第 5 章 総合的考察
第 4 節 農村部高齢者への支援実態からみた村幹部の役割・機能と影響要因
174 5.そのほかの支援
農村部高齢者の社会保障制度実施上の課題と生活課題に対する支援の以外に,村幹部は 以下の5つの支援を行っていた.
第 1 に社会優恤制度の実施である.村幹部は国家に貢献した高齢者に対して村の慰問金 を渡し,老党員を見舞う時にも慰問金を渡していた(第3章).また,8割以上の村幹部は 社会・国家に貢献した高齢者への慰問金の分配が必要な仕事だと思い,季節ごとに1回以上 の支援を行っていた(第4章).第1章では社会優恤制度の対象者が少数であるために分析 対象として取り扱わなかったが,実際に村幹部は社会優恤制度の実施が必要だと思いなが ら支援を行っていることがわかった.
第2に村の基盤づくりである.村は村民(高齢者)のために,道路・橋の修理をしていた
(第3章).また,多くの村幹部は村の道路・橋の修理,環境の改善,村の経済発展,税費 徴収,法律の宣伝が必要だと思い,季節ごとに1回以上の支援を行っていた(第4章).以 上の調査結果から,村幹部は高齢者を含む村民のために,村の経済発展やインフラ整備,村 民が「知法・懂法・守法」(法律を知り,理解し,そして守る)の法律環境などの基盤づく りをしているといえる.
一方,村幹部は農業税費改革後の村財源の減少と,鎮が村財源を横領することに困難性を 抱えていた.そのため,村幹部は村財源の増加や鎮が村財源を横領しないこと,「老年人権 益保障法」の具体化・改正,などを期待していた(第4章).
第 3 に緊急時の対応である.村幹部は高齢者虐待の対応以外に,自然災害後の安否確認 や,担当地域の犯罪対応への協力,高齢者の急病時に医療機関と連絡するなどの緊急事故に も対応していた.
第4に畑紛争の調停である.8割以上の村幹部は近隣どうしの間で起こった畑の境界線の 紛争の調停と,村民と村の間で起こった土地紛争の調停が必要だと思い,季節ごとの支援回 数が非常に多かった(第4章).一方,村幹部は村の自留地の問題解決が難しいと感じてい た(第3章).
第 4 節 農村部高齢者への支援実態からみた村幹部の役割・機能と影響要因
175 察する(図5-3).
村幹部は農村部高齢者に対して,社会保障の対応,緊急時の対応,家庭紛争の調停,土地 紛争の調停,環境・組織の整備という5つの支援を行っていた(第4章).この支援実態か ら,村幹部は制度実施機能,危機介入機能,日常生活支援機能,代弁機能,生活基盤整備機 能を担っていると考えられる.ここでいう危機介入機能は第3章の虐待調停機能のほかに,
担当地域の犯罪対応への協力や自然災害後の安否確認,急病時の対応などの内容も含んで いる.
従来から村幹部は村全般の仕事として行政レベル,村レベル,村民レベル,の3つのレベ ルの仕事をしてきている(第2章).また,農村部高齢者への支援にあたって,村幹部は制 度の解決策,地域の解決策,家族の解決策を講じていた(第3章).この2つの村幹部の仕 事の枠組みを統合して,村幹部による農村部高齢者への支援を制度レベル(行政レベルに相 当),地域レベル(村レベルに相当),家族レベル(村民レベルに相当),の3つに分類した.
前述した村幹部の5 つの支援内容を制度レベル,地域レベル,家族レベルの 3 つのレベ ルにそって考察する.まず,社会保障の対応と土地紛争の調停の一部として土地徴用の実施 は制度レベルの支援とする.また,緊急時の対応の一部として自然災害後の安否確認と地域 の犯罪対応への協力,土地紛争の調停の一部として村・近隣どうしの畑紛争の調停,環境・
組織の整備は地域レベルの支援とする.さらに,緊急時の対応の一部として高齢者虐待の調
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停と急病時の病院との連絡,家庭紛争の調停を家族レベルの支援とする.
村幹部は「政府の代理人」と「村民の代理人」の二重役割を演じている(第2章).「政府 の代理人」は主に行政への協力機能を果たし,「村民の代理人」は主に自治機能を果たして いると考えられる.ここでいう行政への協力機能および自治機能の定義は第 3 章の定義を 引き続き用いることにする.行政への協力機能とは,法律・制度に規定された本来政府が実 施すべき業務を村幹部が委託事業として行なうものと定義する.自治機能とは,村幹部が法 律・制度に規定された実施すべき業務と,村内で生じた法律・制度外の出来事を処理するも のと定義する.
制度実施機能および代弁機能の一部としての土地徴用の実施は「政府の代理人」として行 なっている行政への協力機能にあたる.その理由は2つある.1つ目は,社会保障制度(農 村五保供養制度以外)の主たる所管機関は県政府および県レベルの専門機関とされており,
農村五保供養制度は郷・鎮政府が管理しているが,村民委員会(村)は県政府・県レベルの 専門機関あるいは郷・鎮政府の委託を受けて,村幹部は実質的な実施主体となっている.2 つ目は,土地徴用の承認権は県政府以上の政府が有し,土地徴用の補償基準の決定権は省政 府が有している.政府から下した費用の運営・管理は村(幹部)が行っている.村(幹部)
は政府の委託を受け,土地徴用の政策および補償基準を村民に説明し,土地徴用がうまくで きるように働きかけ,補償費を分配している.
危機介入機能や日常生活支援機能,代弁機能の一部としての村・近隣どうしの間の畑紛争 の調停,生活基盤整備機能は「村民の代理人」として行なっている自治機能にあたる.また,
代弁機能の一部として土地徴用の実施は「村民の代理人」として行なっている自治機能にも あたる.その理由は4つ考えられる.1つ目は,地域で高齢者虐待や自然災害,犯罪事故,
急病時などの緊急事故が発生した際に,村幹部は村民および高齢者の生命・利益を守るため に積極的に支援し,安全的・安定的な地域づくりを行っている.
理由の2つ目は,家族扶養問題の調停は従来から村幹部が行ってきている業務であり,高 齢者の代わりに高齢者と子女との間で交渉を行ない,高齢者の権益を擁護する.また,「空 巣老人」や孤独な高齢者のため,村幹部による定期的訪問や適宜手伝いを行っている.3つ 目は,土地徴用の補償に関する紛争があった場合,村幹部は村民の代表として郷・鎮政府と 交渉を行なっている.4つ目は,地域高齢者特に「空巣老人」や孤独な高齢者のため,村幹 部は高齢者活動の開催や高齢者組織の設置を行っている.また,高齢者を含む村民のために 道路・橋などのインフラ整備,きれいな生活環境づくりも実施している.
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村幹部の3つのレベルの支援は「二重役割」の理論を用いて考察する.まず,制度レベル の支援は「政府の代理人」として行なっている行政への協力機能にあたる.また,地域レベ ルの支援と家族レベルの支援は「村民の代理人」として行なっている自治機能にあたる.さ らに,土地紛争の調停の一部として土地徴用の実施は制度レベルの支援であるため「政府の 代理人」の役割を担う同時に「村民の代理人」の役割も担いっていると考えられる.
また,村幹部は「政府の代理人」と「村民の代理人」の二重役割を演じる際に葛藤を抱え ている.その理由は,第1に,村幹部は公務員ではないため固定的な給料がもらえないにも かかわらず,社会保障制度や土地徴用の実施などのような行政からの委託事業を行わなけ ればならない.第2に,村幹部は農民でありながら地域リーダーを担当しているため,土地 徴用の仕事のような村幹部自身の家族利益に関わる仕事では,自分の利益を獲得するため ほかの村民が関わる土地徴用の仕事よりも「村民の代理人」の役割をより果たそうとする.
一方,村と郷・鎮政府との良い関係を維持し続けるため,村幹部は「政府の代理人」の役割 も果たさなければならない.このとき,「村民の代理人」と「政府の代理人」の役割のバラ ンスを取ることが難しい.
今後,村幹部の機能は「組織法」に定められた自治機能に戻すことが望ましいとされる(孫
ら2003)ため,高齢者の生活支援を視野に入れて,日常生活支援機能や生活基盤整備機能,
危機介入機能をより重視していくことが求められる.また,村幹部の限られた精力および時 間を有効に使い,自治機能を果たすため,行政への協力機能を抑えることが求められる.そ のため,都市部のように農村部においても社会保障制度実施の専門機関の設置および専門 職員の配置,土地徴用の専門機関の設置が必要である.
2.村幹部が担っている役割・機能の実態および影響要因
村幹部の支援回数の実態は土地紛争の調停,社会保障の対応,家庭紛争の調停,緊急時の 対応,環境・組織の整備という順に多かった(第4章).言い換えれば,村幹部の機能は代 弁機能,制度実施機能,日常生活支援機能,危機介入機能,生活基盤整備機能という順にな っている.また,代弁機能(土地徴用)と制度実施機能は「政府の代理人」として行なって いる行政への協力機能にあたり,代弁機能(村・近隣間の土地紛争)や日常生活支援機能,
危機介入機能,生活基盤整備機能は「村民の代理人」として行なっている自治機能にあたる.
これらのことから,村幹部は「村民の代理人」の役割に比べて「政府の代理人」の役割を より重視しているといえる.その理由は2 つある.第 1に,歴史的な視点からみると,村
(幹部)は従来から行政に属しない「官」であり,「上級部門」(法律上では村と郷・鎮政府