3.3 結果・考察
3.3.2 化学触媒重合により得られた P(3HB) の酵素分解反応
β-BLの酵素触媒重合により得られた非天然型P(3HB)が有機溶媒中、ポリマー試料の 分子量の影響を受けずにNovozym°r 435の作用を受け迅速にオリゴマーにまで分解され ることが確認された。そこで、化学触媒重合により得られた高分子量P(3HB)を基質に用 いて本分解反応を検討した。化学触媒重合により得られるポリマーの一次配列は既に多 数報告されているので、本研究ではポリマー試料のタクティシティーが分解反応に与え る影響も検討するため、syndiotactic P(3HB)(以下syn-P(3HB))とatactic P(3HB)(以下
ata-P(3HB))をポリマー試料に用いて分解反応を行った。
(1)syndiotactic P(3HB)の分解における酵素濃度の影響
ポリマー試料の分子量を大幅に変更したため、酵素濃度の影響を再度検討した。分解条 件としては既に得られた結果より、有機溶媒としてトルエンを用いて40 ℃でNovozym°r 435を作用させた。
結果をTable 3.11及びFig. 3.34に示した。
Table 3.11: The Effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of syn-P(3HB): (1) a)
Entry Enz. conc.
(wt%)
Mn Mw
1 50 1180 47590
2 100 970 43770
3 300 560 10460
4 500 560 7790
a)1 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Initial P(3HB): Mw = 105350, Mn = 54700 and Mw/Mn = 1.93
Fig. 3.34より、酵素濃度増加に対する重量平均分子量の低下傾向がポリマー分子量の
大幅な増加に伴って弱くなることが明らかとなった。これまでの検討で、本分解反応は基 質のポリマー濃度を低下させたときに迅速に進行することが示されたので、本検討でもポ リマー濃度を低下させて再度検討を行った。
結果をTable 3.12及びFig. 3.35に示した。
Fig. 3.34: The effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of syn-P(3HB): (1)b)
b)1 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Table 3.12: The Effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of syn-P(3HB): (2) c)
Entry Enz. conc.
(wt%) Mn Mw
1 0 59960 119770
2 50 1580 53790
3 100 820 26340
4 300 580 6460 5 500 550 3050
a)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Initial P(3HB): Mw = 105350, Mn = 54700 and Mw/Mn = 1.93
Fig. 3.35: The effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of syn-P(3HB): (2)d)
d)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Fig. 3.34、3.35より、基質のポリマー分子量に依存せずに希釈効果が得られることが明
らかになった。すなわち、分解生成物の数平均分子量は1 %のポリマー濃度で分解させた ときにも十分に低下したのに対して、重量平均分子量の低下傾向は弱かった。一方、0.5
%のポリマー濃度で分解させたときには分解生成物の重量平均分子量も十分に低下するこ とが確認された。また、分解に要する最適酵素濃度はポリマー試料の分子量増加に伴って 増大した。すなわち、0.5 %のポリマー溶液を用いて分解が良好に進行した場合でも、300 wt.-%より500 wt.-%のNovozym°r 435を用いた時のほうが明らかに分解生成物の平均分 子量は低下した。したがって、以降の検討は特別な場合を除いて500 wt.-%のNovozym°r 435を用いて行った。
(2)syndiotactic P(3HB)の分解における反応時間の影響
先の検討から明らかになった、syn-P(3HB)分解での至適酵素濃度である500 wt.-%の
Novozym°r 435を用いて分解挙動の経時変化について検討を行った。
結果をTable 3.13及びFig. 3.36に示した。
Table 3.13: Time course of the lipase-catalyzed degradation of syn-P(3HB) a).
Entry Time (h) Mn Mw
1 1 2620 68860
2 2 1710 56600
3 3 1240 42450
4 6 780 18380
5 9 730 13690
6 12 590 4460 7 15 610 7560 8 18 490 2650 9 21 490 2070 10 24 470 1730
a)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with 500 wt.-% Novozym°r 435 at 40 oC.
Initial P(3HB): Mw = 105350, Mn = 54700 and Mw/Mn = 1.93
Fig. 3.36より、本分解反応は迅速に進行することが明らかになった。すなわち、分解生
成物の数平均分子量は反応開始後1時間で2620に減少し、重量平均分子量も24時間後に は1730に減少した。
分解生成物の平均分子量は未反応のポリマー試料も含めて計算した数値であるため、数 平均分子量の解析から分解反応系内の分子鎖数の変化を推測することができる。すなわち、
反応開始後1時間で数平均分子量は約1/20に減少したことから、反応系内の分子鎖数は1 時間の間に20倍に増加したことを意味している。この分子鎖数の増加は経時的に減少し、
反応開始後6時間以降では、ほぼ横ばいとなった。
また、重量平均分子量は分解生成物中に分子量の大きなものが含まれていると影響を強 く受ける。すなわち、本検討の平均分子量の求め方からは、ポリマー試料が反応終了後も 未反応で残存した場合、分解生成物の重量平均分子量は大きな値を示す。したがって、重
Fig. 3.36: Time course of the molecular weight of the degradation productsb).
b) 0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with 500 wt.-%Novozym°r 435 at 40 oC.
量平均分子量が低下している間は、分解生成物中に未反応のポリマー試料が含まれている ことを示唆している。このことから、ポリマー試料が完全に分解されるために24時間要し たと考えることができる。分解における分子量移動の様子をSECチャートを用いてFig.
3.37に示した。
Fig. 3.37より、基質としたポリマー由来のピーク(以下ピーク(A))、最終的に到達する
分解生成物由来のピーク(以下ピーク(B))及びその両者の中間に現れるピーク(以下ピー ク(C))の3つが経時的に変化していた。分解挙動を解析するにあたり、ピーク(C)の経 時変化は重要である。酵素触媒反応によるポリマー鎖の切断様式は、ポリマー鎖の末端か ら切断されるエキソ型分解とポリマー鎖の中程をランダムに切断されるエンド型分解の二 つがある。エキソ型分解反応ではピーク(A)が徐々に低分子量側へ移行し、一方エンド型 分解反応ではポリマー鎖がランダムに切断されるためにピーク(A)が急激に低分子量側へ 移行することが知られている。本分解反応の場合、ピーク(A)はピーク位置を変化させず に、ピーク(B)が現れたことからランダムな分解反応を推測される。しかしながら、モノ マーにまでは分解されなかったことから、酵素がある大きさのオリゴマーを選択的に与え ていることが推測された。このことに関しては分解反応機構についてに詳細に記した。
Fig. 3.37: SEC profiles of lipase-catalyzed degradation products ofsyn-P(3HB).
Initial P(3HB): Mw = 105350,Mn = 54700 and Mw/Mn = 1.93
(3)atactic P(3HB)の分解における酵素濃度の影響
ata-P(3HB)をポリマー試料に用いて本分解反応を検討した。本検討に用いた
ata-P(3HB)は数平均分子量が前項で用いたsyn-P(3HB)の半分にしか満たない。したがって、
前項及び前々項において最適酵素濃度は求めたが、再度最適酵素濃度を検討した。分解条 件としては前項の結果をもとに有機溶媒としてトルエンを用い、0.5 %のポリマー濃度、40
℃においてNovozym°r 435を作用させた。
結果をTable 3.14及びFig. 3.38に示した。
Table 3.14: The effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of ata-P(3HB)a).
Entry Enz. conc.
(wt%) Mn Mw
1 50 1770 17260
2 100 990 11420
3 300 470 2110 4 500 420 1440
a)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Initial P(3HB): Mw = 30600, Mn = 25200 and Mw/Mn = 1.21
Fig. 3.38より、ポリマー試料をata-P(3HB)に変更しても本分解反応は迅速に進行す
ることが明らかとなった。ポリマー試料の分子量が異なるため、単純なsyn-P(3HB)と
ata-P(3HB)分解反応の比較は行えないが、いずれも本分解反応に適したポリマー試料で
あることが示された。
Alcaligenes faecalis T1由来菌体外P(3HB)デポリメラーゼは4つのサブサイトを有し、
活性セリン残基が(R)体を強く認識する二つのサブサイト間に存在する。したがって、切 断を受けるためには(R)—(R)配列が必須である7) 。このため、Alcaligenes faecalisT1由
来菌体外P(3HB)デポリメラーゼは(R)体モノマーと(S)体モノマーが交互に配列した
Syn-P(3HB)に対する分解活性が低い。それに対して、syn-P(3HB)とata-P(3HB)いず れのポリマーも良好に分解したことから、Novozym°r 435を用いた本分解反応系は基質に
用いたP(3HB)のタクティシティーの影響を受けないと考えられる。
また、ata-P(3HB)を基質に用いたときもsyn-P(3HB)を基質に用いたときと同様、40
℃で24時間分解させたときは500 wt.-%のNovozym°r 435を用いた際に分解生成物の平 均分子量は最も低下した。したがって、特別な場合を除いて以後の検討は500 wt.-%の
Fig. 3.38: The effects of enzyme concentration on the lipase-catalyzed degradation of ata -P(3HB)b).
b)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with Novozym°r 435 at 40 oC for 24h.
Novozym°r 435を用いて行った。
(4)atactic P(3HB)の分解における反応時間の影響
本項では、500 wt.-% Novozym°r 435を用いてata-P(3HB)を分解したときの経時変化 について検討を行った。
結果をTable 3.15及びFig. 3.39に示した。
Table 3.15: Time course of the lipase-catalyzed degradation of ata-P(3HB) a).
Entry Time (h) Mn Mw
1 1 1770 15670
2 2 1150 11290
3 3 1010 10370
4 6 660 6030 5 9 580 4410 6 12 490 2710 7 15 450 2410 8 18 430 1750 9 21 390 1170 10 24 410 1390
a)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with 500 wt.-% Novozym°r 435 at 40 oC.
Initial P(3HB): Mw = 30600, Mn = 25200 and Mw/Mn = 1.21
Fig. 3.39より、ata-P(3HB)もsyn-P(3HB)と同様にポリマー濃度0.5 %、40 ℃で500 wt.-%のNovozym°r 435を作用させたときには迅速に分解され、反応開始後24時間で分 解生成物の平均分子量は平衡に達することが明らかになった。
本検討も分解生成物の平均分子量は未反応のポリマー試料を含めて計算しているため、
ポリマー試料が未反応で残存している間は重量平均分子量が大きな値を示した。基質に用
いたsyn-P(3HB)とata-P(3HB)は分子量が大幅に異なるため、同条件下であっても分解
速度を単純に比較することができない。しかしながら、Fig. 3.36と3.39と比較検討する と、いずれも反応開始直後に未反応ポリマー試料を含めた分解生成物の数平均分子量は急 激に減少し、重量平均分子量は反応開始後24時間で平衡に達したことが明らかになった。
また、分解における分子量移動の様子をSECチャートを用いてFig. 3.40に示した。
Fig. 3.40より、分解挙動はポリマー試料のタクティシティーによらずエンド型で進行し、
Fig. 3.39: Time course of the lipase-catalyzed degradation ofata-P(3HB) b).
b)0.5 % P(3HB) toluene solution was stirred with 500 wt.-% Novozym°r 435 at 40 oC.
一定分子量のオリゴマーを生成物として与えていることが明らかとなった。しかしながら、
全てのモノマーユニットが(R)体である天然型P(3HB)は高い結晶性のために有機溶媒に 対して難溶であることが知られている。本分解反応はポリマー試料が有機溶媒に溶解して いることが必要最低条件であるため、ポリマー試料のタクティシティーに依存しない本分 解反応であっても天然型P(3HB)分解に適用可能であるかは別の問題である。
Fig. 3.40: SEC profiles of the lipase-catalyzed degradation products of ata-P(3HB).
Initial P(3HB): Mw = 30600, Mn = 25200 and Mw/Mn = 1.21