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第四章 中国における証券化の効果

第二節 貸付債権証券化

1. 先行研究

(1) 財務指標に関する分析

Obay (2000) は 1995 年米国内銀行を資産規模順に 200 件を選び,その財務諸表のデー タにより,①資産証券化を行った銀行と行わなかった銀行の財務上の差異,②証券化を行 った銀行の証券化率と前の年の財務上の差異を考察した。

まず,①の問題に対して Obay(2000)は,米国内の銀行を 1995 年度での総資産順で 200 件を抽出し,2 つのグループに分けた。グループ 1 は証券化を行っている 95 件,グルー プ 2 は証券化を行っていない 105 件である。資産証券化の理論研究から Obay(2000)は証 券化によって影響される財務指標要約した(財務指標は表 15 に示している)上で,これら の財務指標を比較することによって証券化を採用した銀行と採用しなかった銀行の財務 上の差異を明らかにした。分析結果からは,証券化を用いた銀行のリスク資本比率と預貸 率が低く,同時に証券化可能資産が総資産に占める割合と 1995 年の貸付金の増加率が高 いことが分かる。つまり,証券化を選択した銀行はいずれも収益力や,財務上の安全性に おいて他より優れているなど,証券化を行った銀行と行わなかった銀行に大きな差異があ ると Obay (2000) は主張した。

また,②に対して,Obay(2000)はグループ 2 の 95 社の銀行と前年度の財務指標の関係 性を回帰分析によって検討している。表 15 の 15 個の財務指標の中の 8 個が有意な差を示 している。(1)預貸率,(2)証券化可能資産が総資産に占める割合,前年度の証券化資産と 平均資産の比率,手数料収益の比率,資産あたりの収益率,貸し倒れ相殺比率などは証券 化可能資産が総資産に占める割合に有意な差異が示せた。そのため,Obay(2000)は,銀行 の規模やリスク資本の比率よりも資産の収益性と流動性が銀行の証券化への選択に影響 を与えていると論じている。

Obay (2000) はこれらの差異が証券化とどのような因果関係を持つかは検討していな い。しかし,銀行の財務指標と証券化との相関性を示したことの意義は大きい。特に証券

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化を行わなかった銀行と比べ,採用した銀行は流動性リスクや融資コストが総じて高く,

自己資本比率が低い特徴を持つこと,これらの要素は銀行が証券化を選択した 1 つの動機 となることを示している点で評価できる。

銀行特徴 規模

国際化程度 銀行資本化程度 卸業務比率

リスク資本比率 銀行の利益獲得能力 手数料収益の比率

資産あたりの収益率 債権の質 債権の多様性

貸し倒れ相殺比率 銀行融資ルート/流動性 融資ルート

市場融資に基づき 融資コスト 融資コスト

融資効率 競争優位性 証券化潜在能力

貸付増加率 学習曲線 表 15 Obay(2000)で比較対象とした財務指標

(出所)筆者により作成 (2) オフバランス効果に関する分析

また,矢口(2002)と深浦(2003)は証券化のオフバランス効果および銀行利潤に与えるに ついて理論的な研究を行った。

まず矢口(2002)は片岡(2000)のモデルを修正し,不良債権証券化の有効性について研究 を行った。オリジネーターの資産をすべて不動産であると仮定した上で59,証券化を行う オリジネーターのROA,ROE,自己資本比率の変化を分析し,以下の結果を導き出している。

結果1 自己資本比率(RONW)は証券化によって上昇する。

結果2 オリジネーターの負債の利子率がSPVの発行する証券の負債の利子率よりも 高ければ,証券化によって自己資本利益率は上昇する。一方,オリジネータ ーの負債の利子率がSPVの証券の利子率よりも低ければ,証券化によって自己 資本利益率は下落する。また,両方の利子率が同じであれば,証券化をして

59 このような仮定はバランスシートを単純化するためで,実際の結論には影響しないと考えられる。

99 も自己資本利益率は変化しない。

以上の結論から考えられることは,銀行による貸付債権の証券化では,負債の利子率と 証券化商品の利子率の差が自己資本利益率に影響し,つまり原資産の質(リスクと収益率) が高ければ,自己資本利益率は向上する可能性が大きく,逆に質の低い不良債権の証券化 を行えば,自己資本利益率は減少する可能性が大きくなる。いずれにせよ,自己資本比率 は証券化によって上昇する。

一方深浦(2003)は Twinn(1995)のモデルを修正し,証券化が銀行利潤に与える影響につ いて検討している。深浦(2003)の議論の特徴として証券化のオフバランス効果を説明する ために,銀行のバランスシートに資産を残したままに証券を販売する「オンバランス証券 化」を取り上げ,一般的に行われる「オフバランス証券化」との比較対象とした点である。

これにより証券化によるオフバランス効果の影響をはっきりさせた効果がある。

深浦(2003)はまず「オンバランス証券化」した銀行のバランスシートを分析した結果,

「オンバランス証券化」では資産に変化は生じることはない,また証券化によって自己資 本比率が改善するとしても,銀行利潤を減少させる結果となる。つまり,「オンバランス 証券化」の場合,銀行の収益は増加せずに証券化によるコストが嵩むこととなるという結 論に至った。深浦(2003)は,この結果について「証券化は資金調達経路を増やすという意 味で有利であるということは一面において事実であるが,銀行はそれによってより高価な 資本コストに直面せざるを得ない」(p90)と結論付けている。

実際「オンバランス証券化」の実際の案件は少なく,特に日本と中国においてはほとん ど行われていない。深浦(2003)はあえて「オンバランス証券化」を取り上げたのは,これ を一般に行われる「オフバランス証券化」と比較し,オフバランス効果をわかり易くさせる ためと考えられる。

「オンバランス証券化」と「オフバランス証券化」の最大の相違点としては後者では銀 行と投資家の間にSPVが介在している点である。銀行は保有する債権を一度SPVに売却し,

それを基づいてSPVが証券を販売する,その後販売代金を銀行に支払う。深浦(2003)は,

「オフバランスによる証券化」の意義を,「証券を発行するというSPVの機能は,オンバ ランスの証券化において銀行が行っていた機能をそのまま受け継いでいるに過ぎない。し かし,銀行に自由に用いることのできる流動性(ニューマネー)を与えるという意味では,

SPV は銀行に対してまったく異なる顔を見せる」と指摘している。この効果は前に考察し た「オンバランス証券化」にはなく,証券化のオフバランス効果による最大の意義ともい

100 える。

最後に深浦(2003)は2つの証券化を銀行利潤の観点から比較している,いずれの場合に おいても,銀行が「オンバランス証券化」を行うインセンティブは生じない。また「オフ バランス証券化」でも銀行の資金運用能力が高い場合に限り,のインセンティブが生じる ことになる。

このように深浦(2003)は理論的な分析によって,証券化の銀行にもたらす利潤について 説明を行っている。その結果,証券化のインセンティブが生じる前提として銀行の資産運 用能力が鍵となるという結論に至った。しかし,それ以上にオフバランス証券化とオンバ ランス証券化を比較して,証券化のオフバランス効果を明らかにした意義は大きい。証券 化から期待されるメリットの1つは,債権をオフバランス化することによって,バランス シート上の財務指標を改善できることにある。深浦(2003)は「証券化はオリジネーターの 負債構造を変えずに(つまり調達コストが変わらない),資産に対するオリジネーターの裁 量が拡大する(自由に利用できる形=ニューマネーになる)という変化である。」としてい る。これを第二章第三節で分析した中国の銀行の資金が固定化されている状況に照らし合 わせば,証券化を行うことで収益を期待する以外に一部の債権を現金化し,銀行の貸出余 力を増大させる効果は大きなインセンティブになるものと思われる。