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企業資産証券化のケーススタディと分析結果

第四章 中国における証券化の効果

第三節 企業資産証券化

2. 企業資産証券化のケーススタディと分析結果

聯通収益 計画 01

聯通収益 計画 02

聯通収益 計画 03

聯通収益 計画 04

聯通収益 計画 05

オリジネーター 中国聯合通信有限会社

原資産 2005 年 10 月 1 日から 2005 年 12 月 31 日 ま で の CDMA 回線リース 料収益権

2006 年 4 月 1 日 から 2006 年 6 月 30 日 ま で の 的 CDMA 回線リース 料収益権

2006 年第 1 四半 期の OTVIA 回線 リ ー ス 料 収 益

2006 年第 3 四 半期の OTVIA 回 線 リ ー ス 料 収 益権

2006 年第 4 四半 期の CmiA 回線 リース料収益権

発行総額 16 億元 16 億元 21 億元 21 億元 21 億元 債権期限 175 日 354 日 122 日 301 日 421 日 利息開始日 2005/8/26 2005/8/26 2006/1/20 2006/1/17 2005/12/20

償還期限 2006/2/16 2006/8/14 2006/5/22 2006/11/14 2007/2/14 収益率 2.55% 2.8% 2.55% 3% 3.1%

償還方法 パス・スルー

信用担保機関 中国工商銀行

信用評価機関 中誠信国際信用評価有限会社による信用評価 AAA

取引市場 上海証券取引所

表 20 「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」の発行内容

(出所)「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」発行報告書により筆者が作成

企業資産証券化はこれまで 16 件が行われたが,実際に企業本体が証券化を行った事例 は 2005 年に発行された「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」のみで,本論文ではこの

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案例を用いて証券化による企業への効果を①資本構成の改善による利益,②資本調達コス トの削減の有無,について分析したい。

「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」は通信事業会社の中国聯合通信有限公司 ( China Unicom)により一定期間の CDMA 方式および携帯電話ネットワークのリース料金を 裏づけとし,2005 年 8 月に発行された,中国で最初の企業資産証券化であり,その詳細 は表 20 のとおりである。

図 15 で示すように「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」は典型的な証券化スキーム によって組成されている。原資産は 2005 年から 2006 年までの CDMA 回線に対するリース 収益で,中国国際金融有限会社によって証券化商品の作成が行われ,合計 5 回の証券化商 品が発行された。

特筆すべきなのは証券化商品に対する信用補完措置である。「中国聯通 CDMA 回線リース 費用収益計画」では中国における証券化商品で初めて銀行による外部信用補完措置が施さ れている。中国工商銀行が原資産に対し一義的にそのリスクを引き受けたことがこの取引 のもっとも大きな特徴であった。その効果については後節において詳しく述べる。

図 15 「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」のスキーム (出所)「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」発行報告書により筆者が作成

(1) 資本構成の改善

まず,証券化による資本構成の改善による収益について分析を行う(表 21)。資本構成 CDMA リース債務者

オリジネーター 投資者 中国聯通有限会

リース代金

SPC サービサー

中国国際金融有限会社

信用担保機関 中国工商銀行

資産保管機構 中国工商銀行

リスク評価機関 リースによる収益

購入資金 購入資金

ABS 証券

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とはバランスシートにおける自己資本および他人資本の構成比率をいう。証券化は,企業 が一部の未収金資産を SPC に真正売買し,オフバランス化される。すなわち,未収金債権 が現金化される。もし,企業がこれらの現金を用いて負債の償還を行えば,企業の資産構 成に変化がもたらされる。中国聯通の場合,証券化前年度の負債総額が 73.16 億元,当年 度と翌年ではそれぞれ 63.3 億元,62.52 億元に下がっている82。また総資産に対する負債 の比率も 2004 年の 50.52%から 2006 年の 43.87%にまで下降している。加えて流動性資産 の割合を示す流動比率および当座比率はそれぞれ 10%ずつ上昇している。これらの指標は 企業の負債の割合が下がり,流動資産の割合が上昇することを示しており,財務構成の安 全性が上昇した。

証券化前年度 証券化当年度 証券化次年度

安全性指標

流動比率(%) 30.00% 37.00% 40.00%

当座比率(%) 26.00% 31.00% 36.00%

負債比率(%) 50.52% 45.75% 43.87%

収益性指標

ROA (%) 1.68% 2.01% 2.60%

ROE (%) 5.40% 5.97% 7.25%

営業収益の成長率(%)83 -12.91% 8.90% 30.68%

当期純利益の成長率(%)84 6.19% 15.02% 28.23%

効率性指標

未収金回転率(回) 12.88 15.23 19.82

棚卸資産回転率(回) 13.18 15.18 19.54

総資産回転率(回) 0.48 0.54 0.57

表 21 2004-2006年中国聯通財務指標の変化 (出所)筆者により作成

また,企業全体の収益にも影響を与えている。2003-2006年中国聯通の場合,リース債 権を含めた未収金債権の割合はおよそ流動資産の10%前後を推移している。未収金が過大 になると企業の流動資産を圧迫し,資産運用の効率性を損なう。証券化により未収金を現

82 中国聯合通信有限会社「有価証券報告書 2004-2007」貸借対照表による。

83 営業収益の成長率=((当期営業収益-前期営業収益)/前期営業収益)×100

84 当期純利益の成長率=((当期純利益-前期純利益)/前期純利益)×100

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金化すれば,新たな生産,販売促進を行うことができ,企業の利潤を高めることが可能と なる。収益性に関する指標は,いずれも証券化後増加しており,特に本業による収益をあ らわす営業利益では証券化期間中に約40%増加している。これらの収益増がリース債権の 証券化によるものと裏付けるものは,未収金回転率および総資産回転率の増加である。

(2) 資金調達コストの節約

企業が資金調達手法を選択する大きな理由は,資本調達コストの変化である。本節では 各融資手法によるコストの違いについて分析する。なお,株式および社債の発行は企業運 営上長期的な資金調達手法であり,短期的な資金調達手法である証券化とは本質的な違い がある。そのため,本節では証券化と同じ性質を持つ銀行融資,CP 発行,証券化の 3 つ のコストを比較する。

証券化コスト 銀行貸付利率 CP 利率

2.80% 5.58% 2%

表 22 2005 年中国聯通の資金調達コスト(年率)

(出所) 中国聯合通信有限会社「有価証券報告書 2005」により筆者が作成

表 22 では中国聯通の 2005 年における銀行融資,CP 発行,証券化のそれぞれのコスト の割合を示している。銀行による資金調達コストが 5.58%ともっとも高く,その原因は前 年度までの財務指標の低迷による信用評価の低下がある。一方,CP 発行利率は 2%ともっ とも低い。一見 CP 発行によって短期的な資金調達が最適であるように見えるが,実際そ うではない。CP は国内および国際の経済情勢や金融市場の情勢に影響されやすく,安定 性が悪い。1997 年に始まったアジア金融危機の際には中国における CP の利率が大きく上 昇し,中国聯通の CP 利率が一時 4.85%にまで上昇していた (李(2008)) 。これは企業の 経営に対する不安定要素である。これに対して証券化は企業全体の財務状況ではなく,一 部の資産の状況によって信用評価されるため,比較的にコストが安くなる傾向がある。加 えて「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」では信用保証機関により一義的にそのリス クを引き受けているため,証券化商品に対する信用評価は信用保証機関である中国工商銀 行と同等の AAA を得ている(中誠信国際信用評価有限会社(2005))。これにより調達コスト が大きく引き下げられた。また,企業資本構成の改善も資金調達コストの節約に間接的な

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役割を果たしている。リース債権を証券化により現金化することで企業の負債比率が下が り,加えて資産の流動性指標の改善にも繋がった。これは企業が伝統的な金融手法で資金 調達の際の信用評価を改善すると考えられ,結果的により優遇された条件での融資を可能 にする。

しかし,Schwarcz(1994)が指摘したように,証券化による資金調達コストの引き下げ効 果を達成するにはある程度(Schwarcz(1994)の場合は下限 500 万ドル)の発行規模が必要 である。つまり中小企業などが単体での小規模融資を行った場合,証券化の手数料や発行 費用などの固定費用の高騰により,逆に資金調達コストが増加する恐れがある。

以上,企業による資産証券化の効果について「中国聯通 CDMA 回線リース費用収益計画」

を例に案例分析を行った。その結果,リース債権の証券化により企業の資産構成に変化が 生じ,結果企業の収益性および安全性指標の改善が見られた。また調達コストの面からも CP 発行より高いが,銀行融資より著しく低いことが分かった。