3.2 試薬・機器・方法
3.2.3 実験方法
(1)酵素触媒を用いたP(3HB)の合成
あらかじめ減圧乾燥しておいた6 mm攪拌子を付したねじキャップ付き試験管(φ13 ×
100 mm)に所定量の酵素をはかり取り、次いで減圧乾燥したマイクロシリンジを用いてモ
ノマーであるβ-ブチロラクトン(β-butyrolactone: β-BL)を300 µL(315 mg)添加した。
その後、試験管内をアルゴン置換した上で密栓し、所定温度の油浴上で所定時間攪拌する ことにより重合を行った。反応終了後、反応混合物をクロロホルム 2 mLに溶解させ、桐 山ロートにセライト545を2 g敷き詰めて不溶物を濾別した。さらにクロロホルム(合計
20 mL)で数回洗浄した。次いで、クロロホルムを減圧留去して粗ポリマーを得た。
ポリマーの精製方法を以下に記す。得られたポリマーをクロロホルムに溶解させ、メン ブランフィルターを用いて含まれている不溶な部分を濾別した。メンブランフィルターは 孔径 = 1.0 µmのものを一段階目に用い、次いで孔径 = 0.5 µmのものを用いた。濾過の 後にクロロホルムを減圧留去し、次いでジエチルエーテル : ヘキサン = 1 : 1の混合溶媒 に徐々に滴下して再沈殿を行った。再沈殿は磁気攪拌子を用いて行い、1.5時間ずつ2回 行った。再沈殿の後に沈殿物をクロロホルムで回収し、クロロホルムを減圧留去すること で精製ポリマーを得た。精製ポリマーは真空デシケーターで十分に乾燥を行ってから基質 として用いた。
(2)syndiotactic P(3HB)の合成
本研究ではシンジオタクチック性の強いP(3HB)を1,3-ジクロロテトラブチルジスタ ノキサン (1,3-dichlorotetrabutyl distannoxane, DTD)を触媒に用いて、β-BLの開環重 合により合成した。Scheme 3.3にDTDを触媒に用いた際の重合機構を示した。Scheme 3.3に示した通り、ジスタノキサン系触媒による開環重合はモノマーの挿入反応によりポ リマー鎖の伸長が生じる。また、この挿入の際にモノマーの立体配置が関与するので、生 成ポリマーの一次配列はシンジオタクチックの傾向が強くなる 57,54) 。
重合触媒(DTD)の合成: DTDの合成はOkawaraらの報告 137) にしたがって行った。
すなわち、3.0 gのジブチルチンジクロリド(1 mmol)を10 mLのエタノールに溶解させ、
そこへ0.78 gのピリジン (1 mmol)を溶解させた3 mLのエタノールを加えて攪拌した。
さらに水を20 滴程加え、白濁を確認し、その白濁が消失するまで60~70 ℃の湯浴上で数 分間、加熱攪拌した。白濁消失後、反応容器を常温で30~40 分間放置することにより徐 冷し、エタノールに対して難溶性である生成物を結晶として析出させた。
Fig. 3.3: Mechanism of ring-opening polymerization of (R,S)-β-butyrolactone using DTD as the catalyst. (R : Residues of the hydroxy compounds)
得られた結晶を吸引濾過により回収し、漏斗上でエタノールを用いて洗浄を行った。つ いで、90 ℃で1~2 時間、減圧乾燥を行った。さらに、30~40 ℃において溶解するまで n-ヘキサンを滴下し、0~4 ℃において一晩放置して再結晶化を行うことにより、結晶の精 製を行った。DSC測定により、得られた白色結晶の融点が113 ~116 ℃(文献値 = 114
℃137))であったため、これを合成確認とした。Fig. 3.4にDTDの構造式を記す。
Fig.3.4: Chemical structure of 1,3-dichlorotetrabutyl distannoxane.
β-BLの精製: 一般的に有機金属触媒を用いた反応は基質の高い精製度が求められる。本 重合反応も例外ではなく、試薬の項で述べた精製方法では基質の精製度が低いために重合
反応は進行しなかった。精製度を低下させている原因としては購入した試薬中に含まれて いる酪酸などのカルボン酸が考えられたので、これらカルボン酸を除去する精製法を考え た。そこで、金属触媒重合に用いるβ-BLは以下に記した方法により厳密に精製を行った。
すなわち、50 gのβ-BLをジエチルエーテル50 mLに溶解させて500 mL分液漏斗に 移し、そこへ飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を50 mLを加えて、カルボン酸の水層側への 抽出操作を6回繰り返した。ついで、飽和塩化ナトリウム水溶液を50 mL加え、エーテル 層を洗浄した。得られたエーテル層に硫酸ナトリウムを加え、一晩乾燥を行った。硫酸ナ トリウムを綿栓濾過により濾別し、エーテル層をエバポレ―ターで減圧濃縮することによ り粗精製β-BLを得た。得られた粗精製β-BLに水素化カルシウムをスパチェラ2杯分加 えて常圧下で乾燥を行った後、減圧蒸留(34 mmHg, 76 ℃)を行うことでβ-BLの無水化 及び精製を行った。減圧蒸留を同条件にて2回繰り返した。
重合方法: 26 mg (2.36 × 10−5 mol)のDTDを三方コック及び磁気攪拌子を付した5 mLナス型フラスコにはかり取り、90 ℃の油浴中で系内を6時間減圧にすることにより十 分に乾燥した。ついで、フラスコを油浴につけたまま、系内をアルゴンで解圧し、直ちに シリンジにてβ-BL 3.0 mL (= 3.66 ×10−2 mol, 3.15 g)を加えることにより重合反応を 開始させた。重合は8時間行った。重合反応終了後、反応混合物を4 mLのクロロホルム に溶解させることにより重合反応を停止させ、あらかじめ用意しておいた磁気攪拌子を付
した200 mLナス型フラスコ内のジエチルエーテル:ヘキサン=1:1混合溶媒200 mL
中に徐々に滴下し、再沈殿による精製を行った。
精製ポリマーの分子構造の確認を1H-NMRにより行った。1H-NMRチャートをFig.
3.5に示した。SEC測定の結果、分子量はMw = 105400, Mn = 54700 及び 分子量分散 はMw/Mn = 1.93であった。
また、得られたポリマーのシンジオタクチック性の確認を東京工業大学大学院生命理工 学研究科生体分子機能工学専攻 井上 義夫教授並びに吉江 尚子助手(現東京大学 生産 技術研究所 物質・生命部門 助教授)のご協力により13C-NMRを用いた解析により行っ た。結果をTable 3.3に示した。
(3)atactic P(3HB)の合成
atactic P(3HB)の合成はJedli˜nskiらやKurcokらにより詳細に検討され61,101) 、一般 にアニオン重合によりラクトンを開環重合した場合にアタクチックなポリマーが得られる ことが明らかにされている。アニオン重合の反応機構に関しては未だ不明瞭な点が多いが、
アニオン重合により得られるポリマーの一次配列はアタクチックであることが明らかにさ れているため、本研究ではatactic P(3HB)の合成をβ-BLのアニオン重合により行った。
Fig.3.5: 1H-NMR spectrum of P(3HB) obtained by the ring-opening polymerization ofβ-BL using 1,3-dichlorotetrabutyl distannoxane.
1H-NMR (270 MHz: CDCl3) : δ = 1.22~1.33 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 3H, m), 2.41~2.63 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 5.16~5.37 (–O–CHCH3–CH2– CO–O– , 1H, br)
現在、提唱されている二つのアニオン重合機構をScheme 3.6及び3.7に示した。
β-BLの精製: 50 gのβ-BLをジエチルエーテル50 mLに溶解させて500 mL分液漏斗 に移し、そこへ飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を50 mLを加えて、酪酸などのカルボン 酸の水層側への抽出操作を6回繰り返した。ついで、飽和塩化ナトリウム水溶液を50 mL 加え、エーテル層を洗浄した。得られたエーテル層に硫酸ナトリウムを加え、一晩乾燥を 行った。硫酸ナトリウムを綿栓濾過により濾別し、エーテル層をエバポレ―ターで減圧濃 縮することにより粗精製β-BLを得た。得られた粗精製β-BLに水素化カルシウムをスパ チェラ2杯分加えて常圧下で乾燥を行った後、減圧蒸留(34 mmHg, 76 ℃)を行うことで β-BLの無水化及び精製を行った。減圧蒸留を同条件にて2回繰り返した。
重合反応: 18-Crown-6 0.02 g (7.56×10−5 mol)及びオレイン酸カリウム0.024 g (7.56
× 10−5 mol)を三方コック及び磁気攪拌子を付した5 mLナス型フラスコにはかり取り、
フラスコ系内を常温で4時間減圧にすることにより十分に乾燥を行った。フラスコ系内を 常温でアルゴンにより解圧し、直ちにシリンジにてβ-BLを3.0 mL (= 3.66×10−2 mol,
3.15 g)加えることにより重合反応を開始させた。重合反応は26 ℃のインキュベーター中
Scheme 3.6: Proposed mechanism of anionic polymerization of lactones: (1)
Scheme 3.7: Proposed mechanism of anionic polymerization of lactones: (2)
において72時間行った。重合反応終了後、反応混合物を計4 mLのクロロホルムに溶解さ せることにより重合反応を停止させ、あらかじめ用意しておいた磁気攪拌子を付した200 mLナス型フラスコ内のメタノール150 mL中に徐々に滴下し、再沈殿による精製を行っ た。収量は2.31 g (収率 73.3 %)であった。
精製ポリマーの分子構造の確認を1H-NMRにより行った。1H-NMRチャートをFig.
3.8に示した。SEC測定より、分子量はMw = 30600, Mn = 25200 及び 分子量分散は Mw/Mn = 1.21 であった。
また、得られたポリマーのアイソタクチック性の確認を東京工業大学大学院生命理工学
研究科生体分子機能工学専攻 井上 義夫教授並びに吉江 尚子助手(現東京大学 生産技 術研究所 物質・生命部門 助教授)のご協力により13C-NMR、DDSC及びDSCを用いた 解析により行った。結果をTable 3.3に示した。
Fig. 3.8: 1H-NMR spectrum of P(3HB) obtained by the ring-opening polymerization ofβ-BL using potassium oleate—18-Crown-6 complex.
1H-NMR (270 MHz: CDCl3) : δ = 1.22~1.33 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 3H, m), 2.41~2.63 (–O–CHCH3–CH2–CO–O–, 2H, m), 5.16~5.37 (–O–CHCH3–CH2– CO–O– , 1H, br)
Table 3.3: Tacticities of the obtained P(3HB) as measured by 13C-NMR.
Sample Diad (169 ppm) Triad (40.8 ppm)
(s) (i) (si) (ii) (ss) (is) Syn-P(3HB) 0.60 0.40 0.25 0.15 0.38 0.22
Ata-P(3HB) 0.50 0.50 0.28 0.25 0.24 0.23 s : Syndiotactic diad stereosequence
i : Isotactic diad stereosequence
si : Syndiotactic-Isotactic triad stereosequence ii : Isotactic-Isotactic triad stereosequence
ss : Syndiotactic-Syndiotactic triad stereosequence is : Isotactic-Syndiotactic triad stereosequence
Fig. 3.9: DSC profiles of P(3HB) obtained by the ring-opening polymerization ofβ-BL using potassium oleate—18-Crown-6 complex.
(4) P(3HB)の酵素分解
減圧乾燥した6 mm攪拌子を付したねじキャップ付き試験管(φ13 × 100 mm)に
P(3HB) 10 mgをはかり取り、ついで、別途用意した豆試験管に所定量の各種酵素をはか
り取り、その酵素を先に用意したねじキャップ付き試験管内へ添加した。試験管内混合物 に1 mLの有機溶媒を加え、1% P(3HB)溶液とした。ついで、試験管内をアルゴン置換 した上で密栓し、所定温度の油浴上で所定時間攪拌することにより分解を行った。反応終 了後、反応混合物をクロロホルム 2 mLで溶解させ、セライト545を2 g敷き詰めた桐山 ロートで不溶物を濾別した。さらにクロロホルム(合計20 mL)で数回洗浄した。次いで、
クロロホルムを減圧留去して粗分解物を得た。
分解挙動解析は得られる分解生成物の分子量をSECを用いて測定することにより行っ た。また、分解生成物の構造解析は1H-NMR及びMALDI-TOF MSにより解析した。
(5)分子量一定の水酸基末端型オリゴマーの調製
減圧乾燥した6 mm攪拌子を付したねじキャップ付き試験管(φ13×100 mm)に所定 量のCRLをはかり取り、次いで減圧乾燥したマイクロシリンジを用いてモノマーである β-BLを300 µL(315 mg)添加した。その後、試験管内に水を10 mg添加した上でアルゴ ン置換して密栓し、所定温度の油浴上で所定時間攪拌することにより重合を行った。反応 終了後、反応混合物をクロロホルム 2 mLで溶解させ、セライト545を2 g敷き詰めた桐 山ロートで不溶物を濾別した。さらにクロロホルム(合計 20 mL)で数回洗浄した。次い で、クロロホルムを減圧留去して粗オリゴ(3HB)を得た。
得られた粗オリゴ(3HB)をSFCを用いて単一分子量に分別することで、4~10量体の水 酸基末端型オリゴマーをそれぞれ調製した。分子構造の確認は1H-NMR及びMALDI-TOF MSにより解析した。
(6)分子量一定の環状型オリゴマーの調製
減圧乾燥した6 mm攪拌子を付したねじキャップ付き試験管(φ13 × 100 mm)に P(3HB) 10 mgをはかり取り、ついで、別途用意した豆試験管に所定量のNovozym°r 435 をはかり取り、先に用意したねじキャップ付き試験管内へ添加した。試験管内混合物にト ルエン2 mLを加えた。ついで、試験管内をアルゴン置換して密栓し、40℃の油浴上で24 時間攪拌することにより分解を行った。反応終了後、反応混合物をクロロホルム2 mLで 溶解させ、セライト545を2 g敷き詰めた桐山ロートで不溶物を濾別した。さらにクロロ