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限定用法を用いた「灰色」と名詞群の共起パターン

第四章 「色彩」を含む日本語メタファー表現について

4.1 はじめに

4.5.1 限定用法を用いた「灰色」と名詞群の共起パターン

本節では、「灰色」を含むメタファー表現の限定用法における共起パターンの特徴 を検討するために、得られた 30 種類の名詞群の出現頻度と共起名詞のエントロピー を算出した。表21 の通り、これらの名詞群のエントロピーと出現頻度との間に中程 度の相関が認められた ( r = .689 , p < .01 )。続いて、表21 に示された頻度の対数 変換値とエントロピーの 2 つの変数に基づいてクラスタ分析を行ったところ、図 23 の通りのデンドログラムが得られた。まず25 ポイントを基準として、上部の 18 個 の名詞群 (「統治(無罪)」など、以下クラスタ Ⅱと呼ぶ) が、下部の 12 個の名詞 群 (「位置 (空間)」など、以下クラスタⅠと呼ぶ) 2つのクラスタに分かれた。こ れが最適なクラスタ数であるかについて正準判別分析を行った結果、正判別率は

100% であった。クラスタ分析が見出した限定用法での「灰色」と名詞群の共起パタ

ーンにおける 2つのクラスタは、正確な分類であることが示された。

上記の結果に基づいて、図 24の通りに散布図を描いた。楕円は、クラスタ分析の 結果に基づいて描いたものである。

以下、クラスタ Ⅰ から Ⅱ までの具体例を挙げながら、限定用法での「灰色」を 用いたメタファー表現の使用実態を考察する。

分類Ⅰ

クラスタ Ⅰ には、12 種の名詞群が含まれる。この中では、「サービス的職業」を意 味する名詞「高官」が最も共起頻度が多い名詞であり、「灰色高官」という固定された パターンでより一般的に用いられているものがあった。ここでは、「灰色」の「犯罪な どの容疑が十分には晴れていない」というメタファー的意味が用いられている。一方、

「位置」を意味する名詞群のように、共起パターンが固定されず、より多様な名詞と 共起するものもある。

たとえば以下の (92) の場合、男の子の闇深い精神を「男の子の脳裏」の「奥底」

とたとえ、彼は安らぎを感じることのできない悲劇的な人物であり、「漆黒の蔭」

「不吉な悪夢」のような「恐怖の幻」にずっとさいなまれている。その「寂しく陰 気な状態」「憂鬱な状態」が、「(脳裏)の灰色の奥底」と捉えられる。この分類は、

特定の名詞との結びつきが強く、全体的には限定用法での「灰色」との共起関係の 多様性がやや高いものである。

(92 ) …彼は安らぎとは無縁の悲劇的で無残な人物で、その魂は苦しみにさいな

まれている。漆黒の蔭、不吉な悪夢、すべての幼い男の子の脳裏に、その灰

色の奥底に、永久に棲みつく恐怖の幻。バリーが熟知していたように、すべ ての男の子のなかにフックは存在する。…(ジャッキー・ヴォルシュレガー

(著)/安達 まみ(訳) 『不思議の国をつくる』)

分類Ⅱ

クラスタⅡ には18 種類の名詞群が含まれ、全体的には頻度もエントロピーも極め て低い共起パターンを見せるものである。ほとんどの名詞群と「灰色」との共起頻度 は1回ずつしかない。

(93) …目先の症状で、頭がいっぱいになっていたが、これから先、忍には、片足

を失ったままでの長い人生が、はじまるわけである。沖の人生も、当然、暗 く長い灰色の道となるであろう。…(城山三郎 『毎日が日曜日』)

(93) では、人生を旅にたとえている。「片足を失ったままでの長い人生」だったら、

誰でも最初は悲しい気持ちで心に喜びを持てないはずである。このような辛く悲しく 不安な状態で人生という長い旅をすると、その道のりは希望をもてず憂鬱な状態であ り、「灰色の道」と捉えられる。この分類は、特定の名詞と繰り返し共起する傾向がな く、全体的に非生産的な名詞群であることが示されている。