第 2 章 本研究に関連した理論 30
2.4 量子もつれあい状態
本研究では量子もつれあい状態の生成は行っていないので,本節は直接本研究に関係する理論ではない。し かし,1章でも述べたとおり,スクイズド光の生成は量子もつれあい状態の生成を目指したものであり,量子 もつれあい状態は近年の量子情報処理の研究において重要である。従って,本節ではスクイズド状態を用いた 量子もつれあい状態について説明する。もつれあい状態は密度演算子が,個々の密度演算子の直積で記述でき ない状態をさす。連続量における量子もつれあい状態は共役正準変数の和や差が同時に固有値を取れる状態と 言い換えられる。例えば,もつれあったビームA,Bがあるとすると,xA−xB = 0,pA+pB= 0というよ うな状態を作り出すことができ,この状態の状態ベクトルは
|EPR⟩AB=c
∫
dx|x⟩A⊗ |x⟩B,
=c
∫
dp|p⟩A⊗ |−p⟩B, (2.66)
と記述できる。この状態は明らかにAとBの状態に分けて,その直積として記述することができない2。この 状態はスクイズド光をビームスプリッタで合波すると生成できる。そのため,まずはビームスプリッタ演算子 について見ていく
2.4.1 ビームスプリッタ演算子
Figure 2.2のようにˆa1,ˆa2という入力からˆa′1,ˆa′1という出力を生成するビームスプリッタ演算子は行列の 形で以下のように書ける。 [
ˆ a′1 ˆ a′2
]
= [
B11 B12
B21 B22 ] [
ˆ a1
ˆ a2
]
. (2.67)
ビームがある媒質の界面で反射するときに,反射光は透過光に対して90度位相が回転するため,このときの 透過率をT,反射率をH とすれば,
ˆ a′1=√
Taˆ1+j√
Haˆ2, (2.68)
ˆ a′2=j√
Hˆa1+√
Taˆ2, (2.69)
2直積の和を和の直積の形に変換するには因数分解をすればよい。しかし異なる二つの直交位相固有状態は直交するため,因数分解が 不可能である
Fig. 2.2: Concept of a beam splitter.
となる。ビームスプリッタの場合,界面を意識することは無いことが多く,全体にかかる位相は自由に設定し ても問題ない。そのため,量子情報処理の分野では以下のようにすることが多い。
ˆ a′1=√
Tˆa1+√
Hˆa2, (2.70)
ˆ
a′2=−√
Haˆ1+√
Tˆa2. (2.71)
また,ビームスプリッタはT+H = 1となるため,これを満たす√
T = cos(Θ/2),√
R= sin(Θ/2)と書いて も問題ない。従って,最終的にビームスプリッタを表す行列は
B(Θ) = [
cos(Θ/2) sin(Θ/2)
−sin(Θ/2) cos(Θ/2) ]
. (2.72)
と書ける。このビームスプリッタの作用は
Lˆ2= 1
2j(ˆa†1aˆ2−ˆa1ˆa†2), (2.73) を用いて,次のように書ける。
e−jΘ ˆL2 [
ˆ a1 ˆ a2
]
ejΘ ˆL2 = [
cos(Θ/2) sin(Θ/2)
−sin(Θ/2) cos(Θ/2) ] [
ˆ a1 ˆ a2
]
. (2.74)
従って,ビームスプリッタ演算子は
B(Θ) =ˆ ejΘ ˆL2, (2.75)
となる。
2.4.2 直交位相スクイージングによる量子もつれあい状態
Fig. 2.3: Schematic diagram of entangled state generation. Entanglement can be generated by interference of two squeezed state at a half beam splitter.
このビームスプリッタ演算子を用いて,スクイズド光をFig. 2.3のように合波した状態を考える。簡単のた め,スクイズド光は真空から作った真空スクイズド状態とすると,もつれあい状態は以下のように書ける。
|EPR⟩AB= ˆB(π/4) ˆSA(−r) ˆSB(r)|0⟩A⊗ |0⟩B,
= ˆB(π/4) exp [r
2(ˆa†A2−ˆa2A) ]
exp [r
2(ˆa2B−ˆa†B2)
]|0⟩A⊗ |0⟩B,
= ˆB(π/4) exp [r
2(ˆa†A2−ˆa2A+ ˆa2B−ˆa†B2)
]Bˆ†(π/4)|0⟩A⊗ |0⟩B,
= exp [
r(ˆa†Aˆa†B−ˆaAˆaB)
]|0⟩A⊗ |0⟩B. (2.76)
この状態は2モードスクイズド状態とも言う。次に,以下の式を計算する。
⟨∆2(ˆxA−xˆB)⟩ +⟨
∆2(ˆpA+ ˆpB)⟩
<1. (2.77)
前副節で述べたもつれあい状態は位置の差と運動量の和が同時に確定するが,この式は,位置の差の揺らぎと 運動量の和の揺らぎが1以下と条件が緩和されている[5, 6]。また,コヒーレント状態のときは1となる。
これを計算するために,準備として真空場を2モードスクイズド状態に変換する演算子SˆAB′ (r)を以下のよ うに定義する
SˆAB′ (r) = ˆB(π/4) exp [r
2(ˆa†A2−ˆa2A) ]
exp [r
2(ˆa2B−ˆa†B2) ]
. (2.78)
これを用いて,直交位相振幅の期待値と二乗の期待値をそれぞれ計算する。例えば,ˆxの差の二乗は SˆAB′† (r)(ˆxA−xˆB)2SˆAB′ (r) = ˆSAB′† (r)(ˆxA−xˆB) ˆSAB′ (r) ˆSAB′† (r)(ˆxA−xˆB) ˆSAB′ (r),
=
(erxˆA+e−rxˆB
√2 −erxˆA−e−rxˆB
√2
)2
,
= 2e−2rxˆ2B, (2.79)
と計算できる。他も同様に
SˆAB′† (r)(ˆxA−xˆB) ˆSAB′ (r) =√
2e−rxˆB, (2.80)
SˆAB′† (r)(ˆpA−pˆB)2SˆAB′ (r) = 2e−2rpˆ2A, (2.81) SˆAB′† (r)(ˆpA−pˆB) ˆSAB′ (r) = 2e−2rpˆ2A, (2.82) となる。真空場では⟨
ˆ x2⟩
=⟨ ˆ p2⟩
= 1/4,⟨xˆ⟩=⟨pˆ⟩= 0より,
⟨∆2(ˆxA−ˆxB)⟩ +⟨
∆2(ˆpA+ ˆpB)⟩
=e−2r. (2.83)
となって,r >0であれば,もつれあっていることがわかる。従って直交位相スクイズド光をビームスプリッ タで合波して,量子もつれあい状態が生成されることを示した。
このスクイジングパラメータrは,大きいほど理想的なもつれあい状態に近づくが,r=∞にすることは事 実上不可能と言える。必要となるrの値は応用する量子情報処理によって異なる。一つの目安はe−2r= 0.5と なるr=12ln 2であり,このとき−3dBのスクイジングが得られる。このようなスクイズド光を用いてもつれ あい状態を作り,量子テレポーテーションに使用すると,忠実度が2/3を超え,no-cloning限界を超えること ができる。従って,スクイジングの実験ではまずこの−3dBのスクイジングを目標とすることになる。