第 3部ですでに述べたように、〔対象的なむすびつき〕を表わす連語は、さらに 9つの 下位のカテゴリーに分かれており、それ自体も一つの体系をなしている。
〔対象的なむすびつき〕がなす体系の中で、〔ありかのむすびつき〕〔移動のむすびつき〕
〔くっつきのむすびつき〕がもっとも具体的なものであって、他のむすびつきとの関係に おいて、歴史的な出発点をなしている(奥田(1962[1983]:298))。〔相手のむすびつき〕を 中間的なものとして、〔社会的なかかわり〕〔心理的なかかわり〕〔関係のむすびつき〕〔働 きかけのむすびつき〕は抽象的なものになる。
本章で詳しく考察するが、まず〔ありかのむすびつき〕〔移動のむすびつき〕〔くっつき のむすびつき〕の3つのむすびつきの間に相互関係が存在しており、〔ありかのむすびつき〕
がそれらの中心に位置している。その上、これら3つのむすびつきは〔対象的なむすびつ き〕に属する他のむすびつきとの間にも発達した移行・派生などの相互関係が見られる。
このように、〔対象的なむすびつき〕がなす体系の中で、この3つのむすびつきが中核をな しており、他のむすびつきはこの3つから派生し、それらを取り囲んでいると言えるであ ろう。このうち、特に〔ありかのむすびつき〕は他のすべてのむすびつきと関係をもって いることから、〔ありかのむすびつき〕は〔対象的なむすびつき〕がなす体系の中において もっとも中心的な存在であることがわかる。
なお、残された〔受身的なむすびつき〕はその動詞の語彙的な意味の特殊性(受身的な 意味をもっている)から、他のむすびつきとの直接的な関係をもちにくい。〔対象的なむす びつき〕がなす体系の中で、周辺的な存在であろう。
以下、〔ありかのむすびつき〕、〔移動のむすびつき〕、〔くっつきのむすびつき〕の3つの むすびつきを中心に、〔対象的なむすびつき〕の各カテゴリーの間の相互関係を考えるが、
まずこの3つのむすびつき自体がどのような体系をなしているのか、またそれらの間にど ういう相互関係があるのかを述べた上で、それぞれが他のむすびつきとどう関係し合うの かを述べる。それら以外の相互関係については最後にまとめて示す。
6.1 〔ありかのむすびつき〕と〔移動のむすびつき〕と〔くっつきのむすびつ き〕
本節では、〔対象的なむすびつき〕を表わす連語の中で、もっとも具体的なものである〔あ りかのむすびつき〕、〔移動のむすびつき〕、〔くっつきのむすびつき〕の3つのむすびつき の間の相互関係について考察する。
この3つのむすびつきは、〔ありかのむすびつき〕が中心に位置し、〔移動のむすびつき〕
と〔くっつきのむすびつき〕が関係してくる。この関係については 6.1.3 節で確認する。
また、〔移動のむすびつき〕と〔くっつきのむすびつき〕の間にも移行関係があり、6.1.4
136
節で述べる。なお、〔ありかのむすびつき〕と〔移動のむすびつき〕にはさらにいくつかの 下位分類があり、それぞれの下位分類の間にも相互関係が見られる。よって、まず 6.1.1
節と 6.1.2 節で〔ありかのむすびつき〕と〔移動のむすびつき〕のそれぞれの体系を明ら
かにする。
6.1.1 〔ありかのむすびつき〕の下位類がなす体系
3.1節で考察したように、〔ありかのむすびつき〕は〔存在物のありか〕、〔内在のむすび つき〕、〔所有者のむすびつき〕、〔所有物のありか〕、〔認知物のありか〕、〔出現物のありか〕、
〔消失物のありか〕の7つのカテゴリーに分かれている。全体から見ると、7つのカテゴ リーのうち、空間的な存在を表わす〔存在物のありか〕と抽象的な存在を表わす〔内在の むすびつき〕は2つの中心として位置付けられ、その他のむすびつきは何らかの形で関係 してくると言える。
これらのむすびつきの間の相互の関係のし方は主に以下の3点にまとめられる。
a)ともに「ある」という存在動詞で作りうるむすびつきである〔存在物のありか〕、〔内在
のむすびつき〕と〔所有者のむすびつき〕の間は、「ある」を介して、三者は相互に関 係をもっている。
b)〔認知物のありか〕、〔出現物のありか〕と〔消失物のありか〕を表わす連語は、動詞が 文中で「~ている」形をとっている場合は、〔存在物のありか〕と〔内在のむすびつき〕
を作るようになる。
c)〔認知物のありか〕と〔出現物のありか〕において、動詞の語彙的な意味のずれ=抽象 化によって、〔認知物のありか〕から〔出現物のありか〕に近づく。
以下はこの3点に分けて具体例を挙げながら見ていくが、〔ありかのむすびつき〕がなす 体系を図示すると、次のページの図5になる。なお、〔所有物のありか〕は構造がやや特殊 であることと、用例が少ないことから、他のむすびつきとの相互関係は今のところ見られ ない。
137 「ある」
「~ている」形
「見える」など
図5 〔ありかのむすびつき〕の下位類がなす体系
Ⅰ、〔存在物のありか〕と〔内在のむすびつき〕と〔所有者のむすびつき〕
〔存在物のありか〕、〔内在のむすびつき〕と〔所有者のむすびつき〕を表わす連語はと もに主に存在動詞「ある」で作られるため、ニ格の名詞やガ格の名詞の性質が変わること で、他のむすびつきに近づきやすい傾向が見られる。大まかに言えば、〔存在物のありか〕
と〔内在のむすびつき〕を表わす連語において、ニ格に人名詞が現われると、〔所有者のむ すびつき〕に近づくし、また、〔存在物のありか〕を表わす連語において、ニ格に抽象名詞 が現われると、〔内在のむすびつき〕に近づく。以下それぞれを見る。
① 〔存在物のありか〕と〔所有者のむすびつき〕
〔存在物のありか〕において、ニ格に「手元」のような空間性ももっているが身体部位 をも表わせる名詞がくると、〔所有者のむすびつき〕に近づきやすいようである。
(1)・・・、この定価七十円の中村白葉訳『アンナ・カレーニナ』第一巻だけは、今も わたしの手元にあります。(『読書のたのしみ』)
(2)私はすぐ、今手許にある金額だけ買って頂くようにお願いした。(『永遠の前の一 瞬』)
(1)では、「本が手元にある」という連語は「本が手近なところに置いてある」の意味 よりは、「本をもっている」という所有の意味を表わしていると言える。(2)はガ格の名
ありかのむすびつき 存在物のありか
消失物のありか 出現物のありか 認知物のありか 所有物のありか 所有者のむすびつき
内在のむすびつき
138
詞に相当するものとして抽象名詞「金額」が現われているため、連語全体は所有のニュア ンスを一層強く帯びている。「手元にお金がある」に対して、例えば「私にお金がある」な ら、〔所有者のむすびつき〕になる。
また、〔存在物のありか〕において、ニ格の名詞とガ格の名詞が「全体―部分」((3))あ るいは「組織―内容」((4))の関係にあると、連語も〔所有者のむすびつき〕に近くなる。
(3)・・・、この旅館には、夜中に幼い子供があらわれる一室がある。(『ボクは好奇心 のかたまり』)
(4)すると田村さんは、レッド・ラムにあるのはカットレットであって、トンカツで はないというのである。(『永遠の前の一瞬』)
3.1.3 節で述べたように、〔所有者のむすびつき〕を作る連語では、ニ格の名詞は基本的
に人名詞であるため、(3)や(4)のような連語は〔所有者のむすびつき〕を作れない。
ただし、少ないが、組織名詞も〔所有者のむすびつき〕のニ格に現われることができる。
その場合は、「旅館」や商店は組織名詞としてとらえることもできるが、〔所有者のむすび つき〕なら、それぞれは下のようになるであろう。
(3’)この旅館に新しい敷地がある
(4’)レッド・ラムに珍しい料理がある
さらに、〔存在物のありか〕において、「~の間」のような複数性を前提とするものがニ 格にたつと、〔所有者のむすびつき〕にも近くなる。以下の2つの連語を比べると明らかで ある。
(5)二人の間に子供がある 〔存在物のありか〕
(5’)二人に子供がある 〔所有者のむすびつき〕
〔存在物のありか〕と〔所有者のむすびつき〕との間に「二重ニ格の現象」37が見られ た。すなわち、一つの動詞に対して、存在物のありかを表わすニ格の名詞と所有者を表わ すニ格の名詞が同じ文に同時に表われていることである。
(6)重松のうちには日清戦争の当時まで、庭先に大きなケンポナシの木が五株もあっ たと云われている。(『黒い雨』)
37 松本(1979:236)は、「これは、ありかのむすびつきのなかでの、むすびつき相互の独立性、対立性を しめす」と述べている。また、この現象は、もちぬしと存在空間の間(「お国には東京に力となる親戚が ない」)と、存在空間と部分・側面のありかの間「山形県・秋田県に大字の地名に開墾地を意味する語が おおい」と、もちぬしと属性の部分・ありかの間「太田にはこえに抑揚がない」に見られるとしている。