第 5 章 Sagnac ファイバ干渉計を用いた直交位相スクイズド光パルス発生実験 86
5.2 光子数スクイジング
予備実験として光子数スクイズド光発生実験を行った。Figure 5.1の実験系は直交位相スクイジングのため のものだが,ほぼ同様のセットアップを用いて光子数スクイズド光発生実験が可能である。違いは,カップラの 分岐比が非対称であることと,Fig. 5.1のポートAから戻ってくる光を使用しないことである。Sagnacループ のカップラの分岐比を93:7にすることで,効率的な光子数雑音の圧搾が可能となるという報告があるため[98],
これにならった2。カップラで右回りと左回りに分かれた光パルスはそれぞれ異なる量のKerr非線形効果を受 けながら伝搬し,カップラで再び干渉する。このとき,ポートBから光子数スクイズド光が得られる。スクイ ズド光の光子数雑音はホモダイン計測する。通常は非測定光を二つに分け,フォトダイオードに等しい光量を 入射する。このときの差電流の雑音レベルをSNL (Shot Noise Level)とし,和電流の雑音を光子数雑音とし て計測する。これは二つの測定で量子効率を合わせるためである。本研究ではホモダイン測定用のフォトダイ オードから差電流だけが出力される。そのため,光子数ノイズはホモダイン計測器の前の1/2波長板して,一 方のフォトダイオードに全出力光を入射し,その出力電流の分散として計測した。
実験手順
• Ti: Sapphireレーザを用いてOPOを励起し,1.5µm帯の光パルスを得る。
• Sagnacループのカップラの分岐比を100:0にし,光パルスをSagnacループに入射する。このとき,ポー
トBからパルスが出射するため,どの程度の強度が入射したかを確認できる。
• 出射光の消光比を計測して,Sagnacループに使用されている偏波保持ファイバの偏光軸を探索する。光 はこの軸に平行な偏光で入射する必要がある。
• 出射光の強度を見ながらカップラの分岐比を93:7にする。
• 出射光の光子数分散をホモダイン計測により測定する。光子数分散はホモダイン計測器の前の1/2波長板 を回転して,一方のフォトダイオードに全出力光を入射し,その出力電流の分散として計測した。一方,
ショットノイズは二つのフォトダイオードで同じ光量が入射したとき,差電流の雑音として計測できる。
• 光子数分散やショットノイズはスペクトラムアナライザで計測する。光子数測定ではアンプが飽和しやす いため,ローパルフィルタにはBLP-15を用い,8 MHzの帯域で計測した。
2弱いほうのパルスはスクイズド光を位相空間上で平行移動させる働きがある(変位演算子)。このパルスの強度を弱めると変位量が低 下する。逆に分岐比の非対称性を和らげると,今度はこの補助のパルスのノイズがスクイズド光に加わり,悪影響を及ぼす。93:7という 比は数値計算により求められた最適値である。
5.2.1 複屈折フィルタなしの場合
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
1450 1500 1550 1600 1650
Intensity [arbitary units]
Wavelength [nm]
Fig. 5.5: Example of output spectrum from OPO without birefringence filter. Spectrum width corresponds to∼23 nm (FWHM).
-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
0 5 10 15 20 25
Rel. Noise Power [dB]
Input Power [mW]
Fig. 5.6: Photon number noise normalized by shot noise level (SNL) being dependent on input power. Photon number squeezing was observed below the dotted line.
まず,複屈折フィルタを用いないでOPOを駆動し,得られたパルスを用いて光子数スクイズド光発生実験 を行った。光パルスのスペクトルを Fig. 5.5に示す。スペクトル幅は∼23 nmであり,これはフーリエ限界
パルスでは∼150 fsに相当する(sech2 近似)。Sagnacループファイバはループ長が30 mほどあるが,これは 150 fsのパルスの場合1ソリトン長が50∼60 cmであるため,50∼60ソリトン長に相当する。
このときの光子数雑音とファイバ入射パワーをFig. 5.6に示す。ただし,ファイバ入射パワーを直接測定する ことは困難である。これは,右回りと左回りのパルスがカップラで干渉するとき,入射光強度に依存して非線 形位相変調量が変わり,入射光とスクイズド光の強度の関係に干渉縞が現れるためである。こうした干渉現象 は光子数スクイズド光発生の原理と結びついているため不可避であり,取り除くことはできない。従って,あ らかじめカップラを100:0とし,ファイバに入射する前の光強度と,出射してきた光強度の関係を測定し,入 射する前の光強度から入射パワーを計算している。この入射パワーに対して光子数雑音量は大きく変動し,最
大で−1.6 dBのスクイージングが得られた。
5.2.2 複屈折フィルタありの場合
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
1460 1480 1500 1520 1540 1560
Intensity [arbitar y units]
Wavelength [nm]
Fig. 5.7: Output spectrum from our OPO without birefringence filter. Spectrum width corresponds to∼5 nm (FWHM).
上で得られた−1.6dBは文献値[9]等と比較すると高い値ではない。これは,ファイバループ長が50∼60ソ リトン長と長く,それだけ大きな位相変調を受けているためである。元の理論はシングルモードで解析してい るため,Kerr効果などによりスペクトルや時間波形が変動したり,右回りと左回りのパルスが受ける位相変調 量の差に波長依存性が強くなると,理論どおりにならなくなる。そこで,ファイバループ長が2∼3ソリトン 長となるよう,OPO から発生するパルスのスペクトル幅を複屈折フィルタにより狭めた。そのスペクトルを
Fig. 5.7に示す。中心波長は1513 nmでスペクトル幅は5 nm (FWHM)であった。これはフーリエ限界パル
ス∼700 fsに相当する(sech2近似)。この時ソリトン長はおよそ12 mとなり,ループ長は2∼3ソリトン長と なる。
このときの光子数雑音とファイバ入射パワーをFig. 5.8に示す。これにより最大−3.1dBのスクイージング が得られた。なお,文献値[9]では最大−3.9dBのスクイジングが得られている。Figure 5.6と比較すると,入 力強度に対して光子数雑音は同じように変動しているが,スクイジングの量は大きくなり,パルス幅に光子数 スクイズド光発生が大きく依存することが示された。また,グラフからは入力パワーに対しスクイジングが増 加しているが,さらに光強度を強くすると,より高いスクイジングが得られる可能性もある。
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
0 2 4 6 8 10 12 14
Rel. noise power [dB]
Input power [mW]
Fig. 5.8: Photon number noise normalized by SNL vs input power. Photon number squeezing was observed below the dotted line.