第 4 章 農村部高齢者に対する村幹部の支援実態および影響要因 ―質問紙調査をもとに
第 5 節 考察
本節では,①村幹部の基本属性,村財源,担当初期のやる気の3つの独立変数が担当初期 の目的,支援意識,支援回数,支援困難性,今後の期待の 5 つの従属変数に与えている影 響,②支援回数と担当初期の目的,支援意識,支援困難性,今後の期待との関係性,また支 高齢者の自立 施設・サービスの整備 財源・人材・権限の充実 法律の具体化・改正 社会保障の対応 .199* .195* .262** .268**
緊急時の対応 .273** 0.105 -0.086 -0.013 家庭紛争の調停 0.082 -0.076 -0.030 -0.160 土地紛争の調停 0.034 -.235* -0.042 -0.167 環境・組織の整備 0.151 0.176 .209* 0.167 注:**. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側),*. 相関係数は 5% 水準で有意 (両側)である.
表4-24 支援回数と今後の期待の相関分析
高齢者の自立 施設・サービスの整備 財源・人材・権限の充実 法律の具体化・改正 調停仕事の困難さ .334** .296** -0.146 -0.078 サービスの不利用 .248** .238** -0.102 -.190* 担い手・保障の不足 -.183* 0.104 0.170 .356**
注:**. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側) ,*. 相関係数は 5% 水準で有意 (両側)である.
表4-25 支援困難性と今後の期待との相関分析
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援困難性と今後の期待との関係性,の2点について考察する.村幹部による農村部高齢者へ の支援実態に関する先行研究がないため,本章の考察は,中国農村部の実情を背景として推 論したものである.それを前提として以下のことが考えられた.
1.村幹部による農村部高齢者への支援実態に影響を与える要因
以上の調査結果に基づき,村幹部の個人属性,村財源,担当初期のやる気の3つの独立変 数による担当初期の目的,支援意識,支援回数,支援困難性,今後の期待の5つの従属変数 への影響を表4-26にまとめた.経験年数,担当初期のやる気はすべての従属変数に影響を 与えている要因であり,次は学歴であった.
個人属性 担当初期の目的 支援意識 支援回数 支援困難性 今後の期待
年齢
社会保障の対応意識
(60代>30,50代)
土地紛争の調停意識
(40代>50代)
調停仕事の困難さ
(60代>40代)
サービスの不利用
(60代>30,40代)
法律の具体化・改正
(60代>50代)
学歴 貢献目的 (専門学校<高校)
家庭紛争の調停意識 環境・組織の整備意識
(専門学校<高校)
サービスの不利用
(専門学校>高校)
法律の具体化・改正
(専門学校<ほか)
経験年数 貢献目的 (10年-20年<ほか)
家庭紛争の調停意識
(10年未満>10年以上)
環境・組織の整備意識
(10年-20年<ほか)
緊急時の対応回数
(10年未満<20年以上)
調停仕事の困難さ サービスの不利用
(10年未満<10年以上)
高齢者の自立
(10-20年<20年以上)
法律の具体化・改正
(10-20年<ほか)
家庭経済 貢献目的 (良い>良くない)
環境・組織の整備意識
(良い>良くない)
法律の具体化・改正
(良い>ほか)
給料
貢献目的
(2000-9000元>9001-1万元) 達成・権力目的 (2000-9000元<1万元以上)
法律の具体化・改正
(9001-1万元<ほか)
給料への満足 貢献目的 (普通>不満足)
環境・組織の整備意識
(普通>不満足)
調停仕事の困難さ
(普通<不満足)
退職金 土地紛争の調停意識
(ある>ない)
土地紛争の調停回数
(ある>ない)
担い手・保障の不足
(ある<ない)
共産党の加入 貢献目的 (党員>非党員)
土地紛争の調停意識 環境・組織の整備意識
(党員>非党員)
村財源 貢献目的 (普通>良くない)
法律の具体化・改正
(普通>良くない)
やる気
貢献目的
(非常にやる気がある>ほか)
(選ばれたやる>やらざるを得 ない,あまりやる気がない)
社会保障の対応意識
(非常にやる気がある>あまり やる気がない)
土地紛争の調停意識
(選ばれたらやる>あまりやる 気がない)
環境・組織の整備意識
(非常にやる気がる>やらざる を得ない,あまりやる気がな い)
社会保障の対応回数
(非常にやる気がある>やらざ るを得ない,あまりやる気がな い)
サービスの不利用
(非常にやる気がある<やら ざるを得ない,あまりやる気 がない)
担い手・保障の不足
(非常にやる気がある>ほ か)
財源・人材・権限の充実 法律の具体化・改正
(非常にやる気がある>やら ざるを得ない,あまりやる気が ない)
(選ばれたらやる>あまりやる 気がない)
表4-26 個人属性,村財源,やる気による担当初期の目的,支援実態への影響
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(1)年齢による影響
年齢による影響について,60代の村幹部の支援は非常に特徴がある.第1に,60代の村 幹部は社会保障の対応意識が高かった.その理由は,60 代の村幹部は高齢者にとって社会 保障の重要性を体験しているからだと考えられる.
第2に,60代の村幹部においては調停仕事の困難さが高かった.また,60代の村幹部は 法律の具体化・改正を期待している.その理由は,調査時に60代の村幹部は1940-1950年 代に生まれた者であり,「公のために誠心誠意全力を尽くす」という価値観が根付いている ため,村民の利益を一生懸命に守っていきたいが,実際に実現できない.このような内心の 要望と現実の間の格差が大きいため,なかでも60代の村幹部が調停仕事の困難さを強く抱 えていると考えられる.そして,60 代の村幹部は自分自身が高齢者であるために国の法律 によって高齢者の権利・権益を擁護することを望んでいる.
第 3に,60代の村幹部は(高齢者の)サービスの不利用に関する困難性が高かった.そ の理由は,60 代の村幹部は自分自身が高齢者であるために自分自身と同じの高齢者たちが サービスを活用して老後生活を豊かにすることを望んでいる.そして,高齢者がサービスを 利用しない現実にショックを受けている.30-40代の村幹部は行政の指示に従って村内にさ まざまなサービスの形を創りそれが業績になるが,サービスの利用には注目していないと 考えられる.
年齢による影響についてもう1つの特徴は40代の村幹部は50代の村幹部より土地紛争 の調停意識が高かったことである.その理由は,表4-27に示したように,調査時に40代の 村幹部は人民公社時代に生まれて,文化大革命時代に育ち,土地請負制度実施後に結婚した 世代であるため,土地使用権の私有化の時代から家庭生活を維持してきている.50 代の村 幹部は人民公社時代の前後生まれ,文化大革命時代に結婚したため,土地の使用権を集団公 有から私有へ変化してきた過程を体験してきた.また,40 代の村幹部は若いために市場経 済への洞察力が鋭い.この2つの理由から40代の村幹部は50代より土地の価値をより知 っているために土地紛争への調停意識が高かった.
新中国成立 人民公社 文化大革命 土地請負制度実施 1949年~ 1958~1984年 1966~1976年 1980年代前半 40代 1965~1974年(生) 結婚(20歳と予定)
50代 1955~1964年(生)→結婚(20歳と予定)
表4-27 40代と50代村幹部の比較 時代背景
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(2)学歴による影響
学歴による影響について,専門学校卒の村幹部の支援にはいくつかの特徴がある.第1に,
専門学校卒の村幹部は高校卒より貢献目的が低かった.その理由は,調査地では最高の教育 機関が高等学校であるために専門学校卒の村幹部は農村から出て都市部で専門学校(3年間 あるいは4年間)を卒業して,都市部に勤めることを望んでいたが,何らかの理由で農村に 戻らざるを得なかった者が多いと推測できる.そのため,専門学校卒の村幹部は地域アイデ ンティティが弱くて貢献目的が低いと考えられる.
第2に,専門学校卒の村幹部は家庭紛争の調停意識が低かった.また,法律の具体化・改 正を期待していない.その理由は,家庭紛争の調停は村幹部自身の経験によって行われてき ている従来的な業務であるため,専門学校で学んだ知識が活かせない可能性が高い.また,
都市部にしかない専門学校に通って農村部と離れていたために農村部の事情を深く体験し ていないと考えられる.そして,専門学校卒の村幹部は高齢者の家庭紛争の調停意識が低い ため,高齢者に関する法律の具体化・改正を期待していない.
第3に,専門学校卒の村幹部は環境・組織の整備意識が低かった.専門学校卒の村幹部は 高齢者のサービスの不利用という困難性に直面している結果を踏まえれば,環境・組織の整 備まで手が回らないと考えられる.
(3)経験年数による影響
経験年数による影響について,経験年数10年以上-20年未満の村幹部には以下の支援特 徴がある.第1に,経験年数10年以上-20年未満の村幹部は貢献目的が低く,環境・組織 の整備意識も低かった.その理由は,表4-28に示したようにそもそも10年以上-20年未満 の村幹部はあまりやる気がない者が多いからである.
第2に,経験年数10年以上-20年未満の村幹部は高齢者の自立と法律の具体化・改正へ の期待が低かった.その理由は,経験年数10年以上-20年未満の村幹部はあまりやる気が ない者が多いために現状をそのままに望んであると考えられる.
非常にやる気 がある
選ばれたか
らやる やらざるを得ない あまりやる気
がない 合 計 p 10年未満 12(35.3%) 14(41.2%) 6(17.6%) 2(5.9%) 34(100.0%) 10年以上-20年未満 11(20.4%) 18(33.3%) 10(18.5%) 15(27.8%) 54(100.0%) 20年以上 13(43.3%) 11(36.7%) 5(16.7%) 1(3.3%) 30(100.0%) 合計 36(30.5%) 43(36.4%) 21(17.8%) 18(15.3%) 118(100.0%)
p<.05 表4-28 経験年数とやる気のクロス集計の結果
(n=118)
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また,経験年数10年未満の村幹部には以下の支援特徴がある.第1に経験年数10年未 満の村幹部は家庭紛争の調停意識が高かった.その理由は,経験年数が短い村幹部にとって 家庭紛争の調停が村民との良い人間関係を築く1つの良い手段であるからだと考えられる.
また,家庭紛争の調停は村幹部の従来的な業務であることも理由の1つである.
第2に経験年数10年未満の村幹部は緊急時の対応回数が少ない,また,調停仕事の困難 さと(高齢者)のサービスの不利用に関する困難性が低かった.それは経験年数10年未満の 村幹部は担当期間が短いからであると考えられる.
(4)家庭経済による影響
家庭経済による影響について,家庭経済が良い村幹部は良くない村幹部より貢献目的が 高く,環境・組織の整備意識が高く,法律の具体化・改正への期待が高かった.その理由は,
村幹部の家庭経済が良ければ村と村民に貢献する気持ちの余裕があると考えられる.そし て,法律の具体化・改正をすれば支援をしやすくなる.また,家庭経済が良ければ村と村民 をリードして村の経済を発展させ,より良い環境・組織を整備することに説得力がある.
(5)給料による影響
給料による影響について,給料が低い村幹部は貢献目的が高かった,一方,給料が高い村 幹部は達成・権力目的が高かった.先行研究では主任(筆者注,村幹部の1つの職務)の達 成動機(筆者注,本論の達成目的)が高く(余ら 2008),書記の権力動機(筆者注,本論の 権力目的)が一番高い(郭 2013)という指摘から,村幹部の職務と目的の間に関係がある ことがすでに明らかになっている.
本論において,給料と職務の関係性をみるためにクロス集計を行った(表 4-29)結果と して,書記,主任,会計という「三主幹」は組長より給料が高いことがわかった.また,職 務による担当初期の目的の2因子のt検定結果(表4-30)では,「三主幹」は組長より達成・
権力目的が高く,組長は主任と会計より貢献目的が高いことがわかった.これらの結果から,
給料が高い「三主幹」は給料が低い組長より達成・権力目的が高い.ただし,給料が低い組 長は給料が高い主任と会計より貢献目的が高い.「三主幹」は行政とのかかわりが多く権力 を握る可能性が高く,自分の人生価値の実現や能力の発揮,担当の証明という達成目的が実 現しやすくなると考えられる.しかし,本調査の結果は「三主幹」が高い給料を得ているた め貢献目的が高いという社会通念と反している.