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第四章 中国における証券化の効果

第一節 証券化による影響の先行研究

1. 金融市場に対する影響

(1) 金融市場の効率性向上

証券化取引は 1 つの新しい金融手法として金融市場にある資金に対する需給を仲介し,

金融資源配分の効率性を上昇させる。高橋(2004),志村(2006)はいずれも,証券化を企業,

金融機関の新たな資金調達の方法としてとらえた上で,伝統的なコーポレート・ファイナ ンスに対照する形で,企業の資産に依存した証券化をアセット・ファイナンスと表現して いる。証券化は対象資産の信用のみに依存する融資方法で,格付けの高い資産はより優遇 された条件で資金調達を行うことができる。そのため,資産所有者のオリジネーターの信 用評価が低い場合でも,所有している優良資産が低いコストで資金を調達することができ,

金融市場にある資金が効率性のよい資産・事業へ誘導させることができる。さらにこれに

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より,より高い収益を生み出すことができ,市場全体で見れば,資本効率性の向上にもつ ながる。

また,金融市場の信用仲介能力で見れば,証券化によって資金の貯蓄から需要への新し いチャネルが開かれる。伝統的金融の中において資金の需要者は銀行,もしくは債券,株 式を用いて資金調達を行う。一方証券化は自らの金融資産を裏づけとし,証券を発行し資 金調達を行う方法で,その最大の違いは後者がフローを増大させずにストックを活用して いる点にある。これによって金融市場全体の資産の運用効率性向上にも影響を与える。序 章においても述べたように中国において今後の貨幣政策は緩和的な政策から「資本総量を 増やさずに,現在の資本を積極的に活用」という方針転換がされた後に,証券化を用いた 資金調達はより政府の方針に沿った方法となる。

さらに証券化は,社会における金融市場の情報に対するコストを引き下げる効果がある (Popper (1994))。一般的には金融市場において情報の収集者が多ければ,情報量が増え,

情報に対するコストも下がる傾向にある。従来,銀行を依存した金融システムはごく限ら れた(銀行,政府監督部門など)情報収集者しかいなかった。それに対し証券化のプロセス においては債権者である銀行のほかにリスク評価機関や信用・流動性補完機関,サービサ ーなど幾つかの参加者が情報の収集に従事しており,コストを引き下げ,情報の利用効率 を引き上げる効果がある。情報の効率性に加え,証券化のプロセスの中において多くの資 産をプールしそれぞれの金融機関が貸出,販売,リスク評価回収など業務を分担するため,

資産に対する同じ金融機関による重複的な作業をまとめることができ,規模の経済性が実 現できる効果がある。そのため金融市場全体における効率性が改善される。

格付けの高い資産はより優遇された条件で資金調達を行うことや金融機関の情報に対 するコストが引き下げられことによる影響については③銀行部門収益性の改善と⑤企業 の資金調達コストの節約に繋がると考えられる。

(2) 情報の非対称性の改善

金融が経済の中における役割の 1 つとして資金の余剰者と資金の需要者に対する金融 仲介が挙げられる。しかし金融仲介において市場の参加者に対して常に情報の非対称性が 存在している。情報の非対称性とは Milgrom&Roberts (1992)が提唱した理論で,一般的 には売り手が立場や専門知識の優位性から買い手の知りえない商品の品質などに対する 情報を有している。これに対して買い手は商品の品質に関する情報を売り手からの説明に

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依存するしかない。しかし,売り手には商品の品質を買い手に正しく伝える動機がないた め,買い手は商品の品質に関する情報について購入するまで知らない。このように,市場 における当事者間の情報保有が対等ではなく,情報の優位者と情報の劣位者が存在する状 況を情報の非対称性という。金融取引の場合,金融機関(売り手)と資金の供給者(買い手) は情報格差により金融市場において逆選択やモラルハザードがしばし発生し,市場におけ る円滑な取引が困難になるケースもある。

スティグリッツ(2003)では銀行の存在を資金の供給者と調達者の間に存在する情報格 差に由来すると主張している。それによれば,銀行は大量の情報を収集することにより,

貸出契約の設計や監督を行い,投資者に代わりリスクを抑えてきた。銀行は金融業に精通 した専門家である一方,一般の預金者は銀行が持つような能力・知識を備えていないため,

長い間銀行による仲介を頼ってきた。しかし銀行は経営情報を開示することは少なく,結 果預金者にとってリスクは減少したものの情報格差は依然として存在する。

これに対して DeMarzo&Duffie (1999)および Hill (1996) は金融市場の情報の非対称性 は証券化によって解消されるとしている。証券化は資金調達者に関する情報の収集と処理 の面において銀行より進んでいる。証券化は SPV を主体に様々な参加者が情報を収集し SPV に提供している。これらの参加者には銀行部門のみならず,保険や会計,法律上の専 門家が多く集まり,情報ツールが多様的である。さらにこれらの情報は投資家に積極的に 開示された結果金融市場における情報の非対称性が改善される。

これら証券化による金融市場に存在する情報の非対称性を改善する影響は直接銀行部 門と企業部門には及ぶことはないが,しかし情報の非対称性を改善することは銀行部門の 情報収集コストを引き下げ,さらに企業部門も優遇された条件で資金調達を行うことがで きる。結果的に③銀行部門収益性の改善と⑤企業の資金調達コストの節約に繋がると予想 できる。

(3) 金融市場資産の再配分

深浦(2003)は,流動化(証券化)によって流動性のない経済的な機会に流動性を与えるこ とによって,異時点間の資源配分を円滑に進められるとしている。伝統的な金融手法と異 なり,証券化は特定の金融資産またはその将来的キャッシュ・フローの信用を基礎に資金 調達を行う。すなわち,非流動的資産を基礎に流動性が強い証券を発行する金融技術であ る。非流動的資産を金融市場で再取引できることは市場の資産再配分にもつながる。

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特に,貸付債権証券化を例に,中長期的な貸付を行った銀行は自らの資産の流動性を高 めようと債権の譲渡先を求めていると同時に余剰資金を持つ投資者も見合った格付けの 投資対象を求めている。証券化はこうした資金の需給双方に対して金融仲介を行い,社会 全体における資金の配分と資金の利用効率の引き上げを果たしている。第二章の分析で明 らかにした銀行資産預貸期間アンバランス問題についてはオリジネーターである銀行な どの金融機関にとって自らの貸付による長期的な資産を現金化するが,依然として貸付に 対して管理回収を行っており,マクロ的な視点から社会的資源の利用の面から見て資産の リスクを減らし,収益を引き上げる効果が大きいと考えられる。

ストラクチャード・ファイナンスとは資産をオリジネーター本体の信用力から切り離し,

信用および流動性に対する加工の性質を持つ金融手法である。Iacobucci&Winter (2005) ではこの過程において,資産資源の再配分が行われるとしている。証券化において当該資 産をオリジネーターから切り離し,SPV に移譲し,「真正売買」を行われる。そのため,

リスク評価機関によるリスク評価が行われる時にオリジネーター全体の信用ではなく当 該資産のみの信用が対象となる。銀行など膨大の資産を有するオリジネーターの場合,一 資産あたりに対する信用評価のコストは全体に対する信用評価のコストよりかなり安く,

銀行にとって,融資コストが引き下げられていることになり,資産の運用効率が向上する 効果も得られる。

こうしたオフバランス効果による影響は①銀行の資産構成の改善,②自己資本比率規制 の問題への対応,④証券化による企業資産構成の改善の効果をもたらすと予想され,さら に融資コストが引き下げられていることになり,資産の運用効率が向上される影響で③銀 行部門収益性の改善と⑤企業の資金調達コストの節約に繋がると考えられる。