語」が両ジャンルに共通して現れる 特徴は、連続する事態が成立し、その進行過程の意味が含まれているということであった。

『文学』では事態の成立までの大変さと厳しさが感じられるものが現れた。また、人の移 動や感情、感覚が外側に広がる様子が窺えるものが現れ、空間的に遠くなっていくことを 表わしているものが多かった1

一方、「ようやく」の「独自の語」は『毎日』『文学』共に、事態が遠い所から近い所や 一つの場所に集まってくる表現があった2

「抽象的関係」部門において、「やっと」「ようやく」は人の感情を空間的に捉えて述べ ている点では共通しているがその方向性、捉え方に違いがあることが明らかになった。

1 例えば、(第44.5)(14)「やっと、全身に安堵が広がった」などがある。

2 例えば、(第44.5)(18)「ようやく、実感となって迫ってきた」などがある。

次に、「人間活動」部門において、「やっと」の「独自の語」は、『毎日』では人の感情や 思考、人の行為による成果を表しており、『文学』では主体が意志を持ち制御できない人の 状態の変化、人の行為により相手の状態に影響を及ぼすものが現れた3。『文学』では主体の 行為にとどまらず、相手にまでその行為の影響を与える表現が現れた点で『毎日』におけ る人の行為とやや異なっている。

一方、「ようやく」の「独自の語」は、『毎日』では人の感情・思考・人の行為による状 況の変化を表すものが現れ、『文学』では主体が意志を持ち制御できる人の感情や思考を表 し、人の発話行為により相手に影響を及ぼすことを表わしている4

「やっと」は非言語行為で相手に影響を与えるが、「ようやく」は言語行為で相手に影響 を与える点で異なり、両副詞はジャンルごとに異なる傾向であることも明らかになった。

また、「自然現象」部門において、「やっと」の「独自の語」は、『文学』では可視的な人 の状態の変化であるが、『毎日』ではこのような例は現れなかった。ジャンルによる違いは あるが、「抽象的関係」部門と似ており、事態が空間的に拡張していく用例が多かった。

一方、「ようやく」の「独自の語」は「自然現象」部門において、『毎日』では人や物事 の状態の変化を表し、『文学』では自然現象と人の感覚を表しているものが現れた。「よう やく」の「自然現象」においてはジャンルごとに「独自の語」の意味分布が異なっている ことが明らかになった。

10.1.2 「ついに」「とうとう」について

第6章と第7章では、「ついに」「とうとう」の相違について、上記の「やっと」「ようや く」と同様の項目について検討を行い、第6章ではBCCWJ内の『文学』を用い、第7章 の前半では『毎日』を用い、その結果を述べた。第7章の後半では、『毎日』『文学』とい う異なるジャンルによる相違を述べた。第6章と第7章で明らかになったことは、以下の 通りである。

まず、BCCWJにおけるさまざまなジャンルでの出現傾向から、「ついに」が書き言葉的 な文章に多く現れ、「とうとう」が話し言葉的な文章に多く現れることが明らかになった。

また、『毎日』『文学』の両ジャンルにおいて、「地の文」と「会話文」に現れる両副詞の 出現(有意差が認められた)から、「ついに」より「とうとう」の方が「会話文」に多く現 れることが分かった。

さらに、『毎日』『文学』の両ジャンルにおいて両副詞の出現頻度は「ついに」が多く現 れた(両副詞の出現頻度に有意な差が認められた)。

次に、両副詞と共起する高頻度語の出現傾向について、『毎日』『文学』では両副詞と共 起する高頻度語は上位5語がジャンルごとに共通していることが分かった。それぞれのジ ャンルでは、「する」「なる」「来る」「できる」の順で共通しており、その後、『毎日』では

3 例えば、(第44.5)(27)「やっと、捕まった」、(28)「やっと助かった」などがある。

4 例えば、(第44.5)(29)「ようやく命じた」などがある。

「言う」(5位)、『文学』では「出る」(5位)であった。『毎日』『文学』において、4位ま での述語の出現比率を合計すると、『毎日』で「ついに」が38.0%、「とうとう」が46.7%

であり、『文学』で「ついに」が38.4%、「とうとう」が35.1%であった。『毎日』における

「とうとう」は4位までの述語の出現比率の合計が5割弱であり、その他は4割強である。

この結果と先行研究における結果を比較してみると、両ジャンルにおいて、両副詞は少な い語彙が高い頻度で用いられていることが分かり、「ついに」「とうとう」は類義の度合い が高い類義語であると思われる5

また、両副詞の「独自の語」の意味分布の検討により、「ついに」は「抽象的関係」「自 然現象」部門に多く現れ、「とうとう」は「人間活動」部門に多く現れることが分かった。

これらの出現傾向は、『毎日』『文学』という異なるジャンルにおいても類似していること が明らかになった。また、両副詞の「独自の語」の意味分布で明らかになったことは以下 の通りである。

まず、「抽象的関係」部門において、「ついに」の「独自の語」は、『毎日』では人や物事 の状態の変化を表しているが、特にあるレベル・基準に達したこと、達していないことな ど、想定している基準からの変化を表している。『文学』ではある状況の変化、人や物事の 実質的・抽象的な移動を表している。また、人の身体的な動きで感情の変化を表している ものなども現れた6

一方、「とうとう」の「独自の語」は、『毎日』では人の実質的な移動を表し7、『文学』で は主体の具体的・抽象的な行動などの働きかけにより、客体の状態がマイナス方向に変化 することを表している8

このように、「抽象的関係」部門において、「ついに」「とうとう」はジャンルにより「独 自の語」の意味分布に違いがあることが明らかになった。

次に、「人間活動」部門において、「ついに」の「独自の語」は、『毎日』では人の言語行 為・感情の変化、身体の動きで感情を表し、また、状況の変化を表している。『文学』では 人の感情や相手の質問に応じる言語行為を表している9。人の移動で存在場所の変化を表す 点は「抽象的関係」部門と似ていることが明らかになった。

一方、「とうとう」の「独自の語」は、『毎日』では言語行為を表し、人の体の動きで思 考・意志を表す例が見られた。『文学』では人の感情、思考を表し、主体的な言語行為を行 い、相手に影響を及ぼすものが現れた10。また、人の状況の変化を表している例も見られた

5 「ついに」「とうとう」が(第66.4.3.2)(16)「~人魂売りが塔の中に入って、とうとうついに出て こなかった」のように、共に現れるものが見られた。連続して現れるということは類義の度合いが高いた めに可能な現れ方ではないかと思われる。

6 例えば、(第66.5)(24)「ついに肩を落とした」などがある。

7 例えば、(第77.5)(26)「とうとう海に着きました」などがある。

8 例えば、(第66.5)(27)「とうとう全員鬼の形をとどめぬほどつぶされてしまった」などがある。

9 例えば、(第66.5)(31)「僕はついに応じなかった」などがある。

10 例えば、(第66.5)(35)「とうとう呼び出した」などがある。

ドキュメント内 博士学位論文 (ページ 172-182)