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第一章 証券化に関する理論

第三節 各国における証券化

3. 欧州の証券化市場

欧州諸国13における証券化市場は米国に次ぐ規模であるが,その発展は 1990 年代にな ってからであった。欧州の多くの国は資産証券化が行われるかなり以前に証券化と類似し たカバードボンド14(Covered Bond)を発行しており,金融機関において資産の流動化が当 初から活発に行われていたことから,逆に米国的の資産証券化商品の浸透が遅れたと考え

13 本論文における欧州諸国は EU 加盟諸国のことを指す。

14 カバードボンド(Covered Bond)とは金融機関が住宅ローン債権などを裏づけ資産として発行する債券 の一種で,資産証券化商品と違い,発行後も負債として発行者のバランスシートに計上されることが特 徴。

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 リース•クレジット債権担保分 売掛債権 担保分 一般貸付 債権担保分

住宅貸付債権担保分 ABCP その他の資産担保型債券

不動産関連 債券 機構MBS

36 られる。

欧州において本当の意味での資産証券化商品は 1980 年代になってから発行されている。

それは 1985 年に英国において政府系住宅金融機関によって発行された住宅用モーゲージ ローンを裏づけとする MBS 商品であった15。これは米国における初期の資産証券化と類似 していたこと,英国は米国と同じ法体系に属していることなどから,証券化への制度的な 対応が比較的容易であった背景がある。この背景をもとに,英国では 1980 年代において MBS 商品を中心に発行し,欧州最大の証券化市場を有していた。さらに 1995 年になると 欧州において初めてとなる個人貸付債権を裏づけとする証券化商品が発行された。これを 皮切りに企業に対する貸付債権,リース債権,クレジットおよび自動車ローンなどを原資 産とする金融資産証券化商品が先駆的に発行された。高橋(2006)は,欧州証券化市場にお いてもっとも特徴的な証券化商品として,事業の証券化(Whole Business Securitization:

WBS)を挙げている。事業の証券化は企業や金融機関が所有する資産ではなく,特定の事業 全体から生じる将来キャッシユ・フロ一を証券化するものであり,これまでに行われた事 例としては,水道事業などの公衆事業,または医療介護関連分野などが多い16

他方,英国と同じ規模の金融市場を持つドイツでは,資産証券化市場の発展がかなり立 ち遅れていた。その原因としてはドイツでは欧州で最も大規模のカバードボンド市場を既 に存在しており,金融機関にとって証券化による資産の流動化を行う必要性が小さかった ことにある。そのため 1999 年までにドイツで発行された MBS 商品はわずか 5 件にすぎな い。この状態が 2000 年前半まで続き,2004 年から郵便事業改革の一環として郵便関連企 業年金の証券化が行われたことで証券化市場が成長をはじめる。2008 年までの証券化商 品の内訳を見ると約 4 割が郵便関連企業年金の関連商品であった事から,ドイツ証券化市 場の単一性が窺える (高橋(2006)) 。

高橋(2006)は欧州諸国における証券化は,英国とドイツを除けば,証券化に対して独自 に法整備を進めたことが大きな特徴としている。この時代の欧州では米国と同様金利,為 替の変化,金融市場の自由化に加え,1980 年代において途上国を中心に経済の発展の減 速がみられ,多くの国で発生した債務危機も証券化市場の発展に大きく影響していた。国 際的な債務危機により,途上国に対して貸付投資を行った銀行では大量な不良資産が発生 し,同時にこれらの銀行は資産の流動性も下がり,銀行の資産リスクを増大させた。これ

15 SIFMA の公表資料(Europe Structured Finance Issuance and Outstanding)による。

16 公益財団法人日本証券経済研究所編集(2012)の内容を筆者が要約。

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らの銀行の多くは欧米などの先進国に拠点をおいているものであり,後に欧州を中心とす る証券化による不良債権処理が大量に行われたことの原因の 1 つとして考えられる。

欧州においても比較的に早期から証券化を行ったフランスでは,1988 年に証券化の導 入に先駆け,まず特殊証券法律を可決していった。しかしながらその後,1988 年から 1993 年には,フランスの証券化市場には 57 の証券化商品しか発行されず,伸び率は低い。原 因としてはオリジネーターを金融機関に限定していたことにあり,1980 年代中頃の金融 自由化による銀行業の預金吸収難に陥っていた金融機関に対し,新たな資金調達手法を確 立させる必要があったとされている。これが結局証券化市場の成長を圧迫する原因となる。

これに対してフランスは証券化に対して規制を緩和する証券化改正法案を導入したこと により,フランスの住宅ローンの証券化やクレジット·ローン証券化が発展し始めた。

イタリアにおいても 1999 年に証券化に関する法律を制定し,証券化における対象資産,

オリジネーター,SPV の定義を明確化させ,自国の証券化市場に刺激を与えた。その結 果,翌 2000 年にイタリアの資産証券化商品の発行金額は 4 倍に成長し,英国に次ぐ欧州 2 番目の証券化大国になり,自国の不良債権の処理や中小企業資金調達など問題の解決に 繋がった。このように欧州において特に 2000 年以降の証券化市場の発展は著しく,2009 年までに発行額が 3064 億ドルにまで成長し,米国に次ぐ第 2 位の証券化市場となった。

図 6 1985-2013 年欧州における証券化市場の発行規模および証券化商品の内訳 (単位:百万ドル) (出所)SIFMA 公表データにより筆者が作成

このように欧州諸国では,それぞれの国が自国の事情に応じて証券化商品を発展させて いる。図 6 で示した 2013 年までの欧州における証券市場の内訳を見ると,最も大きい割 合を占めているのは個人住宅モーゲージを裏づけとする MBS 商品,全体の 65.49%である。

さらに個人消費関連の貸し付けも高く,自動車ローン,クレジット債権などの裏づけ資産 0

500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000

ABS CDO MBS SME WBS

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とする ABS が盛んに発行されている。これに加え,欧州証券化市場における特徴の 1 つと して,中小企業貸し付け証券化商品の SME 発行が挙げられる。これは全証券化商品の約 10%を占める割合で年間 2131 億ドルの資金が中小企業に供与されている17。これほど柔軟 に証券化商品を開発できたことは,英国とドイツを除く諸国において,その時々の経済事 情や金融市場の重要に応じて法改正を行ったことはもっとも大きな役割を果たしたと考 えられる。さらに近年,欧州諸国における金融資産証券化においては単なる不良債権処理 にとどまらず,銀行の自己資本比率対策や,リスク・マネジメント上の必要から証券化が 実施されることが多くなっており,更なる法規の改正が予想される。

小括

本章ではまず証券化の定義とその仕組みについて研究を行った。その結果,証券化とは 流動性が低くかつ将来的キャッシュ・フローが期待できる資産を元に資産プールを作成し,

独立した SPC に真正売買し,さらに信用・流動性補完などの措置を施し,リスクや配当が 異なるエクスポージャーを持つ証券にする一連のプロセスであるという認識に至った。さ らに証券化プロセスにおいて多くの参加者と複雑なスキームが存在する。この複雑な仕組 みにより証券化は単なる資金調達としての金融手段にとどまらず,金融市場や取引の参加 者にその他の効果を与えることができることを明らかにした。

さらに日米欧における証券化発展の経緯およびその経済的背景についても要約した。主 に金利および為替などの変動リスクの増大による経済環境への影響や世界的な規模にお ける金融市場の自由化さらに BIS 規制をはじめとする先進国を主とする銀行部門への自 己資本規制の強化が挙げられる。このような時代の背景において,各国の銀行をはじめと する金融機関が不確定的なリスクを多く抱えさらに増加する不良債券への対応,厳しい自 己資本への規制から証券化という方法を用いてリスク・ウエィトの高い資産や不良債権の オフバランス化を図った。この背景により 90 年代半ばまで各国においてそれぞれの証券 化市場が自国のニーズに応じて大きく発展してきたと推察できる。

各国では 1970 年代半ばから 80 年代にかけて金利や利率の大幅の変動やオイルショック,

債務危機などの経済環境の中において銀行をはじめとする金融機関が従来の安定的な成 長による利益確保が難しくなり,さらに資産の変動リスクが上昇する背景のもと,証券化 によるリスクの分散や利益の確保を求めた。さらにこれに加え BIS 規制や各国における金

17 SIFMA の公表データ(http://www.sifma.org/research/statistics.aspx)による。