第 2 章 南アフリカ政府の取組みと成果
2.1. 貧困削減に向けた政策的枠組
2.1.4. 財政的枠組と実績
(1)
財政状況と予算配分基礎サービス供給を行う財源確保のため、人件費の抑制や税制改革などにより行政改革 が進められ、金融政策により貯蓄率の向上が図られた。その結果、
1998/99
年度33以降、財政赤字は縮小傾向にあり、財政赤字の対
GDP
比も低下していった。しかし、2003/04
年度には財政赤字は290
億ランドを超え、対GDP
比は1998/99
年度と同じ水準の2.3
% に増加した。財政赤字は、国内市場からの資金調達によって補填されている。年間の純 資金調達額は、2002/03
年度までは108
〜177
億ランドであったが、2003/04
年度には増 加し、350
億ランドを越える調達が行われた。表
2-9
は、セクター別政府支出の推移を示したものであり、表2-10
は政府による社会 サービスへの1
人当たり政府歳出額の推移を社会セクターのサブセクターごとに人件 費および財貨・サービス支出の別で示したものである。33
南アフリカの会計年度は 4
月1
日から翌年3
月31
日まで。表 2-8 政府予算の推移
(単位:百万ランド)
1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 2002/03 2003/04 歳入 184,005.4 198,162.4 215,591.9 248,262.4 278,507.7 299,431.2 歳出 201,416.2 214,749.9 233,934.0 262,904.5 291,529.1 328,662.0 財政赤字 -17,410.8 -16,587.6 -18,342.2 -14,642.2 -13,021.3 -29,230.8 財政赤字対GDP比(%) -2.3% -2.0% -1.9% -1.4% -1.1% -2.3%
純借入必要額 -15,589.3 -10,834.7 -17,657.3 -12,560.8 -12,824.7 -35,076.1 純資金調達額 15,589,3 10,834.7 17,657.3 12,560.8 12,824.7 35,076.1
(出所) National Treasury (2005) “Budget Review 2005” Annex B, p.176, Table 1より作成
(注1) 2002/3年度および2003/04年度の数値は推定値。
表 2-9 セクター別政府支出額とシェア
1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003 歳出額(百万ランド)
一般公共サービス 2,985 8,001 18,587 29,128 26,328 35,190 43,163 防衛 4,438 11,182 11,379 11,957 14,882 19,546 19,164 公安・治安維持 2,202 5,904 14,962 25,615 28,247 31,897 36,975 教育 6,157 15,408 34,878 53,451 58,891 64,585 73,028 保健 3,470 7,754 15,504 25,662 29,813 30,549 35,527 社会保障・福祉 2,074 5,460 15,781 29,959 33,654 36,757 49,198 住宅・地域サービス 1,526 3,834 5,873 5,957 7,905 8,639 10,102 レクリエーション・文化 594 1,121 2,585 4,271 4,511 4,350 5,913 燃料・エネルギー 75 199 7,634 574 546 1,052 1,266 農業・林業・漁業 1,565 2,055 3,239 3,743 4,224 5,190 5,855 鉱業・製造・建築 1,166 2,652 1,553 1,530 1,295 1,864 2,855 運輸・通信 2,558 5,258 8,723 13,563 16,005 15,966 20,173 その他経済サービス 580 2,065 4,699 6,390 7,352 8,100 9,928 分類不可能(利子) 5,393 10,803 23,320 44,195 46,272 47,368 46,590 分類不可能(その他) 533 5,366 2,255 2,429 2,755 2,776 4,324 合計 35,316 87,062 170,972 263,504 288,429 320,542 373,807 公共セクター会計との差額 -2,007 25,786 28,639 19,916 20,484
環境保護 5,080 5,749 6,713 9,746
合計支出 35,316 87,062 168,965 289,290 317,068 340,458 394,291 歳出合計に占める割合(%)
一般公共サービス 8.5 9.2 10.9 11.1 9.1 11.0 11.5
防衛 12.6 12.8 6.7 4.5 5.2 6.1 5.1
公安・治安維持 6.2 6.8 8.8 9.7 9.8 10.0 9.9
教育 17.4 17.7 20.4 20.3 20.4 20.1 19.5
保健 9.8 8.9 9.1 9.7 10.3 9.5 9.5
社会保障・福祉 5.9 6.3 9.2 11.4 11.7 11.5 13.2 住宅・地域サービス 4.3 4.4 3.4 2.3 2.7 2.7 2.7 レクリエーション・文化 1.7 1.3 1.5 1.6 1.6 1.4 1.6 燃料・エネルギー 0.2 0.2 4.5 0.2 0.2 0.3 0.3 農業・林業・漁業 4.4 2.4 1.9 1.4 1.5 1.6 1.6 鉱業・製造・建築 3.3 3.0 0.9 0.6 0.4 0.6 0.8
運輸・通信 7.2 6.0 5.1 5.1 5.5 5.0 5.4
その他経済サービス 1.6 2.4 2.7 2.4 2.5 2.5 2.7 分類不可能(利子) 15.3 12.4 13.6 16.8 16.0 14.8 12.5 分類不可能(その他) 1.5 6.2 1.3 0.9 1.0 0.9 1.2
環境保護 1.9 2.0 2.1 2.6
合計 100 100 100 100 100 100 100
(出所) Development Bank of Southern Africa, Human Science Research Council, and United Nations Development Programme (2005) “Development Report 2005: Overcoming Underdevelopment in South Africa’s Second Economy”, p.145, Table 2.7
表 2-10 政府による社会サービスへの
1
人当たり政府歳出額(1995価格)(1994-2002)1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 人件費
一般管理 242 229 204 230 222 215 208 204 202
防衛 116 131 142 132 128 123 119 117 116
法律関係 293 299 308 306 296 286 277 271 269
教育 712 733 767 752 727 703 680 666 660
保健 277 258 271 274 265 256 248 243 241
社会保障・福祉 84 80 92 87 84 81 79 77 76 経済サービス 97 95 104 101 97 94 91 89 88 合計 1,821 1,825 1,889 1881 1,818 1,760 1,701 1,668 1,652 財貨・サービス支出
一般管理 202 117 111 81 104 155 192 208 220
防衛 174 140 114 90 68 54 76 89 94
法律関係 61 44 61 65 85 82 80 95 107
教育 81 56 93 100 60 41 51 42 55
保健 91 108 128 142 128 111 116 123 132
社会保障・福祉 82 104 84 106 112 117 123 132 138 経済サービス 259 151 104 108 88 95 103 127 139
合計 949 720 695 692 644 654 741 815 885
(出所) United Nations Development Programme (UNDP) (2003) “South Africa Human Development Report 2003”, p104, Table 5.1
これらのデータを見ると、南アフリカの政府歳出で、最も大きな比重を占めているのは、
教育セクターである。毎年歳出額の
20
%程度が割り当てられ、2003
年度の教育セクタ ーへの支出額は730
億ランドであった。教育セクターの歳出額は、人件費の割合が高い。そのため、教員養成や教材開発、教室・学校施設などに係る費用への配分を行うことが 難しくなっている。
1
人当たりの教育セクターへの歳出額は、2002
年715
ランドであり、1994
年793
ランドから10
%低下しているが、その内訳は、90
%以上が人件費である。教育に次いで大きなシェアを占めているのは、社会保障・福祉セクターであり、社会的 弱者層に供与される社会手当への予算が含まれている。経済的困窮にあえぐ社会的弱者 層が増加していることから、政府歳出に占める社会保障費のシェアは拡大している。
1995
年9.2
%から2003
年13.2
%に伸びた。また、1
人当たり歳出額も増加傾向にあり、1994
年166
ランドから2002
年214
ランドと約1.3
倍の増加である。その内訳を見ても、人件費が低下する一方で、財貨・サービス支出の割合が拡大しており、社会的弱者層へ の
1
人当たりの社会手当の平均額が増加しているものと見られる。また、保健セクターへの政府歳出も
1995
年以降増加しているが、シェアは10%前後で
大きな変動はない。1
人当たりの保健セクターへの歳出額をみても、1994
年368
ランド から、2002
年373
ランドと微増に留まっている。ただし、内訳を見ると人件費の割合 が低下する一方で、財貨・サービスの割合が24
%から37
%に上昇しており、無償保健 サービスの実施や保健システムの整備などへの支出が増加しているものと考えられる(表
2-10)
。深刻なHIV/AIDS
感染に対応するため、HIV/AIDS
対策プログラムへの支出を
1994
年3,000
万ランドから、2000/01
年度3
億4,200
万ランドに増加し、2005/06
年度 には360
億ランドと10
倍以上に拡大する見込みである。水、衛生、廃棄物処理、電気の基礎サービスは、一般公共サービスに含まれる。政府は 基礎サービスの供給拡大に重点を置いており、
2003
年の政府歳出に占めるシェアは、11.5%であった。
(2)
貧困削減への公共支出中央政府は、経済的貧困対策として、所得を補填する社会手当と公共事業プログラムを 実施している。
政府が支出する社会手当は、
1994
年100
億ランドから2003
年348
億ランドと、3.5
倍 近くに増加しており、受給者数も260
万人から680
万人と2.6
倍に拡大した。南アフリカ
HDR2003
年版によれば、社会手当の支給は、国際貧困ライン未満人口の割合を14
%削減し、貧困ラインからの貧困層への平均所得の乖離を
12
%改善している。表 2-11 社会手当の貧困削減への影響(2002年)
貧困者比率 貧困ギャップ
国別貧困ライン -3.8% -7.0%
国際貧困ライン(1日2ドル未満) -11.0% -12.2%
国際貧困ライン(1日1ドル未満) -14.1% -12.0%
(出所) United Nations Development Programme (UNDP) (2003) “South Africa Human Development Report 2003”,p.89, Table 4.4
他方、貧困の主な要因の一つである失業については、失業保険制度が存在するものの、
貧困状況を緩和する役割を果たすに至っていない。南ア共和国の失業者の多くは、フォ ーマル・セクターでの就業経験を持たないことが多く、したがって雇用保険料の納付を 行っていない者が大部分であり、雇用保険の給付を受けることができない。また、所得 階層ごとの世帯の収入源を見ると、最下位層では社会手当はほとんど含まれていない。
すなわち、社会手当ては貧困層の重要な収入源であるにもかかわらず、必要とする貧困 層すべてに行き届いているわけではない。
こうした中で、社会保障制度改革が議論され、公共事業プログラムの大幅な拡大による 雇用創出というアプローチがとられた。
1998
年以降、公共事業プログラムへの政府支 出は10
倍に拡大した。1998
年以降、公共事業プログラムによって124,000
人の雇用が 創出されたが、そのほとんどは短期雇用である。また、公共事業プログラムではインフ ラ整備に65
億ランドが支出され、2,128
コミュニティにおける基礎インフラの整備に貢 献し、貧困層の生活環境の改善には貢献したとされる。1994
年以降、住宅建設への補 助金が約199
万件認可を受け、242
億ランド超が支出され、600
万人が住宅を得ること が出来た。表
2-12
主要RDP
プログラムへの支出状況(単位:百万ランド)
1995/96 1996/97 1997/98 1998/99 1999/00 2000/01 2001/02 合計 年金 5,417 6,049 6,717 7,382 6,247 6,564 6,833 45,209 住宅 821 1,453 2,635 3,019 2,971 2,905 3,417 17,222 土地改革 25 104 197 407 388 499 517 2,137
(出所) Klans Deininger, and Julian May (2000) “Can There Be Growth with Equity?” (World Bank Policy Research Working Paper 2451), p.22, Table 1bより作成
こうしたプログラムのほかに、州・地方政府省(
Department of Provincial and Local
Government
)では、基礎サービスを利用するに当たって支払能力がない貧困層が多い地域におけるインフラ整備を行うための無償資金として、今後
3
年間で2,150
億ランドを 地方政府に供与する予定である。2006
年度予算では、水・衛生・廃棄物に対して620
億ランド、電気については120
億ランドの予算が配分されている。また、4
つの基礎インフラに関する無料サービスを実施するために、
2006
年度だけで40
億ランドが支出さ れる予定となっている。また、農業土地省(
DALA
:Department of Agriculture and Land Affairs
)は、資産所有の 分配における不平等の是正に向けて、土地の権利回復および土地改革に関するプログラ ムを実施し、土地の購入に対する補助金の交付を通じて、土地の再配分を図っている。2004/05
年度予算で、およそ5
億3,600
万ランドが配分されている。しかし、土地の再配分だけでは、貧困削減に効果がないことが指摘されている。配分された土地を生産的 に活用することが不可欠であり、そのためにはインフラの整備、訓練、金融、市場への アクセスなどの支援制度が必要とされる。
表 2-13 土地権利回復と土地改革助成金(1998-2005)
土地権利回復 土地改革補助金
会計年度 金額
(1,000ランド)
DALA予算に占める割合
(%)
金額
(1,000ランド)
DALA予算に占める割合
(%)
1988-99 12,088 1.7 358,274 49.6
1999-2000 122,196 17.8 173,008 25.3
2000-01 205,590 26.7 156,623 20.3
2001-02 186,528 19.2 332,431 34.2
2002-03* 242,951 25.2 251,463 26.1
2003-04* 265,441 25.1 209,247 19.8
2004-05* 305,873 26.8 230,314 20.2
(出所) United Nations Development Programme (UNDP) (2003) “South Africa Human Development Report 2003”, p.81, Table 4.2
(注) * 予想値