支 16.00
第 3 節 過去の恋愛経験と自己愛傾向日耳究 1 1]
II6 第 5 章異性関係と自己愛傾向
(3) 恋愛意識
まず, L日ち2 に含まれる 6 尺度に相当する 5 項目ずつの得点を合計すること で, Mania 得点(平均 17.04, SD4.16, α= .83), Eros 得点(平均 15.26, SD 3.88, α= .75), Agape 得点(平均 13.57. SD4.40, α= .84), Storge 得点(平均 15.53 , SD4.23 , α= .66), Pragma 得点(平均 1 1.45, SD4.96, α= .84), Ludus 得点(平 均 13.27, SD4.24. α= .70) を算出した。性差の検討を行ったところ, Pragma (男性平均 9.84 , SD4.44 ; 女性平均 12.65. SD4 .4 4) と Ludus (男性平均 12.34 , SD4.30 ; 女性平均 13.97, SD4.08) について,男性よりも女性の方が得点が高い
という結果が得られた(それぞれ t(208)= 4.2 1, ρ< .001 ; t(208) 二 2.79, p<.01) 。 次に, LETS-2 の各得点と自己愛傾向との関連を検討したっ男女込みの LETS-2 の各得点と NPI-S の各得点との相関関係を TABLE 5-2-4 に,男女別の L日ち2 の各得点と NPI-S の各得点との相関関係を TABLE 5-2-5 に示す。
TABLE 5-2-4に示されているように, NPI-S 総得点は Eros, Pragma と有意な 正の相関関係にあった。また NPI-S の下位尺度をみると. I優越感・有能感」
は Eros , Pragma と正の. Ludus と負の有意な相関関係にあった。また「注 目・賞賛欲求」は Mania, Eros と有意な正の相関関係にあった。「自己主張性j は Eros との問に有意な正の相関関係がみられたのみであった。また TABLE 与 2-5 に示されているようにこれらの関係には男女差があり, TABLE 5-2-4 に示さ れたような関係は女性の場合に顕著で、あるといえる。その一方で,男性では
「優越感・有能感」と Eros の聞に正の有意な相聞がみられたのみであった。
TABLE 5‑2‑3 男女込みの LETS-2 の各得点と自己愛傾向との関連 (N=210)
Mania Eros Agape Stor角e Pragma
Ludus
*ρ く 05 •• P く 01
総得点
。4 26 会合会
07 10
15合
10 ... p く 001
NPI‑S 優越・有能 注目・賞賛
00 .20"
25" 合 19"
09 .09 06 .12 14' .10
‑.15' ‑.04
自己主張
‑.00
1 ア
‑.10
。 11
11
‑.13
I18 第 5 章異性関係と自己愛傾向
百l0mson (1982) や小此木(1981)に従えば.自己愛的な青年は相手に夢中に なり,自己の延長として恋愛相手をみなし相手を理想化するなど,頻繁に異 性との恋愛関係をもっ一方で,自らの自己愛的な特性のためにその関係が容易 に破綻するといった特徴があると考えられる。そこでまず,過去の恋愛経験・
失恋経験の有無や回数と,現在の自己愛傾向との関連を検討する。さらに松井 (l993a) によると,日本の青年は失恋後に悲しみや落ち込みという消極的な気 持ちが現れやすく,怒りや恨みなどの積極的な感情は起こりにくいという。こ のように,過去の恋愛経験や失恋経験は心理面に影響を及ぼすと考えられる。
また現在の自己愛傾向は,自分自身が体験した失恋経験の捉え方に関連するか もしれないc そこで本研究では,自己愛傾向と過去の失恋経験の捉え方との関 連についても探索的に検討する。
2. 方法 (1 )調査対象
調査対象は[研究 9J と同一 (383 名)である。
(2) 調査内容
a .
NP 卜S30 項目からなり.回答は「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまら ないj までの 5 件法で測定された。
b. 過去の恋愛経験・失恋経験
これまでの恋愛経験について,和田 (1994) を参考に以下の 5 つの質問に回 答を求めたっ1.過去数ヶ月の失恋経験の有無, 2.今までの失恋の回数, 3. 複数 の人への同時の恋の経験の有無, 4.複数の人との同時のつきあいの経験の有無,
5 今までにつきあった人数。
次に,これまでで.人生に一番影響を与えている失恋の体験について,堀毛 (1 994) を参考に以下の 13 の質問に回答を求めた。1.相手との関係: í恋人j
「ボーイフレンド・ガールフレンド J í グループ交際J ["片思い J ["つきあいな し J ["その他」からひとつを選択, 2. 何回目の恋愛だ、ったか, 3. 恋が始まった 年齢, 4. 失恋があったときの年齢, 5. 交際期間, 6. 別れの主導者 「自分J í相
第 3 節 過去の恋愛経験と自己愛傾向[研究 III 119
手 J í両方 J í何となく j からひとつを選択, 7. つきあっていたときの熱愛 度: í ほとんど熱中していないかった」から「とても熱中していた」までの 4 件法, 8. 相手の熱愛度の認知: í ほとんど熱中していなかった」から「とても 熱中していた j までの 4 件法, 9. 別れの責任 í 自分にある J í相手にある」
「自分と相手以外の第 3 者にある J í誰の責任でもない」の 4 件法, 10. 失恋し たときの悲しみ: í ほとんど悲しくなかった」から「非常に悲しかった」まで の 4 件法, 11. その後の異性関係への影響性の認知: í ほとんど影響していないj から「とても影響している」までの 4 件法. 12. その後の異性関係への自信:
「全く自信につながらなかった」から「非常に自信につながった」までの 4 件 法, 13. 失恋の評価・生きていく上でプラスになったかマイナスになったかに ついて「非常にマイナスであった J から「非常にプラスであった J までの 5 件 法。
なお.失恋経験については,失恋の経験がない者や答えたくない者には回答 を求めなかった。
3. 結果 (1 )恋愛経験
これまでの恋愛経験として尋ねた. í過去数ヶ月の失恋経験の有無J í今まで の失恋の回数J ["複数の人への同時の恋の経験の有無 J ["複数の人との同時の つきあいの経験の有無 J í今までにつきあった人数」の 5 つの項目について分 析を行う。なお,これらの回答は全被調査者 (383 名)から得られた。失恋経 験の平均回数は 1. 91 (SD2.11) 回であり (0 回 ~15 回) ,つきあった異性の平均 人数は 2.34 (SD2.59) 人であった (0 人 ~15 人)。
これらの変数と自己愛傾向との関連を検討するために.まず「過去数ヶ月の 失恋経験の有無J í複数の人への同時の恋の経験の有無 J í 複数の人との同時 のつきあいの経験の有無J による自己愛傾向の各得点について t 検定を行った
( T A B L E
5-3-1l。t 検定の結果,過去数ヶ月の失恋経験がある者はない者よりも. NPI-S 総得 点と「注目・賞賛欲求J が有意に高かった。また,複数の人に対して同時に恋 をした経験がある者はない者よりも, NPI-S 総得点, í注目・賞賛欲求J í 自己
I20 第 5 章異性関係と自己愛傾向
TABLE 5ふ1 失恋,同時の恋,同時のつきあいの経験による NP卜S 各得点の平均値 (5防と検定結果 過去数ヶ月の失恋経験 同時の恋の経験 同時のつきあいの経験
1Jし あり I値 なし あり t1直 なし あり t値
NPI-S 総得点、 89.87 93.71 2.31 合 88.94 94.07 3.32" 90.66 94.78 1.67 (15.35) (14.25) (14.94) (14.86) (1516) (14.18)
「優越・有能」 27.25 27.30 07 26.74 28.01 1.94 27.18 28.08 91 (6.30) (5.99) (5.92) (652) (625) (573) 1)主目・賞賛」 32.00 34.65 3.48'" 31.89 34.14 2.97" 32.74 33.59 72
(7.47) (6.58) (711) (738) (7.35) (6.88)
「自己主張」 30.62 31.76 155 30.30 31.92 2.39' 30.74 33.11 1.88 (6.58) (671) (6.73) (6.41) (6.52) (7.36)
人数 265 118 225 158 346 37
* ρ く 05 ρ<.01 全日 p く 001
主張性」が有意に高かった。しかし複数の人と同時につきあった経験の有無 によって, NPI-S 各得点に有意な差はみられなかった。なお,これらの関係は 男女別に分析を行った場合についても同様であった。
TABLE 5‑3‑2 失恋回数,つきあった人数による NPトS 各得点の平均値 (SO) と検定結果 失恋回数
0 回 1 回 2-3 回 4 回以上 Flj直 NPI-S 総得点 88.51 a 91.32 ab 90.85 ab 96.38 b 2.99・
(15.06) (13.73) (15.85) (14.72)
「優越・有能J 27.27 27.38 27.09 27.50 07 (618) (550) (657) (6.65)
「注目・賞賛j 30.84 a 33.84 bc 32.51 ab 35.71 c 5.86*' 会
(7.20) (6.48) (7.80) (6.48)
「自己主張j 30.39ab 30.10 a 31.24 ab 33.17 b 2.67' (677) (6.76) (6.53) (6.02)
人数 99 98 138 48
ぷ
8(61.4.3128 a ) 8(91.29.42 ab 6) 9(315..1764 b ) 9(51.6.2384 b ) 7.06'* ,1ト 越・有能J 26.34 26.89 28.25 27.64 1.84
っち
ちょ
(6.20) (5.16) (594) (7.15)0(,,'"、q2JJハ4L 「注目・賞賛」
(371..1680) (362..7776) 3(72..3802) (374..7246) 2.23「自己主張J 2838 a 30.28 ab 32.09 bc 33.38 c 11.70'"
(5.89) (6.37) (6.61 ) (6.65)
人数 107 85 97 94
台 p<.05 .. p<.01 .., P く∞1
表中の abc が異なる場合,その問に 5%水準で有意差がある。 Tukey の HSD 法による。
第 3 節 過去の恋愛経験と自己愛傾向[研究 III I2 I
次に, r今までの失恋の回数J と「今までにつきあった人数J と自己愛傾向 との関連を検討する。これらは具体的な回数や人数を回答しているため, r今 までの失恋の回数」について O 回, 1 回, 2-3 回, 4 回以上に, r今までにつ きあった人数j についても同様に 0 人, 1 人, 2-3 人, 4 人以上に分けて.そ れぞれ 1 要因の分散分析を行った。 TABLE 5-3-2 に検定結果 (F 値と Tukey の HSD 法による多重比較の結果)と NPI-S 各得点の平均値, SD を示す。
TABLE
5-3-2 の結果から,失恋経験が多いほど, NPI-S 総得点, r注目・賞賛 欲求J r 自己主張性」が高くなる傾向にあった。またつきあった人数が多いほ ど, NPI-S 総得点と「自己主張性」得点が高くなる傾向にあった。なお,これ らの関係は男女別に分析を行った場合についても同様であった。(2) 失恋経験
これまでで人生に一番影響を与えている失恋の体験について尋ねた項目につ いて分析を行う。先の分析で失恋の回数が 1 回以上あると報告した 284 名のう ち,回答を拒否した者及び回答の不備な者を除く 223 名(男性 111 名,女性 112 名)を分析対象とした。ここで選択された 223 名の平均年齢は 19.69 歳(男性 19.93 歳,女性 19 .4 6 歳)であった。失恋相手の内訳は, r 恋人 J 123 名 (55.16% ;男性 68 名. 61.26%; 女性 55 名, 49.11%), r ボーイフレンド・ガール フレンド J 37 名 (16.59% ;男性 19 名. 17.12%; 女性 18 名. 16.07%), r グルー プ交際J 1 名 (0.45% ;女性 1 名. 0.90%), r片思い J 62 名 (27.80% ;男性 23 名,
20.72% ;女性 39 名. 34.82%) であった。また,その失恋経験は平均 2.80 回目 の恋愛で,その恋が始まったのは平均 16 .4 1 歳(男性 16.36 歳,女性 16.46 歳), その恋が終わったのは平均 17.28 歳(男性 17.27 歳,女性 17.29 歳)のときであり,
交際期間は平均 9.87 ヶ月(男性 9.51 ヶ月,女性 10.24 ヶ月)であった。
失恋経験について尋ねた項目のうち量的変数として測定された 6 変数の平均 および SD は以下の通りである; rつきあっていたときの熱愛度」平均 3.02 ,
SD.56 ;
r 相手の熱愛度の認知 J 平均 2.54 ,SD.86 ;
r失恋したときの悲しみ」平均 3.30,
SD.90 ;
rその後の異性関係への影響性j 平均 3.04,SD.93;
rその 後の異性関係への自信」平均 2.16 ,SD.87 ;
r失恋の評価」平均 3.61.SD 1 . l 2 o
なおこれら 6 変数の性差を検討したところ, rつきあっていたときの熱愛度J122 第 5 章異性関係と自己愛傾向
(男性平均 2.90, SD.54 ; 女性平均 3.14 , SD.55) と「失恋したときの悲しみJ (男 性平均 3.14, SD.95 ; 女性平均 3.46, SD.83) について,男性よりも女性の方が得 点が高いという結果が得られた(それぞれ t(22 1)= 3.32, t(221) ニ 2.69 ,ともに
p
<.01) 。そして,これら 6 変数と自己愛傾向との関連を検討した。 TABLE ら3-3 に男女込みの結果を,TABLE
5-3-4に男女別の結果を示す。TABLE 5‑3‑3 男女込みの過去の失恋経験の各得点と自己愛傾向との関連 (N=223)
自分の熱愛度 相手の熱愛度
悲しみ 影響度 自信 失恋の評価 ρ< .05 ** P < .01
総得点
08
‑.03 01 08
14合
10
NPI‑S 優越・有能 注目・賞賛
‑.18" .02
‑.03 ‑.10 00 .05 02 .07 1 8 " 0 6 08 .10
自己主張
‑.04 07
‑.04 10 08 05
TABLE 5‑3‑4 男女別の過去の失恋経験の各得点と自己愛傾向との関連 (N=223) NP 卜S
総得点 優越・有能 注目・賃貸 自己主張
自分の熱愛度 ー 15 ‑.17 ‑.07 ‑.11 07 ‑.18 .08 ‑.08
相手の熱愛度 .05 .04 ‑.05 .13
‑.07 ‑.10 ‑.12 .06
悲しみ 01 ‑.01 ‑.05 .05 01 .04 .14 ‑.18
影響度 11 ‑.05 .13 .16 05 .10 ‑.01 .03
自 f言。5 .14 .00 ‑.01 21' .22' .11 .15
失恋の評価 11 .04 .05 .16 09 .12 .11 ‑.04
上段男性 (lll 名).下段女性(1l2 名)
, P <.05
TABLE
5-3-31こ示されているように, NPI-S 総得点, l'優越感・有能感」と「その後の異性関係への自信」との閑に有意な正の相関, l'優越感・有能感」と
「つきあっていたときの熱愛度J との間に有意な負の相関がみられた。また,
TABLE
5-3-4 に示されているように,特に女性において NPI-S 総得点, r優越第 3 節 過去の恋愛経験と自己愛傾向[研究 11] 123
感・有能感」と「その後の異性関係への自信」との聞に有意な正の相関がみら れた。
また,カテゴリ一変数として測定された「別れの主導者」と「別れの責任」
について検討する。「別れの主導者j の回答は, r 自分J 46 名 (20.63% ;男性 21 名, 18.92 % ;女性 25 名. 22.32%), r 相手 J 107 名 (47.98% ;男性 58 名.
52.25% ;女性 49 名. 43.75%), r両方J 17 名 (7.62% ;男性 7 名. 6.31 %;女性 10 名, 8.93 %), r 何となく J 53 名 (23.77% ,男性 25 名, 22.52 % ;女性 28 名,
25.00%) であった。「別れの責任J の回答は, r 自分にある J 99 名 (44.39% ; 男性 58 名. 52.25%; 女性 41 名, 36.61 %), r相手にある J 31 名 (13.90% ;男性 13 名, 11.71 % ;女性 18 名, 16.07%), r 自分と相手以外の第 3 者にある J 16 名 (7.17% ;男性 6 名, 5.41 % ;女性 10 名, 8.93%), l'誰の責任でもない J 77 名 (34.53% ;男性 34 名, 30.63%; 女性 43 名, 38.39%) であった。これらを独立変 数, NPI-S 各得点を従属変数とした 1 要因の分散分析を行ったが毛「別れの主導 者J と「別れの責任j の回答聞の NPI-S 各得点には有意な差はみられなかっ た。
過去の恋愛経験との関連から,男女ともに,同時に複数の人に恋をしたこと があると報告する者ほど特に「注目・賞賛欲求J r 自己主張性」が高く,つき あった人数が多いと報告する者ほど特に「自己主張性」が高かった。これらは,
自己愛的な青年が頻繁に異性との恋愛関係をもつことを示唆している c また男 女ともに,過去数ヶ月の失恋経験がある者や,過去の失恋経験が多い者ほど特 に「注目・賞賛欲求j が高かった。このことは,異性と別れるという経験をも つことが自己愛傾向の下位側面のうち特に「注目・賞賛欲求」の高まりに関連 することを示唆する。また人生に一番影響を与えている失恋の体験について尋 ねた項目と自己愛傾向との関連から,相関係数は低い値であったが, r優越 感・有能感J が失恋した相手に対する愛情を感じなくなり,特に女性において
「優越感・有能感」が失恋経験が後の異性関係への自信になっていると認識す る傾向に関連することが明らかにされた。