第 7 章 新聞データに見られる「ついに」「とうとう」の相違と、
7.3 調査データ
7.7.3 ジャンルによる「ついに」「とうとう」の「独自の語」の相違….….121
7.7.3.1 ジャンルによる「独自の語」の出現傾向
ここでは、『毎日』と『文学』における「ついに」「とうとう」の「独自の語」の出現傾 向について比較する。
まず、『毎日』と『文学』において、「ついに」「とうとう」の「(使用)範囲・度数分布表」
での各頻度層の見出し語の出現比率を見てみる。
12 森田(1989)は、第2章2.3.1表2-2をご参照いただきたい。
表7-10 「(使用)範囲・度数分布表」の見出し語の出現比率13 副詞 高頻度 中頻度 低頻度 合計
『毎日』 ついに 8.7% 35.5% 55.8% 100.0%
とうとう 8.4% 16.8% 74.8% 100.0%
『文学』 ついに 10.2% 26.4% 63.4% 100.0%
とうとう 15.6% 13.2% 71.2% 100.0%
表7-10から注目したい点は、「とうとう」は異なるジャンルである『毎日』と『文学』
において、その「低頻度」の見出し語の出現比率が74.8%と71.2%で非常に高いことであ る。伊藤(2008)は「低頻度」について「低頻1の見出し語は語彙量の50%前後を占める のが普通である」と述べていることと異なる数値である。また、他の類義関係にある副詞 と比べても高い比率であることが分かる14。
以上のことから、「とうとう」は多様な頻度1語と共起していおり、この点において、ジ ャンルによる相違はないことが分かる。
次に、ジャンルごとに現れる「独自の語」について、『分類語彙表』での「部門」別に分 けて集計したものが表7-11と表7-12である。
表7-11 「ついに」の「独自の語」の出現頻度
『分類語彙表』における部門
ジャンル 抽象的関係 人間活動 自然現象 合計
『毎日』 168 123 11 302
『文学』 83 57 4 144 合計 251 180 15 446
表7-12 「とうとう」の「独自の語」の出現頻度
『分類語彙表』における部門
ジャンル 抽象的関係 人間活動 自然現象 合計
『毎日』 2 4 0 6
『文学』 2 12 0 14
合計 4 16 0 20
13 表7-10の作成について、『毎日』は第7章7.5の表7-4と表7-5、『文学』は第6章6.5の表6-4と表6-5 からである。
14 第5章5.7.3.1において、「やっと」と「ようやく」の低頻度の見出し語の出現比率は、『毎日』では61.7%
と59.5%であり、『文学』では54.6%と56.1%である。低頻度の見出し語の出現比率については、第10章 でまとめてみる。
表7-11の『毎日』と『文学』における「ついに」の「独自の語」の出現頻度について、
カイ二乗検定を用いて検定したところ、(χ2=0.3183、p =0.8528 p>0.05)、有意差は認め られなかった。同様に表 7-12 の「とうとう」の『毎日』と『文学』における「独自の語」
の各部門に現れる分布について、カイ二乗検定を用いて検定したところ、有意差は認めら れなかった。
また、『毎日』と『文学』における「ついに」「とうとう」の「独自の語」の意味分布に ついて、『分類語彙表』の「部門」の出現比率のみをまとめると、次の表 7-13 のようにな る。
表7-13 ジャンル別の「独自の語」の出現比率
ジャンル 副詞 抽象的関係 人間活動 自然現象 合計
『毎日』 ついに 55.6% 40.7% 3.6% 100.0%
とうとう 33.3% 66.7% 0.0% 100.0%
『文学』 ついに 57.6% 39.6% 2.8% 100.0%
とうとう 14.3% 85.7% 0.0% 100.0%
表7-13は、ジャンル別に両副詞の「独自の語」について『分類語彙表』を用いて意味分 類し、「抽象的関係」「人間活動」「自然現象」部門に分け、出現比率のみを示したものであ る。さらに、以下の表7-14は、表7-13の「ついに」「とうとう」のジャンル別における出 現比率を比較し、出現比率の高い部門に「○」を付けたものである。
表7-14 ジャンル別の「独自の語」の出現傾向
ジャンル 副詞 抽象的関係 人間活動 自然現象
『毎日』 ついに ○ ○
とうとう ○
『文学』 ついに ○ ○
とうとう ○
(「○」記号は、「ついに」と「とうとう」のうち、分布が多い方である。)
出現比率の高い部門に「○」を付けた結果、両副詞は『毎日』『文学』というジャンルに おいて、その出現傾向は類似しており、「抽象的関係」「自然現象」部門には「ついに」が 多く現れ、「人間活動」部門には「とうとう」が多く現れることが明らかになった。
表7-14と、第5章の「やっと」「ようやく」の「独自の語」の出現傾向である表5-10に おいて、「○」がついた結果から、ある傾向が見られた15。それは、より話し言葉的な文に
15 第5章5.7.3における表5-10をさす。
現れる副詞は、「人間活動」部門により多く現れ、より書き言葉的な文に現れる副詞は、「抽 象的関係」「自然現象」部門に多く現れることである。
7.7.3.2 ジャンルによる「独自の語」の意味分布
ここでは、上記の第 6 節でまとめた『毎日』での「ついに」「とうとう」の「独自の語」
の相違と、第6章6.6でまとめた『文学』での「ついに」「とうとう」の「独自の語」の相 違について述べる。
ジャンルによる大きな相違は見られず、「ついに」の「独自の語」は、幅広い範囲に現れ、
一方、「とうとう」の「独自の語」は、狭い範囲に現れることが分かった。
ジャンルごとにおいて、「ついに」「とうとう」の「独自の語」について、まず、「ついに」
の「独自の語」の特徴を見ると、「抽象的関係」部門において、『毎日』では人や物事の状 態の変化を表している。あるレベルに達したこと、達していないこと、また、ある基準に 近くなったり、ある基準から上がったり、落ちたりすることを表している。これらの基準 は、想定していた基準からの変化であり、抽象的な事態の成立を表している。
一方、『文学』ではある状況の変化、人の移動や抽象的・実質的な物事の存在場所の変化 を表している。また、人の身体的な動きで感情の変化を表しているものが現れた。
また、「人間活動」部門において、『毎日』では人の言語行為を表しているが、「口を割る」
「心のキズを明かす」のように、補語の結合によって言語行為を表している。また、人の 感情の変化や人の行為で感情表現、また、ある状況を表している。
一方、『文学』では人の感情を表すが、「独自の語」と係る補語によって人の感情を表し ている。また、相手の質問に応じる言語行為である。さらに、「ついに」は、「抽象的関係」
部門における特徴と類似し、人の移動を表している。
また、「自然現象」部門において、『毎日』ではある環境や状況の変化、人の状態の変化 を表している。一方、『文学』ではある状況と人の状態の変化を表している。
次に、ジャンルごとに現れる「とうとう」の「独自の語」の特徴を見ると、まず、「抽象 的関係」部門において、『毎日』では人の移動を表し、実際にある場所に着くことで具体的 な空間的な変化を表している。一方、『文学』では主体の抽象的・実質的な行動や働きかけ により、客体の状態がマイナス方向に変化することを表す際に現れた。
また、「人間活動」部門において、『毎日』では「独自の語」が持つ語彙の意味により、
言語行為を表しており、人の動きで思考を表している。
一方、『文学』では「独自の語」が持つ語彙の意味で感情や思考を表している。また、主 体的な言語行為を行い、相手に影響を及ぼすことを表わしている。さらに、人の状況を表 している。
最後に、「とうとう」の「独自の語」は、「自然現象」部門において、両ジャンルに用例 が現れなかった。