第 3 章 対象的なむすびつき
3.7 関係のむすびつき
ニ格の名詞が「比べる」「関係する」など二者の関係を表わす動詞とくみあわさると、
〔関係のむすびつき〕ができあがる。二者はどういう関係にあるのか、すなわち動詞の語 彙的な意味によって、〔関係のむすびつき〕はさらに4つのカテゴリーに分かれる。
a)客観的な関係のむすびつき
b)論理的な関係のむすびつき
c)起源のむすびつき
d)内容=構成要素のむすびつき
以下、この順番で説明する。
3.7.1 客観的な関係のむすびつき
〔客観的な関係のむすびつき〕を表わす連語は、自動詞の場合は、「関係する」「かかわ る」など物事の間の客観的な関係を表わす動詞と事や人を表わすニ格の名詞とのくみあわ せであり、主体がニ格の名詞で示されている事や人と客観的な関係をもっていることを表 わす。他動詞の場合は、「繋げる」などのような物事の間の客観的な関係を表わす動詞と事 や人を表わすニ格の名詞と同じく事や人を表わすヲ格の名詞とのくみあわせであり、ヲ格 の名詞で示されている事や人をニ格の名詞で示されている事や人と客観的な関係をもたせ ることを表わす。ニ格の名詞は客観的な関係の対象を示す。「客観的な関係の構造」を以下
110 のように示すことができる。
客観的な関係の構造
【 <事/人>に <客観的な関係>Vi 】
[客観的な関係の対象] [客観的な関係]
・例:一般生活に関係する、1 万円に相当する
【 <事/人>を <事/人>に <論理的な関係>Vt 】 [客観的な関係をもたせる対象] [客観的な関係の対象] [客観的な関係]
・例:事故を政治につなげる
主体と対象との関係のし方から見ると、〔客観的な関係のむすびつき〕を表わす連語には、
動詞「関係する」を代表とする「単にある物事と関係を持つ」ものと、「相当する」を代表 とする「ある物事と関係し、かつそれに等しい」ものがある。客観的な関係を表わす動詞 としては以下のようなものが挙げられる。
かかる、かかわる、絡む、付きまとう、繋がる、繋げる、伴う、まつわる、むすび つく
関係する、関与する、相当する、直結する、通ずる、密着する
(322)平仮名の言葉は、毎日の基本的な、一般生活に密接に関係する基礎語が多く、
その基礎語によって幼児や少年少女の知能や判断力の基本的な枠組みが決定的 に育まれるからです。(『日本語練習帳』)
(323)たった一つの修飾の語による結果だが、日本語が文脈に深くかかわる一つの証 拠といえるだろう。(『日本人の発想、日本語の表現―「私」の立場がことばを 決める―』)
(324)どっちにしても、この家にまつわる忌まわしい過去など知りたくもないので、
わざわざたずねてみたことはない。(『世界の中心で、愛をさけぶ』)
(325)私流の「人生の成功」とは、どれだけ楽しく生きたか、どれだけ楽しく仕事を したかにかかっている。(『いい言葉は、いい人生をつくる』)
(326)それは、カソリックの幼児洗礼に相当する儀式であった。(『少年H』(上巻)) (327)『古事記』や『日本書紀』が書かれた古代の日本人は、虹は蛇に通じて不吉な
ものと感じ、なにか異変の前兆と恐れたが、現代人は「七色の虹」などと言って、
その美しさを愛でる。(『日本人の発想、日本語の表現―「私」の立場がことば を決める―』)
(328)未曽有の悲劇を、国民全体の支え合いを強化する議論につなげたい。 (朝・社)
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これらの例からもわかるように、〔客観的な関係のむすびつき〕を表わす連語が表現して いる関係は抽象的なものであるため、ニ格に立つことができるのは抽象名詞がほとんどで ある。(324)の「この家」は「建物としての家」ではなく、「家の住人、家庭の歴史など」
という抽象的な概念を指していることは文脈からもわかる。また、(327)の「蛇」は実際 の動物としての「蛇」を指していることは確かであるが、文脈から考えると、具体的な動 物そのものというより概念として抽象化されていると考えた方がいいであろう。
上に挙げた動詞の他に、「当たる」も挙げられる。「当たる」はもともとくっつきの意味 を中心義とするくっつき動詞であるが、異なる種類のニ格の名詞とくみあわさることによ って、様々な意味を派生させて多義語として定着していると認めていいであろう。例えば 以下の用例である。
(329)「大丈夫」とは、昔の言葉でいうと「ますら男」に当たります。(『日本語練習 帳』)
また、「ある物事と関係し、かつそれに近い」という意味を表わす「似る」とニ格の名詞 のくみあわせもこの種の連語を作っている。
(330)お前は父ちゃんに似てウソつくからな。(『少年H』(上巻))
(331)愛は大きく見えたり、小さく見えたりするけれど、それは月の大小に似ている。
(『幸福な結末』)
「似る」は抽象的な関係だけでなく、(330)のように人間や具体物との関係をも表現 できるので、ニ格の位置に抽象名詞も具体名詞も現われうる。
なお、〔客観的な関係のむすびつき〕を作る連語が表わす関係は相互的であるため、「関 係する」「かかわる」などいくつかの動詞において、関係の対象はニ格の他に、ト格にも置 き換えられる(「一般生活と関係する」「社会問題とかかわる」)。
3.7.2 論理的な関係のむすびつき
〔論理的な関係のむすびつき〕を表わす連語は、自動詞の場合は、「基づく」などのよう な物事の間の論理的な関係を表わす動詞と事や人を表わすニ格の名詞とのくみあわせであ り、主体がニ格の名詞で示されている事や人と論理的な関係をもっていることを表わす。
他動詞の場合は、「比べる」などのような物事の間の論理的な関係を表わす動詞と事や人を 表わすニ格の名詞と同じく事や人を表わすヲ格の名詞とのくみあわせであり、ヲ格の名詞 で示されている事や人をニ格の名詞で示されている事や人と論理的な関係をもたせること を表わす。ニ格の名詞は論理的な関係の対象を示す。「論理的な関係の構造」を示すと以下 の通りである。
112 論理的な関係の構造
【 <事/人>に <論理的な関係>Vi 】
[論理的な関係の対象] [論理的な関係]
・例:年齢に似合う、相手チームに勝つ
【 <事/人>を <事/人>に <論理的な関係>Vt 】 [論理的な関係をもたせる対象] [論理的な関係の対象] [論理的な関係]
・例:生活をパートナーに合わせる
〔論理的な関係のむすびつき〕を作りうる動詞には、「合う、合わせる、劣る、比べる、
負ける、見合う」などがあるが、その語彙的な意味において、全部同じとは言えない。例 えば、「合う」と「劣る」とを比べてみよう。「合う」は「適合する」の意味を含んでい るのに対して、「劣る」には「優劣を決する」ことが含意されている。従って、〔論理的な 関係のむすびつき〕を表わす連語を動詞の語彙的な意味によって、さらに2つのグループ に分けて説明する。
まず、「適合する」の意味を含んでいるものとして、以下の動詞が挙げられる。
合う、あてはまる、あてはめる、合わせる、適う、比べる、照らし合わせる、照ら す、似合う、見合う、基づく
値する、合致する、即する、適する
(332)「嘘をつけ」は文字通りに解すれば“嘘をつきなさい”という命令ゆえ、まこ とにその場に合わない表現というべきである。(『日本人の発想、日本語の表現
―「私」の立場がことばを決める―』)
(333)私は年齢に似合わず、クラシックばかり聞いているので、当世の人気アイドル というのは全く知らない。(『百年目の同窓会』)
(334)年齢や状況に応じて、自分に見合った「分」を決めるとよいと思う。(『いい言 葉は、いい人生をつくる』)
(335)政府は、科学的根拠に基づき丁寧に説明を重ねるべきだ。子どもの安全はなに ものにも優先する。(朝・社)
(336)「当社では一人々々の頭髪の特徴、性格にあわせて製作しておりますので白髪 も混入できますし、毛色、毛質も選べます」(『ボクは好奇心のかたまり』) (337)他の臓器に比べると角膜は拒絶反応が起りにくく、移植の成功率も高い。(『幸
福な結末』)
一方、「優劣を決する」ことを含意する動詞として、「劣る、勝つ、敵う、負ける/失敗 する、勝利する、成功する、匹敵する、優先する」などがある。
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なお、「勝つ」「負ける」は奥田(1962[1983]:305)では、〔かかわりのむすびつき〕の〔態 度的な動作のむすびつき〕に入っているのであるが、態度的なニュアンスを持ってはいる ものの、その語彙的な意味に「優劣を争う」ことも含んでいることを考えて、本研究では
「失敗する、勝利する」などとともに、〔論理的な関係のむすびつき」に入れることにする。
(338)彼女は漢文を非常に多く読んでいましたから、漢語の豊富な語彙に劣らないほ どのヤマトコトバの形容語を使いたかった。(『日本語練習帳』)
(339)ガルニエ先生の顔は大きくて、まるくて、顔に負けないような大きな丸眼鏡を 掛けていて、動物にたとえるなら、アザラシのような愛嬌がある。(『幸福な結 末』)
(340)「おじいちゃんは?」「眼鏡(人のあだ名:引用者注)にかなわなかった」(『世 界の中心で、愛をさけぶ』)
(338)~(340)において、比較を受けるもの(「ヤマトコトバの形容語」「大きな丸 眼鏡」「おじいちゃん」)は、ニ格の名詞で示される条件や基準(「漢語の豊富な語彙」
「顔」「眼鏡」)と比較されるだけでなく、比較した結果どのような優劣関係になるのか、
すなわち、「優」なのか「劣」なのかということまでが、それぞれの動詞の語彙的な意味 に含まれている。この点において、「適合する」の意味を表わ動詞と異なっている。
なお、「適合する」の意味を表わす動詞のグループにおいて、「その場と合う」「年齢 と似合う」「自分と見合った分」「他の臓器と比べる」なども言える33ように、論理的な 関係の対象はニ格でだけでなく、一部の動詞はト格によっても表わせる。これに対して、
「優劣を決する」の意味を表わす動詞のグループのほとんどはニ格しか取ることができな い。
また、「一定の基準に達する」ことを表わす「受かる」と「合格する」34もこのグルー プに入れていいであろう。
(341)それを繰り返している間は試験に受からないだろう。(『日本語練習帳』)
(342)その甲斐あって、なんとか希望する会社に合格したのだった。(『泣かない子供』)
3.7.3 起源のむすびつき
〔起源のむすびつき〕を表わす連語は、「由来する」「発する」など物事の起源を表わす 動詞と事柄を表わすニ格の名詞とのくみあわせであり、ある物事がニ格の名詞で示されて いる事をよりどころとしていることを表わす。ニ格の名詞は物事の起源となるものを示す。
起源を表わす動詞は基本的に自動詞である。「起源の構造」は以下のように示すことができ
33 ただし、同じ文での置き換えは必ずしもできるとは限らない。
34 「受かる、合格する」については、奥田(1962[1983])は触れていない。