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質的調査の目的と方法

第5章  医師患者関係に関する定性研究

第1節 質的調査の目的と方法

近年、診療における会話の重要性が認識され、医師患者間のコミュニケーション分析は 増加している。Waitzkin et a1.1説によれば、医療サービスの会話は、医療のエンカウン ターの心理学的、社会的、文化的環境の影響を受けるため、良好な医師患者関係の構築に は、患者の個人的背景の理解が不可欠であるという。医師患者関係モデルは、疾患を中心 とした分類から患者の価値観に焦点を当てた分類へと変化が見られるが、価値観に関係す る評価項目とは具体的にどんなものであろうか。

 池崎1聰は、医師と患者が共同して行う相互参加型医療1制はお互いが影響し合うため、

患者とのやり取りによってもたらされる医師の感情や行動も患者のものと同様に重要であ り、明らかにしていく必要があるという。本研究では、医師と患者の両者にインタビュー を行い、医師患者間の会話の中で生じる相互作用を探っていく。

 医師が患者の個性を理解できれば、患者のスタイルにあてはめて対応し関係を良くする ことができる。個性は、人が病気を含む人生の様々なストレスに対してどのように反応す るのかを部分的に決定する。患者が自分の病気をどのように認識し表現するのか、どのよ

うに医師や看護師と関係をもつのか、治療や手技にどのように反応するのか、不快や障害 をどのように扱うのか、どのようにして、健康状態や日常活動に戻るのかについても決定 する185。第5章では、医師、患者はどのような価値観をもち、それらは患者満足にどのよ

うに影響しているのかについての調査結果を示す。

 Kemy et a1.1鯛は、慢性疾患の診療において医師のコミュニケーションスキルに対する 医師自身の認識と患者の認識は一致しないことを実証した。また、同一の医師に受診して いる患者間で医師に対する評価を比較した場合、一致しなかったという。また、McKinstry eta1,187は、医師による患者満足度の予測と実際の患者満足を比較し、医師は患者の満足

182Waitzkin et a1.(1993), p.1122−

1醐 r崎(2003),P.227

脳パターナリスティックな医療では、疾患のみをとらえその専門家として医師一人が医療を実践 するのに対し、相互参加型医療では、患者を心理的、社会的な問題も抱える個人として捉え、医師

と患者はパートナーとして共に医療を実践する(池崎,2003,p.224)

185Smith (2002), p.189

欄Kemy et a1.(2010),p.765−766 87M・Ki・・try・t・1.(2006),P.244−245

を正しく予測できていないことを実証した。これらの結果から、医師が患者にとって好ま しいと考えているコミュニケーションは患者にとって好ましいとは限らないこと、患者に よって選好があることが推測される。コミュニケーションスキルが医師にとって核となる 能力であることは医師も患者も一致しているが、患者の評価基準や選好について共通認識 はないと考えられる。

患者満足、治療効果、患者の参加を高める良好な医師患者関係の構築には、患者の評価 基準と選好の把握が必要と考え、調査を行うこととした。

調査は、30歳〜90歳の男女135名(男性61名女性74名)の外来再診患者とその主治医 12名に対して、個別の半構造化面接1路を行った。各医師の協力患者数は3〜16名である。

医師と関係構築が既にある患者に絞るため、生活習噴病を中心とする慢性疾患もしくは慢 性疾患はないが定期受診している患者とした。

 調査日の来院患者にランダムに協力を依頼し、承諾を得られた患者に対し実施した。調 査は2009年7月22目〜9月17日に大阪府・兵庫県にある大学病院1施設と内科クリニッ ク7施設にて行われた。協力医療機関のうち1施設は筆者の勤務先、7施設は調査者であ る筆者と利害関係のない施設である。

 患者には、主治医の評価と理想の医師像、自発的な治療行動、満足について尋ねた。主 治医の評価と理想の医師像については「あなたの主治医はどんな方ですか。あなたにとっ て理想の医師とはどんな方ですか。」、治療行動については「何か治療のためにご自身でさ れていることはありますか。」、満足については「あなたは今受けている医療に満足してい ますか。」と質問をした。

 医師に対しては、診療態度、診療理念、職務満足、医師という職業の特異性について尋 ねた。診療理念については「診療される際、常に大切にされていることはどんなことです か。」、診療態度については「患者さんとの関わりにおいて意識されていることはどんなこ

とですか。」、職務満足については「医師という仕事においてどんな時にやりがいを感じま すか。」、職業の特異性については「医師という職業と類似している職業はありますか。特 異性は何とお感じですか。」と質問をした。

 患者面接は、研究協力医療機関内のプライバシーが保護された一室で約10〜15分間、箏

1跳ソ的調査は医療患者関係の調査で多用されている。半構造的面接は、一般的な見解や詳細な意見 を探究するために、型にはまらないフレームの中で、焦点をあてた会話を主とする双方向コミュニ ケーションで実施する。すべての質問が用意されているのではなく、大まかに決められた質問が修 正され、追加の説明が加えながら行われる。 (Kobori et a1.,2008,P.9−10)

者によって行われた。録音に対し同意を得た対象者(125名/135名)にはレコーダーを使 用し、使用しない場合はすべての内容を筆記した。本調査は、各研究協力機関倫理委員会 での承認を得て、対象者に面接開始前に参加や中止が自由な意思であることを保障し、研 究への理解と同意を得た上で実施した。患者へのインタビュー内容はすべて書き起こされ、

逐語録はA4で397ぺ一ジとなった。

 患者満足調査において、多次元であるという認識は一致しているが、共通した構成概念 は確立されていない。例えば、Marsha11et a1.㈱は、全体満足、技術的な質、対人的側 面、コスト、利便性の5つの構成概念で測定している。また、Hagedoom et a1,190は、技 術的能力、対人マナー、コミュニケーション、医師との時間、利便性を採用し、Priporaset a1,191は、有形性、信頼性、対人コミュニケーション、敏感さを採用している。

 医師患者関係についても同様であり、研究者によって様々である。例えば、Beacheta1,

192ヘ、知識、考え方・態度、行動、結果に分類している。医師と患者の信頼の研究では、

Thomet a1,193が問題に対する全体的な評価、患者の個人的経験に対する理解、治療の提 示、適切で効率的な治療の提供、明確で十分な情報提供、パートナーシップの構築・協力、

誠実な説明・患者の尊重の7つの構成概念を使用している。

 医療サービスの評価は文化的背景の影響を受けることから、日本で実施された先行研究

1脳 参考に評価項目を検討した。最も本研究と関連が深いものは、西垣ら195の研究であ る。西垣らは、グランデッドセオリーアプローチの手法を用いて、①医師の医学的能力 に関する要因 ②医師の態度・言動に関する要因③医師一患者の感情、コミュニケー ションに関する要因の3つのカテゴリーを見出した。さらに、サブカテコリーとして、』

①一1.医師についての評判・伝聞、①一2.医師の個人的・社会的特性、①一3.適切な処置と 治療の結末、②一1.医師の診察態度・接遇、②一2.十分な説明と納得、②一3.患者利益の優 先、②一4.背景要因となる限界性、③一1.医師の配慮・共感、③一2.医師のコミュニケーシ

ョンの能力と疎通性、③一3.患者の感1青の10つに分類している。

1醐Marsha11eta1.(1993),P.483

190 gagedoometa1.(2003),P.259

191 oriporas et a1.(2008), p.333 1㏄Beacheta1.(2006),P.S5 193Thom et a1. (1997), p.172

脳医師患者間の会話の定量的分析手法としてアメリカで開発されたRIAS(Roter Interacti㎝

Ana1ysis System)があるが、本研究が着目する患者の価値観と選好をより抽出するために半構造化 面接を用い、先行研究は評価項目抽出の参考とした(石川他,2007,p.202)

195 シ垣他(2004),p.16−18

本研究では、3名の評定者1㏄が逐語録から医師の評価と解釈される表現を抽出したとこ ろ、26項目197が抽出された。その後、類似項目を西垣らの分類に沿うよう項目を統合し

た。本研究では、①一1.評判、①一2.イ因性、①一3.診断、②一1.丁寧、②一2.説明、②一3.親身、

②ぺ人脈、③一1.傾聴、③一2.優しさ、③一3.親しみと命名した。西垣らの分類に含まれ ないものとして、信頼と利便性、設備があった。

信頼は、各項目を総合して判断される考え、そのまま項目とした。また、利便性と設備 は、医師の世界観として評価される場合があることやインタビューから医療機関選択には 大きく影響していたため、項目として採用し全部で13項目となった。図表5−1にコーディ

ング側を示す。

図表5−1コーディング側

1 説明 わかりやすい説明、指導、詳しい説明、アドバイスしてくれる、色々教えてくれる 2 診断 的確な診断、迅速な対応、適切な検査、処置、薬が効く

3 個性 ユニーク、個性的、こだわりがある、元気がある、おもしろい

4 人脈 家族も受診している、顔が広い、良い所を紹介してくれる、医療機関の連携がある 5 親しみ ずっとお世話になりたい、親近感、きさく、話しやすい、緊張しない

6 親身 患者思い、有り難い、お世話になっている、患者の立場になって考えてくれる 7 信頼 信頼できる、任せられる、託せる、しっかりしている、事実を明確にしてくれる 8 優しさ 不安を除去してくれる、安心できる、倒享、気遣ってくれる、ほっとする、穏やか 9 傾聴 相談しやすい、話を聞いてくれる、一緒に考えてくれる、受け止めてくれる 10 利便性 親切、近い、駐車場がある、診察時間が自分の都合に合う、待ち時間が短い

11 丁寧 低姿勢である、長時間診察してくれる、丁寧に診てくれる、手厚い

12 設備 設備が整っている、統麗、機器が充実している、新しいシステムを導入している 13 評判 ロコミ、知人からの紹介、医師からの紹介

196 {調査は筆者(薬剤師・社会福祉士・介護支援専門員の実務経験を持つ大学院生)と経験年数5 年の医療事務職員2名が評定した。

19726項目は、説明、診断、指導、迅速さ、専門知識、紹介先、継続受診願望、有難い、信頼、不安 除去、傾聴、親切、親近感、丁寧、優しさ、相談相手、親身、端的、明るさ、個性、若さ、距離、

設備、家族受診、評判、待ち時間であった。