第 3 章 対象的なむすびつき
3.5 社会的なかかわり
〔社会的なかかわり〕を表わす連語は、人間が社会と何らかのかかわりをもっているこ とを表わす。人間と社会とのかかわりというのは、主に人間がある組織や集団に所属した り、社会活動を行ったり、あるいは社会における身分や地位などの社会的な状態が変化し たりすることを指す。人間の社会とのかかわり方によって、〔社会的なかかわり〕はさらに 2つのカテゴリーに分かれる。
a)社会活動のむすびつき b)社会的状態変化のむすびつき
3.5.1 社会活動のむすびつき
〔社会活動のむすびつき〕を表わす連語は、「参加する」「出席する」など人間の社会活 動を表わす動詞とイベントを表わすニ格の名詞とのくみあわせであり、主体がニ格の名詞
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で示されているイベントに参加することを表わす。社会活動を表わす動詞は基本的に自動 詞である。「社会活動の構造」を以下のように示すことができる。
社会活動の構造
【 <イベント>に <社会活動>Vi 】
[社会活動先] [社会活動]
・例:旅行に参加する、会議に出席する
「参加する、出席する」の他に、「出演する、列席する」などもある。
(265)一学期の修学旅行には元気に参加していたのに、二学期のはじめからずっと学 校を休むようになった。(『世界の中心で、愛をさけぶ』)
(266)松本外相はこの後、ドイツで核軍縮・不拡散の、セネガルでアフリカ開発の、
それぞれ国際会議に出席する。(朝・社)
(267)盛夫と敏子の結婚式のために集まってきた親戚は、同じ日のうちに葬式と結婚 式の両方に列席することになったので、大騒ぎになった。(『少年H』(上巻)) (268)お参りしたほうがいいわよと芝居に出演してくれる岸田今日子さんにも奨めら れましたが、そこは狐狸庵、男でござる、「なあに。ぼくが床に当ったんだから、
この芝居、大当りだア」などと上半身、包帯をまかれて苦痛をこらえながら勝手 なことを言っていた。(『ボクは好奇心のかたまり』)
着点動詞「出る」はイベントを表わす抽象名詞とくみあわさると、その語彙的な意味の 多義性により、「参加する」という意味を表わすようになり、連語全体は〔社会活動のむ すびつき〕を作るようになる。
(269)私は中米を車で南下し、ブラジルのペン大会に出たあと、カリブ海で遊んで帰 って来た。(『永遠の前の一瞬』)
また、上で述べたように、社会活動を表わす動詞は基本的に自動詞であるが、「参加す る」の意味を表わす他動詞のフレーズ「顔を出す」も〔社会活動のむすびつき〕を作るこ とができる。
(270)今まで不義理をしていたが、大学時代の同窓会にでも顔を出して、昔のよしみ で頭でも下げてみるか。(『男どき女どき』)
98 3.5.2 社会的状態変化のむすびつき
〔社会的状態変化のむすびつき〕を表わす連語は、「就職する」「入学する」など人間の 社会的な状態の変化を表わす動詞と組織や集団を表わすニ格の名詞とのくみあわせであり、
主体がニ格の名詞で示されている組織や集団に所属するようになることを表わす。ニ格の 名詞は主体の社会的な状態が変化した後の新たな所属先を示す。社会的な状態変化を表わ す動詞も基本的に自動詞である。「社会的な状態変化の構造」を以下のように示すことがで きる。
社会的な状態変化の構造
【 <組織・集団>に <社会的な状態変化>Vi 】
[新たな所属先] [社会的な状態変化]
・例:銀行に就職する、大学に入学する
このむすびつきを作る能力のある動詞には、「就職する、入学する、入社する、入団する、
編入する」などがあり、漢語動詞がほとんどである。
(271)朝田君、このデパートに就職したの?(『百年目の同窓会』)
(272)家に帰り、半年後、形ばかりの試験があって、旧制女学校に入学しました。(『読 書のたのしみ』)
(273)しかし、今年は日本ハムに斎藤佑樹投手が入団し、大きな注目を集めている。
(朝・社)
(274)気まぐれな偶然から、ぼくたちは九つもあるなかの同じクラスに編入され、担 任から男女の学級委員に任命された。(『世界の中心で、愛をさけぶ』)
〔社会活動のむすびつき〕の場合と同様に、くっつけ動詞「つく」は「職業」「仕事」な どの名詞とくみあわさり、また同じくくっつけ動詞の「入れる」と移動動詞の「行く」「入 る」はニ格の組織名詞とくみあわさると、語彙的な意味の多義性によって、人間の社会的 な状態変化を表わすようになり、〔社会的状態変化のむすびつき〕を作るようになる。例え ば以下のような例である。
(275)彼は将来、植物関係の仕事に就きたいそうだ。(『キッチン』)
(276)小父さんは、兵隊に行く人を送るたびに、先輩づらをして嬉しがっているよう に見えた。(『少年H』(上巻))
(277)「やくざな商売に手を染めていたしな。刑務所に入ったこともあるんだ。向こう の親は、そのあたりのことも知っているようだった」(『世界の中心で、愛をさけ ぶ』)
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(278)だめよ。この電車は、この学校のお教室なんだし、あなたは、まだ、この学校 に入れていただいてないんだから。(『窓ぎわのトットちゃん』)
「所属する」「勤める」など語彙的な意味に社会的な状態変化を含んでいない動詞と組織 や集団を表わすニ格の名詞とのくみあわせは、人間がある期間ある組織や集団に所属する ことを表わし、広い意味では人間の社会的な状態が変わるということから、同じく〔社会 的状態変化のむすびつき〕に入れていいであろう。「所属する」「勤める」の他に、「勤務す る、在籍する、属する」などもある。
(279)しかし小畠村の人で原爆の落ちるとき広島にいた者は、重松と家内と矢須子の 他には、報国挺身隊に所属する青年と奉仕隊員だけであった。(『黒い雨』)
(280)オトコ姉ちゃんは、大正筋にあるどこかの映画館に勤めている。(『少年H』(上 巻))
(281)けれども矢須子が広島の第二中学校の奉仕隊の炊事部に勤務していたというの は事実無根である。(『黒い雨』)
(282)亡くなった時のベアトリスの年齢はわたしよりも二歳年下の二十五歳、大学院 に在籍はしていたが、出ていなかったのではないか。(『幸福な結末』)
また、前述したように、社会的な状態変化を表わす動詞も基本的に自動詞であるが、「在 籍する」の意味を表わす他動詞のフレーズ「籍を置く」も〔社会的状態変化のむすびつき〕
を作ることができる。
(283)いまは小さな劇団に籍を置き、もう一度、芝居の勉強を一からやり直している ところだという。(『いい言葉は、いい人生をつくる』)