第3章 引張破壊に対する構成則
3.6 ひび割れのメッシュ依存性
さらに,デローニ三角形分割では分割領域がランダムな配置となるため,均一分割に比べて 現実的なひび割れの進展が得られる.均一分割の場合とデローニ三角形分割の場合のひび割れ 伝搬についての模式図を,それぞれ図 3.6.2,図 3.6.3に示す.図 3.6.3のランダムな要素分割 の方が図 3.6.2の均一分割よりも多様なひび割れ経路を再現できると考えられる.
コンクリートは均一材料ではなく粗骨材が混在した材料である.そのため,実際のひび割れ 面は綺麗な直線ではなく凸凹した形となる.ランダムなデローニ三角形分割を用いるとひび割 れ経路がジグザグとなり,実現象として現れる凸凹のひび割れ面を表現するのに都合がよい.
進展方向が限られており,直線的で ひび割れが途中で止まってしまう
図 3.6.2 均一分割のひび割れ進展の模式図
多様なひび割れ進展経路がある
図 3.6.3 デローニ三角形分割のひび割れ進展の模式図
3.6.2 ひび割れ面のせん断伝達機構
分布ひび割れモデルでは,ひび割れが開いている状態でもひび割れ幅に応じてひび割れ面に 平行なせん断力を伝達するようにモデル化されており,実験結果から様々なひび割れ面のせん 断剛性の提案式が求められている.ひび割れ面にせん断力が伝達するのは,骨材が影響しひび 割れ面が平らではなく,ひび割れ面のずれに対して抵抗するためである.
一方,離散ひび割れモデルでは,実際のひび割れ面の凸凹とは異なるがランダムな領域分割 により複雑な形状となり,機構としてせん断力が伝達するため,分布ひび割れで用いられてい るようなせん断伝達機構をモデル化するとせん断抵抗を考慮しすぎることになる.
図 3.6.4 に離散ひび割れのひび割れ形状がせん断に対して抵抗する様子を示す.ひび割れ面 に平行に近い方向にずれる場合,ひび割れが一定方向ではないために,ひび割れが開く部分も あるが閉じる部分も現れる.ひび割れが閉じるとそれ以上動かなくなり,これがせん断抵抗と して働くと考えられる.したがって,本研究では,ひび割れ面のせん断伝達機構のモデル化は 行わないことにする.
このように,離散ひび割れを考慮すると,ひび割れ方向のみならずせん断伝達機構もメッシ ュ依存となることに注意する必要がある.
ひび割れ面は直線ではない
ずれによりひび割れ面が 接触する面
図 3.6.4 ひび割れ後のせん断伝達機構
3.7 まとめ
第3章では,コンクリートのひび割れによる進行性破壊の計算に適した,引張破壊に対する 構成則について述べた.HPMでは,部分領域境界における法線方向引張力によりひび割れ判定 を行う.ひび割れ後の引張軟化曲線による解放応力の算定方法について説明し,引張軟化曲線 の具体的なモデル化について経験式を調査して検討した結果を示した.
3.2節では,HPMにおけるひび割れのモデル化について説明した.コンクリートのせん断 破壊の局部をみれば,そのメカニズムは引張によるひび割れによる破壊であり,連続体の構成 則としては,引張によるひび割れ破壊をモデル化すればよい.HPMでは,この考えを基にモー ドⅠのひび割れのみを考えてモデル化を行った.HPMにおける具体的なひび割れ判定方法と,
部分領域境界の接続をなくして離散ひび割れを表す方法について説明した.
3.3節では,コンクリートの引張軟化曲線を表す既往の研究を基に,HPMに導入する具体 的なモデル化を検討した.「コンクリートの破壊特性の試験方法に関する研究委員会報告[11]
(コンクリート工学会)」による,複数の研究機関で行われたコンクリートの三点曲げ試験によ る共通試験結果があり,その試験結果と経験式を比較することで検証した.中村ら[41]が整理 した引張軟化曲線の経験式を参考に, 規定モデルである Hordijk ら[42],Ratanalert ら[43],
Planasら [44],Yonら[45]による方法,および 無規定モデルであるGopalaratnamら[46],Duda ら[47],Hillerborgら[48]による方法を検討した.その結果,HPMに導入する経験式として,Hordijk らの式が適していることがわかった.
3.4節では,ひび割れ後の繰り返し履歴特性のモデル化について説明した.Yankelevskyら [49]の試験結果によると塑性変形がみられるが,本研究では単調載荷のみを取り扱い,繰り返 し載荷を行わないことと,部分領域内部の塑性と明確に分離して考えるために,塑性変形を考 慮しない,原点指向型の履歴特性について説明した.
3.5節では,引張軟化曲線を表すために必要なひび割れ後の解放力の算定手順を示した.
ひび割れ後は引張軟化曲線を反映してひび割れが開いていくに従い応力を解放する.その解放 応力増分を部分領域境界で積分して,不釣り合い力として荷重項に作用させる方法を示した.
3.6節では,離散ひび割れが領域分割に依存するため,領域分割の影響を低減させる方法 を示した.RBSM では,ボロノイ分割を用いることで領域分割の依存性を改善している[50].
HPMでは部分領域は弾性体を用いているので,ボロノイ分割の中心点を結んで得られるデロー ニ三角形分割を適用した.冨田ら[51]はデローニ三角形分割を適用したランダムな領域分割を 用いることでひび割れを比較的良好に再現することができ,領域分割の違いによる影響は小さ
いことを示している.本研究では,谷口の方法[52]を参考にデローニ三角形分割を適用した.
また,デローニ三角形分割を用いた場合は,分割形状がランダムになることから,ひび割れ面 が直線にならないため,ひび割れ面のせん断応力が実現象に近い機構で伝達されるという考え を併せて示した.