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第 2 章 中国農村部における村幹部の歴史的変遷と仕事および役割

第 7 節 考察

これまで,①村幹部の仕事内容および役割の歴史的変遷,②仕事内容への影響要因,仕 事の動機づけ・困難性およびそれらの影響要因を整理した.ここからはこの2点について 考察する.

1.村幹部の仕事内容および役割の歴史的変遷

ここでは,第2節と第3節の内容を合わせて歴史・制度から以下の3点について考察す る.つまり,1.村幹部の仕事内容および役割の変遷,2.各時期における村と村民委員会 の内部構造および性質,3.村幹部の担い手の変化,である.

(1)村幹部の仕事内容および役割の変遷

時期を問わず,常に行われてきた村幹部の仕事は,村レベルの仕事として社会治安の維

38 後備村幹部とは,現役の村幹部を補佐する者である.村幹部の世代交替を順調にするた

め,現役の村幹部の中あるいはその他の優秀な若者から選りすぐり,育成する仕組みであ る.

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持,公益事業(福利や救済など)の実施,村経済の発展である.村民レベルの仕事は民間 紛争の調停,村民利益の擁護,村民の教育である.

郷村政権期における村幹部の仕事内容は以下の 4 点が考えられる.①土地改革段階

(1950-1953 年)における農民協会は,土地分配のような村民レベルの仕事を中心的に行 ってきた.②農業合作化運動段階における合作社(1954ー1957年)の村幹部は,村民レベ ルの仕事が減り,村レベルの仕事が増えていた.村レベルの仕事の中では村の組織づくり (合作社の設立)と村民の生産活動の管理に力を入れていた.合作社の組織づくりは人民公 社の基盤づくりにもつながっている.③高級社の執行機構である監督委員会は社内業務の 実施を監督し,社内の生産活動・分配活動の公正性・公平性に影響を与えていたと考えら れる.④郷村政権期の村幹部の仕事内容から,村幹部は村民の生産活動の管理を仕事の中 心としており,村民の生活課題への対応については重視していなかった.そのため,村民 の生活課題は家族および近隣の互助によって対応されていたと考えられる.

郷村政権期における村幹部の役割を考察すると,土地改革の実施主体である農民協会は

「専区・省―県―区―郷(行政村)」のそれぞれに置かれることと,農業合作化運動の高級 社の主任は政府から指定され,副主任は政府と村によって決定されることから,村幹部は 政府の政令を執行しなければならなかった.これは,徐(1997)が指摘したような村幹部 の「政府の代理人」の役割にあたると考えられる.また,土地改革段階の村幹部は土地を 農民に分配し,農業合作化運動段階の村幹部は社員の生産と労働の分配について直接に管 理することから「村民の代理人」の役割を果たしていたと考えられる.

政社合一期において,村レベルの管理組織である生産大隊は行政組織の中に位置づけら れたため,行政レベルの仕事が初めて村の業務に入ってきた.また,すべての農民は生産 隊の隊員として,個人(家族)単位ではなく集団の一員となり,農民の生産と生活が統合 されるようになった.そのため,村幹部は農民の生産活動のみならず,生活課題を含めて 対応するようになった.村幹部の仕事は村民レベルの仕事と村レベルの仕事が合併したも のとなった.これらのことから,政社合一期の村幹部は主に「政府の代理人」と「村の管 理人」の役割を果たしていたと考えられる.

郷政村治期において,村民委員会の創設段階(1983-1987 年)は,村民委員会が初めて 設置され,法律に自治組織として位置づけられた.人民公社体制の解体とともに統一的な 生産・分配の仕事がなくなったため,村幹部は行政レベル,村レベル,村民レベルのすべ ての仕事を行うようになった.また,1978年から土地請負制度の実施によって農民に土地

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の経営権が与えられ,生産活動が農民に任せられたため,村幹部による農民の生産活動の 管理機能は政社合一期に比べて弱くなっている.村民委員会の創設段階における村幹部の 役割は先行研究で示されたように「政府の代理人」と「村民の代理人」という役割を果た していたと考えられる.

村民委員会の普及段階(1988-1998 年)において,家庭土地請負制度の展開と計画生育 政策,義務教育の実施などの当時の社会的背景の影響により,行政レベルの仕事は①文化 教育の発展,科学技術・知識の普及,②農民から郷鎮の割当費用の徴収,③計画生育政策 の実施,④救済金品の交付状況の公開,⑤光熱費の徴収および徴収状況の公開などの仕事 が新たに実施されるようになった.村レベルの仕事では①村民に「三提五統」(費用)の徴 収,②村幹部の手当水準および人員の決定,③プロジェクトの請負,④集団収益の使用,

⑤村務の実施状況の公開,③村の自治規定の制定などの仕事が新たに実施されるようにな った.村民レベルの仕事として住宅土台の管理が新たに実施されていた.村民委員会の普 及段階から,村幹部の仕事は金銭とのかかわりが強くなり,村幹部の権限が強化される傾 向がみられるようになった.これは村幹部の在職消費などの経済問題の原因になると考え られる.村民委員会の普及段階における村幹部の役割は「政府の代理人」と「村民の代理 人」という二重役割を果たしているとともに,金銭・権限を握っているため,一部の村幹 部は「私利を謀る代理人」の役割を果たしていたと考えられる.

村民委員会の展開段階(1999年-現在)において,2006年の農業税費廃止の影響と電子 化の普及,2015年の計画生育制度の改正に伴い,村幹部の行政レベルの仕事として郷鎮の 割当費用の徴収,光熱費の徴収(関係部署もしくは指定小売店で支払うため),「一人っ子」

政策の実施がなくなった.村レベルの仕事は①村の非営利社会組織の支持,②農村社区建 設の促進,③村務の実施状況の公開,④村務の記録の作成,⑤現役・離職の村幹部の経済 的責任の監督などの仕事が新たに実施されるようになった.その理由は,①②が社会主義 新農村建設と農村社区建設の政策から派生されたもので,③④⑤は村幹部の在職消費を抑 えるためのものであると考えられる.村民委員会の展開段階における村幹部は村民委員会 の普及段階と同様の役割を果たしているが,「政府の代理人」と「私利を謀る代理人」の役 割が弱体化され,「村民の代理人」の役割がより重視されるようになっている傾向がみられ た.

(2)村と村民委員会の内部構造および性質

郷村政権期において,まず,土地改革段階には,農民協会は省・専区の農民協会―県の

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農民協会―区の農民協会―郷(行政村)の農民協会の体制となり,村の組織として位置づ けられた.農民協会は法律では土地改革の執行機関であり,群衆的自治組織であると位置 づけられるが,「実際に行政村農民協会は村の政治・司法・武装・治安などの権限を握って,

基層行政組織の機能を果たしていた」(劉ら 2014:90).また,村レベルでは行政村が基層 政権組織として設置された.これらのことから,当時の村レベルでは行政村と農民協会と いう2つの管理組織があり,また,農民協会は法律上では群衆的自治組織であるが,実際 には基層行政組織であるといえる.

次に,農業合作化運動段階において経済的組織である合作社(初級社と高級社)は農 村の管理主体となり,合作社の内部では社員大会,管理委員会,監察委員会,作業組や耕 作組が設置され,構造が複雑化し,業務分化および業務責任が明確にされた.合作社は

「郷レベル以下の地方政権組織の多くの機能を請け負っており,国家行政組織が郷以下の 郷村社会を直接に管理する最も重要道具となっていた.つまり,合作社は単なる経済組織 ではなく,各種の政権組織の権力と義務も持っていた.多くの場合において,合作社は国 家を代表し,社内の政治経済事務に関する管轄権を行使することができる」組織であった

(于=2012:234).これらのことから,合作社は農民協会と同様に基層行政組織であると 考えられる.また,農業合作化運動段階において,1954年に内務部が公表した「関与健 全郷政権組織的指示」によれば,「行政村の下では自然村の範囲によって居民組を区画す る.村には代表主任を設け,代表主任は郷人民代表の中から推薦される.また,居民組に は組長を設け,郷の人民代表を兼任する」と規定されている.また,1954年の「憲法」

改正によって行政村に関する規定が削除された.これらのことから,行政村の性質は

1954-1957年の間に村の基層行政組織ではなくなったことが法律から確認される.一方,

郷政府による行政村に対する管理は強化され,行政村に人員配置をすることから,行政村 は郷政府の出先機関であると考えられる.

政社合一期において,人民公社の農村では人民公社―生産大隊―生産隊という三級管理 体制が実施されていた.人民公社は現在の末端行政組織である郷鎮政府に相当し,生産大 隊は村民委員会に相当し,生産隊は村民小組に相当する.この三級管理体制は生産隊を基 礎とし,厳格な上下関係をもっている.生産大隊は大隊範囲内の「工・農・商・学・兵(工 業・農業・商業・教育・民兵)」という「五位一体」の業務を実施し,「生産大隊は人民公 社と生産隊の中間組織であり,唯一の法律に裏付けられた村レベルの組織である」(馮ら

2013:657).これらのことから,実際には生産大隊と生産隊も末端行政組織の一部であると