これらの取組を踏まえた、現在における福岡共同公文書館の課題としては、調査においては、
大きく3つの点が挙げられた。
一つは、歴史公文書の選別・移管に関するものであり、特に小規模市町村からの移管が進んで いないことが大きな課題であるとの認識であった。また、県の公文書は大方移管がされてきたが、
県の行政委員会については、教育委員会、漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会の分のみが 移管されてきており、他の行政委員会の分は未だ移管が進んでいない実態があり、移管の促進が 今後の課題である。これらの課題の背景にあるものとして、まず、市町村からの移管促進が進ま ない背景としては、一次選別の作業がなかなか進まないことが挙げられた。小規模市町村ほどこ れが進んでいないことには、人員不足やノウハウ不足が大きく影響していると思われ、すべての 公文書がまずは当該団体における一次選別を経る必要があることを考えると、今後はこれらの市 町村に対する積極的支援が必要となることが考えられる。すでに研修会等を開催することで、市 町村における公文書選別のノウハウの向上に努めるとともに、直接市町村に出向いてアドバイス を行うこともあるとのことであったが、共同公文書館自体に多くのマンパワーがあるわけでもな いために、支援のボリュームとしては未だ大きくはない。まずは一次選別を進めていくことから は、市町村の実際の選別作業に対する積極的支援が益々重要になっていくものと考えられる。
県の行政委員会からの移管の推進については、市町村からの移管の促進とは別の課題があり、
行政組織の独立性の観点から、知事部局の所管する公文書館への歴史的公文書の移管を拒まれて
閲覧室の様子(筆者撮影)
しまうという実態があることが挙げられた。特に公安委員会等の資料は、機密性が高いものがほ とんどと考えられ、移管に抵抗感があることがうかがえる。これらの部局に対しては、公文書館 の位置づけ、存在意義の共有が必要であり、運用方法も含め、共通認識の醸成がまずは必要と考 えられる。その上で、運用の課題があれば、これらを解決する方策を共に考えていくことにより、
移管に向けた道筋をつけていくことができるのではないかと考えられる。
二つ目の課題は、歴史公文書の利用・普及面において、デジタルアーカイブを今後推進してい く必要があることと、依然として来館者数がそれほど多くないといことが挙げられた。実際の所 蔵資料の利用については、ニーズとしては研究者や専門家、行政担当者がほとんどであると考え られるが、一か所で県内すべての公文書が見られるということは、利用者にとっては大いなる魅 力となるはずである。そうしたことは引き続き PR しながら利用促進をしていく一方で、一般にお ける認知度の向上や、利用しやすさをさらに高めていくことに対して、さらなる魅力向上に資す る事業展開をしていくことを重要な課題と認識していた。共同公文書館は地理的には必ずしも一 般の利便性が高いところに設置されているわけではないことから、わざわざ訪れるハードルが高 いということが、他の郷土資料等を置く施設等に比べるとハンデと言える。一方で、所蔵資料の 価値は大変高いものであり、これを広く普及するためには、まず企画展等で展示したものをデジ タル化することによって、より利用しやすい形で提供することが可能になると考えられ、これら の取組は今後の課題としている。その上で、共同公文書館にも足を運んでもらう仕掛けが必要と なろう。
三つ目の課題として挙げられていたのは、専門性を持った人材の養成である。これらは、一つ 目の課題として挙げられた市町村公文書の移管促進ともつながるが、市町村における専門性を持 った人材の養成という観点と、共同公文書館における人材養成の二つの観点が挙げられた。市町 村における専門人材の養成については、既に述べた通り、共同公文書館による研修・支援等を精 力的に実施していく取組の他に、共同公文書館に派遣される市町村職員についても、自治振興組 合との併任にはなっているものの、実際にはいずれかの構成市町村の職員であることから、でき る限り多くの市町村職員が循環して派遣されるようにする取組も行われている。今後さらに、移 管が進んでいない市町村の職員を優先的に派遣するなど人事面においても、市町村における専門 人材育成に配慮するように運用することで、県下全域にノウハウが定着していくことが望まれる。
共同公文書館における人材養成に関しては、課題がより深く、現行の県の規則等では、嘱託職 員については、任期が決まっているため、同一人物をずっと雇用し続けるわけにはいかない状況 にある。一方で、共同公文書館における各事業の企画を含め、様々な歴史的公文書を読み解く等 の専門知識を有する学芸員や司書のノウハウは、共同公文書館が存在する限り必要なものであり、
現場においては、現在の専門職の方々に長くかかわってもらいたいという意向が強かった。県内 の公文書全体を管理し、保存・普及していく重責を担っている共同公文書館において、専門的知 識を有した職員が継続的に関わっていく仕組みが確立されていないことは、今後を展望する上で は大きな課題と言える。
9. まとめ
福岡県共同公文書館の取組は、冒頭述べたとおり、公文書管理体制の充実という観点からも県 と市町村の連携による行政サービスの提供の効率化、とりわけ公共施設の運営の一体化という観 点からも先進的な取組であることが確認できた。
公文書管理体制の充実という点では、そもそも共同での公文書館設置が実現できた時点で全市 町村に公文書館が設置されたことを意味し、そのこと自体が画期的なことではある。これに加え て、共同公文書館を運営していく中で、市町村の公文書移管が進まない実態に直面することで、
市町村における歴史公文書保存の課題とそれを支援する県のバックアップ体制の充実が図られる こととなり、未だ課題は多いものの、今後運営の課題を一つずつ解決する取組を行っていくこと で、公文書管理の体制が質的にも充実していくことになると期待できる。
また、県と市町村が連携し、公共施設運営を一体化したことは、人員面、予算面でも大いなる 行政効率化につながっていると言える。このようなことが実現できた背景について本取組を分析 すると、一つには、公文書管理という取組に関して、県と市町村の役割に相違がないことが挙げ られる。例えば、図書館のような施設では県立図書館と市町村立図書館にそれぞれ異なる役割が 期待されており、一体化することで合理化できる部分はあるものの、引き続き両施設の機能は保 持せねばならず、合理化によるコストメリット等を見出しにくい点などが課題としてしばしば挙 げられる。公文書管理の取組は、基本的には県と市町村が共通した考え方で実施できるものであ る。だからこそ評価基準等も統一のものが整備でき、基本的な事務作業の合理化メリットを見出 すこともできるものと考えられる。
二つ目には、政令指定都市以外の市町村がほぼ全て公文書館を保有していなかったことは結果 として施設の一体化を進める上で円滑に機能したと考えられることが挙げられる。施設の一体化 は、既存施設が存在している場合には、現存の施設を利活用することをまず追求するため、なか なか実現しにくい。公共施設の更新のタイミングが偶然に一致することがあれば、更新にあたっ ての一体化は考えられるが、それがずれてしまうと、既存の利用可能な施設の目的を変更してま で、他の施設と一体化させるインセンティブは働かないことがほとんどであることから、実現が 困難になる。本取組においては、このようなハードルが当初から存在していなかったことが実現 に寄与していると考えられる。
三つ目には、福岡県自治振興組合からの財源の拠出が可能だったことである。ほぼ全市町村の 共同施設として位置づけたことが、共有財源の捻出を可能としたと言えるが、仮に個別に負担金 の支出を諮っていたのでは、財政状況等の違い等により、調整困難な案件になっていたと想定さ れる。このことから、このような共同組織が政策を実現するための受け皿として存在していたこ とは、共同公文書館設置の実現には重要な役割を果たしていたと考えられる。
これら3つの観点がすべて揃っている環境は、公文書館以外の公共施設の整備・運営において はそう多くはないと思われるものの、公文書館に関しては、全国での整備率が低いことから、福 岡モデルを参考にして共同公文書館として設置していくことは有効であると考えられる。現時点 では、福岡に続く例はないものの、各団体においては、一考の価値があるものとして是非とも参