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着点のむすびつき

ドキュメント内 ニ格の名詞と動詞からなる連語について (ページ 82-89)

第 3 章 対象的なむすびつき

3.2 移動のむすびつき

3.2.2 着点のむすびつき

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(153)たしかに、それと思われる特急の車両の近くに寄って、見送りの人たちの間か ら、窓を見た。(『点と線』)

なお、空間性をもたないニ格の人名詞が直接移動動詞とくみあわさる場合もある。

(154)裸になったオトコ姉ちゃんに、H はそれとなく接近し、湯船からあがったとた ん、手拭いを引ったくった。(『少年H』(上巻))

この例における「オトコ姉ちゃん」は、早津(2008:45)の言う「意志や感情や判断力 をそなえた存在としての「人間」というよりは、むしろ物や事に相当する非人格的な存在 としての「ヒト」として」理解した方がいいであろう。ここでは臨時的に場所に相当する ものとして用いられ、すなわち「オトコ姉ちゃんのいる方向」を指し示している。

77 a)到着の意味を表わせる動詞

上がる、集まる、移る、追いつく、押し寄せる、落ちる、降りる、帰る、駆け上が る、駆り立てる、来る、下がる、たどり着く、着く、集う、出てくる、出る、取っ て返す、飛び上がる、逃げる、登る、這い上がる、入る、走り出る、走り逃げる、

引き返す、引っ越す、引っ込む、踏み入れる、舞い戻る、戻る、やってくる、よじ 登る、分け入る

移民する、帰国する、上陸する、出張する、侵入する、着陸する、出入りする、転 落する、到達する、到着する、落下する

上げる、落とす、下ろす、連れ去る、届ける、運ぶ、見送る、見舞う、持ち帰る、

導く、戻す、呼び出す、呼び戻す/案内する、疎開する、退散する、輸入する b)「こむ」を含む複合動詞

転がりこむ、すべりこむ、飛びこむ、なだれこむ、逃げこむ、入りこむ、走りこ む

押し込む、投げ込む、運び込む、放り込む、踏み込む、持ち込む c)「よる」を含む複合動詞

駆け寄る、立ち寄る、にじり寄る

〔着点のむすびつき〕を表わす連語では、移動主体がニ格の名詞で示される場所=着点 に到達するが、移動の「出発」や「移動」の過程がなければ「到着」も達成されえない。

従って、多くの場合、〔着点のむすびつき〕を表わす連語は、移動主体が出発から到着まで 移動していく全過程を暗に含みつつも、そのうちから、到着の段階だけに強く注目して、

表現していると言えるのである。

以下にまずaのグループの動詞が作る連語の例を挙げる。

(155)学校に着いて、電車の教室に入ると、トットちゃんは、先に来ていた、山内泰 二君に、すぐ聞いた。(『窓ぎわのトットちゃん』)

(156)眠くて。と雄一に告げて、私は田辺家に戻ってすぐ寝床に入ってしまった。

(『キッチン』)

(157)午後になると私の仕事部屋に来て、何時に居間に降りればいいのか教えてくれ た。(『泣かない子供』)

(158)カメラマン役の家内を引っ立てて甲板に上り、例のポーズを決めている。

(『いい言葉は、いい人生をつくる』)

(159)僕は庭に出て、こちらを見上げるジョンの首輪に鎖をつないだ。(『落花流水』)

(160)能島さんの奥さんは念のためだと云って、私たちに荷物引換の証文を書いてく れ、私たちを母屋の座敷にあげて茶菓子の代りに味噌を添えた胡瓜を出して下 すった。(『黒い雨』)

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(161)その癖、あたしたちの新しい家に荷物を運んだりするときは、ムキになって完 璧に手伝うの。(『男どき女どき』)

(162)一方の親が16歳未満の子を無断で国外に連れ去った場合、元の居住国にいった ん戻し、その地の手続きに従って子の面倒を見る者を決めようというのが条約の 骨子だ。(朝・社)

b とc のグループの「こむ」を含む複合動詞と「よる」を含む複合動詞の連語は例えば 以下のようなものがある。

(163)その夜は自分のアパルトマンに戻りたくなくて、エステールに誘われたまま、

彼女の部屋に転がり込んだ。(『幸福な結末』)

(164)家から褌をしめただけの裸で飛び出し、街の中を走ってそのまま海に飛びこん でいた。(『少年H』(上巻))

(165)フン先生は、羽をもいだ蠅を筆箱にほうりこんでつぶやいた。「蠅にも座頭市 がいるとみえる」(『ブンとフン』)

(166)そうして築山から出て行くと、門のところに駈け寄って広島市街の方を見た。

(『黒い雨』)

「歩く」「飛ぶ」「走る」など移動の様態を表わす動詞は、3.2.1節で述べたように「~て いく」の形でニ格の名詞とくみあわさって〔行く先のむすびつき〕の連語を作るのと同様 に、「~てくる」の形でニ格の空間名詞とくみあわさると〔着点のむすびつき〕を作ること ができる。

(167)二年前の九月頃、夜なかに妙に光るものが介良町の田畠の上に飛んできた。(『ボ クは好奇心のかたまり』)

(168)やはりマリだった。僕とジョンをみとめるとぱっと立ち上がった。痩せた、と 僕が思った瞬間、マリはこちらに走って来た。(『落花流水』)

[2] 上の例に見られるように、〔着点のむすびつき〕においても、ニ格の名詞は「学校」「甲

板」などのような空間性をもつ具体名詞や、コソアド系指示詞などであるのが普通である が、〔行く先のむすびつき〕に比べ、ある具体的な場所というニュアンスが強く、〔着点の むすびつき〕を表わす連語には、「東」「~の方」などのような方向を表わすニ格の名詞は 現われにくい。従って、着点動詞とくみあわせるニ格の名詞は<空間>というカテゴリカ ルな意味のみをもっていると考えられる。

空間性をもたない具体名詞がニ格に立つ場合は、(169)のように空間化の手続きを取 るのが普通であるが、(170)のように人名詞が直接現われる場合もある。

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(169)次の瞬間、トットちゃんは、ママの腕の中に、とびこんで来て、いった。「ねえ、

今度の学校に、いいチンドン屋さん、来るかな?」(『窓ぎわのトットちゃん』)

(170)ここでも避難して行く人は疎らになっていたが、たいていがひどい怪我をした り大火傷をしたりしている人たちで、ひとりぼっちとぼとぼ歩く小学一年生ぐ らいの子供もいた。僕はその子に追いついて声をかけた。(『黒い雨』)

「その子」は人を表わす具体名詞であるが、(170)においては、「追いつく」という移 動動作の目標を表わし、すなわち、「その子がいる地点」が「追いつく」動作の着点である。

なお、「寝床」「お風呂」など二三の具体名詞は、空間的な場所を示しているにもかかわ らず、移動動詞「入る」とのくみあわせ(「寝床/ベッド/お風呂/お湯に入る」)において、

単にある場所に到着するという意味だけでなく、例えば「寝床/ベッドに入る」「お風呂/

お湯に入る」はそれぞれ「就寝すること」「入浴すること」を意味しているように、フレジ オロジカルなくみあわせになっている。

また、「入る」は身体部位を表わす名詞「耳」「目」「手」などとくみあわさり、「耳/目/

手に入る」のようなフレジオロジカルなくみあわせを作る場合もある。その他に、「入る」

は「力」「身」などのガ格名詞とまずくみあわさり、その全体がニ格名詞によって広げられ、

下のような連語を作ることができる。ただし、これらの連語は〔着点のむすびつき〕から 離れ、(171)は〔内在のむすびつき〕に、(172)は〔態度的な動作のむすびつき〕27にそ れぞれ移行している。

(171)H は早く家に帰りたかった。というのは、崖を登るとき腹に力がはいったから か、ウンチを漏らしてしまっていた。(『少年H』(上巻))

(172)「なんか緊張感がないよな」ぼくは言った。「夏休みだというのに、ちっとも勉 強に身が入らない」(『世界の中心で、愛をさけぶ』)

〔行く先のむすびつき〕を表わす連語にはなかったが、〔着点のむすびつき〕を表わす連 語においては、抽象名詞も直接ニ格に現われることができる。奥田(同)にも指摘がある ように、「方向性をもった移動動詞と抽象名詞(あるいは空間性をもたない具体名詞)との くみあわせは、おおくのばあいは、フレジオロジカルなくみあわせになっていて、かざら れ動詞の語彙的な意味のずれ=抽象化をともないながら、ゆくさきのむすびつきとはこと なる性格のむすびつきをあらわしている。」(奥田(同:293))という場合もある。着点動詞 のうち、特に「落ちる」「入る」「戻る」の3つの動詞が抽象名詞とくみあわさりやすいよ うである。例えば、

(173)a、人間はいかにもがいても悪の深淵に落ちていく。(『ボクは好奇心のかたま

27 3.6.1.2節参照。

80 り』)

b、そう考えると、自分が光源氏の手に落ちた若紫のように思えた。(『世界の 中心で、愛をさけぶ』)

(174)a、君と別れて妻の元に戻ろうと考えていた。(『幸福な結末』)

b、そこで、「思う」と「考える」の違いに戻りましょう。(『日本語練習帳』) (175)a、了解なしに他の縄張りに入ることは許されない。(『日本人の発想、日本語

の表現―「私」の立場がことばを決める―』)

b、その問題に入る前に、もう少し用例を掲げて、検証しておこう。(『日本人 の発想、日本語の表現―「私」の立場がことばを決める―』)

以上の3組の例では、すべて抽象名詞がニ格の位置に現われているが、各ペアのaにお いて、「落ちる」「戻る」「入る」は移動動詞としての語彙的な意味がまだ完全には失われて おらず、ニ格の名詞は抽象化された移動動作の抽象的な着点とも考えられる。これらに対 して、b では移動のニュアンスはまったく感じられず、それぞれの動詞は語彙的に移動の 意味が薄れている。いずれにしても、これらのくみあわせは形式的に限られており、フレ ジオロジカルなくみあわせに近づいていく。

「仲裁」「活動」のような動作名詞28が「入る」「戻る」などとくみあわさり、「仲裁/活 動/作業/休憩/自習に入る」「話のつづきに戻る」といったフレーズを作る場合がある。ま た、移動動詞は「自己嫌悪」「うつ状態」「眠り」「佳境」などのような状態性の抽象名詞と くみあわさって、「自己嫌悪/人間不信/錯覚/危機に陥る」「うつ状態/深みに落ち込む」「眠 り/恋に落ちる」「話を聞く態勢/マイナスモード/佳境/絶好調に入る」のようなフレジオロ ジカルなくみあわせを作る場合もある。これらの場合においては、移動動詞「陥る」「落ち 込む」「落ちる」「入る」「戻る」などは完全に語彙的な意味を失ってしまい、まさしく村木 の言う「機能動詞」(「実質的な意味を名詞にあずけて、みずからはもっぱら文法的な機能 をはたす動詞」(村木(1991:203))として働いているに過ぎないのであろう。後者の場合 については、奥田も取り上げ、「しかし、このばあいも、動詞の語彙的な意味はうしないか けていて、この種の単語のくみあわせは陳述的であるといわなければならない。(奥田

(1962:294))」と述べている。

ニ格の名詞の抽象化がさらに進み、「天国」や「地獄」のような実在しない場所を表わす 名詞がニ格の位置に現われた場合、例えば「天国/地獄に行く」という連語全体は「この世 を去る/亡くなる」ことを表わしており、慣用的な表現に近づく。

[3] ここまでは、もっぱらニ格の名詞が移動動詞とくみあわさり、〔着点のむすびつき〕

を表わす連語を作る場合を見てきたが、移動の意味をもっていない動詞が現われた場合で

28 村木(1991:214)によると、「動作名詞とは、なんらかの動的な運動がなづけられている名詞である」

という。

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