第五章 道徳授業実践
第2節 道徳授業実践
道徳授業実践の考察にあたっては、まず最初に、このモデル図をもとに行った道徳 授業における基本的考えを述べ、その後具体的な指導案の形式で、授業内容を示すこ ととする。そして、最後に、この授業実践を通した新しい道徳授業モデルの有効性と 問題点について考察する。
1授業実践における視点
(1)目標設定について
ある一つの価値を目標に設定し、その価値を伝達しなければいけないという戦略的 行為モデルによる道徳の授業が行われたことに、価値注入の問題があった。そこで、
今回の授業実践においては、価値の伝達に直接的なねらいを置くのではなく、規範に 視点をあてた授業構成を図った。すなわち、登場人物の心1青を追うことによってねら いとする価値を子どもたちの中に内面化していくのではなく、登場人物の取り得る行 為について、 子どもたち相互の話し合いを行うことによって、その行為を規定してい る規範に目を向けさせることとした。つまり、その規範の妥当性をさまざまな子ども たちの立場から話し合うことによって、どのような行為がより合理的であるかという ことを考えるカー一子ども一人ひとりの相互行為調整能カーを育てることを本授業 の大きな柱と考えた。そのために、「ねらい」を下記のように設定し授業実践を行っ
た。
ねらい
02の(2)「友情」や4の(1)「責任」を中心にして、ある行為の規範と、その規 範を支えている価値との関係についてみんなで考えることによって、子ども一人 ひとりの相互行為調整能力を育てる。
○グループ活動を通して、討論の基礎である表自賠発話能力を育てる。
(2)資料について
本授業で取り上げる資料は、東京書籍6年の「ぼくは後悔しない」である。資料選 定にあたっては、一見しただけでは、価値がはっきり分からないもの、道徳的葛藤が 含まれるもの、発達段階に適したものという視点で行った。なお、実際の授業におい
て、子どもたちに資料を提示する場合には、学級会の運営委員という立場において、
仲のよい友達との友情を優先するために、その友達のことが批判されている議題を取 り上げないか、運営委員としての責任を果たすために、その議題を取り上げるかで悩 んでしまう前半の部分に加筆修正を加えたものを使用し、葛藤状況を明確にできるよ
うにした。
(3)授業展開について
①第一時間目
この時間のねらいとしては、二時間目の学級全体での規範の共有化のための前 段階として、子ども個々人の仮の規範をしっかり持たせることを主眼とする。そ のために、モラル・ジレンマ学習による判断・理由付けの手法を取り入れ学習を 展開する。
まず、、導入部分において、資料の主人公の立場を理解しやすくするために、子 どもたちの経験を発表させる。その後、展開(1)において資料内容を十分理解 させた上で、主人公の葛藤状況をつかませ、初発の判断・理由付けを行う。すな わち、主人公が取るべき行為をその理由(規範)をもとに考えるのである。これが、
子ども個々人の最初の規範となる。更に展開(2)において、子ども個々人の内 面の規範を全体の場に示すことにより、自分以外の友達の規範の内容について知 らせる。このことによって、自分自身の規範と他の人の規範を比べ、より妥当な 規範があることに気づかせる。そして、この活動を行った後で、二回目の規範づ くりを行う。この場合は、今までの意見を聞いて自分の考えを変えても良いし、
変えなくても良いという形で行う。
②第二時問目
この時間のねらいとしては、第一時間引において子ども個々人の内に形成され た規範を、学級全体の場で討論することによって、学級全体の規範として共有化 することを目指す。すなわち、個人化された規範から社会化された規範の形成を 図る。また、共有化のために討論する学習を通して、話し合いの決まりである普 遍化原則(U)や討議規則(D)のもとでの話し合いの手続きの方法を学ばせる ことを主眼とする。
話し合いの手順としては、まず最初にグループでの話し合いを行う。グループ 活動を討論の最初に導入した視点としては、子ども個々人の発表力の違いを考慮 したからである。グループでの話し合いは、次の二つの点で有効なものと考える。
○学級全体の場で発表できない子どもでも、小人数ということで、気分的に楽に 発表できる。
○発表の仕方を小人数の中で学ぶことができる。
しかしながら、このグループでの発表は、あくまでもクラス全体のなかで、子 ども一人ひとりが自分の考えをしっかりと話すことができるまでの過渡的・補完的
なものであり、このような発表の練習を重ねることによって、子ども一人ひとりの 表自的発話能力を高めることが目標である。
このグループにおける話し合いにおいては、話し合いの約束として、他の人の意 見にははっきりと「イエス」か「ノー」の態度表明をし、賛成や反対の理由をきちんと 言うこと、及び、 「グループみんなが納得した決まりはみんなは守らなければなら ないこと」 「グループの人みんなが納得するまで話し合いをすること」ということ を前提とする。
次に、話し合いの第2段階として、展開(5)では、各グループの話し合いをも とにそれぞれの班から、そのグループで決められた規範を全体の場に提案し、その 妥当性について吟味する。その場合も、話し合いのきまりとして、前段階のグルー プのときと同じ約束のもとで話し合いを行うこととする。ある一つの班から出され た規範について、反対の揚合には、その意見に対してはっきりと「ノー」という態度 表明を行い、その反対理由を述べる。それに対して、提案した班からは、その反対 意見に対して意見を返していくのである。
話し合いの手順
轡疹場舞諦i耀辮灘護鍵、
規 範
の
提 示
①
賛成の場合
反対の場合
② 反対理由
③
納得して取り下げる
反対意見を述べる
四割灘曇万万i雛鰻 韓頭
このような二段階の話し合いを通して、子ども個々人の規範から学級全体の規範 づくりを行う。そのためには、自分勝手な考えではなく、学級のみんなが納得する こと、お互いに了解しなければ新しい規範はできないことを学習するのである。こ うして、個人主義的な道徳授業から社会化を志向した道徳授業への転換が図られる のである。次に、このような授業方針を実際の授業の中で具現化するための指導案 を示す。この指導案によって、新しい道徳授業再構築のためのパラダイム転換がど こに生かされているかが明確になると考える。
2授業展開例
①第1時の指導案
過程 学習活動 主な発問・指示と予想される児童の反応 指導上の留意点 導入 1、学級会の議題 ○学級会で話し合って欲しいことをみんなはど ・資料の主人公の立場
について知る。 のようにして決めていますか。 を考えさせるため、自
5分 ・議題の投票箱に入れる。 分の経験を発表させ
・先生に相談する る。
一 一 一 一 一 一 一 冒 一 一 一 一 璽 一 一 一 璽 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 嘘 一 尊 一 一 一 一 一 一 一 一 一 冒 冒 _ 尊 一 璽 一 冒 冒 一 一 一 一 一 一 一 一 } 一 一 一 一 一 冒 騨 一 唱 一 一 一 一 一 冒 層 , 一 一 一 一 一 冒 一 一 璽
展開 2、資料「ぼくは ○先生が読みますので良く聞いてください。 ・教師の読みによって
(1) 後悔しない」を 内容理解を図る。
15
読む。
i1)道徳的葛藤 〇三郎はどんなことで悩んでいるのですか。 ・三郎の葛藤状況をし 分 について明 ・ボールの議題を取り上げるべきか、取り上げ つかりと把握させる。
確にする。 るべきでないか。
(2)初発の判 〇三郎はボールの議題を取り上げるべきです ・判断内容と理由をカ 断・理由付 か、取り上げないべきですか。その理由も考え 一ドに書かせる。
けをする。 てください。
囎 , 一 , 一 一 隔 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 冒 一 ■ 噛 一 需 騨 一 一 一 一 一 一 一 一 囎 一 _ 一 冒 曽 一 騨 P 一 一 一 一 一 一 一 一 一 口 層 縣 一 一 一 一 一 一 一 一 一 冒 一 一 一 一 一 一 一 冒 一 冒 冒 一 一 一 一 一 一 一 一 一 甲 } 一 一 一 一 一 } 響 一 一 一 一 冒 冒 一 一 一 一 一
展開 3,自分の考えを 〇三郎はどうすべきでしょうか。それはなぜで ・カードをもとに子ど
(2) 発表する。 すか。 もたちの考えを発表さ
取り上げる 取り上げない せる。
20 ・発表をもとに行為規
分 ・先生に怒られるかも ・正夫から文句を言 範の類型化を行う。
しれないから。 われるから。 第一段階・権威に左右 される規範による相互
・運営委員としてみん ・仲良しの正夫との友 行為 なからおかしく思わ 情がこわれるかもし
れるから。 れないから。 第二段階…個人の利害
・みんなに悪いような ・もし自分がその立場 に左右される規範によ 気がするから。 だったら言ってほし る相互行為
くないから。
・運営委員として学級 ・学級のことも大切だ 第三段階…期待される の問題を一番に考え が言ったら正夫がか 役割に左右される規範
るべきだ。 わいそうだから。 による相互行為
・学級の一番の問題を ・学級の役割を果たす 第四段階・・社会的規範 取り上げることが学 ことも大切だが、そ によって導かれる相互 級のまとまりを高め のために友情を侵す 行為
ることになる。 ことはできない。
・相手が誰だろうと言 うのが公平だ。
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展開
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 噌 一 鰯 , 幅 , 一 一 璽
S、二回目の判
一 一 一 一 一 一 一 一 一 ■ 一 一 一 一 幽 一 讐 一 層 甲 一 一 一 一 一 一 冒 一 一 冒 一 一 一 一 一 冒 一 一 冒 需 一 一 一 璽 一 一 一 隔 一 一 一 一 一 , 一
Z自分の考えはどの考え方に一番近いかな。み
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 冒 一 盟 一 騨 一 一 一 一 一 一 一 冒 冒 一 一
E子どもたちから出さ
(3) 断・理由付けを んなの発表を聞いて変えてもかまいません。 れた各段階の規範を参
行う。 ・意見を変えよう。 考に、次時の個々の規
5分 ・やっぱり同じだ。 範意識から規範の共有
化のための話し合いの 視点を明確にする。