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第 1 章 中国農村部における社会保障制度実施上の課題と農村部高齢者に関する生活課題

第 4 節 考察

本節では,まず,農村部高齢者を経済状況が良い高齢者,経済状況が普通の高齢者,経 済状況が良くない高齢者,の3つに分類して,利用できる社会保障制度の利用状況を整理 する.

そのうえで,以下の2点について考察する.第1に,農村部高齢者の社会保障制度実施 上の課題および社会保障制度の諸制度が定める村幹部の役割を整理する.第2に,農村部

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高齢者の生活課題および生活課題に関連する諸制度が定める村幹部の役割を整理する.

1.農村部高齢者に適用される社会保障制度の実態

農村部高齢者は経済状況(年間収入)によって社会保障制度の利用現状が異なるため,

ここでは,江蘇省の農村部高齢者を対象とする実証調査,黄ら(2013),張(2014),劉

(2015),張(2016)の結果(表1-7)および江蘇省農村住民の一人当たりの年間平均収入 と貧困ライン21によって,農村部高齢者を,経済状況が良い高齢者,経済状況が普通の高 齢者,経済状況が良くない高齢者,の3つに分類する.農村部高齢者の一人当たりの年間

収入が24,001元以上の者を経済状況が良い高齢者とし,6,001-24,000元の者を経済状況

が普通の高齢者とし,6,000元未満の者を経済状況が良くない高齢者とする.農村部の事 情を考慮すると,経済状況が良い高齢者には主に2つのパターンがあるといえる.1つ目 のパターンは主に計画経済時代の一般企業を定年退職した者や事業単位22を定年退職した 者であり,2つ目のパターンはその子女が自営業で成功している者などを指している.経 済状況が普通の高齢者は主に農業や漁業,林業,養殖業などに従事している者を指してい る.経済状況が良くない高齢者は主に五保老人と農村最低生活保障制度の対象となってい る長期的に貧困状態にある者を指している.

21 江蘇省統計局は,2016年に江蘇省農村住民の一人当たりの年間平均収入が17,606元であ

り,江蘇省の貧困ラインは6,000元であると公表した.

22 国家事業単位登記管理局が2014年に改正した「事業単位登記管理暫行条例実施細則」によ

れば,事業単位とは,「社会公益を目的として,国家機関が設置したあるいは他の組織が国有 資産を利用して設置した社会組織である.教育,科研,文化,衛生,…社会福祉,救助救 災,…などの業務を従事している」(第4条)と規定している.農村部の郷・鎮における事業 単位は主に房管所(家屋の所有権を管理する機関),農機駅(農業機器の普及,操作員の訓 練,機器の修理など),農技駅(農業技術の普及),獣医駅(家畜・家禽の防疫・検疫),水利 駅(水利施設の修繕,管理),計生駅(計画生育政策の実施,母子健康),文化駅(地域の文 化活動),広播駅(ラジオ番組の放送,作成など),土管所(土地管理),派出所(公安,日本 の警視庁),法庭(裁判所),衛生院(鎮の病院),地税所(税費の管理,徴収),郵政(電 信)所(郵便局,電信局),供電所(電気の提供),工商所(経営者,市場の管理・監督),信 用社(農業,農民,農村経済の発展へ金融サービスの提供)などの機関を指している.一般 的に「七所八駅」と呼ばれて,七,八は実際的な数字ではなく,実際に20,30ぐらいの組織 がある(項ら2006:4).

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農村部高齢者が利用できる社会保険および社会救助制度を図1-1のように示すことがで きる.経済状況が良い高齢者には2つのパターンがあるため,社会保障制度の利用状況が 異なる.養老保険について,事業単位の退職者は事業単位養老保険制度から高額な保険金 を定期的に受給し,企業の退職者は城鎮企業職工養老保険制度から保険金(事業単位養老 保険の保険金より低く,新型農村社会養老保険の保険金より高い)を定期的に受給し,こ れによって生活を維持することができる.また,医療保険について,事業単位の退職者は 事業単位医療保険が利用でき,企業の退職者は城鎮職工基本医療保険が利用できる.この 2つの保険制度の清算率は新型農村合作医療保険より高いために事業単位と企業の退職者 の医療問題が発生しにくい.

家族が自営業で成功している高齢者は一般農村住民と同様に新型農村社会養老保険,新 型農村合作医療保険,大病にかかった時の農村医療救助を受けることができ,また子女か ら手厚い経済的援助を得られる.そのため,家族が自営業で成功している高齢者の生活全 般を維持することができる.

研  究 調査対象 高齢者の年間平均収入

黄 俊輝・李 放(2013) 江蘇省60歳以上の農 村住民920名

0-2000元     32.6%

2001-4000元   17.1%

4001-6000元   13.5%

6001-8000元   4.8%

8001元以上    31.9%

張 国平(2014) 50歳以上の農村住民 896名

0-3000元    44.9%

3000-6000元   12.8%

6000-10000元   14.2%

10000-20000元  14.2%

20000-30000元  5.7%

30000元以上   8.0%

劉 頌(2015)

蘇南と蘇北の隣接地 の3郷,60歳以上の 高齢者114名

救済対象

0-2400元    22.1%

低所得者

2401-6000元   4.4%

6001-12000元   33.6%

中所得者

12001-18000元  12.4%

18001-24000元  11.5%

高所得者

24001元以上   15.9%

張 麗(2016) 江蘇省60歳以上の農 村住民484名

0-5000元     54.2%

5000-10000元   8.2%

10000-50000元  32.8%

50000元以上   4.8%

表1-7 農村部高齢者の経済状況

出典:先行研究より,筆者作成.

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経済状況が普通の高齢者は新型農村社会養老保険,新型農村合作医療保険,大病にかか った時の農村医療救助制度を利用することができる.しかし,現行の新型農村社会養老保 険と新型農村合作医療保険では水準の低さから彼らの生活および医療問題を十分に解決す ることができない.

経済状況が良くない高齢者のうち農村最低生活保障制度の高齢者は新型農村社会養老保 険と新型農村合作医療保険に加入すれば,一般村民と同じように新型農村社会養老保険,

新型農村合作医療保険を利用でき,また,大病にかかった時の農村医療救助,加えて農村 最低生活保障制度を利用することができる.現行の社会保障制度によって農村最低生活保 障制度の高齢者の生活および医療問題を十分に解決することができない.

また,五保老人は新型農村社会養老保険と新型農村合作医療保険に加入すれば,一般村 民と同様に新型農村社会養老保険,新型農村合作医療保険を利用でき,また,大病にかか った時の農村医療救助制度,加えて農村五保供養制度を利用することができる.これらの 社会保障制度は五保老人の生活および医療問題を解決することができる.

農村部高齢者が利用できる高齢者福祉は高齢者の経済状況および居住地域によって異な る.高齢者を前文と同じように経済状況が良い高齢者,経済状況が普通の高齢者,経済状 況が良くない高齢者,の3つに分類し,居住地域を先進の農村部地域と一般の農村部地

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域,の2つに分類する.農村地域の分類は賈ら(2010)を参照し,さらに伝統的な敬老院 のほかに新たな高齢者サービスを実施しているかどうかを基準として分類した.賈ら

(2010)は国家が公表した既存の統計データを因子分析およびクラスター分析によって中 国31省(自治区・直轄市)の農村地域を一類地区,二類地区,三類地区に分類している

(表1-8).本論における先進の農村部地域とは賈ら(2010)の一類地区に相当し,かつ山 西と陝西を含み,一般の農村部地域は賈ら(2010)の二類地区と三類地区に相当する.

農村部高齢者が利用できる高齢者福祉サービスの現状を図1-2のように示すことができ る.経済状況が良い高齢者は費用が高くてサービスが良い公営養老院と費用およびサービ スが普通の民営養老院を自費で利用することができる.しかし,利用しようすると農村部 に養老院があることは稀なため住み慣れた農村地域を離れなければならない.ただし,先 進の農村部地域において彼らは村内にある居宅養老サービスを自費で利用することができ る.

経済状況が普通の高齢者は,家庭経済が限られているため,民営養老院,敬老院を自費 で利用することができる.しかし,民営養老院を利用すれば住み慣れた地域を離れること と,敬老院を利用すれば五保老人と一緒に暮らす違和感があるという感情的な課題を抱え ている.ただし,先進の農村部地域において彼らは居宅養老サービスを自費で利用するこ とができる.

経済状況が良くない高齢者のうち五保老人は敬老院を無料で利用することができる.農 村最低生活保障制度の高齢者は敬老院を低額あるいは無料で利用することができるが,五 保老人と一緒に敬老院で暮らすことに違和感を生じる.ただし,先進の農村部地域におい て経済状況が良くない高齢者は村内の居宅養老サービスを低額あるいは無料で利用するこ とができる.今後,農村住民が敬老院の伝統的な偏見を是正することが必要である.

農村養老区域分類 特  徴 地  区

一類地区

経済が発達しており,農村養老資源が 豊かで,養老に関する困難が小さく,

高齢者のQOLが高い

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北京,天津,上海,吉林,黒竜江,内 モンゴル,遼寧,河北,河南,山東,

江蘇,浙江,広東

二類地区

経済があまり発達していなく,農村養 老資源に欠け,養老に関する困難を抱 えており,高齢者の基本的な生活を維 持するしかできない

11 湖北,四川,湖南,安徽,江西,広 西,貴州,重慶,福建,海南,山西

三類地区

経済発展が遅れており,農村養老資源 がなく,養老に関する困難が極めて大 きく,高齢者の基本的な生活を保障で きない

7 青海,寧夏,新彊,雲南,甘粛,チ ベット,陝西

出典:賈 金栄・郝 金磊(2010)「基於聚類分析的中国農村養老区域画分研究」pp.125の表5より引用.

表1-8 中国農村養老区域の画分