第 2 章 先行研究および本研究の位置づけ
2.3 ニ格の名詞を含む連語論の研究
2.3.2 松本(1979) : 「に格の名詞と形容詞とのくみあわせ」
ニ格の名詞を含む連語論の研究に、前節で紹介した奥田氏の「に格の名詞と動詞とのく みあわせ」の他に、松本(1979)の「ニ格の名詞と形容詞とのくみあわせ」もある。この 論文の本文中では触れられていないが、論文の後ろに付してある「この報告までの経過」
(pp.309-313)によると、松本(同)は奥田氏の「に格の名詞と動詞とのくみあわせ」と
「を格の名詞と動詞とのくみあわせ」の両論文を大いに参考にしているという。特に、「に 格」の論文は「を格」ほど説明が詳しくないことから、連語現象を記述する際の手続きや 方法などは、「を格」から学んだとされている。
松本(同)も、ニ格の名詞と形容詞とのくみあわせを、ニ格の名詞と形容詞のむすびつ
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き方の違いによって、〔対象的なむすびつき〕、〔規定的なむすびつき〕、〔状況的なむすびつ き〕の3つに大きく分けている。それに、「これらのカテゴリーのうち、対象的なむすびつ きをあらわすくみあわせでは、かざりのに格名詞の存在が、かざられの形容詞の結合能力 からみて、だいたい義務的だが、規定的なむすびつき、状況的なむすびつきでは、一般に、
義務的とはいえない」(pp.204-205)としている。
この3つのむすびつきについて、松本はさらに下位分類を行っている。以下、表5では、
松本(同)の詳しい分類を連語の例を挙げてまとめる。なお、用例は基本的に松本(同)
のものを挙げるが、むすびつきの性格をより簡潔かつ明確に示すために、実例から当該の 連語のみを抽出し、時制もすべて現在形にしている(下線は松本(同)に従う)。
表5 松本(1979):「に格の名詞と形容詞とのくみあわせ」(分類)
分類 下位分類
連語の例
Ⅰ Ⅱ Ⅲ
対象的 なむす びつき
ありかの むすびつき
存在空間のむすびつき このまちに孤児院がない;
この地域に軍の工場が多い
社会的な空間のむすびつき 家にしごとがない;
義務教育学校にそうした制度がない
部分・側面のありかのむすびつき 絵に色彩がない;
からだに異常がない
所属さきのむすびつき 女に詩人が多い;
北条がたに智者がない
もちぬしのむすびつき 伸子に旅費がない;
夫婦にこどもがない
かかわりの むすびつき
態度―性質 的なかかわ りのむすび
つき
あいて的なむすびつき 房子におみやげがない;
この手紙に返事がない
態度のあいてのむすびつき 私はかれにおいめがない;
おふくろは寺に功績がない 態度のむけられるものごと
のむすびつき
おっとは組合のしごとに熱心だ;
志村はけしきに興味がない ひとの特性のむけられ、あら
われる対象のむすびつき
あつさによわい(おば);
食物にくわしい(西洋婦人)
ものの特性のむけられ、あら われる対象のむすびつき
ときわ木の葉は風雨につよい;
木造のたてものは台風によわい 客観的なか
かわりのむ すびつき
ちかさ―とおさの むすびつき
ちぢみの産地はこの温泉場にちかい;
海にとおい(この野の村)
にかよいのむすびつき 自分の顔はKの顔にそっくりだ;
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ももにちかい(木)
へだたりのむすびつき 工廠に関係がない(もの); 芸術は政治に無縁だ 対象=判断
的なかかわ りのむすび
つき
評価的な判断のよりどころ
=にないてのむすびつき
ストーブは台所に不適当だ;
色が壁に不つりあいだ モーダルな判断のよりどこ
ろ=にないてのむすびつき
ごはんにたくあんが必要だ;
学者に書物が大切だ
主体の むすびつき
感情の主体のむすびつき 話し方のほうが三四郎におもしろい;
私に労働がたのしい
感覚の主体のむすびつき ふたりにここの陽気があつい;
鮭にまぶしい(光堂)
感覚点のむすびつき 冬の夜風がくちびるにつめたい;
風が皮膚にいたい
規定的 なむす びつき
内容規定的なむすびつき 宗助は勇気にとぼしい;
このはなしは確実性にとぼしい
目的規定的なむすびつき むしぼしによい(季節);
学習に必要な(あかるい生活)
意義づけ的なむすびつき 牛のすねの骨つき肉がスープに適当だ;
女もちにおおきい(銀どけい)
状態規定的なむすびつき 茶色にきたない(髪);
地形は南北にながい
状況的 なむす びつき
時間的なむすびつき 天保時代にない(もの);
下痢のときなぞにくずゆが適当だ
環境的なむすびつき 曇天にかぜがつよい;
うすあかりのうちに色があざやかだ
原因的なむすびつき かおはたそがれのひかりにあおい;
ひかるみどりに目がいたい
以上、本節では、松本(1979)の分類を簡単に紹介した。かざられが形容詞か動詞かで 性質が全く異なるが、動詞「ある」の反対語が「ない」であるように、松本(同)は本研 究とも関連している。例えば「庭に木がある」という連語は「庭に木がない/多い」と同じ むすびつきをしている。また、「彼は父親に似ている」と「彼は父親にそっくりだ」とはニ ュアンスの違いはあるものの、ニ格の名詞と動詞あるいは形容詞との間の関係は同じであ る。このように、本研究はニ格の名詞と動詞からなる連語を分類する際に、いくつかのむ すびつきについては松本(同)も参考になった。
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