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第5章 鉄筋のモデル化

5.2 鉄筋のモデル化

鉄筋コンクリートは,鉄筋とコンクリートの複合材であり,引張に弱いコンクリートを鉄筋 が補強することでじん性や耐力を向上させている.補強用の鉄筋は鋼材の細い棒である.

鉄筋をモデル化する際には,梁要素やロッド要素のような線材でモデル化する方法と,要素 を重ね合わせるように,積層に鉄筋を定義する方法がある.

線材を用いる場合は,実際の配筋のまま忠実にモデル化できるため,鉄筋1本1本を評価で き,かつコンクリートとの力の伝達を直接評価できる利点がある.ところが,解析モデルが大 きくなるに従い,モデルの大きさに対する配筋間隔は短くなるため,メッシュサイズが非常に 小さくなり,要素数が増大するのが欠点である.実験のシミュレーションでは,試験体が柱や 梁などの建物の一部分であり,モデル化の領域が小さいので,実際の鉄筋を全てモデル化して も要素数はあまり多くはならないが,建物全体を計算する場合は,内部の鉄筋を全てモデル化 するのが困難となる.要素数の上限によりメッシュサイズを細かくできない場合は,数本の鉄 筋を1本にまとめてモデル化したり,コンクリートの被り厚を無視して表面に鉄筋を配筋した りするなど,要素数が増加しないように工夫する場合もある.

積層に鉄筋を定義する方法は,壁やスラブなど平面上に規則的に配筋されている場合に特に 有効であり,メッシュサイズが配筋の影響を直接受けないのが利点である.逆に,1 本の鉄筋 やその周囲の状態に着目した検討ができず,また,鉄筋層とコンクリート層の付着も考慮する ことができないといった欠点がある.

本研究では,簡便に取り扱うことができる,後者の鉄筋を積層に定義する方法を用いる.

まず,積層要素について説明する.この考え方は,図 5.2.1 に示すように,鉄筋の軸方向を 考慮した異方性の剛性をもつ薄い板要素を、コンクリートに重ね合わせる方法である.要素は 1つのコンクリート層と複数の鉄筋層で構成する.鉄筋層は,1層で鉄筋の軸方向とダウエル効 果を考慮する場合は軸に直交方向の剛性を持つ.したがって、縦横に配筋する場合は、2 層の 鉄筋層を定義する.

鉄筋層1層目

コンクリート層 鉄筋

鉄筋コンクリート 積層要素

鉄筋層2層目

図 5.2.1 積層要素の説明

鉄筋層の層厚は,鉄筋の断面積の合計が等しくなるように定義する.例えば,図 5.2.2 のよ うな鉄筋コンクリート(幅 ,厚さ )があり,1本の断面積が である鉄筋5本で補強されて いるとする.鉄筋の総断面積は であり,鉄筋比 は である.このとき,鉄筋 層の層厚 を鉄筋の断面積合計と等しくなるようにすると, で求められる.

鉄筋層は異方性材料であり,ダウエル係数をゼロとした場合は鉄筋の剛性は軸方向のみとな る.このため,コンクリートの断面積を鉄筋の分を除外して求めると,鉄筋の軸に直交する方 向の剛性やせん断剛性が過小評価されてしまう.したがって,厚みを低減させずに全体の厚み

をコンクリート層の層厚とする.

鉄筋(断面積 ×5

鉄筋層

図 5.2.2 鉄筋の層厚

HPMに対し鉄筋を積層要素として定義する場合には,部分領域と部分領域間の境界に対して 鉄筋を考慮する必要がある.その方法として,以下の3つの方法が考えられる.

(方法1) 部分領域とペナルティでそれぞれ積層に剛性を重ね合わせる方法

(方法 2) 各層でひずみの自由度を分離し,コンクリート層と鉄筋層で別々にひずみを計算

できるようにする方法

(方法3) 鉄筋は部分領域間の一軸積層モデルとして積層に重ね合わせる方法

方法1 では,図 5.2.3 に示すように,部分領域内はコンクリート層と鉄筋層で積層に剛性を 重ね合わせて定義する.ペナルティ関数はコンクリート層の境界にのみ定義し,鉄筋層はペナ ルティを考慮しない鉄筋剛性を定義する.ひび割れたときは,コンクリート層のペナルティ関 数をゼロにすれば,境界では鉄筋層の剛性のみが作用することになる.

ところが,鉄筋のばね定数を評価するためには,ばねの長さが分からなければ算定出来ない.

ひび割れた直後は,境界のばねの長さ がほぼゼロであるため,ばね定数は より計 算すると無限大となる.ここに, は鉄筋のヤング係数, は鉄筋の断面積である.

このような問題を解決するために,ひび割れ後の境界のばね定数は,あらかじめコンクリー トの付着を無視する長さを仮定し,ばねの長さとして算定する方法が考えられる.しかしなが ら,付着を無視する長さを定める情報が無く,構成則の不確定要因が増えてしまう.

鉄筋層部分領域 鉄筋層境界

コンクリート層部分領域

コンクリート層境界

図 5.2.3 部分領域と境界を積層要素とした場合(方法 1)

方法2は鉄筋の境界は分離させずに,鉄筋のひずみの自由度をコンクリートのひずみの自由 度と分離して計算する方法である.

図 5.2.4 にコンクリート層と鉄筋層のひずみのイメージを示す.理解し易いように変位およ びひずみの水平成分のみを考える.部分領域 a,b の剛体変位をそれぞれ , とすると,ab 重心間の相対変位は,

(5.2.1) となる.ここに, , はそれぞれ部分領域a,bの重心から境界までの距離, , はそれ ぞれ部分領域a,bのひずみ, は部分領域a,bの境界の相対変位である.

一方,鉄筋は,鉄筋が降伏するまでペナルティを分離させないため,鉄筋のひずみはひび割 れ幅を考慮して下式のようになる.

(5.2.2) ここに, , は鉄筋層のひずみである.相対変位は鉄筋層のひずみで表すことができる.

鉄筋層部分領域

鉄筋層境界

コンクリート層の部分領域と境界の変位 ひび割れ幅

鉄筋層の部分領域と境界の変位 コンクリート層

部分領域

コンクリート層境界

図 5.2.4 鉄筋層のひずみの自由度を分離した場合(方法 2)

この方法は,本研究においても一旦試した方法である.一見正しく計算できそうであるが,

この方法ではコンクリートの剛体変位と鉄筋のひずみの自由度を正しく連成させることができ ないため,鉄筋のひずみを求めることができない.今後,改善される可能性もあるが,本研究 ではこの方法ではなく,次の方法3を用いる.

方法3 は,図 5.2.5に示すように,鉄筋層を剛体間の一軸のばねとして定義し,接続する方 法である(一軸積層モデルとよぶ).コンクリート層は部分領域の図心が評価点であり,そこで 剛体変位とひずみの自由度を持ち,境界の変位は剛体変位とひずみから求められる.一方,鉄 筋層は,剛体変位に対して一軸のばねを重ね合わせることにする.コンクリートは部分領域と 境界のペナルティが連成するが,鉄筋は重心間の相対変位の鉄筋軸方向に対して作用するばね

となる.次節に鉄筋の剛性マトリックスを算定する方法を示す.

鉄筋層のばね

剛体 剛体

コンクリート層 コンクリート層

ひび割れ

図 5.2.5 鉄筋を一軸ばねとして積層に重ね合わせる方法(方法 3)