第二章 中国金融市場の構造
第四節 シャドーバンキング問題
2. シャドーバンキングの規模と影響
(1) シャドーバンキングの規模
中国におけるシャドーバンキングの規模に対してこれまで様々な議論が交されてきた。
シャドーバンキングは①基本的に行政による監督・管理が弱い,②もしくは監督外の信用 仲介機関であるため,その実態を図ることは難しい,③特に中国では意図的に行政監督か ら逃れるシャドーバンキングが多く,その規模の推計を難しくしている。その結果,シャ ドーバンキングの規模に対する諸説の差が極めて大きい。
最近の推計としては,JP モルガン・チェース(JPMorgan Chase & Co)の 36.29 兆元,国 際通貨基金 (International Monetary Fund: IMF)の 28.52 兆元,国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation: IBIC)の 5.18 兆元とそれぞれ異なる推計値を挙げてい る。こうした推計の差はシャドーバンキングに対する定義が異なることが原因と考えられ る。本論文ではこれを踏まえて,シャドーバンキングを前節で議論したように,広義的な 定義を用いた日本銀行北京支店および中国社会科学院金融研究所の推計を用いて,説明し たい。特に日本銀行の推計は,各項目に含まれる二重計算などが調整されており,より実 際に近い金額であると考えられるからである。
表 9 で示しているように 2013 年中国のシャドーバンキングの規模を日本銀行は 30.6 兆元と推計している。一方,社会科学院では 35.25 兆元という推計を示している。内訳を 見ると,両者の推計に大差はなく,両者の違いは日銀の推算では銀行理財商品と理財商品 を基とする信託商品との二重統計を処理している点にある。そのため日銀 30.6 兆元に実 態に近い金額であると思われる。
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それぞれの項目別で見ると銀行理財商品が 9.6 兆元ともっとも多く,その次に信託商品 の 9.45 兆元,委託貸付の 6.8 兆元,証券会社の資産管理商品の 3.4 兆元が続いている。
全体では銀行預金の 30%,GDP の 59%ときわめて大規模である。さらに銀行が販売する理 財商品と信託会社が販売する信託商品がコアである点が特徴である。
2010 年末 直近(日本銀行に よる推計)
直近(中国社会科学院金 融研究所による推計) 銀行理財商品 2.8 9.6 9.92
信託商品 3.0 9.45 10.3 証券会社資産管理商品 0.0 3.4 3.89
基金子会社 0.0 0.2 1
委託貸出 3.2 6.8 4.14
民間金融 3.2 4.0(推計) 3(推計)
リース 0.7 1.8 3(推計)
小額貸出 0.2 0.6 銀信合作(-) ▲1.7 ▲2.1 銀信合作(-) ▲0.0 ▲2.7
合計 対銀行預金比
対 GDP 比
11.4 16%
28%
30.6 30%
59%
35.25 35%
68%
表 9 中国におけるシャドーバンキングの内訳
(出所) 日本銀行北京支店,中国社会科学院(2014)により筆者が作成
理財商品とは中国の商業銀行販売を行う資産運用商品の総称である。一般的には銀行の 店頭で販売され,一口 5-10 万元で取引されている。期限は数ヶ月から 1 年のものが多く,
ほとんどが年率 4%-8%の予想収益を示している。これに対して,銀行の預金金利は 3%
あまりであることから,理財商品は投資者にとって魅力的な投資先である。理財商品は従 来,国債,金融債,企業債,中央銀行手形などに対する投資金利を配当とするものが中心 であったが,近年では政府による金利制限や貸付規制を逃れるためエクイティや貸付債権 の小口化したものなどポートフォリオ型商品の割合が多くなっている。大半は銀行による
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元本保証がなされていないため,銀行はリスクを負わず,原則的にバランスシートに乗せ ない「オフバランス取引」である。一方信託商品は,信託会社で販売される資産運用商品で,
運用先は政府の奨励産業,公共事業,企業貸付などである。通常一口 100 万元以上となっ ているため,個人投資家よりも機関投資家の方が多く,銀行の理財商品が財源となってい る。日銀の推算において二重計算を処理しているのはこうした銀行で販売された理財商品 で信託商品への二重投資があるためである。つまり,信託商品は銀行の迂回融資の手段と しての性格が強いことが分かる。
理財商品と信託商品に代表されるように中国におけるシャドーバンキングは銀行部門 によって主導され,原債権者の多くが個人投資家,銀行部門の貸付や自己資産比率に対す る回避手段などの性格を持つ。これは先進国のノンバンク主導のシャドーバンキングとは 異なる中国の特徴といえる。
(2) シャドーバンキングの影響
シャドーバンキングは国のマクロ経済政策や金融市場に対する監督管理の有効性を低 下させる。中国では近年政府が不動産業,高汚染・高資源消費産業,過剰設備産業などに 対する構造調整の意図からこれらの産業に対しする銀行部門による貸付を制限している。
金融機関がシャドーバンキングを通じてこれらの産業に資金供給を行うことで政府のマ クロ経済政策を無力化させる恐れがある。また,中央銀行による貨幣供給以外のルートで 市場に資金を供給する形となっているため,市場全体における過剰流動性の一因にもなっ た(張(2012))。
市場における資本配分にも影響している。特に資金の需給期間のミスマッチが挙げられ る。理財商品のほとんどが短期であるのに対して,最終的な投資先の多くは期間の長いイ ンフラ投資や不動産投資である。2014 年 4 月中国の銀行市場において 460 件の理財商品 が発売されているがそのすべての期限は 1 ヶ月から 1 年にわたっており,平均して 133 日である39。これに対してインフラ投資や不動産投資に対する投資は 3-5 年にわたるもの が多く,市場全体で見れば結果的に資産の固定化に繋がっていることになる。さらにこれ らの理財商品を返済するためによく使われる方法として,新しい理財商品を販売し,代金 を返済金とする自転車操業的な手法がとられていることから,これらのリスクが複雑に絡 み合い,社会全体に対する信用リスクが増加している。
39 http://data.bank.hexun.com/lccp/AllLccp.aspx のデータによる。
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さらに銀行による信用仲介に対する影響も大きい。理財商品をはじめとするシャドーバ ンキングは資金を獲得するため,銀行の預金金利を大幅に上回る収益率を顧客に提示して いる。2014 年 5 月銀行市場において発売された 460 件の理財商品の収益率は 4.42%から 6.11%にわたり,平均して年率 5.22%であった40。これに対して銀行の 1 年もの預金金利は 3.38%とはるかに低い。これにより銀行から資金が流出する事態となり,銀行部門におけ る資金不足問題を引き起こしている。さらに毛・羅(2011)は,このような高い金利は最終 的に資金の需要者で企業の資金調達に対する負担を増大させている主因であるとしてい る。