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アンカーボルト引抜き試験の解析

第6章 鉄筋コンクリートのひび割れ解析

6.2 アンカーボルト引抜き試験の解析

6.2.1 試験概要

アンカーボルト引抜き試験の解析は,文献[62]に記載されている試験結果を用いる.寸法や 境界条件が異なる試験体が2体あり,#1 試験体(モデル1)はRILEM[63]が実施した共通解析 で対象とした試験体の一つである.#2 試験体は Lu[64]がレーザースペックル法によりひび割 れの進展や破壊のメカニズムを実験的に確認した試験体と同一である.

モデル図および,それぞれの寸法を図 6.2.1,表 6.2.1に示す.試験体の大きさはモデル1が

高さ l =900mm,厚みb=100mmで,モデル2がその半分以下のl =350mm,厚みb=80mmであ

る.アンカーボルトの埋込深さはそれぞれモデル1でd=150mm,モデル2でd=60mmである.

コンクリート板は左右の鋼材の棒で拘束されている.アンカーボルトから拘束点までの距離 a を試験体サイズ l で除した比率 a/l はモデル1で 0.33,モデル2で0.17であり,モデル1の 方が拘束点までの距離が長い.アンカーボルトの付着は,引抜き荷重がアンカーボルト定着部 の圧縮荷重としてのみ作用するように,定着部以外にグリスを塗布して付着を絶縁している.

文献[62]によれば,モデル1の試験結果においては,最大荷重時の変位に大きな差がみられ たようである.その理由は,各実験で使用されたコンクリートの材料物性が大幅に異なるため と報告されている.また,図 6.2.2(b)に示すように,ひび割れはアンカーボルトの軸線に関し て非対称に進展する非対称破壊モードが多く観測されている.

d

a a

b

l

l F

d 10

3d 10 10 d

図 6.2.1 試験体モデル図

表 6.2.1 試験体のサイズ(単位:mm)

a b d l

モデル1 300 100 150 900 モデル2 60 80 60 350

Primary

Secondary

Primary

Secondary

(a) 対称な破壊モード (b) 非対称な破壊モード 図 6.2.2 ひび割れパターン[62]

6.2.2 解析条件

(1) 解析モデル

モデル1 およびモデル2 の対称モードの破壊を検討するために,1/2対称モデルとした解析 モデルをそれぞれ図 6.2.3 および図 6.2.4 に示す.節点数は10000 である.また,非対称モー ドの破壊の検討をするために,モデル2のフルモデルの解析を行った.フルモデルの解析モデ ルを図 6.2.5に示す.節点数は5000である.領域分割はデローニ三角形分割[52]を適用した.

1/2対称モデルは右半分をモデル化し,左側面を対称境界(鉛直ローラー)とした.

拘束点は自由に回転すると考えられるため,上下方向のみを拘束した.拘束点の位置はそれ ぞれ解析モデル図に三角形のマークで示す.荷重はアンカーボルト上部に静的な引張荷重を細 分化して与えた.

アンカーボルト側面とコンクリートとの境界は,試験体が付着を絶縁していることより,解 析モデルでも引張強度を微小な値として絶縁状態を再現した.

図 6.2.4 解析モデル図(対称モデル,モデル 2)

図 6.2.5 解析モデル(フルモデル,モデル 2)

(2) 材料定数

文献[62]を参照して定めた材料定数を表 6.2.2に示す.

モデル1は参加者番号T2-3の実験結果と比較するために,T2-3より報告された物性を用い た.それによると破壊エネルギーは =0.09 N/mmと記載されているが,引張強度がモデル2 より低いにも係わらず破壊エネルギーが高いことと,破壊エネルギーによる影響を検討するた

めに, を0.06 N/mmとした検討も加えた.図 6.2.6にモデル1の引張軟化曲線を共通試験結

果[11]と比較して示す.

モデル2の物性は,試験前に予め指定された値を用いた.図 6.2.7にモデル2の引張軟化曲 線を共通試験結果[11]と比較して示す.

モデル1とモデル2の圧縮強度よりトリリニアで近似した圧縮応力ひずみ関係を,それぞれ 図 6.2.8,図 6.2.9に示す.Saenzによる式,Popovicsによる式,前川・福浦による式と比較す ると,第1折れ点から第2折れ点にかけてはPopovicsによる式に近く,Saenzおよび前川・福 浦による曲線が若干外にはらんでいるが,第2折れ点はいずれの経験式ともよく対応している.

また,圧縮限界ひずみ後の除荷については, Saenzと前川・福浦による曲線に対して平均的な 直線となっており,設定したスケルトンカーブは概ね既往の経験式に対応している.

アンカーボルト側面は絶縁されており付着がないため,付着力を微少な値 0.01 (MPa) とし た.アンカーボルト定着部の付着力は1.4 (MPa) とした.

表 6.2.2 材料定数

項目 コンクリート

アンカーボルト モデル1 モデル2

圧縮強度 fc (MPa) 32.6 34.3 - 引張強度 ft (MPa) 2.8 3.4 - ヤング率 E (GPa) 24.7 29.4 205.9 ポアソン比 n 0.167 0.167 0.3 破壊エネルギーGf (N/mm) 0.09

0.06 0.08 -

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

= 0.06 N/mm

= 0.09 N/mm

図 6.2.6 モデル 1 の引張軟化曲線(黒線は共通試験結果[11])

0 1 2 3 4 5 6

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ひび割れ幅 (mm)

結合応力(MPa)

図 6.2.7 モデル 2 の引張軟化曲線(黒線は共通試験結果[11])

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Stress (kPa)

Strain

弾性 Saenz 前川・福浦 Popovics

トリリニアα=0.5

図 6.2.8 モデル 1 の圧縮応力のスケルトンカーブ

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000

0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 0.012

Stress (kPa)

Strain

弾性 Saenz 前川・福浦 Popovics

トリリニアα=0.5

図 6.2.9 モデル 2 の圧縮応力のスケルトンカーブ

6.2.3 解析結果

(1) モデル 1 の解析結果(対称モデル)

モデル1の試験では,複数機関による試験結果を比較する際に,コンクリートの圧縮強度の 違いによる影響を除去するため,引抜き荷重 を で基準化し,その基準化荷重と変位関係 で試験結果を整理している(ただし, , は圧縮強度(MPa),b は厚み(mm),d は埋込深さ(mm)).その基準化荷重と変位関係を試験結果と比較して図 6.2.10に示す.図 6.2.10 の青い領域が試験結果であり,赤線が同じ方法で解析結果を基準化したものである.赤の破線 は破壊エネルギー =0.09 N/mmとした結果であり,赤の実線は =0.06 N/mmとした結果 である.解析結果は試験結果によく対応している. の違いによる影響は,ひび割れが進展す る初期段階ではあまりみられないが,最終的な崩壊荷重の大きさに影響することが明らかとな った.

図 6.2.11は =0.06 N/mm とした結果の変形と最大主応力1コンターの推移図を示す.(a)

~(f) は,各図の下に示す荷重変形関係の黄色い丸でプロットした位置,それぞれ基準化荷重 F/ = 0.303,0.531,0.748,0.955,1.104,1.155のときの図である.変形倍率は40倍であり,

部分領域境界に描画している太線はひび割れ幅が5 μm 以上であることを示す.コンターの色 は赤で引張強度2.8 MPa である. (a)はひび割れ発生前,(b)はひび割れ発生直後,(c)~(e)はひ び割れが進展している状態,(f)は破壊直前の状態である.初期ひび割れが発生し,更にひび割 れが進展していく過程において試験結果によく対応した計算結果が得られていることが分かっ た.

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

F / bdf

t

Displacement (mm)

Numerical results (G

f

=0.06) Experimental results Numerical results (G

f

=0.09)

図 6.2.10 基準化荷重と変位関係の比較(モデル 1)

(a) F/ = 0.303 (b) F/ = 0.531

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

F/bdft

Displacement (mm)

(a) (b)

Numerical results Experimental results

1 (MPa) 2.8 1.9 0.9 0.0

(c) F/ = 0.748 (d) F/ = 0.955

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

F/bdft

Displacement (mm)

(c) (d)

Numerical results

Experimental results

(e) F/ = 1.104 (f) F/ = 1.155

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

F/bdft

Displacement (mm)

(e) (f)

Numerical results Experimental results

図 6.2.11 変形図と最大主応力σ1コンター図(モデル 1, =0.06 N/mm)

(2) モデル 2 の解析結果(対称モデル)

モデル2では試験結果の荷重変位関係が得られていないが,図 6.2.12に示すように試験後の 写真によりひび割れ状態が分かっている.ここでは,ひび割れ状態について試験結果と解析結 果の比較を示す.

解析結果の崩壊直前の荷重ステージにおける変形図と最大主応力1コンター図を図 6.2.13 に示し,ひび割れ幅を図 6.2.14 に示す.変形倍率は40 倍であり,部分領域境界に描画してい る太線はひび割れ幅が5 μm 以上であることを示す.ひび割れ幅はアンカーボルト底面で最大

0.09 mmとなった.解析結果の主要なひび割れは,実験と同様に最初にアンカーボルト底面か

らひび割れ,横方向に進展し,その後,拘束点に向かうひび割れと斜め下方向へ向かうひび割 れに分岐する.一般的にひび割れの分岐を再現する計算は困難であるが,ひび割れの進展と分 岐が実験とよく対応した結果が得られた.

ひび割れ先端の集中応力は離散ひび割れを考慮することにより自然に求められる.集中応力 の分布具合は,破壊エネルギーの大きさで変化する.すなわち,引張軟化曲線を適切に設定で きれば,要素境界の解放応力による連続的なひび割れの進展を適切に評価でき,さらに破壊時 の応力分布や変形が精度良く求められると考えられる.

アンカーボルト

拘束点

ひび割れ 開始点

図 6.2.12 試験後のひび割れ状態(モデル 2)

1 (MPa) 3.4 2.3 1.1 0.0

図 6.2.13 解析結果のひび割れパターン(モデル 2)

0.09 0.07 0.06 0.05 0.03

0.02

0.02 0.01

図 6.2.14 解析結果のひび割れ幅(モデル 2)(単位 mm)

(3) モデル 2 の解析結果(非対称モデル)

モデル2の試験体の多くは図 6.2.15に示すような非対称モードの破壊パターンが多くみられ た.破壊パターンが対称にならないのは,実験の精度によることもあるが,供試体の骨材が完 全に対称に配置されているとは限らないため,非対称な破壊が多くなると考えられる.

非対称破壊モードのシミュレーションとして,フルモデルをデローニ三角形分割した解析モ デルで計算を行った.領域分割する際に,中央に境界線を指定せずに分割することで非対称な 分割が容易に得られる.モデル図を図 6.2.5に示す.

図 6.2.15 試験後のひび割れ状態(モデル 2 非対称モデル)

解析結果の崩壊直前の荷重ステージにおける最大主応力 コンターおよびひび割れパター ンを図 6.2.16に示し,ひび割れ幅を図 6.2.17に示す.変形倍率は40倍であり,部分領域境界 に描画している太線はひび割れ幅が5 μm 以上であることを示す.コンターの色は赤で引張強

度3.4 MPa に対応している.ひび割れ幅はアンカーボルト底面で最大となり,0.07 mmであっ

た.

アンカーボルト定着部から右側に進展するひび割れは,拘束点に向かっている.また,アン カーボルト定着部から左側に進展するひび割れは,拘束点に向かうひび割れと左下側面に向か うひび割れに分岐しているが,左下側面に向かうひび割れが進展していき非対称に破壊すると 考えられる.図 6.2.15に示す試験結果の非対象の破壊パターンと対応する結果が得られた.

1

(MPa)

3.4 2.3

1.1 0.0

0.07 0.05 0.03 0.04 0.07

図 6.2.17 解析結果のひび割れ幅(モデル 2 非対称モデル)(単位 mm)