第 2 章 中国農村部における村幹部の歴史的変遷と仕事および役割
第 2 節 村幹部の仕事内容の歴史的変遷
村幹部の仕事内容の歴史的変遷を整理するためには新中国成立後から現在に至るまでを いくつかの時期に区分することが必要である.この時期区分について学界では統一の基準 がない.村幹部の仕事内容は村の管理体制にしたがい変化しているため,本論では農村社会 の村レベルの管理体制に基づき,新中国成立後から現在に至るまでを,郷村政権期(1949-1957年),政社合一期(1958-1982年),郷政村治期(1983年-現在)という3つの時期に区 分する.郷村政権期は郷レベルの政府と村レベルの行政村がともに行政組織であった時期 を指す.政社合一期は郷政府がなくなり,代わりに人民公社が行政組織となり,村レベルの 生産大隊と組レベルの生産隊をつくり,「人民公社―生産大隊―生産隊」という三級管理体 制を実施し,政治的機能・行政的機能・経済的機能を一体化し,社内の工業・農業・商業・
教育・民兵を一体化させた時期を指す.郷政村治期は郷レベルの政府を末端行政組織とし,
村レベルの村民委員会を自治組織とする時期を指す.
郷村政権期(1949-1957年)において農村社会は土地改革と農業合作化運動が起きたため,
郷村政権期は土地改革段階と農業合作化運動段階の 2 つの段階に分けられる.新中国成立 後,中央政府は新しい共産党政権の強固な地位を確立するため,1949年冬季から1953年春 季にかけて新解放区23で土地改革を実施し,封建的地主土地所有制を農民土地所有制に改革 した.土地改革段階における農村社会の管理体制について,「中華人民共和国土地改革法」
と「農民協会組織通則」,「郷(行政村)人民代表会議組織通則」,「郷(行政村)人民政府組 織通則」の規定によれば,農村社会では郷鎮と行政村に行政組織を設立し,両者ともに農村 の基層政権であるとされる.学界ではこれは「郷村政権」体制と呼ばれている.また,土地 改革を順調に実施するために基層群衆的自治組織として農民協会も設立された.このこと から,当時農村部の村レベルでは農民協会と行政村という2つの管理組織が併存していた.
1949年の「中国人民政治協商会議共同綱領」第34条24の規定によって,農村仕事の中心
23 新解放区とは,鄂豫皖(湖北,河南,安徽の三省が交わる地区),チベット,豫皖蘇(河南,
安徽,江蘇の三省が交わる地区),豫陝鄂(河南,陝西,湖北の三省が交わる地区),江漢(湖 北省の江漢平原)などの地区である.老解放区とは,陝甘寧(陝西省北部,甘粛省,寧夏省東 部),晋綏(山西省西北部,綏遠省東南部),晋察冀(山西省,河北省,遼寧省,内蒙古自治 区),華東(山西,江蘇,安徽,浙江,江西,福建,台湾)などの地区である.
24 「中国人民政治協商会議共同綱領」(臨時「憲法」とも呼ばれる)第34条では,「すでに土地
改革を徹底的に実施したすべての地区においては,人民政府は農民ならびに農業に従事し得 るあらゆる労働力を組織して,農業生産およびその副業を発展させることを中心任務とすべ きであり,かつ農民をリードし,自発的・互恵的な原則に基いて,さまざまな形式の労働互 助と生産合作を次第に組織する」と規定している.
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任務は土地改革から農業合作化運動に移行した.農業合作化運動段階は互助組(1949-1953 年),初級合作社(1954-1955年前半),高級合作社(1955年後半-1957年)という3つに分 けられる.そのうち,互助組は臨時互助組と通年互助組という2つの形式がある.農業合作 化運動段階の土地所有制について,互助組では土地所有権と土地経営権のすべてが農民所 有であり,初級合作社では土地所有権が農民所有であるが,土地経営権は初級合作社所有で あった.高級合作社では土地所有権と土地経営権がともに高級合作社所有であった.また,
農業合作化運動段階における農村社会の管理体制について,土地改革を実施した農民協会 は土地改革の終焉とともになくなった.また,行政村はしばらく存在していたが,1954 年 の「憲法」改正によって行政村に関する規定が削除された.
政社合一期(1958-1982年)において農村社会は人民公社運動が起きた.高級合作社の規 模をさらに拡大する動きがみられ,小規模の高級合作社をより大きな規模の高級合作社に 合併する(中国語,小社併大社)運動が各地で展開されていた.このころ,大規模の高級合 作社を基礎として人民公社を創設する動きもみられた.1958 年に河南省遂平県楂岈山衛星 公社は全国最初の人民公社として立ち上げられた.ここから,農村は人民公社に入り,「政 社合一」という管理体制が実施された.ここでいう「政社合一」とは,行政組織である人民 公社と経済組織である合作社を一体化した基層政権の体系であり,人民公社は行政組織で あると同時に,経済組織でもあるという二重性格をもっていた.この時期における土地所有 権と経営権はすべて人民公社が所有していた.この体制は約30年続いたが,1978年から土 地請負制度の実施および鄧小平政権の改革開放政策の推進によって,人民公社は1984年に 完全に終結した.
郷政村治期において農村社会では村民委員会が展開された.人民公社が解体された後,そ の代わりとなる農村管理組織が創られなかったため,農村社会の秩序が混乱状態に陥った.
この状況を変えようとする新たな実践として1980年に広西壮族自治区の宜山と羅城という 2 つの県の農民は自発的に村民委員会を立ち上げた.この実践は中央政府から認められ,
1982年には「憲法」に明文化されることになった.また,1983年の「関与実行政社分開建 立郷政府的通知」では,政社分離を強調し,郷のレベルでは人民政府を設置して村のレベル では村民委員会を設置すると規定している.これにより村民委員会は全国で試行されるよ うになった.このころから,農村社会は郷政村治期に入り現在に至っている.その後,1987 年に「中華人民共和国村民委員会組織法(試行)」が策定され,1998年と2010年に2回の 法改正が行われた.そのため,郷政村治期は村民委員会の創設段階(1983-1987 年),村民
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委員会の普及段階(1988-1998年),村民委員会の展開段階(1999年-現在),の3つの段階 に分けられる.
郷政村治期における土地所有制について,1978 年から実施されている土地請負制度によ って,土地経営権が農民所有となった.土地所有権に関しては村集団所有となったが,これ は土地の集団所有体制であり,人民公社と同じといえる.そのため,農民には国家に農業税 費を納めることが義務付けられたが,その後,1990 年代後半から農業税費改革が行われ,
2006年に農業税費が完全に廃止された.
年代 出 来 事 時期区分 農村社会変動 村の管理体制 土地所有制度
「中国人民政治協商会議共同綱領」(臨時憲法)
中華人民共和国成立
土地改革運動開始(1953年の春に終結)
中共中央の第1次互助合作会議,「関与農業生産互助合作的決議」が公表,農業合作化運動が試行
「関与発展農業生産合作社的決議」,農業合作化運動は試行から正式に開始 社会主義改造の開始
1954 「中華人民共和国憲法」の決定 1955 農業合作化の高揚
1956 「1956年至1967年全国農業発展綱要(草案)」
1958 農村人民公社化運動の開始 1959 三年困難時期の開始(1959-1961年)
1960 「関与農村人民公社当前政策問題的緊急指示信」
1961 「農村人民公社工作条例(草案)」(「農村六十条」とも呼ぶ)
1966 「中国共産党中央委員会関与無産階級文化大革命的決定」,文化大革命の開始 1976 「四人幋」が逮捕され,文化大革命終結
1977 「関与一九七七年高等学校招生工作的意見」より,大学入試が回復 中共十一届三中全会が開催,改革開放の開始
家庭聯産承包責任制(土地請負制度)
1980 「関与進一歩加強和完善農業生産責任制的幾個問題」
1981 「関与積極発展農村多種経営的報告」
1982 中共中央が公表した「全国農村工作会議紀要」(第1の1号文件)
「当前農村経済政策的若干問題」(第2の1号文件)
「関与実行政社分開建立郷政府」
1984 「関与1984年農村工作的通知」(第3の1号文件)
1985 「関与進一歩活躍農村経済的十項政策」(第4の1号文件)
「中華人民共和国義務教育法」が公表,九年義務教育の開始
「関与1986年農村工作的部署」(第5の1号文件)
1987 「中華人民共和国村民委員会組織法(試行)」
1992 鄧小平の南巡講話 1993 「中華人民共和国農業法」
1996 「関与切実做好減軽農民負担工作的決定」
1998 「中華人民共和国村民委員会組織法(修正)」
2002 「国務院弁公庁関与做好2002年拡大農村税費改革試点工作的通知」
2003 「関与建立新型農村合作医療制度意見的通知」
2004 「中共中央国務院関与促進農民増加収入若干政策的意見」(第6の1号文件)
「中共中央国務院関与進一歩加強農村工作提高農業総合生産能力若干政策的意見」(第7の1号文件)
「中華人民共和国農業税条例」2006年1月1日に廃止
2006 「中共中央国務院関与推進社会主義新農村建設的若干意見」(第8の1号文件)
「中共中央国務院関与積極発展現代農業,扎実推進社会主義新農村建設的若干意見」(第9の1号文件)
農村最低生活保障制度の実施
2008 「中共中央国務院関与切実加強農業基礎建設進一歩促進農業発展農民増収的若干意見」(第10の1号文件)
2009 「関与開展新型農村社会養老保険試点的指導意見」
2010 「中華人民共和国村民委員会組織法」
1978
2005
2007
表2-1 中国における農村社会の歴史年表(1949-2010年)
出典:文献より,筆者作成.
1949
1953 1952
1983
1986
郷政村治期
(1983年~現在)
村民委員会の創設
(1983~1987年)
村民委員会の普及 (1988~1998年)
村民委員会の展開 (1999年~現在)
*土地の所有権は地主 所有から農民所有に 移行した
*土地の経営権は農民 が有していた
*郷・鎮政府は農村 の末端行政組織で ある
*村民委員会は自治 組織である
*土地請負制度の実 施によって,土地 の経営権は農民が 有する
*土地の所有制は集 団(村)が有する 人民公社
(1958~1982年)
政社合一期
(1958~1982年)
農業合作化運動
(1949~1957年)
土地改革
(1949~1953年)
郷村政権期
(1949~1957年)
*郷・鎮政府の代わ りに人民公社が行 政組織となった
*村レベルでは生産 大隊と生産隊とい う行政組織が置か れた
*社内・生産大隊内 では工業・農業・
商業・教育・民兵 を一体化した
*土地の所有権と経 営権はすべて集団
(人民公社)が有 していた 郷・鎮レベルの人 民政府と村レベル の行政村が共に農
村の基層政権 *土地の所有権と経 営権は農民から集 団(村)に移行し た