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患者満足の戦略的意義

期1L

第5節 患者満足の戦略的意義

 患者満足は、医療サービスにおいて戦略上とのような位置づけされているだろうか。

Fome11118は、顧客に対する戦略を市場拡大と市場シェア獲得の攻撃的戦略、スイッチン グバリア構築と顧客満足向上の防御的戦略に分類した。このマーケティング戦略分類に医 療サービスを当てはめると、図表3−6のように示すことができると考える。

 医療サービスでは、防御的戦略の例として、治療ガイドラインの変更や診療報酬の改定 など業界全体の戦略と、診療科目の新設や検査の追加など医療機関ごとの戦略が考えられ る。しかし、実際には、価格競争に制限があり、法制約があるため、攻撃的戦略は限定的 となる。そのため、戦略は、防御的戦略に重きを置かれることになる。

 防御的戦略には、スイッチングバリア構築として提供者と患者間の信頼構築があるが、

その信頼は患者満足を高める効果もある。患者満足向上には、提供者と患者の良好な関係 性を挙げたが、関係性も同様にスイッチングバリア構築に繋がると考えられる。

 患者が医療サービスのスイッチングを行う場合、次の医師に病歴や治療経過、現状の説 明をしなければならない。金銭的コストをはじめ様々なコストが発生するだろうが、患者 にとって新たな医師と関係構築することは大きな心理的コストになるだろう。医療サービ

17 ̀nders㎝eta1.(1994),P.57 1 8F・m・11(1992),P8

スにおいては、提供者と患者の関係性が強いスイッチングバリア構築と顧客満足向上につ ながると考えられる。提供者の中でも、特に、医師との関係性が鍵を握ると考えられる。

図表3−6医療サービスの戦略分類

医療サービス   戦略

攻撃的戦略

(新規患者獲得)

防御的戦略

(既存患者維持)

  市場拡大 例:診療報酬改定

市場シェア拡大 例:診療科増設

スイッチングハ リア構築

例:強固な信頼

患者満足向上 例:良好な関係

(出所)Forne11,C(1992)より修正して引用

 これまでマーケティング研究を中心にサービス品質、満足研究について概観してきた。

ヘルスケア領域では、どのような研究がされているだろうか。

 患者満足は医療の質の指標として広く認知されており119.1970〜80年頃から患者満足 に関する研究は急激に増加している120。患者満足の測定は、医療の質のモニタリングとマ ーケティングの2つの目的がある121。

 ドナベディアン122は、患者満足は医療の目的や成果であるばかりでなく、患者が判断し た良さや質と考えることもできると述べている。患者の質の評価は、医療の場、アメニテ

ィ、技術的な診療、対人関係的な側面、医療の生理的、身体的、社会的な結果など様々な ことに関連し、その詳細な判断の主観的なバランスが、全体的な満足になるという。

 Benda11−Lyon et a1,123は、医療サービスの構造属性と過程属性の満足が共に全体の満 足に影響することを示した。医療サービスにおいては、設備などの構造特性と医師との関

119Rosseta1.(1995),P393 120C1eary et a1.(1988), p.25 121C1earyeta1.(1988),P.30 1z hナペデイアン(2007),P.26

覚Benda11−Ly㎝eta1.(2004),P.118

係性のような過程品質が共に重要であることを意味している。ただし、構造属性と過程属 性の満足への影響度は人によって異なると考えられる。

 Ross et a1,124は、患者満足を測定することによってセグメンテーションが可能である と主張し、患者満足から患者の選好を4つ導き出した。人間関係、技術の質、アクセス、

コミュニケーション、サービスの受けやすさ、コストの6次元と全体満足を測定し、対人 関係を求めるグループ、利便性と質の両方を求めるグループ、アクセスのみを求めるグル ープ、質のみを求めるグループに分類した。患者の選好を把握することができれば、患者 満足の向上に幅広く活用することができるだろう。

 Rahmqist et a1,125は、患者の属性で患者満足の比較を行い、高齢患者は満足が高し噸 向にあること、高学歴の方がサービスに対する満足が低いこと、全体満足における性差は ないことを報告した。筆者は、その理由として、高齢者は質を評価する以前に医師に診て もらうこと自体に感謝をする傾向にあるため、満足の閾値が若年層よりも低いと解釈した。

また、学歴については、情報リテラシーの差と推測している。学齢の高い人の方が病気や 医療に関する情報を持っているため、評価が厳しくなると考えられる。性差については、

女性の方が質の分類の中で1青緒面に重きを置く傾向があるが、全体満足は有意差がないよ

うである。

 手術患者を国際比較しだしarsson et a1,126では、文化的な違いが知覚品質に反映され るという結果を報告している。この結果は、医療サービスの評価に文化的背景が影響する ことを示唆している。例えば、Ue1tschy et a1,127は、日本人の特性として調和を重んじ 感情表出が少ないことが挙げている。また、Vinagre et a1.1㎎では、患者の感情と患者満 足の関係が調査され、知覚品質と期待、感情がすべて満足に影響していることを示した。

医療サービスの評価は、主観的な側面が強く影響すると考えられる。

 患者満足には、提供者と患者の一対一の関係性以外に、提供組織と患者の関係性という 捉え方がある。Dθeter−Sc㎞e1z et a1.1鴉は、患者と医療チームの関係を調査し、集団の 規範レベルが従事者の情報収集プロセスと患者満足に影響を与えることを明らかにした。

提供者の勤務期間やチームの規模が影響するのではなく、チーム内で患者に対する情報の

124Rosseta1.(1993),P.11幽 閉Ra㎞qisteta1.(2010),P,86

126 karsson et a1. (2005), p.70 127U・1t・・hy・t・1.(2007),P−418

鴉Vin・gr・eta1.(2008),P.98−99 129D・・t・r−S・㎞・1・・t・1.(2003),P.420

交換がうまく行われるかどうかが患者満足に影響するという。このチーム内での情報共有 は、チーム医療を意味する。チーム医療とは、各医療職が専門性を最大限に発揮し、連携・

協働して提供する医療のことである。チーム医療は、医師の指示を待つのではなく、各医 療職が対等に専門性を発揮するため、専門職全体の職務満足を高めることができる。つま

り、チーム医療は、サービス提供者の満足と患者満足をもたらすのである。

 これは、Heskett et a1.が提唱したサービス・プロフィット・チェーンの具体的事例と 考えられる。サービス・プロフィット・チェーンとは、慎重に選抜された、有能で関与の 高い従業員と顧客が関わり合いながら競合化杜よりもはるかに優れた顧客価値をうみだす ような職場環境を開発することである130。医療サービスで生じるサービス・プロフィッ

ト・チェーンは、一対一の患者と提供者の関係性とチーム医療がもたらす組織と患者の関 係性という2つの効果によるものと考えられる。

 島津131は、医療の質や患者満足は、一般的なサービスにおける品質や顧客満足とはやや 異なった性質があり、患者満足は患者の要望すべてに応えるという視点ではなく、提供者

と患者の相互の関わりによって患者の意向が医療サービスに組み込まれていくという使い 方が望ましいと提言している。治療は患者が苦痛と感じる内容も含まれるため、患者満足

を常に優先できるわけでない。そのため、提供者は患者とどのような関係を築き、どのよ うな相互作用が生じさせるのがが満足形成に重要な意味を持つと考えられる。

 Lain9132は、患者のサービス・エンカウンターに対する評価の中心は、提供者と患者の 相互作用であると述べている。So1拠は、医療サービスの提供者と患者が協力し合うことが 重要であり、それによって患者の自発的な健康行動が促進されると述べている。相互作用 は、患者の行動を変える駆動因になるようである。また、Crosby et a1.旧4は、関係性の 質が顧客の提供者との相互作用の予測に重要な影響を与えることを示した。つまり、関係 性の質が患者の行動を変えると解釈できる。

 また、長谷川ら1班は、患者満足の意義について、医療サービスを医療者からの一方的な 評価ではなく、患者の主観的な評価という視点を入れることによって、多面的に評価を行

うことにあるとしている。患者満足が高まると、患者白身の判断による転院や治療中断の

130Hesketteta1.(2008),P.4

131 ∫テ(2005),P.51 132Lai㎎(2002),P.170 王33So(2002),P.1666

説Cro・byeta1.(1990),P.75 醐長谷川他(1992a),p.58

率が下がり、コンプライアンスが高まる等の診療後の受療行動のような客観的事実と一定 の関連を持つことが指摘されている1脆。患者満足は、サービス晶質の評価に深く関わって いるだけでなく、患者の行動にも影響を与え、治療の結果にも直接的に影響する。

1% キ谷川他(1992b),p.151−152