第 8 章 日本人と中国人のクレーム交渉動に関する意識調査
8.4 考察
9.1.5 日本人と中国人のクレーム交渉動機及び深刻度から見られる両国の文化差 . 184
第 8 章では、アンケート調査を行うことにより、日本と中国の社会的要因や商売取引文 化について考察を行った。まず、収集された 14 例の自然談話について場面ごとに、「日常 生活によく起こるか」、「交渉の必要があるか」、「深刻度についてどのように評価するか」
というに三つの質問を設定した。一つ目の質問の回答を分析したところ、日本人母語話者 と比べると、中国人母語話者の場合は「よくある」と「時々ある」と回答する人が多いこ とが分かった。中国において、クレームの日常生活での発生頻度は日本より高い傾向が見 られた。また、二つ目の質問の回答を分析したところ、JP6とCN2については顕著な差が 見られた。JP6は違約金の金額について交渉する談話であり、CN2は修理代の金額につい て交渉する談話であり、両方とも金銭的な利益に関わっているクレームである。この二つ のクレームについて、「交渉する」と回答する中国人は半分以上であったのに対して、日本 語母語話者の回答率は約 20%しか占めていなかった。中国では、交渉能力の優劣は、本人 の利害得失に直接関わるケースがかなり多いのに対して、法的制度がすべての領域をきち んとカバーしている日本では、自分の利益に関わる事柄について、既成の契約や規則及び 制度の裁量に任せるのが良いことが原因だといえる。さらに、三つ目の質問の回答を分析 したところ、不具合があった商品の金額または不具合の深刻度がクレームの深刻度に緊密 に関わっていることが分かった。また、日中対照研究の観点から見ると、日本と中国の間 にもっとも差が見られたJP3については、日本語母語話者の場合では、JP3が「低」と評 価づけられたが、中国語母語話者の場合は「高」と評価づけられた。日本人と中国人が「責 任の所在」に対する認識が異なるというのがその原因であった。
また、客側の方略については、日本人と比べると、中国人は「テレビ局に訴える」や「消 費者センターに相談する」などの「権威的な方略」及び「哀願して訴える」という「感情 的な方略」を使用している傾向が見られた。それは自然談話分析の結果とほぼ一致してい る。
サービス関係者側の方略については、日本人は「謝罪する」、「直ちに対応する」、「業内
基準に従って対応する」などの方略をよく使うのに対して、中国人は「責任者を呼ぶ」、「第 三者機関に判断してもらう」などの方略をよく使用している。中国人のサービス関係者側 は「責任範囲を明確にするべき」、「他人のミスなので、自分自身の正当性を守る」という 傾向が見られた。クレームが来た時、中国人のサービス関係者がまず自分の責任であるか どうかを判断してから対応をするという行動をとるは集団(会社)の意志より個人の意志を 優先する「個人主義」の心理を反映しているではないかと考える。それに対して、日本人 のサービス関係者が「自分の責任であるかどうか」には意識せず、自分が集団の一員とし て謝罪したり、ただちに対応したりするという行動をとるのは「集団主義」の心理を反映 していると見ることができる。
9.2 今後の課題
本研究を通して、日本人と中国人のクレーム交渉コミュニケーション行動を対照分析的 観点から考察した。特に言語と社会・文化との相関関係を解明した。しかし、残された課 題も少なくない。
本研究は日本語母語場面及び中国語母語場面の考察に留まっているため、日中の接触場 面の考察もこれから視野に入れるべきである。接触場面におけるクレーム交渉談話が、そ れぞれの母語場面の特徴とどのように関連しているのか、また、誤解や摩擦などが起きた 際に、相手の行動をどのように理解するかなどの考察が可能となってくると考えられる。
自然談話調査では、数名の日中両国の母語話者に依頼してクレーム交渉談話を録音して もらった。しかし、収集された談話データの数はそれほど多くない。できる限り個人差の 少ない、結果の一般化をするために、より多くの自然談話データを収集しなければならな いと思われる。