第 5 章 総合的考察
第 2 節 社会保障制度実施上の課題に対する村幹部の支援
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の代理人」と「村民の代理人」の役割を果していた(第2章).
また,村民委員会の普及段階(1988-1998年)において,土地請負制度の実施に伴って農民 には国家への農業税費の納付が義務付けられ,また,計画生育政策の実施,さらに,改革開 放の実施によって計画経済体制から市場経済体制に転換することが求められていた.この 背景の下で,村幹部は農業税費の徴収,計画生育政策(「一人っ子政策」とも呼ばれる)の 実施,村経済の発展を主な仕事内容として実施していた.農業税費の徴収によって村幹部は 金銭との接触機会が増えたため,村幹部には村務の実施状況の公開が求められるようにな った.「二重役割」からみると,村民委員会の普及段階における村幹部は「政府の代理人」
と「村民の代理人」と「私利を謀る代理人」の役割を果していた(第2章).
さらに,村民委員会の展開段階(1999-現在)において,2006年の農業税費の廃止によって 村幹部の農業税費徴収の業務がなくなった.2015 年の計画生育政策の改正によって村幹部 の「一人っ子政策」の実施業務が少なくなってきた.
一方,2003年から新型農村合作医療保険,2007年から農村最低生活保障,2009年から新 型農村社会養老保険など社会保障制度の実施によって,村幹部には社会保障制度の対応が 求められるようになった(第1章).また,農村出稼ぎ人口の増加とともに「空巣老人」の増 加(序章)や留守児童の問題などの課題(第 1章),家族扶養の課題,高齢者の孤独問題(第1 章),農村部の都市化の進行による土地徴用の課題が多発している(第1章).このような村 民が抱えている生活課題に対応する役割が村幹部に強く求められている.これについては 本章の第2節と第3節で詳しく検討していく.
村民委員会の展開段階において,「二重役割」からみると,村幹部は「政府の代理人」と
「村民の代理人」と「私利を謀る代理人」の役割を果している(第2章).村幹部はどのよう にこれらの役割を果たしているかが本章の第4節で詳しく検討していく.
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1.新型農村社会養老保険制度実施上の課題に対する村幹部の支援
農村部高齢者の新型農村社会養老保険制度実施上の課題に対して,村幹部は高齢者に新 型農村社会養老保険の説明・申請を行ったり,村の新型農村社会養老保険の実施状況を鎮政 府に報告したり,新型農村社会養老保険に加入していない村民に加入させるように働きか けたりしていた(第3章).また,7割強の村幹部は高齢者に新型農村社会養老保険と尊老 金の説明・申請,また鎮政府への報告が必要だと思い,季節44ごとに1回以上の頻度でこの 支援を行っていた(第4章).
このような調査結果から村幹部は以下の 3 つの課題を克服していたと考えられる.第 1 に,新型農村社会養老保険に関する(高齢者を含む)村民の認識を高め,新型農村社会養老 保険に対する高齢者の不信感を解消することができていた.第2に,新型農村社会養老保険 の納付および受給には「農村社会保障公民卡」(カードの名称)が利用されている.村幹部 はいつ頃,どこで,どのぐらいの金額が給付されるかなどの情報を村民に知らせていた.村 は新型農村社会養老保険の実施状況を村内に公開し,村民からの監督を受けていた.第3に,
A鎮の報告によれば,2009年から新型農村社会養老保険の実施がはじまり,一人当たりの年 間保険料(最低のランク)は制度開始当初の200元から現在(2017年)の500元まで増加し,
また2011年末の加入率は98.2%に達した.この報告から新型農村社会養老保険制度は調査 の所在地では一定程度の持続性を持っているといえる.
一方,依然として村幹部は以下の2つの課題に直面している.第1に,高齢者は基礎養老 金を受給できたとしても生活費が足りない(第3章)ため,現行の新型農村社会養老保険の 基礎年金額が低く,保障機能が弱いという課題が依然として存在している.第2に,村財源 が限られており,2006 年に農業税費廃止は村財源をより一層悪化させているため,村は新 型農村社会養老保険の財源確保と保険料の拠出ができない.そのため,村幹部は村独自の社 会保障制度の上乗せがないことに困難性を抱えていた(第4章).
以上のことをまとめると,村幹部は新型農村社会養老保険制度実施上の課題である,①認 識が低い,②働きかけ方が不適切,⑤実施監督体制の欠如,⑥制度の持続性の欠如,⑦高齢 者の不信感,を克服していた.一方,③基礎年金が低く,保障機能が弱い,④財源不足,の 2つの課題が依然として残されている.また,新型農村社会養老保険制度上に定められてい
44 季節は3か月を1つの季節と指し,1月-3月を第1季度,4月-6月を第2季度,7月-9月を 第3季度,10月-12月を第4季度とする.中国において政府は季節ごとに業務評価を行って いる.
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る村(幹部)への要請については,①実施状況の公開,②村民からの監督,を行なうことで 応えていたが,③保険料の拠出は行われていなかった.
2.新型農村合作医療保険制度実施上の課題に対する村幹部の支援
農村部高齢者の新型農村合作医療保険制度実施上の課題に対して,村の衛生室は高齢者 の日常的な健康管理を指導し,村幹部は高齢者に年に 1 回の健康診断の情報を知らせてい た(第3章).また,約8割の村幹部は村医療事業の発展が必要だと思い,季節ごとに1回 以上の支援を行っていた(第4章).
このような調査結果から村幹部は以下の 4 つの課題を克服していたと考えられる.第 1 に,高齢者の健康管理を行ない,家族負担を減軽させていた.第2に,A鎮の2011 年の報 告によれば,鎮内に中心衛生院1か所,各村に1か所の衛生所があり,A鎮では医療資源を 均衡的に分配している.第 3 に,A 鎮では 2011 年末に新型農村合作医療保険の加入率が 100%であることから,村民は新型農村合作医療保険を重要であると認識しているといえる.
第 4 に,(旧)農村合作医療保険制度は人民公社の解体によって形骸化したが,2003 年の SRAS 事件をきっかけとして新型農村合作医療保険制度の実施がはじまり,現在に至るまで 十数年にわたって継続している.また,国の制度・政策も現行の新型農村合作医療保険制度 の継続実施を強調しているため,新型農村合作医療保険制度は安定性を持っているといえ る.
一方,依然として村幹部は以下の3つの課題に直面している.第1に,新型農村合作医療 保険制度の設計が非合理的(清算ラインなど)であることや村内の医療条件の限界,村内衛 生所での点滴禁止などは農村部高齢者の医療に不便をもたらし,個人診療所の訪問診療費 用が高いために高齢者が積極的に治療を受けることができず,新型農村合作医療保険の保 障機能は依然として低い.第2に,村財源が限られているため,村から新型農村合作医療保 険への財源拠出ができていない.第3に,鎮中心病院が新型農村合作医療保険の請求情報を 公開していないため,鎮の住民は医療機関の医療行為を監督することができていない.
以上ことをまとめると,村幹部は新型農村合作医療保険制度実施上の課題である,②制 度の安定性の欠如,③村民の認識が低い,⑤資源不足・不均衡,⑧家族負担が重い,⑩健 康管理の不足,を克服していた.一方,①制度設計が非合理,④資源の不足,⑥保障機能 が弱い,⑦実施監督体制の欠如,⑨治療態度が消極的,の課題が依然として残されてい る.また,新型農村合作医療保険制度上の要請について村は新型農村合作医療保険への財 源拠出を行っていない.