3. オガールプロジェクトの概要及びこれまでの経緯 1. オガールプロジェクトとは
3.2. オガールプロジェクトの歩み
3.2.1. プロジェクトが始動するまで
オガールプロジェクトが誕生したきっかけは、何よりも紫波中央駅前の 10.7ha の未利用町有地 をどうするかという問題があったことに始まるといっても過言ではない。紫波町では、紫波中央 駅の設置をずっと請願してきており、そのための宅地開発などを過去には進めてきていた。平成 10 年にようやく請願が実現し、紫波中央駅が開業したことに伴い、紫波町では、公共施設の集積 をするために岩手県住宅供給公社(平成21年3月末に解散)から当時28.5億円で紫波中央駅前 の 10.7ha の土地(以下「駅前未利用地」という。)を取得した。しかし、その後の財政悪化等で、
駅前未利用地への公共施設等の整備計画については、実現しないまま塩漬け状態になっていた。
一方、公共施設の整備ニーズとしては、昭和 38 年に建設された役場本庁舎の老朽化が課題とな っていることや、紫波町に新たな図書館を設置することの住民からの強い要望があるなど、町と しては、駅前未利用地への公共施設の整備ニーズはあることを認識していた。しかしながら、多 額の投資となる新規の施設整備については、単純に建設していくだけの財政の余裕が出る見通し も立てられないまま、タイミングを見計らっていた状態と言える。
そんな中で、後にオガールプロジェクトのキーマンとなる紫波町出身の岡崎正信氏が中心とな り、当該土地を公民連携の手法を活用して開発していくことが提案された。岡崎氏が東洋大学大 学院の公民連携専攻を修了されたこともあり、そうしたつながりによって、まずは平成 19 年に紫 波町と東洋大学大学院との間で協定が結ばれ、駅前未利用地への PPP手法による開発の可能性調 査が実施された。平成 19 年8月にその報告書が提出され、その内容を踏まえ、前紫波町長である 藤原孝氏の決断により公民連携の取組がスタートすることとなった。
このような決断をすることができたのは、前町長のリーダーシップによる部分も大きいが、そ の他にも、いわゆる民間と協働して公共施設の整備等の事業を展開していくことについて、紫波 町では全く経験がなかったわけではないということも寄与していると考えられる。
紫波町では、平成17年頃からいくつかのPFI事業の実績がある。平成17年には管理型浄化槽 整備を、平成 18 年には紫波火葬場整備を、そして平成 19 年及び 24 年には水道施設の整備及び維 持管理をそれぞれPFI事業で実施してきた。このような経験は、駅前未利用地のPPP手法による 開発の決断にあたり、行政技術として下地があるとの自信にもつながった。
以上のように、オガールプロジェクト誕生の背景には、まず、紫波町には、どうにかしなけれ ばならない塩漬けの駅前未利用地が存在したこと、そしていずれは対応しなければならない役場 庁舎の老朽化、図書館の新設という施設整備のニーズがあったこと、その上で、財政状況(特に 実質公債費比率)が良くないことによりなかなか積極投資が展開できないという追いつめられた 状況が長年続いていたことがあったと整理できる。そうした半ば膠着状態にある中で、PPP を担 うキーマンが現れたこと、そして、そのつながりで行政では得意と言い難いPPP手法の導入に関 して最先端の知見を有する大学との協定が実現したことが、紫波町の抱える問題の打開点を切り 開くターニングポイントとなった。そこに、紫波町におけるそれまでの PFI事業等行政技術の下 地があったことも後押しとなり、前町長の強い決断力によって、大きな一歩を踏み出し、オガー ルプロジェクトが産声を上げたのであった。
3.2.2. プロジェクトの具体的な実施に向けて
しかしながら、大きな方向性が決まったからといって、その後全てがスムーズに進むわけでは ない。紫波町では、以前より協働のまちづくりを重視しており、今回のプロジェクトの具体化に あたっても、まずは地域住民や民間団体等のニーズ、意見等を丁寧に聞いていくことに労力を費 やすこととなる。
平成19年11月には、農商工関係者や町民、行政職員の総勢23名 からなる紫波町 PPP 推進協議会を立ち上げ、町民や民間企業に対する 意向調査を実施していく。駅前未利用地の開発にあたって、どのよう な施設整備を望むのか、どのようなエリアにしていきたいと考えてい くのか等住民・地域のニーズを丁寧に聞くための調査である。これら の意向調査の仕方としては、「とにかくゼロベースで聞いた」(紫波町 経営支援部高橋企画課長)ということである。通常、行政では、一定 の方向性を持ってそれに対する賛否や意見を問うものが多い。という のも、ゼロベースで聞くことによる、意見集約の困難性や計画の頓挫 等のリスクを見越せば、限られた時間内での意向調査は、一定の論点 を絞ったものにしたほうが効率的であるからである。しかしながら、
紫波町ではこのような意向調査の効率性よりも、「市民協働」という 部分を重視していた。また意向調査の対象とするのも、駅前未利用地 の開発によって利便性の高まる住民の意向のみならず、例えば、これ まで町の中心部であった紫波中央駅を挟んで駅前未利用地とは反対 側に位置する商店街や事業主等の方々等、町全体の意見を聞いていっ
た。これら全てのワークショップや意見交換の場等の回数は約半年で 100 回
程度にも及ぶ。また、一つの地域には一度で終わりではなく、概ね3クール程度、同じ集団に対 して意見を聞く場を設けた。ただし、それらの場面での参加の呼びかけや運営の方法は地域に任 せる等一定程度地域の自律性を重んじる形とした。このようなやり方が可能となったのは、平成 17 年度以降協働のまちづくりに力を入れてきたことにより、地区のコーディネーター役の存在や コミュニティでの活動の基盤がある程度醸成されてきた成果と言える。これらのソフト的下地が あったことは、公民連携基本計画をまとめていく上では有効に機能したと、紫波町では認識して いる。
こうした丁寧な意見聴取を実施した上で、町では、駅前未利用地の整備を含む紫波中央駅を中 心とした中心市街地一帯の開発の基本方針となる公民連携基本計画の案を平成 20 年6月に策定 する。この計画案についても、町民との意見交換のための座談会を開催するなど密に意見をくみ 取り、平成 21年2月に行政計画として最終的な計画を策定、翌月、町議会における議決を経て、
公民連携基本計画が正式に策定される。この計画を元に、オガールプロジェクトとして個別の事 業が具体的に動き出すこととなる。
なお、平成 20 年には民間企業に委託して、駅前未利用地の開発計画についての市場調査も行っ
出典:紫波町提供資料
ている。こうした調査の結果も踏まえ、公民連携基本計画においては、駅前未利用地の開発にあ たって、公共施設以外の用途での活用もできるように用途地域の見直しも行う方針が掲げられて いる。
このような丁寧な意向調査等を重ねてきた背景にある理念として、オガールプロジェクトでは
「町民の財産である町有地を安売りしない」というものがある。即ち、開発することによって、
最終的に不動産価値の上昇に結び付けられるようにすることを目指すということである。そのた めには、エリアに活気が生まれることが必要であるが、活気を生み出すには人が多く集まること が必要であり、もちろん人を集めることのできる店舗等の民間企業の進出が展開されることも重 要になるが、その前提として、消費活動を目的としなくとも人が集まる場所であることがまず必 要であると考えられていた。この考え方の特徴は、商業施設の呼び込み等の経済開発によって人 を集めようというところを出発点にしていないということである。まず人が来る仕組みを作る、
その上で、経済開発を考えていくというものである。こうした考えがあったからこそ、手順の初 期段階において、そもそも地域が必要とする魅力ある場所を、自分たちの手で作り上げていくこ とが重要であり、意向調査のプロセスを非常に重視してきたと言えよう。
図 5 オガールプロジェクトの手順
3.2.3. プロジェクトの推進体制等
公民連携基本計画に掲げる方針に基づき、オガールプロジェクトを構成するそれぞれの事業が 動き始めることとなる。そのやり方は、公民連携手法を導入することとして、大きく2つのこと が計画に定められた。
まず、「町有地を活用した公民連携手法」とは、「町有地の一部を民間事業者に賃貸又は売却す る。民間事業者が公共施設と民間施設を複合的に整備した後、公共施設部分を町が借受け(又は 買取り)、民間施設部分は民間事業者が所有運営を行う等の方法」
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であるということである。こ
出典