第 7 章 本研究のまとめ 110
A.2 Backpropagation 法
A.2.2 均一広がりと仮定した場合の Raman 散乱の影響
Raman 散乱によるノイズ演算子に関するN(z, t1, t2)の導出
さて,Raman散乱によって付加される雑音についてであるが,分子振動は均一広がりの分布と不均一広が りの分布の両方を持っていると考えられる。本副節では均一広がりのみを仮定し,一本の共鳴周波数のみを持 つ場合の計算法を示す。前副節で示した条件から,ノイズ演算子nˆの交換関係を求めるためにはEq. (A.78)に 示すように摂動電界に対する線形化が必要となる。そのため,まず古典的なSchr¨odinger 方程式をまず示す。
Raman散乱を単一周波数の均一広がりのみと考えると,Raman応答関数は
h(t) = exp(−γrt) sin(Ω0t)s0(t), (A.85)
となる。ただしs0(t)は単位ステップ関数であり,tが負のときはゼロとなることを示す。また,Ω0とγrはそれぞれ フォノンの共鳴周波数とその減衰率(時定数の逆数)を表し,良く用いられる値はΩ0= 1/(32[fs]) = 3.1×1013[s−1]
とγr= 1/(12.2[fs]) = 8.2×1013 [s−1]である。また,一般にRaman応答関数は積分したときに1となるよう に規格化する必要がある。規格化した場合,この式は
h(t) = Ω20+γ2 Ω0
exp(−γrt) sin(Ω0t)s0(t), (A.86) となる。ここで,Eq. (A.56)の摂動電界u(z, t)ˆ に対する伝搬方程式を再掲すると,
∂
∂zu(z, t) =jˆ ∑
k≥2
jkβk
k!
∂k
∂tku(z, t) + 2j(1ˆ −fr)γ|U(z, t)|2ˆu(z, t) +j(1−fr)γU2(z, t)ˆu†(z, t) +jfrγ
∫ t
−∞
h(t−τ)|U(z, τ)|2dτu(z, t) +ˆ jfrγ
∫ t
−∞
h(t−τ)U∗(z, τ)ˆu(z, τ)dτ U(z, t) +jfrγ
∫ t
−∞
h(t−τ)U(z, τ)ˆu†(z, τ)dτ U(z, t), (A.87) である。よってEq. (A.78)から
N(z, t1, t2) ={−P1(z, t1)−P1∗(z, t2)}δ(t1−t2)
=−jfrγ [∫ t1
−∞
h(t1−τ)U∗(z, τ)δ(τ−t2)dτ U(z, t1)−
∫ t2
−∞
h(t2−τ)U(z, τ)δ(t1−τ)dτ U∗(z, t2) ]
, (A.88) となる。ここで,Eq. (A.87)の項のうち,右辺3項目と6項目はuˆ†に依存するため,P1に含まれないことと,
右辺1, 2, 4項目は純虚数となるため消えることに注意する。このときt2≥t1であれば
N(z, t1, t2) =jfrγU(z, t1)U∗(z, t2)h(t2−t1), (A.89) であり,t2< t1であれば
N(z, t1, t2) =−jfrγU0(z, t1)U∗(z, t2)h(t1−t2), (A.90) となる。今回の場合Eq. (A.85)を見ればこれらの式は以下のように書き換えることができる。
N(z, t1, t2) =jfrγΩ20+γ2 Ω0
U(z, t1)U∗(z, t2) exp(−γr|t2−t1|) sin{Ω0(t2−t1)}. (A.91)
フォノンの時間発展に由来するノイズの解析 これで[
ˆ
n(z, t1),nˆ†(z′, t2)]
の交換関係が求まったわけであるが,前述したようにこれだけでは不完全である。
Raman散乱に由来するノイズ演算子は元をたどればフォノンが熱浴(Reservoir)と結合しているために発生す
るので,フォノンの時間発展に関する式を計算する必要がある。Eq. (A.55),Eq. (A.86)から,Raman散乱に 関する項は
jfrγ
∫ t
−∞
Ω20+γr2 Ω0
exp{−γr(t−τ)}sin{Ω0(t−τ)} |U(z, τ)|2dτ U(z, t), (A.92) である。ここでフォノンの強度をˆb(z, t)で表すと,その時間発展を
∂
∂t
ˆb(z, t) =−γrˆb(z, t)−jΩ0ˆb(z, t) +jg0|U(z, t)|2, (A.93)
と仮定する。この式は光の強度|U(z, t)|2によってフォノンが励起し,Ω0で振動しながらγrにより減衰して いく様子を表している。ここで,g0はフォノンと光の強度の結合の強さを表している。この式を解くと
ˆb(z, t) =jg0
∫ t
−∞
exp{−(γr+jΩ0)(t−τ)} |U(z, t)|2dτ, (A.94) となり,Raman散乱の項を
jfrγ
∫ t
−∞
Ω20+γr2
Ω0 exp{−γr(t−τ)}sin{Ω0(t−τ)} |U(z, τ)|2dτ U(z, t)
=jfrγ 2g0
Ω20+γ2r
Ω0 (ˆb(z, t) + ˆb†(z, t))U(z, t), (A.95)
とすれば非線形Schr¨odinger方程式を無理なく満たす。さて,このような非線形Schr¨odinger方程式とフォノ ンの時間発展に関する式の連立方程式を量子化し,フォノンの時間発展の式に新たなノイズ演算子nˆb(z, t)を 加える。まず,非線形Schr¨odinger 方程式は以下のようになる。
∂
∂zU(z, t) =j∑
k≥2
jkβk k!
∂k
∂tkU(z, t) +j(1−fr)γ|U(z, t)|2U(z, t) +jfrγ 2g0
Ω20+γr2 Ω0
(ˆb(z, t) + ˆb†(z, t))U(z, t).
(A.96) 同様にEq. (A.93)のフォノンの時間発展は
∂
∂t
ˆb(z, t) =−γrˆb(z, t)−jΩ0ˆb(z, t) +jg0|U(z, t)|2+ ˆnb(z, t), (A.97) となる。Equation (A.97)を解くとその解はEq. (A.94)にnˆb(z, t)の項が加わり,
ˆb(z, t) =jg0
∫ t
−∞
exp{−(γr+jΩ0)(t−τ)} |U(z, t)|2dτ+
∫ t
−∞
exp{−(γr+jΩ0)(t−τ)}ˆnb(z, t)dτ, (A.98) となる。この結果をEq. (A.96)に代入することでnˆのより正確な形を導くことができる。
∂
∂zU(z, t) =j∑
k≥2
jkβk
k!
∂k
∂tkU(z, t) +j(1−fr)γ|U(z, t)|2U(z, t) +jfrγ 2g0
Ω20+γr2
Ω0 (ˆb(z, t) + ˆb†(z, t))U(z, t)
=j∑
k≥2
jkβk k!
∂k
∂tkU(z, t) +j(1−fr)γ|U(z, t)|2U(z, t) +jfrγ
∫ t
−∞
h(t−τ)|U(z, τ)|2dτ U(z, t)
+jfrγ 2g0
∫ t
−∞
[
H(t−τ)ˆnb(z, τ) +H∗(t−τ)ˆn†b(z, τ) ]
dτ U(z, t), (A.99)
となる。この式の下線部分がˆn(z, t)に等しいといえる。また,H(t)は H(t) =Ω20+γr2
Ω0
exp [(−γ−jΩ0)t], (A.100)
となる。ˆn(z, t)の交換関係Eq. (A.70),Eq. (A.70)および,Eq. (A.91)を満たすようにnˆb(z, t)の交換関係を 決めると
[ˆnb(z, t1),ˆnb(z′, t2)] = [
ˆ
n†b(z, t1),ˆn†b(z′, t2) ]
= 0, (A.101)
はすぐに導出される。これに対し,
[ ˆ
nb(z, t1),ˆn†b(z′, t2) ]
は [n(z, tˆ 1),ˆn†(z′, t2)]
= fr2γ2 4g20
∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞
{(
H(t1−τ1)ˆnb(z, τ1) +H∗(t1−τ1)ˆn†b(z, τ1) ) (
H∗(t2−τ2)ˆn†b(z′, τ2) +H(t2−τ2)ˆnb(z′, τ2) )
−(
H∗(t2−τ2)ˆn†b(z′, τ2) +H(t2−τ2)ˆnb(z′, τ2) ) (
H(t1−τ1)ˆnb(z, τ1) +H∗(t1−τ1)ˆn†b(z, τ1) )}
×dτ1dτ2U(z, t1)U∗(z′, t2)
= fr2γ2 4g20
∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞
{
H(t1−τ1)H∗(t2−τ2) [
ˆ
nb(z, τ1),ˆn†b(z′, τ2) ]
+H∗(t1−τ1)H(t2−τ2) [
ˆ
n†b(z, τ1),ˆnb(z′, τ2) ]}
×dτ1dτ2U(z, t1)U∗(z′, t2), (A.102)
から計算される。ここで,
[ ˆ
nb(z, t1),nˆ†b(z′, t2) ]
はt1とt2に対するδ関数を含むと考えられる。また,Eq. (A.70) がzに対するδ関数を含んでいることから,仮に,
[ ˆ
nb(z, t1),nˆ†b(z′, t2) ]
= Aδ(t1−t2)δ(z−z′) とすると,
Eq. (A.102)は fr2γ2
4g20
∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞{H(t1−τ1)H∗(t2−τ2)Aδ(τ1−τ2)δ(z−z′)−H∗(t1−τ1)H(t2−τ2)Aδ(τ2−τ1)δ(z′−z)} ×dτ1dτ2U(z, t1)U∗(z′, t2)
= fr2γ2 4g20
∫ tL
−∞{H(t1−τ)H∗(t2−τ)−H∗(t1−τ)H(t2−τ)}Aδ(z−z′)dτ U(z, t1)U∗(z′, t2)
=−j1 2
{frγ g0
Ω20+γ2r Ω0
}2∫ tL
−∞
exp{−γr(t1+t2−2τ)}sin{−Ω0(t1−t2)}Aδ(z−z′)dτ U(z, t1)U∗(z′, t2)
=j 1 4γr
{frγ g0
Ω20+γr2 Ω0
}2
exp{−γr(t1+t2−2tL)}sin{Ω0(t1−t2)}Aδ(z−z′)U(z, t1)U∗(z′, t2), (A.103) と変形できる。ここでtLはt1とt2のうち小さいほうを指す。この式をEq. (A.70),Eq. (A.91)と見比べると
j 1 4γr
{frγ g0
Ω20+γr2 Ω0
}2
exp{−γr(t1+t2−2tL)}sin{Ω0(t1−t2)}Aδ(z−z′)U(z, t1)U∗(z′, t2)
=jfrγU(z, t1)U∗(z′, t2)Ω20+γr2 Ω0
exp(−γr|t1−t2|) sin{Ω0(t1−t2)}δ(z−z′). (A.104) よりA=4gf20γr
rγ Ω0
Ω20+γr2 となる。よって [
ˆ
nb(z, t1),nˆ†b(z′, t2) ]
= 4g02γr
frγ Ω0
Ω20+γr2δ(t1−t2)δ(z−z′), (A.105)
となる。物理的にはnˆb(z, t)はフォノン場の減衰によって生じるため,線形損失と扱うことができる。そのた め,線形損失のときのn(z, t)ˆ と同様の相関関数を持つと考えられる。よって
⟨ˆnb(z, t1)ˆnb(z′, t2)⟩=
⟨ ˆ
n†b(z, t1)ˆn†b(z′, t2)
⟩
= 0 (A.106)
⟨ ˆ
nb(z, t1)ˆn†b(z′, t2)
⟩
= [nΩ0(T) + 1]4g20γr
frγ Ω0
Ω20+γr2δ(t1−t2)δ(z−z′) (A.107)
⟨ ˆ
n†b(z, t1)ˆnb(z′, t2)
⟩
=nΩ0(T)4g20γr
frγ Ω0
Ω20+γr2δ(t1−t2)δ(z−z′), (A.108) となる。ここでnΩ0(T)は温度Tにおける平均フォノン数であり,Eq. (A.84)と同様に
nΩ(T) = 1
e~ΩkT −1, (A.109)
となる。ここからˆn(z, t)に対する相関関数を計算する。まず,⟨n(z, tˆ 1)ˆn(z′, t2)⟩は
− (frγ
2g0
)2∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞
{
H(t1−τ1)ˆnb(z, τ1) +H∗(t1−τ1)ˆn†b(z, τ1) } {
H(t2−τ2)ˆnb(z′, τ2) +H∗(t2−τ2)ˆn†b(z′, τ2) }
×dτ1dτ2U(z, t1)U(z′, t2), (A.110)
の平均値となる。従って
⟨n(z, tˆ 1)ˆn(z′, t2)⟩
=− (frγ
2g0
)2∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞
{
H(t1−τ1)H∗(t2−τ2)
⟨ ˆ
nb(z, τ1)ˆn†b(z′, τ2)
⟩
+H∗(t1−τ1)H(t2−τ2)
⟨ ˆ
n†b(z, τ1)ˆnb(z′, τ2)
⟩}
×dτ1dτ2U(z, t1)U(z′, t2)
=− (frγ
2g0
)2∫ ∫ t1,t2
−∞,−∞
{
H(t1−τ1)H∗(t2−τ2)[nΩ0(T) + 1]4g20γr frγ
Ω0
Ω20+γ2rδ(τ1−τ2)δ(z−z′) +H∗(t1−τ1)H(t2−τ2)nΩ0(T)4g20γr
frγ Ω0
Ω20+γr2δ(τ1−τ2)δ(z−z′) }
dτ1dτ2U(z, t1)U(z′, t2)
=−frγγr
Ω20+γr2 Ω0
δ(z−z′)U(z, t1)U(z′, t2)
×
∫ tL
−∞
exp{−γr(t1+t2−2τ)−jΩ0(t1−t2)}[nΩ0(T) + 1] + exp{−γr(t1+t2−2τ) +jΩ0(t1−t2)}nΩ0(T)dτ
=−frγ 2
Ω20+γr2 Ω0
δ(z−z′)U(z, t1)U(z′, t2) exp(−γr(t1+t2−2tL)
×[(nΩ0(T) + 1) exp{−jΩ0(t1−t2)}+nΩ0(T) exp{jΩ0(t1−t2)}]. (A.111) となる。例によってtLはt1,t2の低い方である。式が複雑で若干見通しが悪いため,Nn(t)を以下のように 定義する。
Nn(t) =frγ 2
Ω20+γr2
Ω0 exp(−γr|t|){(nΩ0(T) + 1) exp(−jΩ0t) +nΩ0(T) exp(jΩ0t)}. (A.112) すると,⟨n(z, tˆ 1)ˆn(z′, t2)⟩は
⟨ˆn(z, t1)ˆn(z′, t2)⟩=−U(z, t1)U(z′, t2)Nn(t1−t2)δ(z−z′). (A.113)
さらに,これと同様に他の三つの相関関数を計算すると,
⟨n(z, tˆ 1)ˆn†(z′, t2)⟩
=U(z, t1)U∗(z′, t2)Nn(t1−t2)δ(z−z′), (A.114)
⟨nˆ†(z, t1)ˆn(z′, t2)⟩
=U∗(z, t1)U(z′, t2)Nn(t1−t2)δ(z−z′), (A.115)
⟨ˆn†(z, t1)ˆn†(z′, t2)⟩
=−U∗(z, t1)U∗(z′, t2)Nn(t1−t2)δ(z−z′), (A.116) となる。従って,Eq. (A.69)にこれらを代入すると
Var⟨uA(L, t)|u(L, t)ˆ ⟩=Var⟨uA(0, t)|u(0, t)ˆ ⟩
−1 4
∫ L 0
∫ ∫
uA∗(z, t1)uA∗(z′, t2)U(z, t1)U(z, t2)Nn(t1−t2)dt1dt2dz +1
4
∫ L 0
∫ ∫
uA∗(z, t1)uA(z′, t2)U(z, t1)U∗(z, t2)Nn(t1−t2)dt1dt2dz +1
4
∫ L 0
∫ ∫
uA(z, t1)uA∗(z′, t2)U∗(z, t1)U(z, t2)Nn(t1−t2)dt1dt2dz
−1 4
∫ L 0
∫ ∫
uA(z, t1)uA(z′, t2)U∗(z, t1)U∗(z, t2)Nn(t1−t2)dt1dt2dz, (A.117) を計算すればよいことになる。このEq. (A.117)およびEq. (A.112)が本副節の結論となる。