B) 図書館の建設によって期待される他の政策効果も併せて説明することによって、住 民や議会の理解を得る工夫を行った。
9. 考察
高知県及び高知市が新たに建設しようとしている高知県新図書館は、全国初の合築による一体 型図書館の建設でもあり、その方針の決定までには様々な議論があった。
合築という言葉自体は、一緒に建設するということを示しているものの、そこには、施設の「統 合」や「効率化」といった背景もあるのではないかといったイメージを想起させるのか、別々の 施設としてそれぞれに今よりも充実した立派な図書館を求める声もあったようであるし、実際に、
基本構想検討委員会においても、合築による図書館の面積が十分でない等の理由で反対する声も あった。また、専門職の配置、予算の確保といった今後の懸念事項について、基本構想の中にき ちんと書き込み、今後、図書館としては様々な機能を充実させていく方向性であるということを 担保するべきとの意見も提示された。さらに、これは高知特有の状況かもしれないが、高知県人 口の半数程度を占める高知市のさらに中心部に新たな図書館が建設されることで、中心部への投 資が一層進み、周辺の住民にとっては切り捨てになるのではないかといった懸念も出されるなど、
新たな図書館政策に対する不安は大きいものであった。
しかしながら、高知市の中心市街地の活性化という課題は、高知県の「まちの顔」として、県 民にとって特別な思い入れのある重要な土地という共通認識があり、中心市街地の活性化に資す る政策選択には一定の納得感もあることや、利便性の高い土地への図書館の立地については将来 を見据えた妥当な選択であるといった意見もあった。こうしたことから、不安な事項をしっかり と解消させていくことを条件として、全国初の合築図書館という新たな政策に大きな一歩を踏み 出したと言える。
なぜこのことが可能となったかという点についてポジティブな面を抽出すると、高知県・高知 市の置かれた状況とタイミングが合致したものと考えられる。まず、高知県・高知市が以前から 向き合っている人口減少や地域経済の活性化の課題が深刻であり危機意識がある程度共有化され ていたこと、それに向けて中心市街地の活性化に力を入れていくことが県と市で政策的に協調さ れていたこと(東西軸エリア活性化プランの取組)、さらに中心市街地に適地がありそこに市立図 書館建設を行う方針については理解が得られていたことなどが挙げられる。
その上で、ネガティブな面をいかに払拭していったかという点については、合築の方針決定後 の対応の部分も多いが、一つポイントとなるのは、県立図書館・市立図書館がいずれもなくなら ず、二つの組織として存続していくということが挙げられる。どちらかに吸収するといった形で はなく、並存する二つの組織としてどちらも重要な機能を有しており、そのいずれもなくすこと なく、さらに相乗効果を引き出していこうといったスタンスで基本構想から組み立てられてきて いることが、関係者の不安払しょくには役立ったのではないかと考えられる。また、敷地面積の 問題等については、現状と比較するといずれにしても充実した面積・施設となることから、新図 書館の整備自体を白紙に戻すことのメリットはほぼなく、いかに「さらなる」充実ができるかと いった上積みの議論であったため、このことについても、議論を重ねていく中で、不満点は少し ずつ解消できる性質のものであった。県下全域における生涯学習環境の充実といった観点では、
引き続きまだ取り組むべきものが多いかとは思われるものの、この論点自体が新図書館整備の反
対理由にはなりにくいことから、ネガティブに働く要素としては低かったように考えられる。
以上を踏まえると、特に中心市街地の活性化による地域活性化を期待する地域においては、県 立図書館と市立図書館が同じ施設の中で、ともに連携しながら新たな充実した図書館を建設する ことのプラスの議論が、マイナス面を上回る推進力を持った可能性が高いと考える。
10. おわりに
今回の調査においては、合築の方向性が決定される基本構想策定までの経緯は追うことができ たが、基本構想を具体的に実現し、開館させるまでの課題については、十分に検討が進んでおら ず検証ができなかった。つまり、合築方針の決定にあたっての懸念事項として提示されたものが、
実際に解決可能となったのか等、いかなる対応をすることで関係者の理解を得ることとなったの か等については、今後の対応となっており、引き続き注視が必要である。特に、組織体制の問題 については、二つの組織が並立することが合築方針を決定する上ではネガティブ面を払しょくす る大きなポイントだったと述べたが、実際に2人館長制がどのように現実の図書館運営でうまく 機能するかどうかは、同様の組織運営をしている公共施設が想定されない中、かなり困難な課題 と考えられる。したがって、高知県新図書館の真の評価は、ひとまずこれらの組織運営体制を確 立させて開館させる段階、そして、さらに運営後一定の期間を経た段階と、時間を追って見てい く必要がある。このため、今後も引き続き高知県図書館の開館に向けた取り組みや開館後の運営 状況等をフォローするための調査を継続していくこととしたい。
最後に、お忙しい中本調査にご協力いただいた高知県新図書館整備課の宮本課長補佐、大石チ ーフ、吉本主幹に深く感謝申し上げる。なお、本文中意見にわたる部分は筆者の私見である。ま た、記述には正確性を期したつもりであるが、事実誤認等があればひとえに筆者の責任であるこ とを申し添える。
新図書館基本構想検討委員会委員名簿
番号 氏 名 役 職 等
1 植 松
ウエマツ
貞夫
サ ダ オ
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科長 2 ○ 内田
ウ チ ダ
純 一
ジュンイチ
高知大学教育研究部人文社会科学系教育学部門教授
3 片岡
カ タ オ カ
卓宏
タ ク ヒ ロ
(財)高知県身体障害者連合会会長
4 加藤
カトウ
勉
ツトム 高知大学人文学部人間文化学科 県立図書館協議会委員
5 川田
カワダ
恵美子
エ ミ コ
高知市 PTA連合会副会長
6 川田
カワダ
米實
ヨネミ
土佐町教育長
7 齋藤
サイトウ
明彦
アキヒコ 鳥取県中部総合事務所県民局長 元鳥取県立図書館長
8 篠森
シ ノ モ リ
敬三
ケイゾウ
高知工科大学附属情報図書館長
9 常世田
トコヨダ
良
リョウ
社団法人 日本図書館協会理事・事務局次長
これからの図書館の在り方検討協力者会議委員(文科省)
元浦安市立図書館長 10 ◎ 宮地
ミヤジ
彌 典
ヤススケ 宮地電機株式会社代表取締役会長 元高知県教育委員長
11 森尾
モリオ
靖子
ノブコ 市民図書館協議会委員 おはなしボランティア 12 柳 川
ヤナガワ
明彦
アキヒコ
室戸市立市民図書館長 13 吉澤
ヨシザワ
文治郎
ブ ン ジ ロ ウ
ひまわり乳業株式会社代表取締役社長 14 吉本
ヨ シ モ ト
寛子
ヒロコ
土佐市立市民図書館長(司書)
◎ 委員長 ○ 副委員長 (50 音順、敬称略)
参考資料1
新図書館基本構想検討委員会の開催概要
回 数 開催年月日 検討内容
第1回 平成22年10月30日 ○単独と合築の比較検討について
第2回 平成22年11月23日
○県立図書館・高知市民図書館の役割・機能と 新しい図書館像
第3回 平成22年12月 7 日
○県立図書館・高知市民図書館の役割・機能と 新しい図書館像
○追手前小学校敷地の土地利用計画
○駐車場のあり方
第4回 平成22年12月24日
○視覚障害者団体からの意見聴取
○ネットワーク・物流のあり方について
○組織の運営について
○単独と合築の比較検討
第5回 平成23年 1 月17日
○組織・運営のあり方
○施設・設備のあり方
○単独と合築の比較検討
第6回 平成23年 2 月 5 日
○単独と合築の比較検討
○新図書館基本構想中間報告書(案)
第1回 平成23年 2 月 8 日 ※新図書館等複合施設のあり方検討委員会
平成23年 2 月 9 日
~ 3 月 8 日
パブリックコメント
平成23年 2 月11日
~ 2 月13日
新図書館フォーラム
第7回 平成23年 2 月18日
○新図書館フォーラムの実施状況
○中間報告書のとりまとめ
第8回 平成23年 3 月26日
○新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)
基本構想のとりまとめ
第2回 平成23年 3 月27日 ※新図書館等複合施設のあり方検討委員会
参考資料2
脚注・参照文献
1
例えば、新潟県と新潟市では、県の保有する県民会館と新潟市の保有する新潟市民芸術文化会 館(りゅーとぴあ)及び音楽文化会館を、新潟市芸術文化財団が同一の指定管理者になることに よって同一システムでのチケット予約を可能とする等住民の利便性の向上に取り組むことを、新 潟県・新潟市調整会議において合意している。2
現在、長崎県と大村市が一体型の新図書館を整備する方針を定め準備を進めているが、開館予 定は最短の場合で平成 30 年 10 月としている。
3
本稿において、合築とは、合同で一つの施設を建設することを指す。4
本稿において、一体型の図書館とは、出入口や貸出カウンター等の窓口等が一つであり、書架 や閲覧スペース等に区分がなく、利用者にとって一つの図書館として運営されていることを指す。5
高知県新図書館整備課作成資料より
6
尾﨑正直知事の発言。第 297 回高知県議会定例会(本会議)平成 20 年7月 11 日, 03 号
7
中心市街地の空き店舗率は H23 の数値で 14.3%であり過去2番目に悪い数値となっている。中 心市街地の主要な地点の歩行者通行量は、平成 14 年度と平成 23 年度の比較で 3~7 割程度減 少している地点が多い。
高知市. 高知市中心市街地活性化基本計画. 平成 26 年 3 月 28 日変更
8
高知県. “高知西武百貨店跡地の問題について”. 第1回東西軸エリア活性化プラン検討委員会.
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/111601/files/2010061400266/2010061400266_www_pre f_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_22624.pdf (参照-2016-01-20)
9
なお、その後、民間事業者が同地を取得し、平成 23 年にパチンコ店をオープンさせた。
10
高知県. “第1回 はりまや橋から高知城までの東西軸エリア活性化に係るプラン検討会 知事 あいさつ”. 第 1 回東西軸エリア活性化プラン検討委員会.
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/111601/files/2010061400266/2010061400266_www_pr ef_kochi_lg_jp_uploaded_attachment_22608.pdf (参照-2016-01-20)
11
高知県・高知市. “3. 取組みの方向”. はりまや橋から高知城までの東西軸エリア活性化プラ ン. 2011, p.12
12
新図書館基本構想検討委員会, 第 8 回新図書館基本構想検討委員会会議録(2011 年3月 26 日)
13
新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想. 高知県教育委員会. 2011. p.24
14
「市町村立図書館は、知識基盤社会における知識・情報の重要性を踏まえ、資料(電磁的記録 を含む。以下同じ。)や情報の提供等の利用者及び住民に対する直接的なサービスの実施や、読 書活動の振興を担う機関として、また、地域の情報拠点として、利用者及び住民の要望や社会の 要請に応え、地域の実情に即した運営に努めるものとする。」「都道府県立図書館は、前項に規定 する事項に努めるほか、住民の需要を広域的かつ総合的に把握して、資料及び情報を体系的に収 集、整理、保存及び提供すること等を通じて、市町村立図書館に対する円滑な図書館運営の確保 のための援助に努めるとともに、当該都道府県内の図書館間の連絡調整等の推進に努めるものと する。」
図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成 24 年12 月 19 日文部科学省告示第 172 号)「第一 総則」「三 運営の基本」
15
新図書館(高知県立図書館、高知市民図書館本館)基本構想. 新図書館基本構想検討委員会.
2011, p.29