第 4 章 ファイバ伝搬中のパルストラッピングを用いた光子数相関形成についての数値解析 66
4.2 Back-Action 回避測定
本節ではQND 測定の一種であるBAE測定について示す。これはシグナルビームSの光子数や直交位相振 幅などの状態を壊すことなく,量子揺らぎレベルで測定する手法を指す。量子非破壊測定の性能は以下の三つ
性質で表される[10]。
1. プローブビームが入射するシグナルビームの情報を良い精度で取り出すことができる。
2. シグナルビームが測定によって余り変化を受けない。
3. プローブビームの出力がシグナルビームの出力と良い量子相関を持っている。
1と2 の性質を同時に満たすことは一見不確定性原理に反するが,量子もつれ合い状態のようにこれを満たす 状態は実現可能であるし,共役正準変数の不確定性を犠牲にすることで達成することが可能である。量子もつ れ合い状態とBAE測定の違いは,もつれあい状態が位置と運動量のような共役正準変数の和や差に対する同 時固有値状態である。BAE 測定はある量子系の変数の情報を別の量子系との相互作用によって取り出し,こ の相互作用による影響が取り出した変数の共役変数にのみ及ぶように工夫する手法である。例えば本研究では,
二つのパルスをKerr効果により相互作用させ,測定対象のパルスの光子数をもう片方のパルスの光子数から 知る。このとき,Kerr相互作用により,測定用パルスの光子数に比例した位相変調を被測定パルスは受ける。
従って,測定用パルスの光子数分散が測定対象の位相ノイズとなり,光子数を測定したことによるBack-Action が光子数の共役変数である位相に影響を及ぼしていることが分かる。
4.2.1 QND 測定の評価基準
本節ではQNDとしての性能の評価方法について示す[11]。高強度のビーム光に対するQND測定を取り扱 うので,演算子を平均値と摂動に分けて表す。電磁場の直交位相振幅演算子Xˆ = (ˆa+ ˆa†),Yˆ = (ˆa−ˆa†)/2j をその平均値と摂動の和として表すと,
Xˆ =X+ ∆ ˆX, (4.3)
Yˆ =Y + ∆ ˆY , (4.4)
となる。ただし,位相を調節してXˆ を光子数方向の直交位相振幅演算子とし,Yˆ を位相方向の直交位相振幅 演算子とする。こうすることで,Xˆを振幅演算子,Yˆ を位相演算子と考えることができる。このとき複素振幅 の平均値αは実数となるため,
⟨Yˆ
⟩
= 0および⟨ˆa⟩=⟨ ˆ a†⟩
=αとなる。ここで光子数は ˆ
n= ˆa†aˆ= (α∗+ ∆ˆa†)(α+ ∆ˆa) =α∗α+α∗∆ˆa+α∆ˆa†+ ∆ˆa†∆ˆa≈α∗α+α∗∆ˆa+α∆ˆa†, (4.5) となる。最後の近似は摂動演算子に関する二次の項を無視している。この式から光子数揺らぎは
∆ˆn=√
α∗α(α∆ˆa†+α∗∆ˆa), (4.6)
となる。前述の仮定により,α∗=αであるため,この式は
∆ˆn=α2(
∆ˆa+ ∆ˆa†)
= α2
2 ∆ ˆX, (4.7)
と表される。従ってシグナル光子数揺らぎを測定するには,振幅Xˆsinの揺らぎの情報を取り出す必要がある。
プローブの任意の変数に対応する摂動演算子∆ ˆApにシグナルの振幅の摂動∆ ˆXsinの情報が取り出されるとす ると,プローブの出力は
∆ ˆAoutp =gp∆ ˆXsin+ ˆBadp , (4.8)
とおくことができる。ここでBˆadp はQND測定の測定誤差にあたり,付加される雑音と考えることができる。
平均値はあらかじめ測定しておけば,同じ系で測定する限り変わることが無く,摂動成分のみが評価の対象と なる。また,摂動成分もある一定の倍率gpがかかって出力されるが,この増幅率はあらかじめ測定可能であ るため,上のような形で書き表される。ここで,プローブの出力に付加される雑音はシグナルXˆに直交した演 算子Yˆ に依存する成分も存在するので,
Bˆadp =fp∆ ˆYsin+ ˆBp, (4.9) と二つの項の和として雑音を考える。すると,プローブ光に付与される入力等価雑音は
Npeq ≡
⟨
(∆ ˆAoutp )2
⟩
|gp|2 −⟨
(∆ ˆXsin)2
⟩
= 2fp
gp
⟨
∆ ˆXsin∆ ˆYsin
⟩ +
⟨ ( ˆBpad)2
⟩
|gp|2 , (4.10) となる。この式はシグナルXˆ が直交した演算子Yˆ との間に相関があると,単にBˆpadだけで入力等価雑音を表 せないことを意味している。
この入力等価雑音測定するにはシグナルをわずかに強度変調して,入力の信号対雑音比(SN比)がプローブ 出力にどれだけ伝わるかを調べる。シグナル入力のおけるSN比は
Rins =
¯¯¯¯
¯¯¯
⟨Xˆsin
⟩2
⟨
∆ ˆXsin2
⟩
¯¯¯¯
¯¯¯
, (4.11)
となり,プローブ出力のSN比は
Routp =
¯¯¯¯
¯¯¯
⟨Aˆout
⟩2
⟨
∆ ˆAout2
⟩
¯¯¯¯
¯¯¯
, (4.12)
となる。これらは言わば分散の逆数となっており,量子雑音が小さくなるほど,数値が高くなる。これらから,
伝達係数Tpは以下のように表される。
Tp= Routp
Rins =|gp|2
⟨
∆ ˆXsin2
⟩
⟨
∆ ˆAout2
⟩ =
⟨
∆ ˆXsin2
⟩
⟨
∆ ˆXsin2
⟩ +Npeq
. (4.13)
ここで,シグナルとプローブの平均値の比が増幅率gpに等しいことを利用している。この式は単にシグナル とプローブの分散の比のように見えるが,入力等価雑音に直接対応している。
次にシグナルがQND測定によって受ける変化を評価する。これはシグナル出力への伝達係数と考えること ができるため,プローブ出力への伝達関数と同様に計算を進める。まず,シグナル出力は入力と増幅率,およ び付加される雑音を用いて以下のように表される。
∆ ˆXsout=gs∆ ˆXsin+ ˆBsad. (4.14) ここで付加される雑音は
Bˆsad=fs∆ ˆYsin+ ˆBs, (4.15)
と書き表される。すると,入力等価雑音は
Npeq ≡
⟨
(∆ ˆXsout)2
⟩
|gs|2 −⟨
(∆ ˆXsin)2
⟩
= 2fs gs
⟨
∆ ˆXsin∆ ˆYsin
⟩ +
⟨ ( ˆBsad)2
⟩
|gs|2 , (4.16) となる。ここから同様に伝達関数を計算すると,
Ts= Routs
Rins =|gs|2
⟨
∆ ˆXsin2
⟩
⟨
∆ ˆXsout2
⟩ =
⟨
∆ ˆXsin2
⟩
⟨
∆ ˆXsin2
⟩ +Nseq
, (4.17)
となり,やはり入力等価雑音に直接対応している。
シグナル出力とプローブ出力の相関は以下の相関関数で表される。
C2=
¯¯¯⟨
∆ ˆXsout∆ ˆAout⟩¯¯¯2
⟨
(∆ ˆXsout)2
⟩ ⟨
(∆ ˆAout)2
⟩. (4.18)
この相関関数を使うと,プローブの測定結果から得られるシグナルの推定値と実際のシグナル出力の差の不確 かさVspが以下のような表式で与えられる。
Vsp=
⟨
(∆ ˆXsout)2⟩ (
1−C2)
. (4.19)
この数値が1 のとき標準量子雑音程度の誤差があるため,Vsp<1がQND測定の条件となる。