2.3 結果・考察
2.3.3 酵素触媒重合により得られるポリマーの構造解析 (1) 構造解析の概要(1)構造解析の概要
2.3.3 酵素触媒重合により得られるポリマーの構造解析
Fig. 2.27: Proposed structures of polymers that were contained in crude P(3HB) produced by the lipase-catalyzed ring-opening polymerization ofβ-BL.
来するかを決定できない。そこで、1H-NMRを用いた末端構造解析から推定された末端 水酸基型とクロトネート型の2種の構造のみが存在すると仮定して以下に示した式を構築 し、式を補正しながら考察を行った。
X+Y +Z
X+Y =Q (2.1)
X : 1H-NMRチャートにおける5.80もしくは6.95 ppmのピークの積 分値(クロトネート型の不飽和結合部位のプロトン由来: クロトネー ト型の数と等価)
Y : 1H-NMRチャートにおける4.20 ppmのピークの積分値(水酸基末 端メチン基のプロトン由来: 水酸基末端型の数と等価)
Z : 1H-NMRチャートにおける5.25 ppmのピークの積分値(全ポリ マーの繰り返しユニット中のメチン基プロトン由来)
Q : 仮想の平均重合度(水酸基末端型とクロトネート型のみが存在する と仮定して求めた理論重合度)
式2.1はポリマー主鎖中のメチン基に由来するプロトンと不飽和結合片側のプロトンの 合計を、水酸基末端型とクロトネート型の数を示すプロトン量で除しているため、ポリ マー中に環状型が存在すると測定される実際の平均重合度よりも大きな値を導く。そこで、
実際の平均重合度を1H-NMRにより求めるためには環状型の数に相当するCを導入した 以下の式2.2が必要となる。
X+Y +Z
X+Y +C =P (2.2)
C : 環状型の数を示す値 P : 実際の平均重合度
したがって、実際の平均重合度が求まれば、式2.2を用いて環状型の数を示すCの値を 求めることが出来る。しかしながら、現在では正確にポリマーの平均重合度を求める手段 はないので、本考察においてはSECより求めた数平均分子量Mnをモノマーユニットの 分子量で除する以下の式2.3を用いて実際の平均重合度を求めた。
Mn
86.09 =L (2.3)
L : 実際の平均重合度
以上の式2.1, 2.2並びに2.3を合わせると式2.4を導くことが出来、この式2.4を用いた 計算により環状型の存在の確認を行った。
C = X+Y +Z
Mn 86.09
−X−Y (2.4)
以上の計算の結果より、環状型の存在が強く示唆された。したがって、1H-NMR及び
MALDI-TOF MS解析の結果と合わせて考えると、β-BLの酵素触媒重合により得られる
ポリマーの構造は水酸基末端型、環状型及びクロトネート型の3種類であることが示さ れた。以上の検討結果を受けて、β-BLの酵素触媒重合により得られるポリマーの構造を
1H-NMR及びMALDI-TOF MSスペクトルに帰属した。重合により得られた粗ポリマー
中に含まれる構造体を混合物のまま、構造体の帰属を行った。Fig. 2.28及び2.29に粗ポ
リマーの1H-NMR及びMALDI-TOF MSスペクトルを記載した。
Fig. 2.28: 1H-NMR spectrum of crude P(3HB) produced by the lipase-catalyzed ring-opening polymerization ofβ-BL.
1H-NMR (300 MHz: CDCl3): P(3HB); δ = 1.22~1.33 (–O–CHCH3–CH2–CO–
O–, 3H, m), 2.41~2.63 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 4.2 (HO–CHCH3– CH2–CO–O–, 1H, br), 5.16~5.37 (–O–CHCH3–CH2–CO–O– , 1H, br), 1.85 (H–
CCH3–CH–CO–O–, 3H, d,J= 7.5 Hz), 5.85 (H–CCH3–CH–CO–O–, 1H, d,J= 15 Hz), 7.0 (H–CCH3–CH–CO–O–, 1H, m),β-BL;δ = 1.58 (–O–CHCH3–CH2–CO–
O–, 3H, d,J= 6.09 Hz), 3.07 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, dd,J= 4.00, 16.4 Hz), 3.57 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, dd, J = 4.00, 16.4 Hz), 4.77 (–O–CHCH3– CH2–CO–O– , 1H,J= 6.09 Hz)
Fig. 2.28の1H-NMRスペクトルには、反応終了直後であるためにモノマーに由来する
ピーク(δ = 1.58, 3.35, 4.7 ppm)が現れているが、今回の検討には影響を与えないと判断 した。また、Fig. 2.28のスペクトルにはFig. 2.27中のb)に示した環状型ポリマーの帰属 を示していない。環状型ポリマーは末端基を有さないために、末端に存在するモノマーユ ニット由来の特異的な化学シフトに帰属するプロトンが構造に含まれていない。したがっ
Fig. 2.29: MALDI-TOF MS spectrum of crude P(3HB) produced by the lipase-catalyzed ring-opening polymerization ofβ-BL.
て、環状型ポリマーに含まれている全てのプロトンがポリマー主鎖の繰り返しユニットと 同じ化学シフトに現れると考えられるため、帰属は省略した。環状型ポリマーの1H-NMR チャートに関しては後に詳細を記した。また、MALDI-TOF MSの測定条件に関しては巻 末の付録中に記した。
(2)超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)を用いた構造体の分別
LC(Liquid Chromatography)を用いて構造体を分別する場合、分解能の調節は流速及
びカラム温度を変化させて行う。したがって、分解能調節の幅はあまり広くない。しかし ながら、SFCを用いた場合、主溶媒である超臨界CO2の物性が温度、圧力に大きく影響 を受けて溶解力を変化させるため、必然的に分解能も温度、圧力に依存して大きく変化す る。さらにモディファイヤーを用いるため、モディファイヤーの流量も分解能を変化さ せる。すなわち、目的とする分子量もしくは構造を有するオリゴマーを分別する際にLC よりも詳細な条件設定を行える。以前は高分子を分子量により分別する場合、SEC(Size Exclution Chromatography)を用いるほかなかった。SECを用いて分別した場合、各フ ラクションの分子量分散を分別前と比較して絞り込まれるが、各フラクションに含まれる ポリマーの分子量を単一にすることは不可能であった。
これまでの検討から、β-BLの酵素触媒重合で得られるポリマーは3種類の構造体を有 することが示された。そこで、3種類の構造体の混合物から単一構造もしくは単一分子量 を有するオリゴマーフラクションへの分別を試みた。まず、シリカゲルカラムを用いた構 造による分別を考えたが、TLCにより分別条件検討の結果、構造もしくは重合度の違いに よる分別は不可能であった。そこで、分別の方法としてはポリスチレン等を用いた単一分 子量を有するオリゴマーフラクションへの分別が報告されている超臨界流体クロマトグラ フィー(SFC)が適していると考えた。
ここではSFCの分別挙動解析に先立ち、SFC を用いて分別したフラクションがSFC チャートにおいて単一となることを確認した。Fig. 2.30に分別前のSFCチャートを示 し、Fig. 2.30中でマークを付したピークを分別したもののSFCチャートをFig. 2.31に 示した。
Fig. 2.30: SFC profiles of mixtures obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL.
Fig. 2.31: SFC profiles of separated fraction from mixture.
以上の結果より、SFCチャートに現れる一連のピークはピーク毎の分別により単離でき ることが示された。分別後のピークの保持時間は、分別前のそれと比較して絶対値に多少 の差があるものの、重合混合物中の他のピークは分別操作により排除されていることが明 らかとなった。そこで、分別された各オリゴマーフラクションの構造解析を1H-NMR及
びMALDI TOF-MSを用いて行うことにより、β-BLの酵素触媒重合で得られるポリマー
の詳細な構造解析並びにSFCの分別挙動解析を目的として検討を行った。
(3)分別したフラクションに含まれるポリマーの構造解析
本検討で用いたSFCはカラムの担体がシリカゲルであるため、それぞれの構造体の有 する保持時間はそれぞれの極性に大きく依存すると判断した。これら3種類の構造体の中 では水酸基末端型がヒドロキシル基末端とカルボキシル基末端を有するために一番極性が 高いと判断し、末端を有さない環状型が最も極性が低いと考えて分別条件を検討した。検 討の結果、構造体別に分別することが可能であった。以下に単離したフラクションA~C
の1H-NMR及びMALDI-TOF MSチャートをそれぞれ示し、それらのスペクトル解析の
により導かれた分子構造を示した。
フラクション A
Fig. 2.32: 1H-NMR spectrum of isolated P(3HB): Fraction A
1H-NMR (300 MHz: CDCl3) : δ = 1.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 3H, m), 2.6 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 5.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 1H, br)
Fig. 2.33: MALDI-TOF MS spectrum of isolated P(3HB): Fraction A
Fig. 2.32及び2.33のスペクトル解析の結果、フラクションAに含まれる構造体はFig.
2.34に示した水酸基末端型であった。
Fig. 2.34: Proposed structure of isolated P(3HB): Fraction A
フラクション B
Fig. 2.35: 1H-NMR spectrum of isolated P(3HB): Fraction B
1H-NMR (300 MHz: CDCl3) : δ = 1.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 3H, m), 2.6 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 5.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O– , 1H, br), 4.2 (HO–CHCH3–CH2–CO–O–, 1H, br), 7.0 (H–CCH3–CH–CO–O–, 1H, m), 1.85 (H–CCH3–CH–CO–O–, 3H, d, J= 7.5 Hz), 5.85 (H–CCH3–CH–CO–O–, 1H, d, J
= 15 Hz).
Fig. 2.36: MALDI-TOF MS spectrum of isolated P(3HB): Fraction B
Fig. 2.35及び2.36のスペクトル解析の結果、本フラクションに含まれる構造体はFig.
2.37に示すようなCrotonate-typeであった。
Fig. 2.37: Proposed structure of isolated P(3HB): Fraction B
フラクション C
Fig. 2.38: 1H-NMR spectrum of isolated P(3HB): Fraction C
1H-NMR (300 MHz: CDCl3) : δ = 1.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 3H, m), 2.6 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 5.3 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 1H, br)
Fig. 2.38及び2.39の解析の結果、本フラクションに含まれる構造体はFig. 2.40に示 すようなCyclic-typeであった。
Fig. 2.39: MALDI-TOF MS spectrum of isolated P(3HB): Fraction C
Fig. 2.40: Proposed structure of isolated P(3HB): Fraction C
(4) SFCの条件検討
先の検討により、SFCを用いることにより単一構造体への分別は可能であることが示さ れたが、単一分子量への分別はより詳細な分別条件の検討が必要であった。SFCは分解能 を決定する要素をLCに比べて多く有するため、SFCの分別条件において圧力、カラム 温度及びモディファイヤーの流量がSFCチャートに与える影響について検討した。クロ マトグラフィーの条件は数値化してまとめることができないため、様々な条件で得られた チャートを記載した。
最も基本的なチャートをFig. 2.41に示した。本項では、このチャートを分取に適する スペクトルへ変換するために行った条件検討に関して記載する。
Fig. 2.41: SFC profiles of P(3HB) obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL:
(1)
ピークの高さはHPLC内に注入したサンプル量及び記録計の感度に依存するので、ピー ク間の谷のベースラインに対する接近挙動を検討した。
HPLC構成パーツの変更に伴い、圧力表示がMPaに変更された。圧力の若干な差が HPLCチャートへ与える影響を検討した。
Fig. 2.42: SFC profiles of P(3HB) obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL:
(2)
圧力及びカラム温度の影響を検討した。モディファイヤーの等の条件はFig. 2.42から 変更していない。
Fig. 2.43: SFC profiles of P(3HB) obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL:
(3)
圧力さらに上昇させるとスペクトル間隔が狭まり、分別が困難となったためにモディ ファイヤー流量上昇の傾きを低下させた。
Fig. 2.44: SFC profiles of P(3HB) obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL:
(4)
モディファイヤー流量の上昇に二つの傾きを用いて検討した。条件における( )内の 時間はサンプルを注入してからの合計時間を表す。
Fig. 2.45: SFC profiles of P(3HB) obtained by the lipase-catalyzed polymerization of β-BL:
(5)