• 検索結果がありません。

第3章 引張破壊に対する構成則

3.3 引張軟化曲線

3.3.1 引張軟化曲線試験結果

コンクリートの破壊性状を解明するために,これまで数多くの引張試験や曲げ試験が行われ てきた.コンクリートの構成則は,これらの試験結果に基づいて経験式を設定し,用いられて いる.近年では試験機や計測器の性能向上により試験の精度がよくなり,最大強度を超えて軟 化する現象である引張軟化曲線を得ることができるようになった.

「コンクリートの破壊特性の試験方法に関する調査研究委員会報告[11](コンクリート工学 会)」によると,全国11ヶ所の研究機関で破壊エネルギー試験が行われ,図 3.3.1に示す引張 軟化曲線が得られた(以下,共通試験結果とよぶ).試験方法は切り欠き梁3点曲げ試験である.

この試験方法は,RILEM法[10]が適用でき,近年最も一般的なコンクリートの破壊靱性試験で ある.

引張軟化曲線の面積で求められる破壊エネルギー のバラツキは,図 3.3.1をみると切片で ある割裂引張強度のバラツキと相関があるようである.平均的な引張軟化曲線を定義し,割裂 引張強度の大きさにより引張軟化曲線を上下に移動させると,概ね試験結果を満足する曲線が 得られると考えられる.

図 3.3.1 共通試験による引張軟化曲線[11]

RILEMの切り欠き梁の3点曲げ試験による破壊エネルギー試験推奨案を元に,コンクリート 工学会の委員会で提案した標準試験方法の試験体と供試体寸法を図 3.3.2に示す.

試験機ヘッド ロードセル

丸鋼棒

供試体

ローラー 丸鋼棒

 =20~30 mm

S=3D da:粗骨材の最大寸法

≧40mm

≧40mm

D≧5da

a0=D/2 N≦5mm

図 3.3.2 切り欠き梁の 3 点曲げ試験[11]

破壊エネルギーを求めるために,荷重と載荷点変位を計測する必要があるが,計測の精度と 簡便性を考慮して切り欠きの肩口開口変位(CMOD)を計測し,0.75倍して載荷点変位に換算 している.試験結果より破壊エネルギーは式(3.3.1)で求められる.

(3.3.1)

(3.3.2) ここに, :破壊エネルギー(N/mm)

:供試体が破断するまでの荷重-CMOD曲線下の面積(N・mm)

:供試体の自重および載荷治具がなす仕事(N・mm)

:リガメントの面積(mm2),

:供試体の質量(kg)

:載荷スパン(mm),

:供試体の全長(mm)

:供試体に載っている治具の質量(kg)

:重力加速度(9.807 m/s2

:破断時のひび割れ開口変位(mm)

載荷点変位に換算する係数0.75は,図 3.3.3に示すように試験体が剛体変形していると仮定 して式(3.3.3)の関係より得られる.

(3.3.3)

図 3.3.3 載荷点変位と CMOD の関係

3.3.2 引張軟化曲線の適用性の検討

(1) 引張軟化曲線の近似手法の比較

コンクリートの引張試験および曲げ試験より得られた引張軟化曲線および破壊エネルギー を評価するために,さまざまな引張軟化曲線の近似手法が提案されている.

本研究では,中村ら[41]が示す多くのモデルの中から,引張試験結果と比較して Hordijk[42]

らが提案する経験式の精度が良いと判断した.その過程を説明する.

引張軟化特性の評価方法は数多くあり,中村ら[41]は既往の引張軟化特性の評価方法を整 理・体系化した.軟化形状の評価手法の分類を図 3.3.4に示す.Hordijk[42]らの提案式はe関数 型に分類され,竹内ら[32]がRBSMに導入した引張軟化曲線はべき乗関数型の3乗モデルに分 類される.

Dugdaleモデル 長方形型

シンプルリニアモデル リニア型

イニシャルリニアモデル バイリニア型 1/3モデル

1/4モデル 1/5モデル

CEB-FIPモデルコード1990

逆解析FEM バイリニア型

3直線モデル トリリニア型

べき乗関数型

関数型 n乗モデル

ひずみ速度モデル e関数型

双曲線関数型 多項式関数型 J積分法

ポリリニア型 新J積分法 修正J積分法 拡張J積分法 新修正J積分法 実験法 多重切断法

(直接引張試験)

半解析法 J等価Dugdaleモデル法 逆解析法 ステップ近似法

断面解析法 増分ステップ法

軟化曲線の評価手法 応力拡大係数重ね合わせ法

FEM

中村ら[41]らが整理した引張軟化曲線の経験式を抜粋して以下に示す.式中の値の単位は引 張強度 (MPa),破壊エネルギー (N/m),限界仮想ひび割れ幅 (mm)である.ここに,

限界仮想ひび割れ幅 は,引張応力がゼロになるときのひび割れ幅を示す.

中村ら[41]によると,関数型の経験式は, と から を規定するモデル( 規定モデル)

と無規定のモデル( 無規定モデル)の2種類に大別できる.それぞれについて,以下に経験 式を抜粋して示す.

① 規定モデル

規定モデルについて,以下に 4 種類の式を示す.これらの式の中で,Hordijk らによる式 (3.3.4)は,既往の実験結果との対応関係でよく一致すると報告されている[41].

Hordijkらによる方法[42]

(3.3.4)

Ratanalertらによる方法[43]

(3.3.5)

Planasらによる方法[44]

(3.3.6)

Yonらによる方法[45]

(3.3.7)

ここに, :ひずみ速度=0.0005 (1/sec) (文献範囲0.0005~0.25)

:動的引張強度 (MPa)

② 無規定モデル

無規定モデルについて,以下に3種類の経験式を示す.

Gopalaratnamらによる方法[46]

(3.3.8)

Dudaらによる方法[47]

(3.3.9)

Hillerborgらによる方法[48]

(3.3.10)

無規定モデルについて,試験結果と比較した.式(3.3.8)に示す Gopalaratnam らの方法と,

式(3.3.9)に示すDudaの方法,および式(3.3.10)に示すHillerborgらの方法で求めた引張軟化曲線 を図 3.3.1の試験結果と重ねて図 3.3.5に示す.図の(a) が =0.1(N/mm)の場合であり,(b)

が =0.08(N/mm)の場合である.図中青い線で示すGopalaratnamらによる方法は, が反

映されないため を変えても両者同じ曲線である.Hillerborg らによる方法は試験結果によく 対応している.

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

Gopalaratnam Duda

Hillerborg

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

(a) Gf=0.1 (N/mm)

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

Gopalaratnam Duda

Hillerborg

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

(b) Gf=0.08 (N/mm)

図 3.3.5 wc無規定モデルと共通試験結果(黒線)[11]の比較(ft=3.43 MPa)

次に, 規定モデルの方法を試験結果と比較した.式(3.3.4)に示すHordijkらによる方法,式 (3.3.5)に示すRatanalertらによる方法,式(3.3.6)に示すPlanasらによる方法,および式(3.3.7)に 示すYonらによる方法の引張軟化曲線を図 3.3.1の試験結果と重ねて図 3.3.6に示す.図の(a)

は =0.1(N/mm)の場合であり,(b) は =0.08(N/mm)の場合である.この中で,Hordijk

らによる方法が全てのひび割れ幅において試験結果に対応することが確認できる.

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

Hordijk Ratanalert Planas Yon

(a) Gf=0.1 (N/mm)

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

Hordijk Ratanalert Planas Yon

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

(b) Gf=0.08 (N/mm)

図 3.3.6 wc規定モデルと共通試験結果(黒線)[11]の比較(ft=3.43 MPa)

以上より,式(3.3.4)に示す 規定モデルであるHordijkらによる方法が既往の実験結果によく 対応することが分かる. 無規定モデルであるHillerborgらによる方法も良い対応を示すが,

規定モデルは,引張応力がゼロになる点 が規定されることで,構成則として使いやすい.例 えば荷重増分法である拡張rmin法の場合, を超えたときに明示的に状態フラグを変更して計 算することができる.

本研究で用いている式(3.3.4)に示すHordijkらによる方法で の値を求めると, =0.08 (N/mm) で =0.12 (mm) であり, =0.1 (N/mm) で =0.15 (mm) である.

図 3.3.7にHordijkらによる方法を用いて, と を変化させたときの引張軟化曲線を示す.

赤の点線が =4 (MPa), =0.15 (N/mm) のときの引張軟化曲線であり,赤の実線が =2.5 (MPa),

=0.05 (N/mm) としたときの引張軟化曲線である.ほとんどの試験結果がこの2ケースの曲

線内に入り,適応範囲が広い式であることがわかる.

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

実験結果

= 4 MPa, = 0.15 N/mm

= 2.5 MPa, = 0.05 N/mm

(黒線は共通試験結果[11])

図 3.3.7 引張軟化曲線の例(Hordijk らによる方法)

(2) HPM における引張軟化曲線

HPMの引張破壊構成則では,いかなる引張軟化曲線でも対応可能である.ただし,破壊まで の過程をエネルギーで評価できるようにするために,図 3.3.8に示すように破壊エネルギー でコントロールできる曲線が望ましい.

本研究では,前節で良い評価が得られた式(3.3.4)に示すHordijk らによる提案式を用いる.式

(3.3.4)を部分領域境界の表面応力 と相対変位 の関係により表すと式(3.3.11)となる.式

(3.3.11) では表面応力 と破壊エネルギー は引張強度 により無次元化され,相対変位 は

限界仮想ひび割れ幅 で無次元化されているため,単位系に依存せずに用いることができる.

(3.3.11)

ここに, :応力がゼロとなる限界仮想ひび割れ幅 (mm)

(3.3.12)

:引張強度 (N/mm2)

:破壊エネルギー (N/mm)

: 引張強度 : 破壊エネルギー に応じて応力解放

図 3.3.8 コンクリートの引張軟化曲線

HPMでは,離散ひび割れに直接破壊エネルギーを反映した計算ができるため,精度のよいひ び割れ幅の評価が可能である.